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オープニング

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オープニング◆KPD9wz36Q2




親愛なるあなたへ


 さて、あなたは今非常に大きな戸惑いを覚えているだろうし、ことによっては怒りを覚えているかもしれないが、この手紙だけは最後まで落ち着いて読んで欲しい。
 今のあなたにとっては何よりも重要なことが書いているはずだからだ。
 本当ならこんなことは書置きなどで済まさず、直接私自身が皆さんの前に出て説明するべきなのだろうが、それは残念ながらある理由によって出来ない。
 よって止むを得ず、このような形で最初の挨拶をさせてもらうことにした。
 だから、突如平穏な日常から拉致され、薬で眠らされ、気がついたら狭い部屋の中に閉じ込められていて、机の上に置かれたこんな手紙をわけもわからずに読んでいるあなたの戸惑いはよくわかるが、どうか落ち着いてこの手紙を読んで欲しい。
 何しろ、残された時間はもう少ないのだ。今にも、全てが手遅れになってしまうかもしれない。

 あなたが今一番知りたいことは、こんな手紙をあなたに残した私の正体だろう。
 だがそれは教えるわけにはいかない。
 この手紙の中から私の正体を推測しようとしてもおそらくは無駄だろう。私は私に出来る限りの慎重さでもって、この手紙の文面に私の素性がわかるような情報が紛れ込まないように注意した。
 筆跡がわからないように、ワープロソフトでこの手紙を作っているのもそのためだ。
 なんでそこまで慎重になる必要があるのか、とも思うかもしれない。その理由は、端的に言えばただ一つだ。
 私の正体は、今この手紙を読んでいる、あなたかもしれない。
 いや、あなたの正体が私かもしれない、と言ったほうが正しいか。


 私はもともと、とある組織の長だった。
 どのくらいの規模を持った、どんな目的で作られた組織なのか、などと言うことは言えないが、あなたたち全員を密かに拉致し、秘密裏に一箇所に集めて私たちの『実験』に参加させることが可能な程度の能力を有している、とだけ説明しておく。
 しかし勘違いしないで欲しいのだが、私たちは決して犯罪組織などではない。
 もちろん、今現在私たちが行っている行為が犯罪に当たるのは間違い無いが、私たちはもともと犯罪を目的として作られた組織などでは無いし、あなたたちを拉致したのも身代金目的やその他のくだらない目的からなどではない。
 私たちの目的はもっと重大で深刻なことだ。これについても端的に言おう。
 それは世界を救うことだ。


 私はつい最近、とある経緯によって(その経緯を詳しく明かすことは出来ないが)この世界が滅亡の淵に立たされていることに気がついた。
 こんなことをいきなり言われた所でまず信じる人などいないだろうし、私にはあなたを説得するための証拠を見せることも出来ない。
 なので、今から話すことを信じるかどうかはあなたの自由だし、少し長くて、あなたにとっては退屈な話になるかもしれないが、どうか最後まで読んで欲しい。

 誰にでもあることだ。
 確かに机の上に置いたはずのものがいくら探しても見つからず、仕舞ったはずもない引き出しの中から見つかる。
 あの場所のあそこにはコンビニがあるはずだと記憶していたのに、実際に見に行ってみたら明らかに何十年も前から建っているだろう民家があった。
 あの本にこんなシーンがあるはずだと思っていたのに、久しぶりに読み返してみたらそんなシーンはどこにも無かった。
 誰もが「ただの記憶違い」ということにしてそれで済ましてしまう。私だってそう思っていた。
 しかし私は事実を知った。上記のような現象は私たちの記憶が間違っていたことによって起きたわけでは無く、現実世界のほうが変化して起きたのだ。
 あなたは「人間原理」というものを聞いたことは無いだろうか。私も専門家というわけでは無いので詳しく説明できるわけではないが、ざっくばらんに言って、この世界の状態はそれを知覚している人間の存在によって決まるという考え方だ。
 簡単に言えば、基本的にこの世界ではあなたが「ある」と思ったものは存在し、「ひょっとしたら無いかも知れない」と思ったものは存在しなくなる。
 しかし人間の記憶や意志はあやふやなものであり、それと連動している世界というのも実体の無いあやふやな物なのだ。
 確かに机の上に置いたはずの鍵が消えてしまうのは、あなたがその鍵のことを一瞬でも忘れてしまったからだ。それが仕舞ったはずのない引き出しの中から見つかるのは、あなたが「ひょっとしたら、引き出しの中に仕舞ったのかもしれない」と考えたからだ。
 コンビニが消えて民家になってもコンビニの店員や民家の住人、近所の人たちが疑問に思わないのは、その人たちの記憶も書き換えられえてしまったからだ。
 人間の記憶だって所詮は脳内の化学物質によって作られたものなのだから、いとも簡単に変わってしまっても不思議ではあるまい。

 「それはおかしいのでは無いか」とあなたは思うかも知れない。
 「人の意思で世界が変わるのなら、全く違う記憶を持つ人がいたら矛盾が生まれるではないか」と。
 だが、ここまでの私の説明で分かった人も多いはずだ。
 物理学における「人間原理」は、全ての人間を同格の観測者として扱うようだが、この世界の本当の観測者は人類のうちの一握り、わずか39人の男女である。
 そう、今この手紙を読んでいるあなたもその一人であり、そして私が拉致してきたあなた以外の人もみんなそうなのである。
 この世界はあなたたち39人の意思が作り出したものである。
 もしかしたら、戦国時代だとか縄文時代だとか恐竜時代なんてものは無かったのかもしれない。それは全てあなたたちが生み出した架空の歴史、ありえなかった過去で、実はこの世界は十年前に、いや七日前に生まれたばかりなのかもしれない。
 あるいは、過去のどの時代にもあなたたちのような存在がいたのかも知れない。それはもはや、誰にもわからない。
 それに例え過去に徳川家康がいたのが『現時点で』事実だとしても、あなたたちが揃って「徳川家康など居なかった」と信じれば、徳川家康は実在しなかったことになる。

 ともかくもあなたたちは今までなんとか上手くやってきた。
 時々は小さな齟齬もあった。例えば、あなたたちの中の誰かが好きだったある漫画を別の誰かが嫌いになったら、その漫画は何の理由も無く突然打ち切られる、といったような。
 だが弊害はその程度の些細なものに過ぎなかった。あなたたちの意思が完全にお互いに矛盾をきたし始めるまでは。

 神を信じるもの。信じないもの。
 正義を愛するもの。正義を憎むもの。
 死を恐れるもの。恐れないもの。
 隣人を愛するもの。全ての人を憎むもの。

 あなたたちの意志はいつしかバラバラになった。
 それぞれがそれぞれに、全く違う世界を望むようになった。
 その先に発生するもの―――それは、言うまでもなく、世界の破滅である。
 互いに矛盾するあなたたちの意志に引き裂かれた世界は、近い将来に崩壊する。それは一ヶ月後かもしれないし、明日かもしれないし、一秒後かもしれない。

 私がそれを回避する手段を考え、そして一つの結論に到達した。
 世界を決定付ける者が何人もいるからこんなことになった。いっそ、それをたった一人だけにしてしまえばいい。
 だがどうやってその一人を選ぶ?
 私自身がその一人を選び、残る38人を片っ端から殺してしまうというのが一番手っ取り早い。
 しかし私が選んだその一人が、最も良い世界を創造してくれるという保障はどこにも無い。
 私は長い間考え抜き、一つの結論に達した。

 39人の中から最も優れた創造者を選び出すため、39人が1人になるまで殺し合いをすればいい。
 他の38人を蹴落として勝利をつかんだものこそ、もっとも優れた能力を持っていると断言していいはずだ。
 よってあなたたちには最後の1人になるまで殺し合ってもらわなければならない。
 何を馬鹿なことを、と一笑に付す人も多いだろう。なので、乗り気でない人でも強制的に殺し合いに参加していただく方法を考えた。
 今あなたの首に巻かれている首輪がそれだ。その首輪には爆弾が仕込んであり、あなたや他の参加者がある条件を満たしたときに爆発することになっている。

 1つは、この殺し合いが始まってから一日経っても誰も死ななかった場合。この場合はあなたたち全員の首輪を爆破させることになる。
 もちろんそんな事態は避けたいが、誰も殺し合いに乗ろうとしない、という状況を避けるための処置だ。ご理解いただきたい。
 2つ目は、こちらが一定時間ごとにアナウンスする「禁止エリア」に立ち入ったとき。立ち入ってから30秒で首輪を爆破するが、その前に警告音が発するようにしてある。
 そして最後に、殺し合いの会場から逃げようとしたり、この殺し合いを止めようなどという行動を取った場合。この場合はもちろん、ただちに首輪を爆破する。

 「殺し合い」の進め方には何の制限も無い。どんな殺し方をしようが、他人の武器や荷物(机の下に、必要なものが全て入った鞄が置いてあるはずだ)を奪おうが構わない。
 あなたたちがすることは、「最後の1人になるまで殺し合う」だけである。


 本来であれば、私がするべきことはその準備だけでも良かっただろう。
 しかし準備を進めるうちに、私の心にはある疑念が浮かんだ。
 『本当にこの世界を救う意味があるのか?』
 という疑念だ。
 よって私は、ちょっとした『賭け』に出ることにした。
 私もこの殺し合いに参加する。
 もしあなたちがみんな死んで私が優勝するようなことになれば、言うまでも無く、この世界は滅亡する。
 そうなったらそうなったでも構わない。

 もちろん、殺し合いを統括している内情を知っている私がそのまま参加するのはフェアではない。
 なので、私はある特殊な機械で自身の記憶を消してから参加する。自分がこの殺し合いの主催者であるという記憶はもちろん、私がとある組織の長であることも、世界の危機に気付いたことも、全て忘れる。
 この手紙を読んでいる私は、この手紙を自分が書いたことすら思い出せないだろう。
 そう。私は、他ならぬあなたかも知れないのだ。

 さあ、すぐにでも行動を開始してもらおう。
 何しろ残された時間はあまりにも少ないかも知れないのだ。
 全てが手遅れになる前に、あなたたちは殺し合いを終わらせないといけない。






 だが……いや、こんなことをこの手紙に書くのは本当ならば好ましくないだろうが、やはり書かずにはいられない。
 本音を言えば私はこの世界が滅びることはそれほど恐れていない。
 その時が来たら、私は痛みも苦しみも感じずに無に帰るだろうからだ。
 私がそれよりもずっと絶望したのは、私のこの記憶が架空のものかもしれない、あなたたちによって上書きされたものかも知れないという事実だった。
 私には今までの人生の記憶が確かにある。嬉しかったこと、悲しかったこと、怒りに震えたこと、感動の涙を流したこと、全ての記憶が鮮明にある。

 だがそれらは、あなたたちの中の誰かの意思によって上書きされた架空の記憶かも知れないのだ!!
 果たして私は本当に実在しているのか!? あなたたちが心の中で生み出した、架空の存在に過ぎないのではないか!?
 私は今にも気が狂いそうだ。自分の今までの全人生が否定されたのだ。
 私が記憶を消して今回の殺し合いに参加することに決めたのは、本当はこの苦しみから逃れたかったためである。
 そしてあなたたちを集めて殺し合いを開いた本当の理由、それは、世界を救うためなどではなく、あなたたちに復讐するためである。

 だから私は死ぬ前に一度でいいからあなたに会いたい。
 そして、この手であなたを殺したい。
 たとえそれによって私の存在が消えるとしても。
 記憶を消した私がまだこの気持ちを覚えていれば。
 その時までにあなたが生き残っていれば。

 私の存在が、幻では無いのなら。



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