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「−SOLUS−心の在処2」


作者:本スレ 1-710様

61 :−SOLUS−心の在処2:2011/07/10(日) 11:06:41

本スレ710です。
昨日、52様からの設定待ちの間に書き上げた、うちの子のSSを投下します
 ・これだけでも読めるとは思いますが、一応、創作してもらうスレ 1-013からの続き
  になっています
 ・今回も相変わらず、そんな描写は出てきませんが、一応サイキックファンタジー風味
 ・青年×少年でエロが無いうえに、ストーリーも短め
こんな感じですが、よろしかったらどうぞ

62 :−SOLUS−心の在処2−:2011/07/10(日) 11:10:47

彼は、泣いていた。
自分と過ごしていた夜も、彼が切ない表情を見せることは、あった。
だが、あんなにも切ない表情をしていた事は無かったように思う。
あの姿を見せられた瞬間、自分の体内の血流の全てが、逆流するかのような激しい感情が渦巻いた
のは事実だ。

それでも、彼のあの涙を見た瞬間、それは、全て、どうでも良いことになった。
彼の目の前で、「もう、自分を責めるな」と、ただ、それだけを言ってやりたかった。

ただ、今の自分には、それさえも叶わない。
青年は、明かりひとつ灯いていない暗闇の中で、広大な研究所の一角に在る、この部屋の窓に映る
自らの姿に視線を移しながら、そう思った。
そこには、先程、自らが想いを馳せたその記憶の中で、自分自身の最愛の少年を抱いていた男−β2−
と同じ、流れるようなプラチナブロンドと、青銀の瞳を持つ、その姿の全てを生き移しにしたかのよ
うな、青年自身の姿が映っていた。

青年は自分自身のその姿を複雑な想いと共に眺めながら、その窓硝子へと手を遣った。
数日前に、あの映像を目にしてから、青年自身が想い返すのは、自分にとっても、恐らく、もう一人の
自分にとっても最愛の存在となった、空色の髪と瞳を持つ少年、エルのことだけだった。
そして、たった今、先程も、あの切ない表情の少年を夢にまで見て、こうして夜中に起き上がる破目に
なったばかりだ。

エル、例え君が俺の名を呼んでいなくても、君の想いは、届いている。
だから、もう、自分自身をそんな風に、責めるな。
エル、君に会いたい。いつもそう、思っていたよ。

青年は、ひどく切ない表情で泣いていた少年のことを想うと、今、自分自身が感じている激しい想いを
乗せたまま、彼を抱きしめたいという気持ちと、今までずっと抑え込んできた、衝動的な行動にさえ打
って出たいという気持ちで、一杯になった。

だが、今の青年には、その少年の名前を声に出して呼ぶことさえ、叶わない状況に在った。
それは、青年自身が、その一挙手一投足までも、この研究所内で監視されている状態に在るからだ。

互いが、互いの為に、何時か再び、再会するために、「今を生きる」という、その選択肢を採った、あの
時から、こうなる事は、解っていた筈だ。
それに、今、自分のこの想いに探りを入れられることなどで、これ以上、互いにとって、有益にならない
状況など、作りたくはない。

今はただ、自分自身がエルのことを激しく焦がれる程に求めるという、ある意味、一方的な感情に流され
そうになっているだけで、だからこそ、何もできないこの状況がもどかしく思えているに過ぎないのだから。
青年は、そう思いながら、幾分険しい表情で、その窓から映る眼下の暗闇へと眼を向けた。
そして、自らの製作者から申し渡されたあの言葉を思い返す。

「――シオン――いや、AL-SION- TYPE-β1、君にもチャンスをやろう。
近いうちに、もう一度、EL-SION- TYPE-α1、エルに会う機会を提供してあげよう。
そうして、君がAL-SION- TYPE-β2の感情を煽った方が、観てる方もより楽しめるだろう?
その後、しばらくしたら、君は――大勢の観衆が見守る中で、β2と果たし合いをする事になるのだから」

シオンは、彼から述べられたその言葉自体には、さして驚きもしなかった。
自分が此処に呼び戻されたということは、またそうした悪趣味な催し物にも狩り出されるということなの
だろうと思っていたからだ。

それに、エルを護るというハンデが無ければ、様々な状況下での経験をこなしている分、恐らくは、相手
よりも自分の方が強い。
自分は、あの映像に映っていた男−β2−と紛れもなく、同じ性質を有する個体であり、β2は、クロー
ニング技術によって生み出された、もう一人の自分、なのだから、その推測に誤りはないだろう。

彼と自分との違いといえば、自分だけが勝手に短く切りそろえた、この髪の長さと、腰に刻印された型番
の有無、それに、思考の一部に精神的なコントロールを施されているか、いないか、ということだけなの
だから、そこから考えれば、ある程度、相手の能力に対する推測も付く。

ただ、きっと、エルは、自分と、β2が殺し合うことなど、望んではいない。
そうして、多分、そんな風に冷徹になりきれていない自分の想いが、きっと相手に隙を与えることになる
のだろう。

「全て解りきった事なのにね」

シオンは、自分以外には誰も居ないこの部屋で、自らの前髪をかき上げるようにしながら、小さな声で
そう呟くと、自嘲気味に微笑んだ。
それから、このまま朝まで眠りに就けないであろう自身の体力をできる限り温存しようと、先程まで横
になっていたベッドに再び、自分自身の身を投げ出すようにして預けた。

――それでも俺は、エルを再びこの手で抱きしめたい。 ただ、それだけなんだ――

シオンは、ベッドに身を預けたそのままの姿勢で、暫くの間、暗闇の中で、この部屋の天井をただ、見
上げていたが、やがて、自身の想いを確認するように、一度、その瞳を閉じた。

「また、いつか、必ず、会えるよ」

其処には、あの別れ際に、そう言って、自らシオンの唇へと優しい口付けを施してくれたエルの笑顔が
在った。

【END】

よくよく考えたら、エルが数週間に渡って監禁されている間、君は何をしてたんだ!
ということで、書いてみたものです。
彼自身が昏睡状態とか、もっと激しく怒るとか、そんなシナリオも在ったんですが、何故かある意味、
より冷徹で、更に過酷な展開のこちらのシナリオになってしまいました。
彼は感情に突き動かされて行動するということが、とても少ない人なので、どういう選択肢を採るのか
が、未だによく把握できていなくて、書く時にいつも悩みます…
またそのうち、エロを絡めたストーリーも書きたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします!


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最終更新:2012年09月04日 16:08