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「悠遊閑適~はじめてひだまりにふれた日~」


作者:本スレ1-760様

70 :悠遊閑適~はじめてひだまりにふれた日~:2011/11/18(金) 23:03:40

本スレ2-209の草食べてる生き物がモコモコにしか見えない。なんて親馬鹿…。
本スレ1-760です。本スレ1-915のキャラの小説第二段ができました。
話としては童子と御社が出会った時の話です。
シリアスを目指してみました。

 注意書き
 ・御社が別神という名の荒御魂です。ものすごい荒っぽいし、蛇です。(これ重要)
 ・シリアスです。ギャグっ気ゼロです。たぶん
 ・童子語ありなので創作してもらうスレ 1-115を参照してください。

71 :悠遊閑適~はじめてひだまりにふれた日~:2011/11/18(金) 23:04:39

森の中を黒い靄のような物がずるずると這うように進んでいる。
虫や小動物は靄から逃げるように走り回り、鳥は森から飛び立っていく。
靄からは白い蛇のような体が見え隠れし、その移動の跡には草木を枯らして黒い液体が轍の様に残る。
何もかもがそれから逃げる。
だれもその声を聞こうとするものはいない。
そして靄は森の奥へ奥へと進んでいく。

悠遊閑適~はじめてひだまりにふれた日~

ここは森の中央の湖の底、竜の女神が住まう場所・竜宮の一室。
「とまぁ、こんなことがそんときにはありましたとさ。」
「しょ、しょんなことがあったの!?」
たまたま辻ケ先遊行が旅先から帰ってきて竜宮に報告がてら寄った蚕月童子に旅先であったことを話している。
「いいなぁ、遊行は。ぼくもお外行ってみたいよ~」
「童子はまだ無理でしょ。森の外とか。危ないよ。」
「森じゃなくてもいいもん。ここの外に出てみたい!!出たい!出たい!出た~い!!!」
とうとう童子は駄々をこね始めた。

そう、この蚕月童子はこの竜宮から出たことがない。
元々は森にたくさんある池のほとりで生まれたこの竜の子はその時すでに角が四つあった。
角が四つもある子供の竜は珍しい、しかし竜の子は病気や天敵に食われて死ぬことが多かった。
ましてや竜は親が子供を育てることをしない。
この珍しい子供の竜はこれから自分たちをまとめる竜になる。ひょっとしたらこの森の女神も超えた存在に。
その子供をみすみす死なせることはさせない。そう考えた竜達はこの子供を竜宮で育てることにした。
それ以来蚕月童子はこの竜宮に住んでいるが、年の近い子供は周りにはいなく、
遊び盛りの子供には竜宮は退屈な場でしかなかった。
そんな童子にとっては遊行の話す外のことが世界そのもののようで、魅力的に感じていた。

「ねぇ、遊行~。いつかはぼくもお外にちゅ「無理」」
童子の言葉の途中であったが、遊行が否定すると少しの沈黙が流れた。
「まだ全部言ってないじゃない!!」
と、童子が怒り気味に訴えるが、
「わかるよ。童子の言いたいことなんて…。それに無理なものは無理。じゃぁおれは他にも用事あるから出るね」
遊行の言葉によって一蹴されてしまう。
部屋には竜の女官達がいるし、部屋を出ても竜たちがいる。ここから抜け出すことができない。
それが幼い童子には不服であり、天井を見つめては顔をしかめる。
そして童子は手近の座布団に顔をつっぷさせてからため息を吐いた。
「あ~あ、お外出てみたいよぅ」

遊行が竜宮の廊下を歩いているとやたらと竜たちが慌ただしくしている。
普段はゆったりとしているこの場所が騒がしいのは主に非常時―何者かがこの森に侵入した時―である。
きっと今回も何かあったに違いない、そう思った遊行は近くの竜に訊ねてみる。
「何かあったの?」
「あぁ、辻ケ先殿。実は森の外から何か得体の知れないモノが来てるんですよ。」
「得体の知れないモノ?」
「禍々しい黒い靄に包まれた白い蛇とか…辻ケ先殿はご存知ですか?」
「いや、知らないけど…で、その得体の知れないモノの所へ行くの?」
「竜の兵たちは…。それ以外は緊急に備えて避難させるようになっております。」
「そう…じゃぁ童子も避難させるわ。」
「よろしくお願いします。」
会話を終えてからまとった合羽をひるがえすように踵を返して遊行は童子のいる部屋へと向う。
「へび、ね」
そして遊行は童子のいる部屋の前に立ち、声をかけるが返事がない。
急いで重厚な扉を開けてみる。
「童子?」
そこには先ほどまでいた小さな子供はいなくて、ただ沈黙になっていた。

蚕月童子はパタパタパタと竜宮内を駆ける。
この子供は女官たちが慌ただしくしているのをよいことにいつもの部屋から抜け出してきたのだ。
一人の竜に声をかけられたが、やり過ごすことができておまけに竜宮の現状も知ることができた。
どうやら森には何かがやって来て女子供は避難するようになっていることも、男の竜たちは何かの元へ向かっていることも、
それから普段よりも竜宮に竜が少なくなっていることも。
童子はなんとか避難先とは真逆の、普段使われる外への出口の前にたどり着く。
あたりをきょろきょろと見渡して誰かいないかを確認する。
誰もいなかった。女官も、男の竜も、普段番をしている二人の竜も…。
やっと外に出られる。蚕月童子はゴクリと唾を飲み込み、拳を強く握っては一つ一つの階段を昇りはじめた。
全ての階段を昇り終えた時には息も絶え絶えで少し呼吸を整えてから目の前の扉をゆっくりと開ける。

童子は外の眩しすぎる光に目がくらんで反射的に手で光を遮るとだんだん目が慣れてきた。
慣れてきた目をパチクリさせてから外へと一歩進んで扉を閉める。
そしてぐるりと見回すと目の前には大きな木が緑色に茂り、その木々の間には池や小川があってそこには清らかな水があった。
見上げれば葉と葉の間から光が差し込み、その先には水とは異なった透き通るほど青い空が広がっていた。
「わーい!わーい!お外だー!!」
今まで見たことのない世界に童子は両手を上げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように全身で喜びという感情を表した。
目の前には外という自分の望んだ世界。聞くことでしかできなかった世界が広がっていたのであった。
そして一歩ずつ前に進んでみる。少し進んだ所で振り返る。遠ざかる竜宮への扉。
童子は更に嬉しくなって少しずつその足が速くなる。
童子の頭にはもう森の現状などすっかり消えていた。

奥へ奥へと黒い靄は進んでいく。
途中その進行を阻止しようとする妖怪が靄に向かって突っ込んできたり礫などを投げてくるが蛇は長い尾でもって吹っ飛ばす。
蛇は妖怪など敵ではないほど強い。
それでも妖怪たちはこれ以上森への進行を許してはいけないと思い、内一人が果敢にも蛇の頭がある当たりに勢い良く飛び込んだ。
すると頭部を包んでいた深い靄が風にとばされ、その姿が晒された。

そこには蛇の頭ではなくて上半身は人の姿をしていた。
頭頂部は白いのに毛先の方は黒くよどんだ長い髪、哀しみにあふれているような漆黒の目、肌は肌のように思えないほど白くて、
右頬は下半身の様に蛇のウロコであったが所々剥がれてそこからは深い闇が広がっていて、血涙の様な赤い筋が目から頬に続いているのが垣間見えた。
しかしその姿は一瞬で、妖怪を視界に捕らえると両目は赤くて怒りに満ち溢れたものに変わった。
飛び込んだ妖怪も周りの妖怪もその蛇の姿に恐怖の様なものを感じた。いや、それは畏怖に近いものであった。
そこでこの蛇が自分たちのような妖怪ではなくてもっと恐れ多い存在・神で、しかも荒御魂であることに気がついた。
荒御魂の蛇神は畏れおののく妖怪達を一瞥すると、靄、否、負の気を強くした。
「邪魔をするな!!三下風情が!!」
その怒声は荒々しくてビリビリと地をも震わせた。
ビクリとした妖怪たちは尻尾を巻いて逃げていった。

童子は多くの花が咲いた開けた場所に着いた。かなり竜宮から離れた所で頭上からは温かい日差しが降り注ぐ。
そこで童子はしゃがみこむと一つの植物を見かけた。それを見た瞬間、前に聞いたことから何か思いついた様だ。
あれを探さなくちゃ。童子は辺り一面の花畑の隅から隅まで目を凝らした。

少し時間が経つと童子は目的のものを見つけ、顔を上げてにぱっと笑う。
すると、
「ほよ?」
童子はいきなり辺りが暗くなったので見上げてみると、そこには黒い靄に包まれた上半身が人で下半身が蛇の生き物が
自分を真っ赤な眼でもって睨みつけていた。童子も初めて見るそれを眺めていた。
どちらもずっと相手を見ているだけで、その沈黙を破ったのは一陣の風だった。
「何故私を見る、ガキ」
「ほゆっ!!な、何となく?」
いきなり聞かれた問いとその声の低さに童子は驚いてしまったが、童子は首を傾げつつも答える。
「何となくだと…」
蛇は己の問いに答えた目の前の子供をもう一度、今度はじっくりと観察するように見る。
年頃は己を神として崇める地で己を宿し、しまいには捧げられてきた供物と同じくらい。怯えているようで冷や汗が流れていた。
これだからこの年頃は…。どの子供も己を見るだけで怯え、話を聞こうとすらしない。
やはり目の前の子供も同じようで、腹立たしさとそれとは異なる感情を覚え、眉をしかめた。
もう目の前の子供も消してしまおう。
蛇は童子を喰らうために己の下半身の蛇の部分でもって巻きつけては持ち上げた。

すると童子はあろうことかキラキラとした目で自分に巻きついている尾を見つめていた。
その姿に蛇は何となく調子が狂い、童子をブンブン上下に振り回すとキャッキャッと楽しそうにしている。
しかもあろうことか蛇が振り回すのを止めると「もう一回やって」とのたまってきた。
その一神である己を滑稽にでもしているのかという目の前の子供に怒りが増し、
「クソガキが~、調子に乗るな!!」
と叫び、人の様であった口を蛇の如く大きく開いて威嚇すると、
「あなた怒ってゆの?泣いてゆの?」
と目の前の子供は蛇の姿にもあっけらかんとしたように言い出した。
その言葉に蛇はハッとする。何言ってるんだこの子供は。自分が悲しんでいるだと、自分は何もかもに怒っているのだ。
だが確かにこの子供が言うとおりに怒りとは違う感情が自分にはあった。その感情が何かはわからなかったけど…。
「泣いている、だと…」
蛇は先ほどとはうってかわって、震えるような声で呟いた。
「しょう、泣きたくても泣けない人って怒ゆように当い散やしゅって、遊行が言ってた!あなたの正にしょえ!!
 何かあったの?」
己を見つめる童子の言葉に、蛇はここに来た経緯を思い出してはうろたえ始めた。
己に占めている感情は怒りなのか哀しみなのかがわからない。

その様子を見た童子は、「はい。」と、蛇の下げていた顔の目の前に何かを持って差し出した。
「はい。幸せの四ツ葉。あなたにあげゆね。」
おそるおそるその手に握られた四ツ葉を両手で自分でも信じられないほど弱々しく受け取ってから見上げると、
「あなたも幸せになれゆといいね。」
そこには満面の笑みがあった。それは己以外に向けられることはあっても決して向けられることは無かった無垢なるものであった。
その己に向けられた表情と本来幸せを叶える存在の己に対して己の幸せを願うその言葉に蛇はドキッとした。

遠くの方から「童子ー、どこいったー!」と童子を呼ぶ声がする。
「あーあ、遊行来ちゃった。変わった竜しゃん、降よちてちょうだい」
と、童子が言ってきたので蛇はその言葉に引っかかりつつ童子を地面に降ろして巻きつけていた尾を名残惜しげに解く。
離した瞬間、童子はパタパタと走ってしまう。蛇はその離れていく後ろ姿に聞こえるように話しかける。
「多分私は蛇だと思うんだけど…」
すると童子は「えっ!!」と驚きの声をあげてビクッと立ち止まってから振り返り、
「じゃぁ蛇しゃんまた会おうね~!!」
と手を振りながら走り去ってしまった。

森の中で起きた竜と蛇の出会いから数日がたった。
この蛇こと御社はなんとかこの森に住み着くことを許可され、一人で暮らしている。
あの日荒御魂であった姿は、今は人のものである。どうしても荒御魂のままであった右半分を布で覆う。
あれから童子には会っていない。
机に突っ伏してから一つ嘆息し、手元の四ツ葉を眺める。
四ツ葉は押し花にして枯れないようにしてあり、少し色あせてはいるが青々としている。
「あの子何してるかなぁ。名前聞いとけばよかった…」
自分を恐ることなく、この幸せのお守りをくれた子供。今まで嫌っていた年頃の子供にまた会いたい。
家にこもっていてもこのままでは拉致があかないと判断した御社はまだ朝早くではあったが、外へ出た。
懐に四ツ葉をそっと忍ばせながら…。
会いたい、あの子に会いたい!初めてこの長い時を生きる蛇神が抱いた感情は彼を急かし、森の中を走らせた。
木の根っこや柔らかい枯れ葉のあるただでさえ走りにくい森を慣れない脚で走るのはきつい。息が切れそうになる。
されど彼はたった一人の子供に会いたいがために走り続けた。
「童子、外で暮らせるようになったんだなぁ。」
「しょう、遊行と一緒でモコモコを育てゆってことでいいって!!」
「よかったなぁ。外行きたい行きたいって言ってたもんなぁ」
「うん、タロちゃんのおうちにも遊びにいってもい~い?」
「おう!!毎日来いよ。うちの同居人も紹介すっから。」
「やった~!!」
朝の森の中を大神太郎右ヱ門が蚕月童子を肩車しながら散歩していた。その傍らをモコモコが三匹ついていく。
木漏れ日が頭上から降り注ぎ、鳥の鳴き声や羽ばたく音が時折聞こえてくる。
ふと童子が横に目をやると、一人の男が一本の木に手をついて息を切らしていた。
それは姿かたちは大きく変わっているものの、間違いなくあの日出会った蛇であると童子は何となく思った。
そして太郎右ヱ門に乗っかったまま「蛇しゃ~ん」と手を振った。
するとこちらに気がついたようで御社はうつむいて息を切らしていた顔を上げる。
そこにはあの日出会った小さな子供。
会いたかった、もう一度会いたかった。ありがとう。君に出会えてよかった。
伝えたいことがいっぱいあってうまくまとまらない状態で御社は童子に一歩一歩近づく。
その様子を見て童子もするすると太郎右ヱ門の肩から降りる。

肩が軽くなった太郎右ヱ門はモコモコと共に訝しげにその様子を見ていた。
近づいてきた童子にしゃがみこむように御社は抱きついた。「ほゆっ!」いきなりのことで童子も驚いたらしい。
だが、当の本人よりも一連の流れを見ていた太郎右ヱ門やモコモコの方が驚いていてワナワナとしている。
「会いたかった、君に。…ありがとう。」
御社はそう言いながら抱きしめる腕に更に力がこもる。
「しょう、よかったね。蛇しゃん。」
そう言いながら童子もそっと抱き返して頭をポンポンとする。

初めてひだまりにふれた日、この森の中で彼らは出会った。

【END】

一応の補足です。
まずこの話での御社です。
とある村で神として信仰されていたのですが、その信仰法に一年毎に八歳(たぶん数え年)の子供が自分を宿す器として神主になって
翌年には自分のために殺されるというのがある(実際のミシャグジ信仰にもあった祭事)けど、
神様である御社自身はこれを望んでいなかった。
むしろ殺される子供は生まれる際に安産祈願の時にで母親が拝んでいたので小さな愛着があって悲しかった。
これを辞めさせようとしても自分と村人とのパイプである器の子供は自分を恐れているばかりで理解もできない。
そうこうしている内にも多くの子供が自分の所為で死んでいく。
しかもたまたま死なずに大人になった者は子供に死を押し付ける。
そういう自己満かつ神に脅迫している様な信仰法が嫌になり、逃げてきてこの森にやってきました。(これが前提)

そこで自分のトラウマになりつつある己の贄として死ぬ年頃の童子に出会うのですが、
童子が自分を恐れることなくむしろ自分の幸せを願ってくれたことが嬉しくてマジ惚れしました。
そしてこっからアホになります(笑)
ただこの時根本的な部分(前述の村のこと)は何一つ解決してないので心残りになっています。
イラストの眼帯の下はそれを隠しているみたいな感じです。
ちなみに荒御魂は三形態あって、怒り再頂点は白くて眼が真っ赤な本当に蛇、
今回のようなラミアっぽいのはシリアスな感じ、あとちょっとギャグっぽい絶望シーンで血涙ダバーです(笑)

童子が御社に対して竜って言ったのは蛇を知らなかったのと下半身の蛇の部分が竜のものだと勘違いしただけです。
あと童子が外で暮らすことを許された経緯は長くなるので割愛しました。

副題の「はじめてひだまりにふれた日」ですが、ひだまりは童子にとってはそのまま、
御社にとってはひだまり=あたたかいもの=童子って感じです。

一応このシリーズの五人の交友関係の成り立ちは大神さんと童子と遊行が竜宮で知り合ってて
遼陀と御社は大神さんと童子からの派生です。


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最終更新:2012年09月04日 15:38