「紅い花:中」
作者:本スレ1-549様
110 名前:「紅い花:中/下」1-549 ◆IQnIq2e6Hs 投稿日: 2012/05/20(日) 21:31:46
やけに長ったるいくせに、BL成分極薄です。(特に下が)
女子がモリモリ出てますが、ノンケ達の日常ですので女子がいますご容赦ください;;
どうかよろしくお願いします。
真っ当にBLしてるのも別の組み合わせで上げたいと思いますorz
110 名前:「紅い花:中」1-549 ◆IQnIq2e6Hs 投稿日: 2012/05/20(日) 21:31:46
※前書き※
本スレの1-549です。DL頂き、大変ありがとうございます。
長めですが、どうかお付き合いください。(上)の続きです。
今回の(中)はR-18Gです。血が出てるほか、ゲロとか多少あります。
それと暗いです。ほのぼの要素はゼロです。あんまりエロもないです。
1
早朝は好きだった。大抵は皆まだ寝ていたから、ひとりきりになれた。
冷たく澄んだ空気が肺を満たす。金色の木漏れ日が、少年の白い裸身を照ら
している。
リコは、家の裏の井戸で、水を汲んでは浴びていた。繰り返し、繰り返し。
取り憑かれたかのように、同じ動作を繰り返す。
彼はひどく憔悴していた。虚ろな眼は焦点が合わない。手元は覚束ず、何度
も桶を取り落とす。細い肩は震え、爪と唇は血の気が失せた色になっている。
夏にも関わらず、凍え死んでしまいそうに見えた。
リコはふと、家の壁ぎわに目を留めた。赤いものが、石畳の上を横切ってい
くのが見えた。彼は何となく興味をひかれた。遠めに見ると、綺麗な宝物の
ように思えたのだ。近づいて見れば、蛾の羽根がアリによって運ばれている
所だった。リコは濡れた体で裸足のまま、アリの行列の元を辿っていった。
ゴミ置場の前だった。朽ちた椅子、古い絨毯などが積んだまま放置され、石
畳に割れたガラス片が散乱している。
リコの足元で、小さな蛾の死骸に無数のアリが集っている。黒々と蠢くもの
に覆われ、赤い羽の蛾はバラバラに解体されていく。
リコの脳裏に、大切な人に貰った花が、ぐしゃぐしゃにちぎられたことが思
い出された。続けて、嫌な出来事が次々と鮮明に浮かび上がる。
私に群がる大人達。髪を掴まれて引き摺られ、床に這いつくばらされた。毛
むくじゃらの太い腕が私を捕え、黒く巨大な影が覆い被さってくる。ざらり
とした舌の感触。おぞましいものが、中に入ってくる。とても痛かった。意
味もなく、殴られ蹴られ、首を絞められた。私を蔑む笑い声。不快な臭い。
手足を縛られ、光の差さぬ部屋に押し込められた。薬を無理矢理打たれた。
何日も、何日も、大勢の相手をさせられた。
リコの体は震え、足に力が入らなくなる。耐え難い頭痛に、その場にうずく
まり、盛大に吐いた。吐いたものの中には、雑草や砂利などが少なからず混
じっている。すえた匂いが鼻を刺し、さらに気分が悪くなる。
リコは石畳の上にぐったりと横たわり、そこから動けない。手足はいよいよ
熱を失い、氷のように冷たい。心臓が早鐘のように打ち続け、呼吸は荒くな
り、息をすればする程に苦しい。見開いた両の目からは涙が止まらない。
パニックの発作だった。ほんの些細なことで、つらい記憶が突然蘇る。昨日
一日、ベルナルドの前で何も起きなかったことは、本当に幸運だった。
ベルナルドのことを想った。今、傍にいてほしかった。手を握ってくれれば
いい。そしたら、もう一度立ち上がれる。
「そんな格好で寝転がって。誘ってるんだろ?」
ねっとりと貼りつく声が、耳元で聞こえた。
昨夜に相手をした男が、そこにいた。
※
リコの父には、親友がいた。親友の彼は、老いた父よりも随分と若かったが、
二人はとても気安い間柄に見えた。
彼は街の子供たちに剣を教えていて、幼いリコも彼から剣を習った。リコは、
彼のことを「先生」と呼んでいた。志の高い人だと思っていた。心から敬愛
していた。
父の死後、「先生」はリコの母と不倫をしていた。リコの家に入り浸り、昼
間から酒を飲んでいた。「先生」は母以上に、リコに暴力を振るった。リコ
は一日中家事にこき使われ、ほとんど家から出してもらえなくなった。
ある日の夜。いつもの様に疲れ果てて眠っていたリコを、「先生」が襲った。
怯えて抵抗もできなかった。
翌朝、異変に気付いた母は血相を変えて愛人を問い詰めた。深く深く傷つい
ていたリコだったが、我が子のために怒っている母を見て、涙が出るほど嬉
しかった。
なのにどういうことだろう。あの日から、毎日毎日、何人も何人も大人が家
にやってきて、昼となく夜となく、自分を慰み物にしていく。母はそれを平
然と見ている。
あの日、母さんは何に対して怒ったの。私のためではなかったの。
2
ゴミ置場の前。
石畳の上でリコは仰向けに押さえつけられ、男にのしかかられている。地面
に散らばるガラス片が、リコの白い肌を傷をつけた。
男の腰が動く度、リコの腿を伝って鮮血が滴り落ちる。リコは、されるがま
ま何の抵抗もしない。が、投げ出した両手は、爪が剥がれるほどに石畳を引
っ掻いている。リコは声も上げないまま、とめどなく涙を流す。
静かな庭に、粘膜の擦れる音がクチャクチャと響く。明け方のぼんやりとし
た青空は、雲がゆるやかに流れていく。チチチチと鳴いて、白い小鳥が飛ん
でいった。
「先生」
リコは、昔そうした様に男を呼んだ。か細く消え入りそうな声で。
「どうして、どうして母さんは、わたしを助けてくれないの」
リコの精神は破綻寸前だった。今までの思い出が、頭の中を雑然と流れてい
く。目の前のこの男だって、私が小さい頃には遊んでくれたのに。全部嘘だ
った。
「お前は本当に頭が悪いな、剣の筋は良かったのによ。あ、下の締まり具合
もいいぜぇ」
何が面白いのか、男はしばらく笑ってから、
「お前は一つ勘違いをしているようだなあ。あの時、お前の母親が、俺に何
と言ってたか教えてやる」
「『タダでヤってんじゃねぇよ、カネを払え』だとよ。銀貨を何枚か渡した
ら、途端に上機嫌になってよ。カネの勘定してたぜ」
リコは、傍らに落ちていた大きなガラス片を掴んだ。
やっぱり。聞かなくたって分かってた。
「あの日から、お前さんを使えば随分儲かるって気付いたみたいでなあ」
男の言葉を、リコがどこまで聞いていたかは分からない。
言葉にならない絶叫とともに、リコはガラス片を振り上げる。咄嗟に目を閉
じた男の顔に、温かな飛沫が降り掛かった。男は、恐る恐る目を開ける。
リコの白い裸身が、赤い海に横たわっている。リコの首筋はザクロの様にぱ
っくりと裂け、勢いよく血が噴き出していた。男と繋がったままのリコは、
小刻みに痙攣し、やがて動かなくなった。
男はしばし呆気にとられていたが、気を取り直し、続きに専念し始めた。し
ばらく後、満足げに息を吐くと、リコの骸から自身のものを引き抜いた。冷
え切ったリコの腿を、白い液が流れ落ちる。
むせ返るような血の臭いに関わりなく、朝の陽はただただ穏やかだった。空
は青く、涼しげな風に木の葉がそよぐ。
どこからか飛んできた一匹の蝿が、見開かれたままのリコの目に止った。蝿
は、拝むように両手をこすり合わせている。
3
楽な子供だった。
大人しく、聞き分けがよく、特に口答えをしたこともなかった。
自分に歯向かったことなんてなかった。
涼しげな風のそよぐ、夏の午後。
母は、甘ったるいケーキをつつきながら、新聞のゴシップ記事を読んでいた。
とびきり上等な紅茶は、飲みかけのまま冷めている。レコードを回す蓄音機
から、流行の歌が流れている。
かちゃりと、角砂糖の入った容器が音を立てた。
なんとなく人の気配を感じて薄暗い廊下を見れば、小柄な人影があった。そ
れは幽鬼の如く、ただ静かに立っていた。
見間違えようもなく、確かにリコだった。が、彼は今朝、死んだはずではな
かったか。確かに死んだはずだ。それを裏付けるように、リコの首筋には赤
い線がはっきりと残っている。体は血にまみれ、長い髪がべったりと張り付
いている。
リコの手には剣が握られ、血と脂を滴らせている。廊下に点々と、赤い跡を
残していた。リコは無言で、魂の抜けた人形のように表情も無い。ひたひた
と、裸足のままゆっくりとこちらに近づく。
「化け物…」
母は、絞りだすように言った。見開いた目には恐怖の色がありありと浮かん
でいる。それを聞いたリコは、本当に悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔
をした。
母はソファから立ち上がって後退る。背後のガラス窓にぶつかり、後ろを振
り返った。二階にあるこの部屋は、大きな窓から庭がよく見渡せる。庭にあ
るものを見て、母は愕然とした。
リコの死体を庭に埋めて隠すべく、愛人に穴を掘らせていた。その愛人が、
穴の中に突き落とされている。首は、胴から離れていた。
「助け…!」
母の叫びは途絶えた。
部屋にはただ、レコードの音楽だけが流れていた。朗々たるバリトンが、愛
する人に捨てられた男の物語を歌う。
【 続く 】
最終更新:2012年09月04日 15:54