オリロワ２ｎｄ @ ウィキ

風になる

最終更新：2010年09月28日 10:23

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風になる◆xEL5sNpos2

銃を撃った感触が未だに手に残ってやがる。
鉄パイプで思いっきり地面をぶん殴った時のような、じいんと痺れるような手の痛みだ。
百人を超える関東最大のチーム、『応仁組』の総長たるこの俺もさすがに銃をぶっ放したことはなかった。
だけどよ、いざ一発ぶっ放してみればなんのことはねぇ、あっさりと人がおっ死んだ。
言っとくがビビッてたわけじゃねぇからな、この俺があんなくらいでビビるわけがねぇんだからな。

しかし、ここは一体全体どこだってんだ。
昨日まで俺がシメてた街にはこんな寂れたようなところは無かったはずだぞ。
薄気味悪ぃのは、さっきぶっ殺したあの野郎以外に人の気配を感じやしねぇってことだ。
どこの街だか分からねぇが、建物があるのにこんなに人の住んでいないとこなんてあるのかよ。
なんのつもりか知らねぇが、妙なところに拉致ってきやがって。

そりゃ、関東最大のチームの総長である俺の寝首を掻こうなんて連中は大勢いやがることぐらい分かってる。
例えば、今まで潰してきたチームの奴らは間違いなく俺を恨んでいるだろうな。
敵だった奴らならまだしも、最近は身内から裏切ってチームを乗っ取ろうとしている奴がいるなんて噂までありやがる。
そいつらを抑えるためになんとか彩華とかいうイカれた女に金を払ってはいるが、逆にそいつの仕業ということもありえる。
それにしても、どいつが俺を拉致ってここに連れてきたかは知らねぇが、わざわざ銃を渡してくれるとはなんともバカな奴だぜ。

そういや、さっきぶっ殺した野郎は見たことねぇ顔だったな。
チームの下っ端の顔までちゃんと覚えているわけじゃねぇが、少なくともあの顔はチラッとでも見たことがねぇ。
つーことはどっか別のチームの野郎か、もしかすると裏切り者があいつと手を組んでたのかもしれねぇな。
チッ、ミスったな……いけ好かねぇ野郎だったが、すぐにぶっ殺さずにもっと脅して誰に命令されたか吐かせておくんだったぜ。
ま、過ぎちまったことはしょうがねぇか、この俺を舐めやがったあの野郎が悪いんだ。
何が「どうせ君には撃てなかったみたいだ」だ、「君に撃つ度胸なんてない」だ、「君に人を殺す覚悟なんてない」だ。
この俺をさんざんバカにしやがって、自業自得ってやつだな、ざまぁみやがれ。

さて、さっきの奴をぶっ殺してから走ってきた俺だったんだが。
普段はバイクを乗り回してるもんだから、自分の足で走ることなんてめったにねぇ。
おまけにいつも吸ってるタバコのせいで、ちょっと走っただけですぐに息があがりやがる。
喧嘩で相手をブッ飛ばす分には別に困らねぇが、膝に手を突いてゼェゼェ言ってるなんてダサいにも程がある。
だいたい、チンタラ歩くなんて俺の性に合わねぇんだよ。

そんなことを考えていたらよ、俺はちょうどいいもんを見つけたんだ。
誰も住んでねぇ廃墟の壁に、メチャクチャ錆びついた自転車が立てかけてあったんだよ。
錆びてるせいでちょっと動かしたせいでキーキーと五月蝿い音を立てやがる。
それに自転車、つってもマウンテンバイクとかそういうんじゃねぇ、いわゆるママチャリってやつだ。
デザインやらそういうのは気に食わねぇが、それでも歩くよりはマシだろ。

『応仁組』の総長がママチャリだなんて、カッコ悪ぃったらねぇが背に腹は変えられねぇ。
こんなところ絶対に人には見られたくねぇのはやまやまだがよ。
ま、どの道出会った奴らは片っ端からこの銃でぶっ殺してやるんだからな。
この銃の弾がどんだけあるかは知らねぇが、俺を拉致った連中も武器の一つや二つ持ってんだろ。
つまりは、そいつをぶっ殺して武器も奪っちまえば済むってことだ、簡単じゃねぇか。
どこに行きゃいいんだかさっぱり分からねぇが、適当に走ってりゃ誰かに会うだろ。
次に会った奴からは誰から命令されたか聞いて、その後にぶっ殺してやるとするか。

……チッ、サドルも固ぇなチクショウ、なにもかもが気に食わねぇ。
このイライラは次に会う奴にまとめてぶちまけてやるとするか！
ヒャッハー！！　行くぜこの野郎！！

　＊　　　　＊　　　　＊

式町は難しいことが分からない。
手紙とやらを読んでも何が何だかサッパリ理解できなかった。
とにかく、自分が拉致されたということは理解できた彼は、周り全員を敵と認識していた。
敵だったら全員ぶっ殺してしまえばいい、どうせもう一人殺したんだから何人殺しても同じだ。
難しいことが分からないが故に、彼はそうしたシンプルな結論に達する。

自転車にまたがった式町が、思いっきり全体重をペダルにかける。
まるでそれは苛立ちをぶつけるかのように。
自転車はみるみるスピードを上げ、背後に見える廃村はその姿を小さくしていく。
彼はなおもペダルを踏む足に力を込める。
そして、式町臣人は風になる―――

―――かに見えた次の瞬間、凍結した地面でタイヤがスリップして転倒、彼は地面と熱いキスを交わすのだった。

【一日目・黎明／D-1 廃村の外】

【式町臣人】
【状態】興奮状態、体のあちこちに擦り傷
【装備】ニューナンブM60(4/5) 、錆びついた自転車
【所持品】基本支給品
【思考】
１．ヒャッハー！　みんなぶっ殺してやるぜ！
２．ヒャッハー！　痛ぇなチクショウ、このポンコツが！
３．ヒャッハー！　次に会った奴からは誰の差し金なのか問い詰めてやるぜ！
【備考】
※置手紙の内容を理解していません。
※自分を拉致したのは自分や『応仁組』に敵対する者か、裏切り者の仕業と考えています。
※自転車は現地調達したものです。錆びついているため、何らかの機能に支障をきたしているかもしれません。