壊滅後の黒羊

ーしかし、お前たちの方から「商売」を再開しようと持ちかけられたのだけは意外だな。
…その目付き、どうしてもやらなければ気が済まないような目付きからすると、さては金に困ってるんだな?
「カネ、か…。それも必要だが、それよりもっと大事なことがある。カネは必要だが優先順位としては低い、いや、もっと優先しなけりゃならないものがあった」
ー金よりも大事なもの?なんだ、それは?
「あんたらも俺たちをぶっ潰した忌々しい『サーカス団』の顔ぶれを、特に強烈な奴くらい覚えてるだろ?」
ーまあな。帝国軍から魔族まで何でもありで賑やかな奴らだったな
「なら話は早いな。その中に吸血鬼【ヴァンパイア】の仮装をした筋肉ムキムキの野郎がいただろう」
ーああ、あいつか…ピッチリしたヘンテコな軍服を着た仮面のキ〇ガイ野郎並におかしな奴だったぜ
「アイツに、少しばかり借りがあってな…借りと言うよりは、カッコつけた言い方だけど宿命ってとこかもな」
ーふむ、カネでも貸したまま返してもらってない、とでもいうことか
「カネじゃねえ。アイツは昔俺たちがブリガニーで『仕留め損なった』貴族のガキだ。顔立ちですぐ分かったさ。
仕留めるとは言っても暗殺みたいな大それた話じゃねえ。金目当てに襲ったって程度だけどな。
あのガキ、逃げ足だけは早くてよ…
ガキ逃がした程度なら誤差の範囲と思っていた俺たちがバカだった。まあ今でも殴って斬って殺すしかできねえバカだけどな。
アイツは、俺たちに復讐しようとあんなことやってやがる…俺たちを見る目は復讐に燃えてやがった」
ーなるほどな。ああいう正義の味方を気取る奴が生きてれば俺たちも仕事を再開しづらいのは確かだ、手くらいは貸してやろう。
何より、こういうのもどうかと思うが、お前たちは言ってしまえばあの吸血鬼野郎をおびき寄せる「エサ」としても期待できるからな
「あいつを地獄送りにできるなら構わねえ。俺たちだって怖いもんは怖いしよ。
あの野郎は俺たちが生きてると分かれば、いつか再び俺たちの息の根を止めるために舞い戻ってくるはずだ。そうなる前に、むしろこっちから殴り込んで切り刻んでやりてえ」
ー落ち着け。俺たちは目立つことをしたら終わりだ。まずは大人しく、波風立てないように商会を「組み直す」ことからだ


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最終更新:2020年10月27日 19:29