「夜のひとコマ」
91 :夜のひとコマ:2012/04/26(木) 04:10:28
92 :夜のひとコマ:2012/04/26(木) 04:12:42
横の男が吸う煙草で、部屋が濁る。
照明を少し落とした部屋で四角いTVモニターだけが、ひとり気を吐いていた。
モニターの中では、くだらないTVショウの真っ最中で
司会ががなればそれに合わせた周りの馬鹿もゲラゲラ笑う。
ブハッと横の馬鹿も吹き出した。一段と部屋が濁った。
「全く、何が面白いんだか」
「そうっすか?」
灰皿の縁にあて灰を落とした煙草をくわえ直す。軽薄を絵に描いたような笑顔。あぁ、馬鹿がいる。
僕はもう一度指の腹で奴の手の甲を撫でた。
安物の眼鏡は振り向きもしない。…奴の象並であろう神経に恐れ入る。
こっちの気も知らずいい気なもんだ。
ベッドに腰掛けたまま、奴が悠々と吸う煙草の一本を待つのがどれほど辛いか。
ほんの数分間が嫌に長い。40手前の欲の溢れ方じゃないな。と、溜め息も出る。
されど数日間、会社に缶詰で溜まりに溜まったアレやソレが僕の下腹部でマグマの如く燃えているのだ。
覚悟しろ馬鹿。
憎き煙草が灰皿の中で小さく最後の声をあげた。
「アキ」呼ぶが早いか、相手の両肩に置いた手に力を入れ押し倒す。
「ちょっ…!もうですか?」
「何が?」
マウントポジションはとった。首筋を撫でながら、出来る限りすっとぼける。
「何って…。もっと、ムードを大事にする…とか?あるじゃないっすか」
馬鹿らしい、弱い反撃。
「いまさら?」
「ですよねー」
間の抜けたやり取りに、二人一緒に笑う。
「もういいだろ」
「そうですね」
眼鏡のフレーム同士がかちあわない様に、少しだけ注意しながらキスをした。
「ふへへっ」
奴はいつもこのタイミングで、照れたように変な声で笑う。
「…何が面白いんだか」
奴の長い髪を手遊びしながら耳元で囁いた。
すぐに「いや違うんですよー」から入り「キスが可愛い」だの「モモさんの優しさがくすぐったい」だの
聞く価値も無いような言い訳をしゃべり出す。
「ばーか」
面倒臭くなったので奴の弱点である耳たぶに歯を立て、黙らせる。
「ふあぁっ…!」
不意打ちに驚くかわいい声と、空気の読めないTVの馬鹿笑い。
自室のベッドで二人きりの時間だ。
画になる必要は無いだろう。
僕は眼鏡を外して、もう一度奴の唇に貪りついた。
【了】
最終更新:2012年09月04日 15:41