Top > 創作物投下スレまとめ 1 > 1-056 「そのままの君で 2」

「そのままの君で 2」


作者:本スレ1-547様

56 :「そのままの君で 2」:2011/09/04(日) 19:43:55

今晩は、本スレ1-547です
さて、少し、期間が空いてしまいましたが、お約束をさせていただいた、
本スレ1-760様のお子様をお借りしたスピンオフ(?)なSSの第2段が
仕上がりましたので、投下します

まずは、属性等の告知を
 ・本スレ本スレ1-760様様の作品の二次SSです。
 ・これだけでも読めると思いますが、一応、以前投下した創作物スレ 1-014
  対になるように書きました(でもある意味、全く対になってないよ!)
 ・平塚君×孝之助君で、平塚君視点で、エロはありません…
 ・平塚君から見た孝之助君と、二人の想いがテーマな感じで、割とシリアス
 ・設定準拠ではない表記を若干含みます
 ・キャラ&設定が1-760様の公式設定からちょい外れている可能性もあり
こんなんでもよろしかったらどうぞ


57 :「そのままの君で 2」:2011/09/04(日) 19:46:07

「平塚、お前さ、なんで、あいつの事、そんなに構うの?」

その瞬間、俺の頭の中には、以前、同じクラスの奴から受けた言葉が浮かんだ。
それは、同じクラスメイトからの何気ない一言だったが、俺にとっては、えらく重い言葉
のように思えた。
そんな言葉を思い出したのは、きっと、その後で、あいつに対して、心ない言葉を口にし
ている奴を見受けた後だったから、無意識のうちに、余計に気にしていた所為だとは思う。

「正直、なんで、このクラスに居るのって、思う時はあるよな。
 あいつ、なんだかんだ言って、結局、皆に頼りきってるじゃん。
お陰で、稀にだけど、普通に授業が進まないことだってあるしさ。
それに、あいつ、あのアイマスクとかさ、見た目も結構、変わってるよな」

孝之助がとっくに帰った放課後の教室で、そいつは、笑顔さえ浮かべながら、何気ない様
子で、他のクラスメイト2、3人とそんな話をしていた。
放課後だったこともあり、人数も少なかったからなのか、そいつの声が、以外と大きかっ
たからなのかは、良く分からない。
それでも、そいつの声は、教室の近くの廊と下に居た、俺にも良く聞こえてきた。

……あいつの事、孝之助のことを何も知らない癖に!

そう思うと、俺は、その場に居た奴ら全員に、その怒りを率直に、ぶつけたい気持ちにな
った。
けど、そんな事をしても、何の意味も無い事も、良く解っていた。
だから、俺は、その場で、あえて、あいつらに、厳しくあたることをしなかった。
だだ、普段よりも幾分大きな音がするように、廊下に繋がるドアを開けた。
そうして、あいつらからの視線と問いかけにも、ただ、「忘れ物を取りに来ただけだ」と告
げて、淡々とその場を後にしたのだ。

それは、ちょうど、金曜日の放課後のことだったので、次の日の土曜日に、孝之助の買い物
に付き合う約束をしていた俺にとっては、本音のところで言えば、気分は最悪だった。

孝之助は、俺の親友で、この学校に通う同学年の生徒だが、幼い頃に患った病気が基で、
今、現在、車いすでの生活を余儀なくされている。
おまけにその視力も失っている上に、紫外線過敏という病も患っていて、現在進行形で、そ
れと闘いながら、また、そういった状況にある自分の身体とも、折り合いを付けながら、日
々、出来る限り自立したいと希いながら、毎日を過ごしているのだ。

俺は、そんな状況にあっても、日頃から、少しでも自立できるようにと、真摯な努力を続
けている孝之助のことを、未だに良く思っていない奴らが、身近に居るということが、何
だか、とても悔しかった。

また、だからこそ、こうして、孝之助と休日を共に過ごす機会なんかには、孝之助が出来
る限り、過ごしやすいようにするために、俺に出来ることがあれば、その役割を、しっか
りこなしたいとも、改めて強く思っていた。

「平塚、どうしたの?」

そんな風に、もの想いに耽っていた、俺のことを孝之助の一言が、現実に引き戻す。
目的の買い物を終えて、二人で、ショッピングモールのベンチの端で、アイスクリームな
んぞ食べながら、今まで、何気ない会話を交わしていた相手が、いきなり黙りこめば、そ
うも言いたくなるよな。
俺は、そんなことを思いながら、孝之助へと返事を返す。

「いや、別に何でもない。
 孝之助、俺、お前のこと、心配しすぎてたみたいで、ごめんな」

「……平塚、やっぱ、何か変だよ?
 いつも言ってるけど、僕は、平塚の気配りには、すごく感謝してる。
 ただ、今は、紫外線過敏に関して言えば、光の加減とかは大丈夫そうだから、
 僕の体調を今は、それ程、気にしなくてもいいよって、そういう意味で、
 『気にしすぎなくていい』って、言ったんだけどな。
 なんか、逆に気を遣わせちゃってて、ごめん」

「俺の方こそ、なんか、ごめんな」

俺の言葉に、孝之助は周囲の様子を気にしつつも、いつものように微笑んだ。
周りの様子を目視で確認することは、孝之助には、出来ないが、きっと、そのほかの感覚
の全てで、周りの様子を把握しようと努力しているのだろう。

そんな様子を目に留めていた、俺の目の前で、孝之助は食べ終わったアイスクリームカッ
プを右手に持って、自分の膝の上に置いたまま、反対側の手を自分のアイマスクの方へと、
移すと、少し俯くようにして、小さな声で、言った。

「やっぱ、これ、余計に目立つのかなぁ……。
 前からの光以外にも、目元に少し光が入って来るときがあって、このアイマスクなら、
 それも遮れるから、僕にとっては、これが楽なんだけどな……」

「孝之助が楽なら、そのままで、いいんじゃない?」
「はは、だよねぇ……平塚、ありがとう」

食べ終えたアイスクリームカップをベンチの上に置きながら、俺が言った言葉に応じるよ
うに、孝之助は、そう返事を返してくれた。
それでも、そんな孝之助の様子を見るに、孝之助自身も、まだ、何か思い切を振っ切れて
いないようにも思えた。

だけど、俺は、敢えて、その話題には、それ以上、深く突っ込みを入れなかった。
その代わりに、俺は、アイマスクに添えられていた孝之助の手の上に自分の手をそっと乗
せてから、その手とは反対側の孝之助の肩を軽く叩くようにして、もう片方の手を置いた。

「さて、アイスも食ったし、買いたい物も買えたし、帰るとするか!
 孝之助、これ、片付けるよ」

「あ、うん、ありがとう」

俺達は、そんな風に、普段どおりの遣り取りを交わしながら、いつも通り、家に帰ること
にした。
ただ、帰りのバスの中でも、俺と孝之助は、お互いに何か、考え事をしていた所為もあっ
て、互いに、いつもよりも口数が少なかったような気もする。

俺の方は、孝之助に対する付き合いの距離感なんてものについて、未だに考えていたし、
孝之助の方は、きっと、もう少し、アイマスクを普通に見えるような物に変えようかどう
か、なんてことを、まだ、考えていたんじゃないかと思う。

孝之助がそういう事を考えるのは、俺や彩音なんかに出来る限り、迷惑や負担を掛けたく
ないという想いからだということは、良く解っていた。

だから、俺は、ノンステップバスを降りてから、孝之助の家に帰るまでの道のりで、車い
すを押しながら、孝之助に対して、あまり心配するなって、そう、声をかけようと思って
いた。
けど、その路を歩く間も、孝之助の様子が、いつもとは、少し違う気がして、その場で、
声をかけることが出来なかった。

そんな風にして、孝之助の家の前まで俺達が帰って来た時には、辺りはもうすっかり薄暗
くなっていた。
今は、夕方の6時20分を少し回った位といった時刻だから、彩音から予め言い渡されて
いた、孝之助の門限の6時半までという時刻に対して、ぎりぎりの時間といったところだ。

「孝之助、けっこう時間ぎりぎりになっちゃって、ごめん。 今、彩音を呼んでくるよ」
「待って」

俺が、玄関のインターフォンを押そうと、車いすに座る孝之助の傍からほんの少しだけ、
離れるようにして、手を壁の方のボタンへと遣った瞬間、孝之助は、俺を、呼び止めた。
その声にあわせて、俺の方へと伸ばされた孝之助の手が、珍しく空を切った。

そうなのだ、孝之助は、いつもなら、目が見えていなくても、俺や彩音となんかもそうだ
し、他の誰と接していても、そのほかの感覚で補うことによって、相手との位置関係なん
かを概ね把握している。

孝之助に言わせると、「聴覚とか、自分の肌に伝わる空気感とか、そういったもので、あ
る程度の位置とか、雰囲気は解るんだよ」とのことで、こんな風に孝之助の手が、俺の腕
に触れ損ねるなんてことは、本当に珍しい。

「……っ!」

俺が、その様子を気にして、斜め後ろに居た孝之助の方へと、改めて振り返ったのと、ほ
ぼ同時に、孝之助自身も、そのことに少し、驚いていたらしく、何とも言えない複雑な表
情をしながら、そのほんの一瞬、息を詰めた。
それは、悔しさとか、悲しさとか、そういったものを織り交ぜたかのような表情で、孝之
助のその表情をみた瞬間、俺は何とも言えない気持ちになった。

「孝之助?」
「……その、ごめん。
 僕は、まだ平塚に僕の気持ちをちゃんと、伝えてないなぁ、と思って」
「えっ」

その孝之助からの言葉に、俺が少し驚いた表情をしていた事など、孝之助には、見えてな
どいない。
けれど、その瞬間、俺は、俺自身の心が、孝之助のその言葉を受けて、急に落ち着きのな
い、何といって良いのか、解らない感情に急に揺れ動いたことを感じていた。
後から思うに、なんとなく、そんな俺の表情が孝之助に見えていなくて、良かったとは思
ったのだけど。

孝之助は、俺のそんな様子には、恐らく気付いてはいなかったと思う。
だけど、孝之助は、そのまま、俺の方に向き直るようにしてから、自らの両手で、あいつ
自身が普段から身につけている、あのアイマスクをゆっくりと、外した。
もう、昼間ではないから、恐らく、それを外しても問題ないということなのだろう。

それでも、俺には、孝之助が、今、ここで、それを外した意図が解らなかった。
だが、孝之助は、そのアイマスクを外して、無垢な瞳印象さえも、合わせ持つ、漆黒の瞳
をゆっくりと開くと、何も見る事など叶わない筈のその瞳で俺の事を見ていた。

孝之助の瞳には、俺のことが見えていない。
そんなことは、前から知っている筈なのに、その時、何故だか、俺には、そうは思えなか
った。
俺がそんなことを言うのも何だが、その時の孝之助は、元々の美青年いった風貌の所為も
あって、本当に「綺麗」という形容詞が似合っていたと思う。
今、俺の目の前には、ただ、純粋に、その瞳に俺の姿だけを映している孝之助がいる。

俺には、その姿が、何処か、志高く、心の中に純粋な想いを宿している、日本古来からの
剣士の姿にも似ているように思えた。
それは、明らかに、いつもの孝之助が持つ、優しいだけの雰囲気とは異なる。
孝之助は、そんな雰囲気をその身に纏ったまま、俺に向けて、自分の想いを告げてくれた。

「平塚、僕は、他の誰からも、どんな風に言われようと、思われようとも大丈夫だから。
 ただ、平塚が、僕のことで、そうやって心を痛めてくれているのは、つらい。
 だから、平塚は、平塚自身の思う通りに、振舞ってくれて良いんだ。
 僕に、遠慮なんかしなくても良いんだ。
 僕は、僕なりに、目が見えなくても、平塚の他の友達と同じように一緒に居られなくて
 も、平塚のことを、解りたいと、いつも本気で思ってるから」

その声を聞いた俺は、孝之助がアイマスクを外した理由が、ようやく解った。
孝之助は、例え、目が見えていなくとも、自分の瞳にその意思を宿すという意味において、
普通の世間一般の人と、比べて不利な状況にあったとしても、自分の意思を俺に対して、
明確に俺に伝えたかったのだろう。

やっぱり、敵わない。
孝之助は、心持ちという意味でなら、俺など、遠く及ばない程に強い。

俺は、そんなことを思いながら、孝之助のその様子を見ながら、何だか、晴れやかな気持
ちで、微笑んでいたんじゃないかと思う。

「孝之助、ありがとう。俺、なんか、振っ切れたような気がするわ」

体力的な意味とか、背丈でなら、薙刀とかもやってる分、当然のごどく、断然、俺の方が
強いんだけど。
俺とは、違う意味での強さを持つ、孝之助だからこそ、俺は、色々と気に掛けたくなって
いるのかも知れない。

―俺も、そういう意味で、孝之助の事を、いつも気に掛けてるよ。

そんなことを思いながら、俺は、再び、玄関のインターフォンを押した。
その隣では、孝之助が、また、いつものように微笑んでくれていた。

【END】

平塚君視点ということと、割とシリアスな感じのストーリーに仕上がりそうだったので、
前回のSSとの対比ができるように書きたかったんですが、それ以前に、前回と比べると、
平塚君が、随分と大人っぽい感じに…もう少し、年齢相応の雰囲気にしたかったのですが、
色々と難しかったよ…! 本当にすみません…

ということで、今回も、本スレ1-760様のイメージと大きく違わないことを祈っております。
お付き合いいただき、ありがとうございました!


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月04日 15:37