酒に関するエピソード
作者:本スレ 1-510様
9 :酒に関するエピソード:2012/09/17(月) 17:40:18
本スレ1-099、
1-510 で投下した自キャラでSS書いたので投下させてもらいやす
※剣と魔法のファンタジー世界で戦時中だけど至って平和な日常話
※イーグル→グレンの微妙な片想いでカプ未満
※エロ未遂でアホっぽい感じ
よろしければどぞー
10 :酒に関するエピソード:2012/09/17(月) 17:41:48
グレンは酒が飲めない。
飲まない、ではなく、あくまでも飲めない。
若い時分に一度試したことがあるが、一口飲んだ以降の記憶が薄く、
そのくせ周囲に迷惑を掛けた事だけは把握できたので、以来勧められても固辞する事にしている。
しかし帝国軍部に入り込んでからというもの、中々そうも言っていられない状況になった。
酒を飲まないことが、やや深刻な悪評をもたらすのだ。
帝国では酒が生活に浸透しきっている。
大人が昼間から酒を飲むのは珍しいことではないし、
寒い冬の日には子供ですら身体を温める為に酒を飲む。
親交を深めようという場面では必ず酒が登場するし、逆に言えば酒を断るということは、
親交を深めようという気が無い、と取られてしまう。
飲めないのだから仕方ないではないか、と思いはするが、立場上いたずらに反感を強めるのは思わしくない。
皇帝のお墨付きがあろうと、人間は理屈のみで動く代物ではなかった。
嫌悪されるのは構わなかったが、有事の際に指示が円滑に通らないのは困る。
かといって無理に酒を飲んで醜態を晒せば元も子もないので、グレンは少々考えた。
考えた結果、イーグルの執務室を訪ねることにした。
「イーグル。俺に酒を出してくれないか」
「………はぁ?」
イーグルに与えられた執務室は、常に清潔かつ整頓されている。散らかっていない。
机の上にも書類一つない。引き出しの中にすら無い。将軍としての内務はすべてグレンに投げてあるからだ。
そんな整然とし過ぎた執務室に置いてあるソファはイーグルのお気に入りで、
暇があると大抵そこで大柄な身体を投げ出して眠りこけている。昼寝専用の部屋といって良い。
そんなだから当然、清掃に侍女が入るくらいで来訪者は殆ど無い。その静けさもイーグルは気に入っている。
その日もそうやって昼寝を嗜んでいたのだが、そこへグレンが唐突に現れて唐突過ぎるセリフを吐いたので、
寝惚けた頭でイーグルは「何だ、夢か」と思った。
(夢なら夢として、それにしても、酒か)
グレンが。
酒を出せと。
「……良いな。飲もうぜ」
イーグルは思った。中々良い夢じゃねーか。
普段は人が酔おうと酔わなかろうとどうでも良かったが、何となく彼の事は酔わせてみたいと思っていたので。
勧めてみては「飲めないから」と素気無く断られていたので。
赤くなるのか青くなるのか、笑うのか泣くのか騒ぐのか。
自分が知る酔っ払いの行動はどれも彼に当てはまらないような気はしたものの、
どうにかなれば面白いんじゃねーかな、と半ば期待を抱いていた。
彼が酔っ払う際には、是非自分がその傍にいようと考えている。
夢で予行しておくのも悪くない。
「ビール……は、無いか。ラムかウィスキーなら引き出しにある。水で割ってやろうか?」
「何でもいい。既成事実を作りたいだけだからな」
「キセイジジツ」
キセイジジツ、とは。既成事実か。
飲み屋の女が金持ち捕まえて作りたがる、アレか。
「………」
イーグルは思った。ますます良い夢じゃねーか。
しかしそれなら酒は飲まなくて良い。酒なんか邪魔だ。
グレンがどれだけ酒に弱いのかは知らないが、飲めない奴に飲ませると突然ぶっ倒れたり吐いたりする。
そうなるとウマくない。やる事がやれない。
やりもしないのに既成事実を作られるなんていうのは、マヌケのすることだ。
自分はそんなマヌケとは違う。全然違う。
がっつりと楽しんだ上で、出来上がった既成事実を逆に利用するくらいの事はする。
具体的にどう利用するかは大して思い浮かばないが。
彼との間に既成事実が出来るのは何だかとても都合が良いような気がする。
彼に限って金が目当てと言う事も無いだろうが、
何かにつけて欲の薄そうな彼が自分に何かを求めて擦り寄ってくるというのは気分が良い。
寝物語に何が欲しいのか聞いてやろう。好きなだけくれてやろう。
それが上等な物なら、目が覚めてから「夢でお前が欲しがってたから」と言って贈ってやるのも良い。
女ならこれで落ちる。男はどうだろうか。
イーグルは身を起こした。
思考も身体を動かした感覚も夢にしてはえらく鮮明な気がするし、
「あ、これ夢じゃねーな」とも思ったが、最早気にしない。
なんたってグレンが酒を飲ませろとか既成事実を作りたいとか言うので、これは夢に違いないのだ。
傍に立っていたグレンの手を取る。
夢であるからには、目を覚ます前に事を起こさねば。
「よし。やろう。やるぞ」
「…?…やるって、何をだ」
「そりゃ、やるこたぁ一つしかねーだろ」
取った手を引いた。釣られてグレンの身体が落ちてくる。受け止めるとひどく軽い。
「は?…ちょ、ちょっと待て。イーグルお前、何か勘違いしてないか?」
「してねぇしてねぇ。テメェは既成事実を作りてぇんだろ?オレは別に構わねぇぜ。任せとけ」
肩に顔を埋めさせるようにして金色い後頭に撫でる。柔らくてパサパサしている。
そのまま頬まで手を滑らせる。少しひやりとしていて心地良い。
首元から匂いを嗅ぐ。よく分からないが薄っすらと腹の底に溜まる匂いがした。
コイツはこういう感じなのか、と感動に近い何かを覚える。
おい、だの、待て、だの言いながら慌てた様子で身じろぎする身体がえらくリアルで、
試しに両腕で抱き締めてみると細身の身体がすっぽり収まるのがまた良かった。
こう、凹凸がしっくり合う感じがする。
服を着ていてさえこれなのだから、脱げばさぞかし。
善と見るや即行動、ごろりと体制を入れ替えて、ソファにグレンの身体を組み敷く。
厚手のコートに首までスッポリと覆うプルオーバー、脱がせるのは難儀しそうだと思って顔を見れば、
見開かれた目の青がやたら綺麗だった。
空の青に近い気がするが、全然違う気もする。
海、というものは未だ見たことが無かったが、もしかしたらこんな感じの青なのだろうか。
海の青は塩辛い味がするらしいが、コイツの目はどうなのだろう。
「…目ってのは、舐めても良いもんか?」
味見してみたかったが、それで失明するようなら困る。夢だけに夢見が悪くなる。
そう思って尋ねてみると、強張っていたらしい身体から力が抜ける感触が伝わってきた。
見れば、グレンは困ったような怒ったような呆れたような、微妙な顔をしている。
「まぁ……その、なんだ。その前に、一つ頼みがあるんだが」
「何だよ」
「俺は今、お前に酒を飲まされて酔ってる。そういう事にしておけ」
頼み、と言いつつ、了承以外を許さないような頑なな口調。
「何だそりゃ。一夜の過ちってことにしてぇのかよ?」
「一夜の過ちというか……まぁ、そうなるのか?酔っ払えば同じか」
「オレは飲んでねぇし酔ってもいねぇぞ」
「寝惚けてはいるようだがな」
「寝惚けてて何が悪い。こりゃ夢だ。夢でくらい好き勝手やらせろ」
「夢ではないし、いつでも割と好き勝手してるような気がするが……まぁ、いい。
酔っ払い相手で構わないなら好きにしてみろよ」
そう言ってグレンは少し笑った。
その手がこちらに伸びてきて、米神の付近をさらりと撫でてくる。
ぐらりと来た。
「…おう、好きにする」
見えない力に引き摺られるようにして、グレンの細められた目元に口付けた。
結局、目は舐めても良いのか悪いのか分からないが、
ここは再度尋ねるべきところではない、雰囲気に乗じて攻めるところだ。
顔中に唇で触れながら、服の上からゆっくりと肩から胸元、腹の辺りまで、掌で身体の線を辿る。
肉の薄い、脆そうな造りをしている。
こんなガタイで戦場に出てんじゃねーぞこの野郎。
場違いな苛立ちを殺しつつ、慎重にやろうと心に決める。
辿り着いた腰元から服の下に手を差し入れて、素肌を探る。
思う様貪るとマズそうならせめてとっとと引ん剥こう、と思ったのだが。
ヒクリと小さく震えた身体に更にぐらりと来て、思わず手を止めてしまった。
何故だか分からないが、動揺した。気付けば、胸がバクバクしている。
有り得ないことだが。
生まれてこの方“緊張”というものを実感した覚えが無いので、よく分からないが。
イーグルは自分自身に困惑した。
(童貞でもあるまいし)
そんな心の呟きを見透かしたように、グレンがクスっと小さく笑い声を立てた。
「お前、好き勝手やるとそんななのか」
「ぅううるせぇな、こんなもんじゃねーよ。アレだ…テメェ泣くぞ、オレが本気出したら」
「それは怖いな。いつ本気を出すんだ?」
ちっとも怖がってなさそうな風情でグレンが言う。
イーグルは言葉に詰まった。
いつ。いつと言われても。
「……泣かせたい訳じゃねぇからな。本気は出さねーんだ」
それは、苦し紛れで出た言葉だったが。
中々良いセリフじゃねーか、とイーグルは思った。
これは決まっただろう。
イーグルは内心で一人満足を覚えて、ノリでグレンの頭を撫でてやる。
これで彼が赤面して目を潤ませて抱き縋ってこれば完璧だ、などとイーグルは夢想したが、
現実には、グレンは何やら困惑したような顔をした。
「……あー、イーグル。そういうのは困る」
「あぁ?何だ、そういうのって」
「節操無く据え膳を喰おうとするのは良いが、そういうのは違うだろう」
「だから、そういうのってのは何なんだよ」
「……………分からないなら、良いんだが」
それじゃあこちらもやりにくい、とグレンは溜息を吐いた。
「おい、何の話だ?」
「……まぁ……酔っ払いのやることだしな。
脈絡無いくらいが丁度良いのか」
「………」
1人でブツクサ物を言うグレンというのは大して珍しくも無かったのだが、
こんな状況でまでやられるのは流石に不本意過ぎる。面白くない。
「いい加減にしろよテメェ。言うなら分かるように言え」
「ああ、いや……何というか。酔った弾み、という話だな」
悪いが恨むなよ、と。
そう言って笑ったグレンの顔が、えらくサッパリにこやかで。
持ち前の勘が騒いだにも関わらず、イーグルはつい全ての動作を止めてしまった。
見惚れた、とも言う、かもしれない。
そうしてそのまま、次の瞬間に襲い来た衝撃をまともに喰らってイーグルの意識は途絶えた。
……要するに。
『コイツに酒を飲ませたらヤバい』という認識を広めるのが目的だと。
その目的達成の手段として、噂の流布源となる者たちには根回しをしたが、それだけではやや弱い。
実際に酒を飲んで失態を犯したという既成事実がほしいのだが、
その失態は、侮られるようなものではなく恐れられるようなもので、
かつ取り返しが付くレベルでなくてはならない。
執務室を大破させる程の酒乱ぶりなら、その矛先が人に向かえばどうなるか想像に容易い。恐れられるには十分。
元々大して機能していないイーグルの執務室であれば、内装屋がせいぜい3日働けば何も無かった事にできる。
また、自ら酒を飲んで暴れたとあれば単なる愚者だが、
元々傭兵上がりの野蛮人として恐れられているイーグルに強引に飲まされたというのであれば情状酌量の余地はあるし、
実際イーグルから常々酒を勧められていたという事実があるのも理想的である。
「おかげで酒の席が快適になった」
割と機嫌が良さそうにのたまうグレンに対し、イーグルは苦々しい渋々しい顔をしている。
「まぁ、そんな顔をするなよ。言っただろう、恨むなと」
「オレは了承してねぇ」
「それは悪かった。が、説明する前に勘違いで突っ走ったお前も悪い」
しれっとした顔で、グレンは茶を啜っている。
「だいたい、酔っ払い相手というのはお前も了解しただろう。
結果、不幸な事に俺は酷い酒乱だった、という話だ。それで納得してくれ」
「納得できるか!部屋ごと全部ぶっ飛ばしてくれやがって……
あのソファも、机ん中の酒も、全部ダメになっちまったんだぞ」
ついでに言えば元々帝城内で遠巻きにされていたのが更に遠くなったようだが、これはむしろ好都合なので構わない。
「ソファは同じものを入れさせる。酒は銘柄が分かるなら新しく調達してくるが」
「そういう問題じゃねーんだよ、くそ!」
「なら、どういう問題なんだ?」
そう聞かれると、言葉が詰まる。
言えない。
イーグルには言えない。
プライドの高さが邪魔をする。
本当はソファも酒も、どうでもいい、とまではいかないが、まぁ無くなったものは仕方が無いと思える程度ではある。
油断してうっかり魔法の餌食になったのも、腹は立つが自分が悪い。
しかし自分が、やることもやらずにまんまと既成事実を作られてしまったマヌケであるとは認めたくない。
たとえそれが自分の思う類の意味合いでなかったとしてもだ。
「……詫び入れる気あんなら、やらせろ」
苦し紛れの勢いで言ってみた。
「お前、相手に困ってるのか?」
「アホ、オレが困るか!」
「じゃあ他を当たれ」
「…………」
ぐうの音も出ない。
かと言って、困っている、とも言いたくない。
「……じゃあ酒飲んで酔っ払ったところ見せろ」
「…………」
グレンが、ちょっと珍しいくらい苦い顔をした。
それで多少溜飲が下がったが、ここで引き下がってやる理由はない。
黙って睨みつけてやっていると、グレンが溜息を吐いた。
「……飲んで見せれば、気が済むのか?」
「まぁ、そーいう事にしてやってもいい」
「…………まったく。酒飲みの思考回路は本当に分からん。
自分が飲むならともかく、人に飲ませて何が楽しいんだか」
それはイーグルにも分からなかったので、答えようが無い。
自分が飲ませてみたいのはグレンだけだったし、その理由だってよく分からない。
何となく彼の色んな顔が見てみたいだけだ。
そんな事を思う理由なんて、こちらが聞きたいくらいだった。
が、この感情を掘り下げるのは何だか若干面白くない事になりそうな予感がしたので。
やりたいようにやるだけだ、と結論を出して、イーグルは考えるのを止めた。
「ツベコベ言ってねぇで、飲むのか飲まねぇのか」
「…………分かった。飲もう。ただし帝城外の、人払いした場所でだ。
俺が何かやらかした場合は、その責任も取らせるからな」
「おう、どんだけでも取ってやらぁ」
どういう責任が生じるのかは知らないが。
まぁ、コイツに対する責任だったら取ってやるのもヤブサカではない。
そんなことを思って上機嫌に笑うイーグルに、グレンはまた深く溜息を吐いた。
【 終わり 】
最終更新:2012年11月27日 21:28