Top > 創作物投下スレまとめ 1 > 1-099 「紅い花:上」

「紅い花:上」


作者:本スレ1-549様

99 :「紅い花:上」1-549 ◆IQnIq2e6Hs:2012/05/06(日) 01:17:42

こんばんは、本スレ1-549です。
スレに上げるには長いので、1-549のキャラのSSをwikiのアップローダーに上げました。

内容は、エロのない日常です。子供二人が町外れの原っぱに遠足に行く話です。
出てくるキャラは、1-549から、リコとベルナルドです。

BLなのかNLなのか微妙な、ぬっるーい小説です。
今回上げた、前半にエロは全く無いです。
後半も、暗いだけでエロはそんなに沢山はないです。予定です。
ですが、よろしければ見てやってください。失礼します。

99 :「紅い花:上」1-549 ◆IQnIq2e6Hs:2012/05/06(日) 01:17:42

 1

あれは今から12年前だ。帝国歴1088年の夏。俺は7歳だった。

早朝からよく晴れた、暑い日だった。

俺は小振りなバケツを手に提げ、小高い丘を登っていった。バケツの中には、弁当の包み
とスコップが入っていた。
町外れの高台の上までたどり着くと、静かな林の中に、一件の屋敷があった。築数百年ら
しい古い屋敷で、薄暗い木々の中にたたずんでいた。石の壁一面を、青々としたツタが覆
っていた。昔、このあたりを治めていた領主の住居だったらしい。けれども時代とともに
家は没落していき、屋敷は街の人々から忘れ去られていった。
このころになると使用人すらおらず、母子が二人で住んでいるだけだった。近所付き合い
のようなものも特になく、孤立していたらしい。

錆付いた、開きっぱなしの門扉を抜けると、長い石畳が続いていた。
玄関先に立った俺は、精一杯背をのばし、呼び鈴の紐を引っ張った。
しばらく待つと、軋んだ音を立てて玄関のドアが開いた。寝間着なんだか下着なんだか分
からないきわどい服を纏い、長い髪も乱れたままの女性が顔を出した。歳はまだ若い。昨
日のメイクも落とさないまま、眠そうに目をこすっていた。息はとても酒臭かった。
俺に目を留めた彼女は、朝早くから何よとでも言いたげに憮然としていたが、もう九時を
過ぎてたんだから常識的な時間だ。
「おはようございます。お母さん、あの、リコ君いますか」
「ああ、いるけど…」
リコの母さんは、美人には違いなかったけれど、決して感じのいい人じゃなかった。いつ
でも怒ったような声で、たいそう素っ気なかった。目付きはギラギラと鋭くて、彼女の前
では居心地の悪さを感じた。この日に限らず、いつも胸元と脚を見せびらかすようなセク
シーな服装だった。化粧もなかなか濃い。
いっぺん夜中の街で、彼女を見かけたことがある。金銀のアクセサリーやらカバンやらを、
じゃらじゃら身につけていた。一体いくらするんだろうという豪奢な獣皮のコートを羽織
っていた。ガラの悪い男の人と親しげに話していて、この時だけは上機嫌に見えた。

リコの母さんが家の奥に引っ込んでからしばらく、俺は玄関先につっ立って、リコが現れ
るのを待っていた。
草木のかおりがする広い庭には、沢山の木の実が落ちていた。
それをついばみにきた小鳥たちを眺めていたけれども、突然の大きな音に驚いて、小鳥は
一斉に飛び立っていった。
何かが割れるような音につづけて、男の人の怒声も聞こえてきた。リコの母さんが男の人
を泊めているのは珍しくない。
音が静まってからしばらくすると、そっと玄関の戸が開いた。リコは後ろを気にしながら、
そろりそろりと音を立てないように出てきた。この日はカッターシャツに、サスペンダー
のついた長ズボンを履いていた。どちらも古い服で、破れた箇所を修繕してある。喧嘩し
た直後みたいに、襟元が乱れていた。
さっきの物音にびびっていた俺は、生け垣の後ろから顔を出した。リコは目が合うと、一
瞬ばつの悪そうな顔をしたものの、俺を安心させるようにニッと笑った。愛らしい、白い
八重歯がちらりと覗く。
「おはようベルナルド。びっくりさせて悪いな」
俺より5つ歳上のリコは、当時12歳だった。明るくさばさばとした、面倒見のよいお兄
さんだった。
凜とした容貌に、雪のような白銀の髪。白い肌は、真夏にもかかわらず日に焼けた様子は
なかった。小柄かつ華奢で、可憐な女の子のようでさえあったが、弱々しい印象は無い。
明るい笑顔のまま、しかし、リコは片側の頬をハンカチで押さえている。目の周りまで青
黒く腫れて血がにじみ、白目は紫に充血していた。とても痛々しかった。ポニーテールに
結った髪も、若干乱れていた。
「リコ、おはよう。……。大丈夫?痛そう…」
「ちょっとぶつけただけだ。それより、暑いし早く行こう」
彼は華やかな笑顔を崩さない。

 ※

歳も家も離れたリコと俺の間に、何で交友があったのか。一応説明する。

もっと小さいとき、俺はいっぺん誘拐されかかった。
年の瀬の、冬祭りの最中。俺は迷子になった。親とはぐれて、泣きべそかいてんのが格好
悪かったから、下ばっかり見てたなあ。一人でとぼとぼと歩いてた。
気がついたら人気の無い通りを歩いててさ、誰かにいきなり腕を掴まれて、暗い路地裏に
引きずり込まれた。で、悪そうな大人三人ほどに囲まれてんの。
パニックに陥った俺は泣いてわめいて、そりゃもううるさく騒いじまった。「騒ぐと殺す」
とか脅されてんのに。バカだね。
で、当然そのまま殺されかけた。
俺が眼帯してんのは、その時に揉み合いになって、目を刺されたからだ。ぬるい血がいっ
ぱい出て、目の前が真っ赤になった。
ああ、俺死ぬんだって覚悟したときだった。
丁度、近くを通り掛かったらしい。リコが駆け付けて助けてくれた。
人を呼ぶ猶予が無かったからって、相手の剣をぶんどって、大人三人相手に大立ち回りさ。
リコだって歳端もいかない子供だったのに。舞い散る雪のなか、ばったばったと倒される
悪漢、翻る銀の髪、そりゃもう格好良かった。刺された目の痛みも忘れて、俺は夢中で見
入った。絵本で読んだ伝説の騎士が、助けに来てくれたんだと子供心に思った。
彼は、俺にとっての英雄になった。

それから俺は、勝手にリコに憧れて、しばしば訪ねていった訳だ。彼は急に懐いてきたガ
キンチョに、イヤな顔一つせず、よく面倒見てくれたもんだった。
もっともリコは忙しいようで、この日みたく一緒に出かける約束は稀だったけども。

 2

空はどこまでも青い。たくさんの羊雲が、地平線の先まで連なっていた。
街道を西へ西へと歩いていくと、広々とした草原がある。草原のまんなかに、小川がひと
すじ流れていた。そのほとりに、あまり高くない一本の木が生えていた。草原のただ中に
ぽつりと生えているので、遠くからでもそれなりに目立つ。
草原に到着したときには、もう昼時だった。俺たちは木陰に座り込んで、昼食をとってい
た。街道のほうを見れば、蹄をかぽかぽと鳴らしながら荷馬車がゆっくりと歩いていった。
のどかだ。
俺の弁当は、キュウリとバターのサンドだった。母さんが作ってくれたのでおいしい。結
構なボリュームがあった。
リコは、何も塗ってない、わずかばかりのパンの切れ端をかじっていた。あまり、見られ
たくなかったんだろう。俺から若干距離を開け、そっぽを向いて食べていた。
俺は、リコにサンドイッチを一つ渡した。プライドの高い彼だったが、「これ好きなんだ」
と言って嬉しそうに受け取ってくれた。
リコはサンドを食べながら、頬をもくもくと動かしていた。殴られた痕跡はもうない。
「ケガ、もう大丈夫なの?」
「全部治ってるよほら。便利だろ」
リコは自慢するように言った。
彼は、ケガの治りが人よりも格段に早かった。既に頬の腫れはすっかりひいて、もとの白
さに戻っていた。もう、健康優良児とかそんなもんじゃない。特異体質の持ち主だった。
リコが不審なケガをしていたのは、これで数回目だ。もっとも俺が目撃した回数に過ぎな
い。常人離れした回復力を持つ彼のことだ。ケガをしても、人目にはつきにくいはず。
それに、着ている服は母親と対照的に擦り切れてボロボロ。少なすぎる昼食。
「リコだって、ケガは治ってもさ、なぐられたら痛いよね」
「まぁ普通に痛い」
「今日もなぐられたんでしょ」
「転んでぶつけただけだ」
「おれだってわかるもん、変だよ」
リコは少し考えこんでから、
「あの人は愛想悪いし、お前みたいなお客様にも失礼だけどな、
ちゃんと私の母さんだから。心配するな。大丈夫だ」
彼は笑って言った。優しい目をしていた。
俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきたので、耳がくすぐったかった。

彼はこれ以上何も言わず、家のことに触れてほしくないようだった。
しばしの沈黙が流れ、俺は別の話題を振ることにした。
「アルマ、今朝会ったときも相変わらず鼻水止まらないみたいでさ」
「そっか。長引いてるな」
「あいつのことだから、この後見に行ったらもう治ってるかも」
「それだったらそれでいいかな」
今日はリコを誘って、この草原に生えてる薬草を探しにきた。夏風邪をひいたアルマがち
っとも治らないから、彼女のために、二人で薬草を持っていこうと決めたのだった。
とはいえ子供である。一刻も早く薬草を手に入れて、風邪をこじらせた女の子を救おうな
んて、考えちゃいない。適当にぶらぶらと遊びながら目的の薬草を探して、空がオレンジ
色になるまでめいっぱい遊んで、満足してから帰るのだ。

短く説明すると、アルマは俺らの友達で、俺のすぐ隣に住んでる。あいつ滅多に病気なん
かしないのに、もう見るからにフラフラだった。元気だから平気って言い張って、うちの
病院に来るの嫌がってたな。
ふと、アルマがいつも、リコのことをぼんやり眺めていたことを思い出した。
リコの方を見れば、彼は何やら思案顔で、眉根にしわを寄せていた。うつむいた睫毛は長
く、首筋は女の子のように細い。桜色の薄い唇に拳を当てている。
リコは美人だった。男女問わず目を奪われるくらいに。顔立ちは母親そっくりだったけど、
雰囲気はまるで違った。身だしなみはいつも清潔にしていて、背筋は真っ直ぐに伸びてい
た。顔はさっきまでケガしてたし、服は穴があいてたけれど、それでも品のある印象を保
っていた。

リコはゆっくりと立ち上がって、ひとつ、伸びをした。
「さ、頑張って薬草を探しますか」
ズボンについた草の葉を払い落とし、ゆったりとした足取りで、小川の岸に歩み寄ってい
った。

 3

目当ての薬草は、存外に早く見つかった。
それは草というか、苔に近い。小川に沿った、湿った土の上に、いくらでも生えていた。
表面は、細かな白い毛にびっしりと覆われていた。細く枝分かれした、茶色い肉厚の葉を
折ると、粘着性の白い液が染みだす。黄色い小さな花をたくさん付けており、鼻を近付け
るといい匂いがした。
この草で作った茶が風邪に効くのだと、俺の母さんが教えてくれた。ほんのりと甘いので、
子供でもなんとか飲める。
リコと二人、その苔みたいな薬草を、持ってきたスコップで掘り起こす。根っこに土の付
いたまま、どっさりとバケツに入れた。
これで任務完了。晴れ晴れとした気分で大きく伸びをすると、午後の日差しが強烈に目を
刺した。夕方まで、まだまだ遊べそうだ。

辺りを見回すと川べりに何本か、鮮やかな赤紅色の花が咲いていた。あまり大きくはない
けれど、とても綺麗な花だった。
これもアルマのお土産にしようと、赤い花を一輪摘んだ。
リコにもあげようと思い立ち、もう一本摘んだ。彼にもきっと似合うだろう。

と、しゃがんで草を掻き分けていた俺の首筋に、ひんやりと冷たいものが触れた。
俺は素っ頓狂な叫び声をあげて尻餅をつき、慌てて振り返るとリコが腹を押さえて笑って
いた。リコの袖口は少し濡れている。どうやら、川の水で冷えた手で首筋を触られたらし
い。
「あはははは、っそんなにビックリしなくても」
「ちょっとお!もう、いいもん。これあげないし!」
「悪かった、悪かったよ」
リコはひとしきり笑ってから、どこにしまっていたのか、川で捕まえたらしいサワガニを
足元の湿地に逃がしていた。俺は真面目に探索していたのに、リコはもうがっつり遊んで
いたようだ。まったく。
サワガニは思いのほか素早く移動し、ぽちゃんと川に消えた。ちょっと寂しげにそれを見
届けたリコは、俺のほうに向き直ると、打って変わって嬉しそうに眼を輝かせる。
「で、私に何をくれるって」
「それより先になんかあると思います。大人にあやまるみたいにゆって」
「この度は私の軽率な行動により多大なご迷惑を」
「うーん、もういいや。許す」
正座して神妙顔になったリコに満足し、俺は、自分で要求した長口上を遮った。俺にも届
く位置になっていたリコの胸ポケットに、赤い花を挿した。
「やっぱりよく似合う。リコ、かっこいいよ!」
「赤、似合うかな…」
正座したままのリコは顔を伏せていたが、耳まで赤くなっていたので照れているのが分か
る。こうしておずおずした所を見ると、やっぱり女の子のようでもある。とてもかわいい。
俺のほうまでソワソワと落ち着きをなくした。仕方ない、リコはそれだけ可憐だったんだから。
「すっごいかっこいいよ、絶対モテるって」
俺は、かわいいとは言わずにおいた。
「ありがとう」
リコは小さな声で言った。

 4

街に帰ってアルマのお見舞いが済んだら、空はもう紫に変わりつつあった。
アルマは相変わらず寝込んでいて、相変わらずぶっきらぼうだった。リコの手で薬草と花
を渡してもらったら、熱の出た顔をますます赤くして布団に引っ込んでしまった。布団越
しに小声で、ありがとう、と言っていた。こっちも分かりやすい。普段より千倍可愛い。
うん、顔は美人だから大人しくしてればいいんだよな。
リコの方はというと、いつもと変わりなく、特に何もなかった。

先にも言った通り、俺んちはアルマの隣だから、リコとはここで解散だった。
辺りからは夕飯どきのいい匂いが漂っていて、俺の晩ご飯はシチューだと分かった。
「リコ、今日さぁ、夕飯いっしょに食べていかない?」
リコは少し淋しそうに笑って顔の前で手を振り、
「そこまでお世話にはなれないよ。ホントに楽しかった。またな」
そのまま背を向けると、レンガの坂を小走りに駆けていった。角を曲がり、すぐに見えな
くなった。
気にすることなんてないのにさ。それとも、急いでいたかもしれない。

 #1

家の庭を歩くリコは、暗澹たる面持ちだった。
母の決めた門限はとうに過ぎ、自分が良い目を見ないことは分かりきっている。
どうせ家に帰って叱られるなら、ベルナルドの言葉に甘えておけばよかったではないか。
もう二度とない機会だったかもしれないのに。きっと暖かい家だったろう。

ベルナルドの前ではいつも見栄ばかり張っている。
自分はあの少年が思っているような、よく出来た人間ではないのに。
友達をずっと騙して。嘘つき。嘘つき。どうして心配してくれたときに正直に話さなかっ
た。
ベルナルドだけじゃない。アルマも、私なんか好きになっちゃ駄目なんだ。私はそんなん
じゃない。

見上げた夕闇の空を、カラスの群れが黒々と覆っている。
握った手に、ベルナルドがくれた一輪の花がある。赤い花は、早くもしおれかけている。
早く瓶に活けないと。

誰にも出会わないことを祈りつつ、勝手口のドアノブに手をやった。
そっと開けると、薄暗い廊下の奥に立っていた母と鉢合わせた。リコは身を硬直させる。
母はつかつかと歩み寄り、無言のままリコの頬を引っ叩いた。手加減なしに。
尻餅をついたリコの髪を掴み、乱暴に立たせると、
「早く仕事しなさい」
と、吐き捨てるように言った。そしてリコが取り落とした赤い花を拾い、グシャグシャに
ちぎって、廊下に叩き付けた。
「返事は?」
「はい」
母は、息子には眼もくれず、廊下を歩き去る。
リコはしばらく、その場に悄然と立ち尽くしていた。

【 続く 】

※続きは、創作物スレ 1-110-01


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月04日 15:54