「君の感じる世界」
9 :760:2011/06/28(火) 00:19:41
またお前かっ!!はい私です。
平孝第二段が出来たのでうp
今回もやっぱり平塚視点です。
※
創作物スレ 1-003からの続き
君の感じる世界
障害者も多く所属するこの学校には障害体験をたまに行う。
障害を持つ者と気持ちや感じることと正しい手助けの方法を学ぶことで
同じ学び舎に通う者について深く知るというのが主な目的である。
うちのクラスでは人気があって、視覚障害+車いすという孝之助の体験を行うことになっ
た。
二人一組になって視覚障害で歩行するのと車いすでの移動を行なった後、視覚障害+車い
すでの移動が行われる。
どれも同じコースを行い、違いと言えば視覚障害は階段で車いすがエレベーターという所
だけだ。
俺は車いすをやってから視覚障害を行い、そして混合をやるといった流れでやることにな
った。
まずは車いす。講師の人から軽い指導を受けてから実技が行われる。
自分が見ているものとは異なるかなり低い視界が広がる。
段差があるだけで結構な衝撃を感じるし、小さな溝でもキャスターが
つっかえるのだが、その時のつんのめりとかも結構辛い。
次に視覚障害。アイマスクを施して真っ暗な中を相手の指示を聞きながら手を引かれて連
れられる。
階段なんかはかなり大変で、一歩一歩相手の指示からの情報を頼りに降りたり昇ったりし
なければならない。
指示する方もかなり気が気でならないような心地になる。
そして混合。相手は車いすを後ろから押しているため手で触れることもできないので、
完全に相手の指示がないとなにもわからないような状態だ。
進む方向を告げられてもその方向がどこに向かっているのかわからないし、触覚を頼りに
自分のペースで進むこともできない。
指示をされていても段差での衝撃はかなりびっくりした。
ほんの10分あったかないかぐらいの体験であったが、かなり冷や汗が出た。
他のクラスメイトを見渡しても怯えていたりとそれなりの恐怖を感じていた。
汗を拭いながらふと今は別の教室で授業を受けている孝之助の顔が浮かぶ。
「あいつはいつもこんな感じでいるんだろうなぁ」
背筋に寒気が過ぎる。
触れられることで安心するというあいつの気持ちが今なら痛いほど身にしみて分かる。
教室に戻ると孝之助は廊下側の一番後ろの自分の席にいた。
盲学教師にいつものように教室まで送られたのだろう。帰りのホームルームを待っている
ようだった。
クラスメイトの女子や男子がさっきの体験を報告している。その中には泣いている女子も
いた。
いつも平気なのかという問いに対して孝之助は最初は不慣れだったが今は慣れたし平気だ
と答えながら笑っている。
翌日の土曜日たまたま孝之助と買い物することになっていた。
昨日の今日で無碍にできず、いつもとは違うかなり指示をする扱いに察しがいい孝之助は
気づいているようで、
「なんか今日の平塚いつもと違う。どうしたの」
と訊ねてきた。
俺は少しだまってから
「昨日の車いすと目が見えない体験が正直怖かった。
かなり不安だったから孝之助もそうなんじゃないかと思って…」
と自分の気持ちをありのまま伝えた。孝之助はきょとんとした顔をしている。そしてゆっ
くりとこう告げた。
「たしかに何も見えないことって今でも怖いよ。どっち進んでいるのかわからないし…
だけど誰が車いすを押しているのかが分かっていると安心できる。
どっちに進んでいるかなんて言われたってわからないから、
たわいもない話でもしている方が安心するんだよね。」
驚いた。こいつにとってこれからの行き先に何があるかということは問題ではない。
自分の車いすを誰が押していて、その人間が常にそばにいることの方が安心するのだ。
たとえそれが自分が捨てられる道であっても不安なんて無い。
捨てられて独りになって、相手の声が耳に入らなくなってから動けない足で人を探すのだ
と思った。
俺は孝之助の車いすを再び前に押しながら言う。
「孝之助、俺ずっと喋ってる。おんなじ話題何回言うかわかんないけど喋ってる。
だからそんときはツッコメな」
「なんかよくわかんないけど、わかった」
少しだけど孝之助のことがわかった。
お前の感じる世界は暗闇でしかないけれど、不安じゃないからある程度幸せなのかもしれ
ない。
そこに自分がいるのが嬉しかったよ。
あとがき
昨日車いすと視覚障害の体験やったので平塚にやらせてみた。
けっこう怖かった。孝之助さん大変だなぁ。
最終更新:2012年09月04日 14:51