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場違いな女

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場違いな女◆xEL5sNpos2



茂みをかき分けるようにして一人の女が森から抜け出してきた。
日本人形を思わせるかのような長い黒髪にその着衣。
この殺し合いの舞台からすれば場違いと断じても決して言い過ぎではない、そんな姿。
女はふぅっ、と一つ大きく息をつくと、

「やれやれ、ようやく出ることが出来たわね」

そう呟いて、自分が来た道を振り返る。

不死者・中野町織香。
その肩書きだけでもこの場でいかにイレギュラーな存在であるかが窺い知れる。
先刻も見ず知らずの西洋人から奇襲を仕掛けられ、痛い目に遭ったのだ。
首を掻っ切られて"痛い目"で済んでしまうのだが、そんな事は彼女にとっては慣れっこだった。
だがしかし、彼女は知らない。
いかに不死者といえども、この場では然るべき手順に拠ればその命を散らし得る、ということを。

ひとまず様子見を決め込んだ織香だったが、陰鬱な森の中でジッとしているのも気が進まなかった。
名簿にザッと目を通した後に地図を眺め、ひとまず現在地だけでもしっかり把握しておこう、と動き出したのだ。
森の中にいるというのは分かるが、なにか適当なランドマークのようなものが欲しい。
そう思って歩くこと小一時間、決して歩き回るには向かない格好で少し時間を食ったが、ようやく彼女は森を抜けることが出来た。

ザ、と風が吹きぬけて背後の木々の葉を揺らす音が響き渡る。
その吹きぬける風の中に、織香は僅かに潮の香りを感じ取った。

「ふんふん、こっちが海ってことかな」

潮の香りに導かれるように、織香は再びその足を進め始めた。
足を進めるごとに潮の香りが少しずつ強くなってくる。
最後に小高い丘を登って、そこでようやく彼女はその足を止めた。

「へぇ、海を一望できる墓地か、いいじゃない。
 私も死んだらこんなところで眠ってみたいものねぇ」

織香の視界には、整然と並べられた西洋風の墓石が広がっていた。
小高い丘の上、そのすぐ先は崖になっているらしく鉄の柵が張り巡らされていた。
崖の下は海なのだろう、波が砕ける音が僅かに聞こえてきた。
海の向こう、方角で言うと北に眼を向けると小さくではあったがこれまた西洋風の佇まいの城が目に入る。

「う~ん、ここは日本じゃないのかしらねぇ……」

先程自分に襲いかかってきた男の風貌や、今眼前に広がる光景を見ればそう思いたくなるのも不思議では無い。
だが、名簿の中には西洋人らしい名前をいくつかあるものの、自分を筆頭に日本人と思しき名前がズラリ。
あまりに不自然な状況に、九百年を超える歳月を生きて経験豊富な織香も思わず首を傾げてしまう。
手持ち無沙汰となった織香がおもむろに手近にある墓石を覗き込んでみると、そこにはこう刻まれていた。


Kan Yamamoto
197X~201X


「かん……やまもと……? え、それって確か名簿に名前があったような……」

怪訝そうな表情で織香は名簿に目を走らせ、程無くして"山本 貫"と記されているのを見つけた。
まさか、と思って隣の墓碑を見てみると今度は、


Yoshiharu Yanagi
196X~201X


そう刻まれていた。これも名簿にあった名前だということに織香は気づく。
織香は顔を上げると、今度は墓石の数を数え始めた。
8×5、整然と並べられた墓石の数はきっかり40であった。

「まさか……この墓地はここに名前がある人たちのもの……?」

小さく呟くと、手前の列から順番に墓石に刻まれた名前を見ていく。
ご丁寧に手元の名簿の順番に並んでいるらしく、すぐに織香は目的の墓石を二列目に見つけることが出来た。


Orika Nakanomachi
110X~201X


笑えない冗談だった。
あまり人に知られていないはずの自分の名前が、間違いなく刻まれている。
それ以上に誰も知らぬはずの自分の生年が、狂いも無く刻まれている。
なにより不死のはずの自分の没年が、紛れもなく今年の数字で刻まれている。
どういうことなの、そう呟こうとしたところで織香の思考は中断を余儀なくされた。

「随分とまぁ、場違いなカッコでこんなところにいるじゃないか。なぁ、"中野町 織香"サンよ?」

織香が顔を上げると、二列ほど奥の墓石の上に腰掛け、こちらを向いている男がいた。
背丈は決して大きくはない、中肉中背のどこにでもいるような日本人男性だった。
彼の存在に今まで気付かなかったが、大方墓石の裏で息を潜めていたのだろう、織香はそう考えた。
不意打ちではなくわざわざ声をかけてくるあたり、先程の西洋人と違って戦意は無いのかもしれないが、油断は出来ない。
なぜなら、目の前の男は自分の名前を間違えることなく読んできたのだから。

表向きは薬品会社の社長、その名前がある程度世に知れ渡ることは高度に発達した現代の情報化社会では避けられない。
だが、不老不死を察知されそうなその風貌を隠すため、滅多な事では人前に顔は出してこなかったのだ。
名前は知られていたとしても、顔が一致でもしない限り自分が"中野町 織香"であることは知られていないはずなのだ。
おまけに件の男の顔も声も、織香は知らなかったのだからなおのこと油断ならない。

(ここで主導権を取られるわけにはいかないわ……冷静に冷静に……)

平静を装って、織香は目の前の男に返事をしてみせる。

「……はて? どこかで……お会いしましたか?」
「いいや、会ったことはねぇな。だがよ、俺はお前のことをよ~く知ってるんだな」
「それはそれは」

自分のことをよく知っているという男の物言いに、思わず顔を顰めてしまいそうになる。
だが、表情に出してしまえば自分の動揺を悟られてしまう、そうなっては相手のペースだ、そう思い直して無表情を貫く。
しかし、そんな織香の努力は男の次の言葉で根底からひっくり返されてしまうこととなる。

「だが何が一番場違いってよぉ……墓地に"死なない"人間がいるってことじゃねぇのか?」

男が放った一言に、さすがの織香も戸惑いの表情を浮かべてしまう。
名前や顔は万が一にも漏れてしまう事はあるのかもしれない。
少なくとも、薬品会社のごくごく一部の側近には知られていたことだし、そうでもないと表向きには仕事が成り立たない。
厳重に口止めはしておいたことだが、所詮は人のやること、どうしたってそこに綻びは生じうる。

名前や顔は仕方がない、それがこの世で生きていくために払わねばならぬ代償だったから。
だが、自分が"死なない"身であること、こればかりはどこの誰にも漏らすことのなかったトップシークレットだった。
自分が死なないという事実は、社会の中で生きていく上では枷にこそなっても、益になることはほとんどなかった。
それは自分が不死者という身になった直後に痛感したことではなかったか。
ありとあらゆる責め苦を負わされ、なお死ぬことが出来ずに最後は山の中に捨てられた。
死を知らぬ人間など、傍から見れば妖怪以外の何者でもないということはとうの昔に分かっていたからだ。

そんな重要機密を、この風采のあがらぬ男は知っている。
何故? 何処から? 誰から? いつ? どうやって?
5W1Hのほとんどが織香の脳内でグルグルと駆け巡る。
気づけば、完全に自らの同様を肯定してしまう言葉が彼女の口を突いて出てしまう。

「な……何で……それを知っているの……?」

もしかしたら今まで自分が死なないことを知った人間は同じような顔をしていたのかもしれない。
未知の存在を目の当たりにした時に浮かべる、不安と恐怖が入り混じった表情を。
そこには九百年余りの歳月を生きた女の姿は無く、見た目の年齢相応の怯えた表情を見せる女がいた。

しばしの間、墓地に沈黙が訪れる。
織香は男の出方を窺うが、男は動く素振りさえ一向に見せない。
と、次の瞬間、男は盛大に安堵のため息を漏らすと墓石の上から降りるのだった。

「あぁ……よかった……どうやらお前さんは"シロ"みたいだな」





「おいおい、そんなむくれなさんなって。こっちはこっちで命張ってたんだからよぉ」

弁解する男を尻目に、織香は機嫌を悪くしていた。
こんな男に試された、手玉に取られたのが悔しかったのである。

「……で? どうして貴方は知っていたのかしら? 私の秘密を」

男をキッと見据えながら織香は尋問に入る。
男はやれやれ、といった表情を見せながら懐から一冊のファイルを取り出す。

「こいつは俺に与えられたアイテムのひとつでな……なんでもここに連れて来られた奴らのプロフィールらしい」
「貸しなさい」

言うが早いが、織香はファイルを男から引っ手繰る。

「……『相澤 猛(あいざわ・たける)、24歳男性。高校教師。歴史に詳しい。
 芳賀 唯神楽 夢らが通う学校の社会科教師』……へぇ、こんなものがあったのね」

織香は呟きながらページをぱらぱらとめくる。
そして、真ん中かからやや後ろのページに自分のページを見つけた。
すると出て来る出て来る、自分しか知りえないはずの出自や年齢といった細かな情報が。
ご丁寧に流行の服が苦手という一見どうでもいいような情報さえ。

「こっちだって驚いたんだぜ。
 なんたって、そのファイルと謎の手紙とにらめっこしながら過ごしていたらいきなりあんたが来たんだからな」
「どういうこと?」

男の言葉に返事をしつつも、織香はファイルに目を通すことをやめない。

「あの謎の手紙の差出人が言うには、そいつは何らかの組織の長だ、ってことだ。
 で、そのファイルを見て当てはまりそうな奴らを何人かに絞っていったわけなんだがな」
「なるほどね、確かに私は表向きは会社社長、組織の長という意味では合致しているわね」
「しかもそいつを除けば39人もの人間を拉致して実験とやらを行えるほどの大きな組織ときたもんだ。
 普段はヴェールに包まれた薬品会社の社長だなんて、相応しすぎるシチュエーションじゃねぇか」

そう考えれば、先ほどの男の行動もやむを得ない。
なにせ、自分は首謀者候補なのだから、そいつをどうにかしてやりたいと思うのは必定だろう、そう織香は思う。

「……ただ、一つお前をその手紙の差出人と断定するに当たって一つ大きな疑問があった」
「……何が?」
「お前が"死なない"ってことさ」

疑問を挟んだ織香に対して、間髪いれずに男が言い放つ。

「この手紙の差出人は俺たちに殺し合いをさせよう、ってことは今更言わずもがな、だがな。
 そんな殺し合いの中に一人"死なない"人間が紛れ込んでみろ、それだけで誰が勝ち残るかは一目瞭然だ」
「ま、確かにねぇ」
「そこで俺は考えた、中野町 織香がこの中に紛れている理由をな。で、候補は二つだ」

男は人差し指と中指を立て、話を続ける。

「一つは、お前が手紙の差出人本人だというケースだ。
 この場合、最初から生き残るのはお前だけだということが分かっていてお前はここにいることになる。
 もしそうだとしたら、俺や他の奴らはとんだ出来レースに付き合わされているわけだがよ」

男が憎々しげに吐き捨てた。

「だが、そうなると記憶を消してここに来たという手紙の内容に矛盾が出来ちまう。
 もっとも、この手紙の書かれていることが一言一句全てが真実とは限らんがな」

けどな、その言葉とともに気難しそうな男の顔が僅かに綻んだのを織香は見逃さなかった。

「俺の尋問で見せたお前の表情がな、決して嘘偽りの無いようなものだったからな。
 記憶を消していたのなら、"何で知っている"などという言葉を吐くこともあるまい」
「私を試したのね」
「まぁ、これでさっきのが全て演技だったら今頃俺の命は無かったかもしれんがな。
 見たところ武器は無いようだが、何らかの形で首輪でもドカン、とされたらそれで一巻の終わりだ」
「ずいぶん回りくどい物言いだけど、ようは私への疑いが晴れたってことでいいのね?」

長々とした男の発言に辟易した織香がついつい口を挟む。
軽く嘆息した男が、まぁそんなとこだな、と言ったことで再び沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのは、織香の方だった。

「で、一つ目の理由は分かったし、それが退けられたことも分かったわ、二つ目の理由って何かしら?」
「二つ目はもっと単純だ。つまり、お前も俺と同じ無垢の一参加者、ってことだ」

一つ目で仰々しい文句を並びたてられた後だっただけに、織香は少し拍子抜けしてしまう。
だが、男が次に継いだ言葉でその認識を改めざるを得なくなる。

「つまり、ここにお前を連れてきた奴はお前が"死なない"人間だと分かってきてお前を選んだことになる。
 わざわざこんなファイルを用意するくらいだ、そんな大事なことを見落としはしねぇだろ」
「何が言いたいの?」
「さっきも言ったとおり、ここに"死なない"人間が紛れ込んだ日にゃあ、俺のようなしがない庶民には勝ち目は無ぇ。
 お前と差出人が裏で通じてでもいない限り、そんなことをするメリットはこれっぽっちもない」
「さっきから回りくどいのよ、早く結論を言って御覧なさい」
「せっかちだな、九百年生きてきたんだったらもっと余裕を持ったらどうだ?」

軽口を叩く男を再び睨みつけるが、意に介さないような素振りで男は続けた。

「……つまりだ、ここではお前も"死ぬ"人間なんだよ、どうすればそうなるかは知らねぇがな」
「私が死ぬ、ですって? さっきだって首を掻っ切られたって死ななかったのに?」
「ほぉ、そいつは有益な情報だ、首を掻き切られたくらいでは死なない、と……」

落ち着いた素振りで情報を整理する男に、織香は怒りを募らせる。
が、いざ自分が死ぬかもしれないと思うと寒気が走る。
さっきはたまたま死ぬことが無かったからよかったが、今後はそんな余裕も見せていられない。
危機感を感じた織香は手元のファイルを慌しくめくる。

「……いた、こいつね、"イチカ・キリノ"……へぇ、王女の護衛、ねぇ……」

先刻自分を襲撃した西洋人の写真を見つけ、名前を確認する。
プロフィールには王女の護衛とあり、その王女に密かに思いを寄せているらしいことが窺える。
大方、その王女を救い出すためにその他大勢を全員敵に回すつもりなのだろう、そう考えた。
ファイルによれば清濁併せ呑むタイプのようで、ある意味では一番厄介な相手だと織香は思った。

「こいつがさっきお前の首を掻き切った奴か?」

織香の手元を覗き込むようにして男が呟く。

「だからどうしたのよ」
「お前と違って俺は首を掻き切られたくらいで死んじまう人間だからな。
 危険人物は頭の中に入れておくに越したことはねぇんだ」
「あっそ」

織香は無愛想な返事をしながらファイルに目を通す。

「そういえば……こんな大事なもん、私にホイホイ渡しちゃっていいのかしら?」
「それについては心配要らんな、そのファイルの中身は全部頭に叩き込んだ」
「頭に……って、この短時間で?」

男の発言に驚きながらも、ページをめくり続ける織香はふと一つの違和感に気づく。
全体のちょうど真ん中にあたるページが破り捨てられているのに気づいたからだ。

「ちょっと、このページ、どうしたのよ?」
「そこは俺のページだったとこだ、そうそう自分の情報を他人様に譲り渡すわけにゃいかねぇだろ」

弱みを握らせたくない気持ちも分かるが、と織香は内心毒づく。
もっとも、ページが破られていたからとてなんら情報が無いわけではない。
少なくとも、ここまで名乗りもしない男の名前くらいは前後のページから類推できるわけで。

「"真田 伊澄"と"椎名 詩音"の間だから……"三条 瑠歌"?
 な、なにそれ? て、てっきり麗しい女性の名前だと思ったのに!」

人当たりの悪い目の前の小柄な男が、それに似つかわしくない名を持つのを知って思わず織香の口元が緩む。
ある意味一番知られたくない情報を握られた三条が苦々しげな表情に変わるのを見て、少しばかり織香の溜飲も下がるのだった。



【一日目・黎明/B-4 墓地】

【中野町 織香】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、詳細名簿(三条のページだけ脱落)、不明支給品1~3
【思考】
1.様子見続行。目の前の三条が信頼に値するかもう少し吟味
【備考】
※不死者ですが、首を切り落とすか、全身をこっぱ微塵にすれば死にます。
 死ぬ条件を本人は知りませんが、自分が死ぬ可能性があるということは自覚したようです。


【三条 瑠歌】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
1.中野町と共闘できるか検討、とりあえずなんとしても下の名前で呼ばせないようにする
【備考】
※詳細名簿の内容を全て暗記しました

【共通事項】
イチカ・キリノを危険人物と認識しました。名簿に載っているその他の人物の扱いについては次の書き手の方に任せます。

【詳細名簿】
参加者の情報(ほぼwikiの設定資料に準ずる形)が顔写真つきで掲載されています。


時系列順 23:風になる
16:青春ヨーイドン! 投下順 18:刑事(デカ)の靴
04:遭遇 中野町 織香 :[[]]
三条 瑠歌 :[[]]


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