第3話 「奪われた槍」 1

348 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 00:02:55
【日本近海・輸送機】
遥々ドイツからやって来た地球連邦軍の輸送機は、やっと日本近海まで到達した。この輸送機には伊豆基地へ搬送予定のTEXシリーズの新型機・TEX-14だけでなく、欧州からの客人の機動兵器も搭載されていた。

レイカ「――空の旅も飽きてきたわ。」

輸送機の中で優雅にティータイムを過ごしていた少女が一人。隣にいる初老の男性は彼女の執事と思われる井出達をしている。
彼女はピンクのドレスに身を包み、亜麻色の髪を指でなじって退屈そうにしている。

エドガー「お嬢様、もうじき日本の領海に入られます。到着は間もなくかと・・・。」
レイカ「そう。――――お母様が昔、暮らしていた国かぁ。」

彼女の母親は日本人らしい。


349 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 00:13:11
>>348
カシャリと扉が開く。
白い髪の毛に外の生暖かい空気を含ませ、室内の涼しげな空気をかき混ぜるように部屋に入ってきたのだ

「ん……あぁ~」
腕を高く上げ、上体をゆっくりと伸ばしている
確かこの男はレイカと同じく護衛として参加していた連邦の兵

男は光に慣らすように瞑っていた目をゆったりとした動きで開いた。
開いて―――――

「……お蝶婦人?」
ぴたりと、その体の動きが止まった


350 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 00:23:50
>>349
レイカ「・・・何ですの?わたくしは、その様な名前ではありませんわ‼」

レイカは男の無礼に少々立腹したようで、ティーカップを置き、立ち上がってみせた。

エドガー「この方は、ハミルトン家の御令嬢のレイカ・ハミルトン様でございます。そして私は執事を務めるエドガー滝沢と申します。以後、お見知りおきを。」

初老の男性は丁寧に彼に対して挨拶をする。一方で、顔をムスっとさせているレイカであった。

レイカ「・・・貴方、お眠のようですけど爺や・・・じゃなかった、エドガーにコーヒーでも淹れさせましょうか?」

それでも、寝ぼけた彼の為に飲み物を勧めようとする辺りが彼女らしくもある。


353 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 00:41:15
>>350
「うおっ!?」
驚いたのか立ち上がったその姿を眼をぱちくりとさせながら見つめる。

ふわふわで思わず潰したくなるほどのフリルのピンクドレス
勢い良く立ち上がったことで、大きく揺れて自己主張するそのカールが効いたツインテール。

記憶の限り――――ここは確か輸送艦、それも機動兵器の。
その格好は余りに異質で分不相応だ、自分もそうだが制服を着ている奴ばかりだったのだから

「レイカ・ハミルトン――――ハミルトン!?それってEUのあのハミルトン……」
一瞬頭痛が再発したかと思った。
資料は読んだ、パイロットが2人居ることもそのファミリーネームも知っていた。
ただその時は一切の警戒もなく、ただ若いパイロットだと思っただけだった―――
同姓じゃなくて本物、流石にこの異常な状態を見てそれを理解しないわけにもいかなかった

「あ、あぁ……ご丁寧に。自己紹介が遅れて申し訳ない」
「私はユーリ・クルス、階級は曹長。あなた方と同じくこの艦の護衛任務を受けている」
ムスッとしたその表情に気づいたのか、しどろもどろになりながら口を開く。
パニックになっているのか、まるで外人に話しかけるように手の平をクルクルと翻し、ジェスチャーも織り交ぜている始末だ

「あ、お言葉に甘えられるんだったら、珈琲よりは紅茶をお願いしたいです、砂糖を多めで」
割と、ふてぶてしいかもしれない


354 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 00:53:58
>>353
レイカ「ユーリ・クルスね・・・悪くない名前だわ。」

完全に上から目線な発言である。隣のエドガーが“申し訳ありません。どうか、暖かい目でお嬢様を見てやって下さい”と済まなさそうな顔をして軽く頭を下げていた。

レイカ「へぇ・・・貴方、紅茶が好きなの。いい趣味をしているわ!わたくし、あの泥水の何がいいのか分からなくて・・・・・・。」
エドガー「――ユーリ曹長、こちらで御座います。どうぞ、お召し上がり下さい。」

レイカが珈琲を罵倒している間にも、執事のエドガーは手早く紅茶を用意していた。勿論、ハミルトン家御用達の最高級品である。

レイカ「ありがたく思いなさい・・・・・・・こんな高級茶、滅多に飲めないんだからねっ!」
エドガー「砂糖はこちらの物をお好きな量だけお使い下さいませ。」

彼は角砂糖の瓶をユーリ側へと勧めた。

レイカ「貴方もわたくしと同じミッションに参加されているという事は、何か特別な能力があるのね?」

ズバり、と本題に入るレイカ。


356 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 01:12:13
>>354
「それはどうも、名前を褒められたのは初めてだよ」
人に褒められるのが珍しいのか、慣れていないようで自然と口元が緩んでいる。
エドガーの申し訳なさそうなその表情が端に入ると、見た目同様に扱いの難しい少女であることを理解したのだろう
小さく頭を縦に揺らした。

「残念、俺は紅茶も好きだけれど珈琲も好きさ。ただ甘くした紅茶の方が喉に優しいってだーけ」
意地悪く口元を吊り上げながら言うと、執事がテーブルに置いたそれを手に取る。
カップの内側に出来たゴールデンリング―――それも、こんなに綺麗なものはそうそうお目にかかれないだろう。
タンニンやフラボン色素によって生み出されるそれは、茶葉の質と淹れ方が上質でなければ見えるものではない
香りを楽しむ前からかなりの高級茶であることだけは理解できた。

「正直、俺の貧相な舌で理解できるのか怪しいレベルなんだけれど……」
まだ紅茶に口はつけず、勧められた通りに角砂糖の瓶へと指を伸ばす
その時レイカのツンデレ発言が耳に飛び込んでくる。
ビックリしたのか、肩を跳ねさせて少し噴出したそして、ほんの少しだけ笑いを抑えながら角砂糖をティーカップへと落としてゆく

「俺はこの任務の後TEXチームに配属される予定。つまり、一応念動能力がある」
角砂糖を2個ほど落とし、スプーンでかき混ぜながら質問を耳に収める
特別な能力――――彼女がここに居るということは、この少女も何か能力持っているのかもしれない
予知能力者も居るときいたし、目の前の少女はそういったものなのかも

紅茶をそっと口元に寄せ、一口流すと今度は逆にこちらから口を開く

「あなたもそういった能力を持っている……のかい?」


357 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 01:27:11
>>356
レイカ「・・・ね、粘土力?なんかぱっとしない能力だわ・・・・・・」
エドガー「お嬢様、念動力で御座います。事前に軍から頂いた資料にありましたでしょう?」
レイカ「あ・・・アレよ、アレね!?し・・・、知っているわよ・・・勿論。ちょ、ちょっとボケてみただけなんだからねっ!!」

レイカは己の勘違いに顔を赤らめ、誤魔化そうとしてみせる。が、余計に滑稽なだけであった。
そして、落ち着きを取り戻し

レイカ「――わたくしはそんな力はないわ。」

あっさりと一言だけ。その瞬間、レイカについて詳しくない人間は動揺するだろう。何故なら、このミッションは特殊な能力を持つ人間が集うTEXチームの入隊試験の様なものも兼ね備えていたからだ。
勿論、非常事態が起きたら・・・の話しであるが。

レイカ「そうね・・・敢えて言うなら、わたくし・・・・・・・・・運がいいわ!」

この運の良さ・・・というのが少々度が過ぎたものであり、それがある種の能力の可能性があるとしてTEXチームから声がかかったのである。

レイカ「こんなわたくしでも、わざわざ入隊するようにお願いに来るものだから、お父様にお願いしてカラヴィンカと共にこの輸送機に乗ったのよ。」


359 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 01:44:53
>>357
すっと引き締まったその視線と室内に響き渡るはっきりとした言葉
地雷を踏んでしまったかもしれないと思ったのか、彼の動きはピタリと止まった。

声のかけ方に迷う、誤るなんて選択をしたら少女の性格上怒るであろう。
たしか彼女はデータではまだ弱い16そこいら――――

「……確かに、運はいいかもしれない」
手にしていた紅茶をそっとソーサーに戻し、口元に滴が付いていないか中指を横にして撫でる
そうした後で、重かった口を開いた

「俺は今22歳、念動力に目覚めたのは20を過ぎてから」
「……他の能力者の例を余り知らないが、俺のこれはかなり遅い目覚めだ」

「可能性は0じゃない、確認が出来ない上での0で無いは言わば1/2だ」
「運がいいならきっと引き寄せられるだろう」
少女に語りかけながら、その口から零した機体の名前を頭の中で繰り返す
確か特機タイプの大型兵器、格納庫にでかでかと置いてあったから覚えている

輸送対象の機体よりもでかいものだから、誰のかと思っていたが―――なるほど、なんとなく納得した


360 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 01:55:57
>>359
レイカ「・・・べ、別に褒めたからって何も出ないわよっ!?」

運の良さを感心され、レイカは照れているのであった。隣のエドガーは微笑ましそうににこやかな顔をしている。

レイカ「ふぅーん、TEXチームはわたくし位の子が多い聞いたから、子供じゃないと念動力に目覚めないと思ってたわ。でも、そうじゃないのでしょう?」
エドガー「念動力にはまだ未知なる領域が多いと伺っております。」

恐らくTEXチームでさえ、全貌は掴めていないだろう。

レイカ「わたくしも念動力・・・備わるといいわ・・・。」

彼女はユーリにとっての地雷を踏んでしまったかもしれない。


361 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 02:05:41
>>360
(フォローしたつもりだったが……ダメだったか)
少し苦い顔をする、特別なものに対する憧れか、はたまたそういった特別を必要とされているのか
それは分からないが慰撫したつもりが逆にそれを燃やす結果になってしまった

「俺も何で目覚めたかは全くわからないんだ、プロジェクトのテストパイロットをしている最中に目覚めたものだから」
「ただ刺激があって悪いことは無いだろ、念動能力者に囲まれるであろうTEXチームに配属されるなら、本当に……」
そこまで言うと置いてあったティーカップを手に取り、残りを一気に喉の奥へと流し込む

空にしたカップを戻し、口元を緩めた
髪の隙間から見える、左目の泣き黒子がそっと持ち上がった気がした


362 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 02:13:13
>>361
レイカ「えぇ、わたくしも良い刺激があれば・・・と思いますわ。」
エドガー「お粗末様でした。」

レイカの会話を妨げないよう、エドガーは小声で言い、カップを速やかに回収し洗浄に向かった。

レイカ「・・・あら、泣き黒子。随分と可愛いチャームポイントですわ。」

今度は彼の身体的特徴に興味が移ったようだ。この好奇心と気まぐれっぷりがレイカの象徴とも言えるだろう。


363 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 02:26:47
>>362
身を乗り出してきたレイカに驚いたのか、はたまた黒子について触れられたからか
体を後方へそらし、右手を左目の黒子へと置いて隠した

「な、何だ……何か悪いのか、これが」
泣き黒子―――― チャームポイントともいえるが、彼にはコンプレックスも含まれている
いくら体を鍛えてもこの部分は変えられない。
まるで自分の女々しさの塊のような黒い点が余り好きではなかった

「は、恥ずかしいから余り見ないでくれ」


364 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 18:48:38
>>363
レイカ「あら・・・、いいじゃない。かっこ良いのに涙もろいだなんて、可愛げがあって!」

レイカはここぞとばかりにユーリを弄る。確かに露系のスマートな見てくれに女々しい泣き黒子はチャーミングすぎる程に目立つだろう。

レイカ「でも、そんなに気になるのでしたら・・・整形手術でも受ければよくて?」

彼女は益々、身を乗り出して黒子の辺りをまじまじと見つめる。
ユーリとは対照的に、レイカは自分の外見の全てに自信があり好きなようである。それは立ち振る舞いや服装に現れているだろう。


365 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/28(火) 20:29:12
>>364
「か、かわいげ……」
逆にテンションが上がったことに面食らったのか、それとも気おされたのか
ほんの少し椅子から滑り落ち、眼を見開いてその心境を表した

「一度俺もそう思ったんだけれど、自分を構成する物質を排除することが正しいと思えなくてさ」
黒子を見つめられて照れているのか、逃げるように軽く身を捻った

(蓮っ葉な少女だと思ったけど、どちらかというと小悪魔だったか……)
少女の躊躇無い真っ直ぐな瞳、胸を張った(背筋的な意味で)その態度。
見ていて清々しいのだけれど、その好奇心で迫られるとその対応に困ってしまう
逃げ道は無いかと横目に周囲を見渡した


371 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/28(火) 23:26:16
>>365
レイカ「???どうしてキョロキョロとなさるのです?何かありまして?」

彼女はユーリの挙動がおかしい事に気付く。まるで見つけたエモノは逃がさないような態度を崩さない。
しかも、今は執事のエドガー滝沢は席を外しているために彼に助力を求めることも出来ない。まさに万事休すである。

連邦軍人「間もなく日本領海に突入します。念のためではありますが、各員はより一層警戒を・・・」

輸送機のパイロットは艦内放送を流した。陸に近づけば、伏兵がいる可能性も増す。故の放送だった。



376 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/29(水) 00:01:02
>>371
「いや―――――」

こんなときに限ってあの執事が居ない……!!
天の助けでもなければ、服をひん剥かれる可能性だって否定できない

少女がそれ以上近づかないようにと、思わず押さえようと手を出した刹那
天の助けは確かにあった、女神の声などではなくただのアナウンスであったが

「―――日本海に着いた、この海は確か小さい」
「出撃して哨戒へ戻らないと……俺は今回、こういうのが主な任務なんだ」

これは本当、ユーリの機体メガリオンは空中戦闘を主軸に組み立てられた兵器
先ほど寝起きと呼ばれていたが、正確には哨戒から帰還したてだったのだ。

「退いてくれるとちょっと嬉しいんだが……」


377 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/06/29(水) 00:08:40
>>376
レイカ「あら・・・そうでしたの!でしたら、わたくしもカラヴィンカで貴方に同行しての慣らし運転でもしましょうかしら?」

また気分屋なお嬢様は新しい事に興味が移ってしまったようだ。これでは、火に油を注ぐようなもの。彼の機転は益々悪化を招く。

レイカ「いっそ、退屈しのぎに模擬戦でもやれないかしら?」

どんどん嫌な方向へ暴走してゆくレイカ。果たして・・・



379 : ◆YZUHAnFXK6:2011/06/29(水) 00:41:54
>>377
「え、えーっと、いやそれは俺よりも上の人に聞いた方が……」

完全にお手上げだといわざるを得ない、それどころか裏目裏目に物事が進んでいる気がする。
嫌な汗が首筋を滑った、ちらりと壁にかかった時計を見てみると
後数分で本来ならコックピット内で待機しなければならないような時間に……

「悪い、これ以上は本当に行かないと」

これ以上出撃を遅らせても得はない、不名誉か笑いを手に入れることは出来るかもしれないが
それは当然のように本位じゃない。
首を軽く横に振りながら、その肩に両手を置き
細心の注意を払いながら退かすように押す

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最終更新:2011年07月01日 12:30
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