オリロワ2nd @ ウィキ

幸運のお地蔵様

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

幸運のお地蔵様◆4ajyjN4fcU




廃村にある民家の一室。
所々中身のはみ出たぼろぼろのソファに、我が物顔でふてぶてしくも両足を広げ寝転がる男が一人。
男の名は二見悟。
親の遺産を食い潰しながら日本各地を旅行している、気ままなバックパッカーだ。
彼が読んでいるのは参加者に共通して配られた例の手紙である。
ふむふむと頷きながら楽しげに内容を吟味し、読み終わった手紙をピンと指で弾いた。

「ハッハァ。実に面白い話だ。
 だから、僕はこの話を信じよう。全面的に信じよう。うん、その方がきっと面白い」

そう言ってひとしきり笑うと、続いて二見は自らに支給されたリュックから名簿を取り出した。
そして鼻歌交じりにつらつらと並ぶ40の名に目を通し、ある一点で目を止めた。

「やっぱりいたか、柳刑事!」

柳義春。
彼にとって縁のある相手の名である。
あらゆる事件に巻き込まれる事件体質。
名刑事にして疫病神。
自分の人生に大きな刺激を与えてくれるなくてはならない人物である

「今回も彼が関わっているとは! 彼はまさしく僕にとっての幸運の女神だね! いや、女神というのは些か語弊があるか中年男性なわけだし。
 となると幸運の神様? 王子? 王様? いやいや、彼のイメージじゃぁないな。
 お地蔵様! そうだお地蔵さまだ、彼は私にとっての幸運のお地蔵さまだ、ハッハッハァ!」

恐らくして望まずして巻き込まれた彼に対して、事件に関わっているというのは正確ではないのだが二見にとっては同じことだ。
彼がいるということは何か楽しいことになっている。

「楽しいね、うれしいね。
 この記憶を無くした首謀者が僕、というのも面白そうな話だけど、それはやめておこう。
 主催者は別にいた方が面白い」

ラスボスよりも、どうせなら主人公の方がいい。
この場にいるという首謀者を探す楽しみも増える。
彼にとってはそれだけのこと。

だが、この話を信じたにあたって問題がひとつ。
殺し合わなくては世界は滅びてしまうという事だ。
残念ながら二見は人殺しが楽しいと思えるほど、狂ってはいない。
楽しくないことはできる限りしたくない。
となると殺人を犯さずこの条件をクリアするにはどうするべきか。
そう考えを巡らせながら、二見は扉に手をかけ外に出た。

「見つけたぞテメェ!」

廃墟から外に出た瞬間、いきなり二見は背後より怒声を浴びせられた
突然の事態にも二見は動じず、ゆっくりと呼び声に振り返った。
振り返った先にいたのは、二見と同年代ほどの青年だった。
髪を金と赤の二色に染め上げたオールバック。
明らかに改造したであろう白短ラン
典型的な田舎のヤンキーだな、と二見は思う。もちろん口には出さないが

「やあ、こんばんは。はじめまして、僕は二見悟。君の名は?」

薄い笑顔を張りつけたまま、交友的な態度で二見は呼びかけるが、相手の反応は芳しくない。
二見を睨みつけるように(いや、実際睨みつけているのだろうが)見つめ威圧するような態度で口を開く。

「あん? 何が初めましてだ、ふざけんじゃねぇぞ、コラァ!
 この俺を『応任組』の総長、式町臣人と知っての事だろうな!」

「式町臣人くんね。とりあえずよろしく。
 ところで君は何をそんなに怒っているんだい?」

「何をだぁ!? とぼけんじゃねェ!! こんな訳の分かんねえ所にいきなり拉致りやがって。
 俺を浚ってどういうつもりはしらねぇが、俺にこんなことしてタダで済むと思ってんのか、あぁん!?
 スグに兵隊がやってきてテメェら全員ぶちのめすぞコラァ!」

「? まぁこんなとことになって動揺するのは理解できるけど、それに関して僕に噛みつかれても困るんだけど」

今一つ会話がかみ合っていない。
何か食い違いがあるようだ。

「この俺を浚ってどういうつもりかは知らねぇが、こんなもんまで用意しやがって。
 へっへ。失敗したな間抜け、こいつは今俺の手の中にあるんだぜ」

そう言って式町が得意げにとりだしたのは、黒く重々しい鉄の塊。
有体にいえば拳銃だった。
ミネベア製の38口径・回転式拳銃。ニューナンブM60。
警察官の持っている銃と言われて真っ先に思い浮かぶ、日本の警察に配備されている一般的な拳銃だ。
恐らくこれが、この殺し合いの舞台において彼に支給された武器なのだろうが、やはり文脈がおかしい。

「……………ああ、なるほど!」

その式町の違和感がなんであるか、二見は理解した。
恐らく彼は不良グループの幹部か何かなのだろう。
そして、二見の事を自分を拉致してきた敵対グループの一員かなにかだと思っており。
あの銃はその敵対グループが自分を殺すために用意した代物で、間抜けにも放置されていたモノを幸運にも手に入れた、そう思っているのか。
なるほど、それは強気に出るのも道理だし、怒りをぶつけるのも納得だ。
支給された拳銃が交番を襲えば手に入る様な比較的日本になじみの深い代物だったというのも一因だろう。

「これはいけない」

そう、これはいけない。
悲しいほどに。
つまり、彼は手紙の内容をまるっきり信じておらず、自体を認識していないということだ。

「勘違いがある様だから言っておくよ? 僕は君の敵対グループの人間でもなんでもない。こんななりだが平和的な一般人だ。
 そしてここは殺し合いの場だ。この状況を認識しなければ、さもなくば世界が滅んでしまう」

「あん? なに言ってんだテメェ? 頭湧いてんのか?」

「おや? その様子だと、信じる信ない以前に、ひょっとしてあの手紙自体読んでない可能性もあるのかな?
 だったらなおさらだ。認識を改めてもらわなくては。
 そうだ! その銃で僕を撃ちたまえ。それで君も正しく自体を認識できるだろう、それが君のためだ、そうするといい」

「は? イカれてんのかテメェ!?」

「残念ながら僕はイカれてもいないし狂ってもいない。
 ただ、楽しいと思った選択肢を選んでるだけさ。
 何より君も世界が滅ぶのは嫌だろう? ならば正しく殺し合わなくては」

「うるせぇ!! 訳わかんねぇ事、ガタガタ言ってっとホントに撃つぞ!!」

口元に笑みを張りつけながら意味不明の言葉を並びたてる狂人めいた相手にうすら寒いモノを感じ、式町は思わず二見に銃口を向けた。
銃口を突き付けられながらも二見の微笑は崩れない。

「おや? ひょっとして拳銃を撃つのは初めてかな?
 照準が震えているよ、残念ながらそれじゃあ当たるものも当たらない。仕方ない、こちらから近づいてあげよう」

「近寄るんじゃねえ! 撃つぞ! 聞こえてねェのか! オイ!!」

式町の叫びも無視して、二見は一歩一歩近づいてゆく。
銃口を突き付けながら怯えるように震える式町とは対照的に、銃口を突き付けられた二見はうすら笑いすら浮かべている。
何か異常だった。
立場が逆だった。

「さあ、この距離なら外しようがない。思う存分打つといい」

手を伸ばせば互いに触れられる距離で二見が足を止める。
確かにこの距離なら、どんな素人でも外しようがない。
銃口を目の前に二見は抵抗するでもなく、全てを受け入れるように静かに両腕を広げている。

「舐めやがって………舐めやがって、舐めやがって…………ッ!!」

完全に舐められている。
お前には撃つ度胸がないのだろう、と相手の態度がハッキリとそう言っている。
激昂した式町は引き金に手をかけ、その指を動かそうとして。

「あぁその前に、安全装置は外した方がいい」

その一言に式町の注意が目の前の二見から自身の持つ銃に逸れた。
その隙を逃さず、二見は流れるような動きで広げていた手を伸ばすと、リボルバーのシリンダーを鷲掴みにした。

「古典的な手に引っかかったね。リボルバーに安全装置はないよ
 そして知ってるかい? リボルバーはシリンダーが動かなければ撃てないんだ。
 まあ、わざわざこんなことをしなくても、どうせ君には撃てなかったみたいだけどね」

「ふ、ふざけんなァ! 俺を、この俺を誰だと思ってやがる!!!
 百人を超える関東最大の組織を仕切る式町臣人様だぞ!!
 この俺が、たかが殺しぐらいでビビる分けねぇだろうが!!!」

「そう。なら撃てばいい。
 指先一つで人が殺せる。これはそういう道具だし、ここはそういう場所だ。それを正しく認識するといい」

そう言って二見は銃口を導き自分の額にコツンと当てた。
そしてゆっくりとシリンダーを抑えていた手を離す。

「ほら。離してあげる、撃てるものなら打ってみるといい。
 だけど、君に撃つ度胸なんてない。君に人を殺す覚悟なんてない、そうだろ?」

見下すような、馬鹿にしたような二見の言葉。
それが式町の中の最後の引き金を引いた。

「チクショーーーーッ!!!!!」

式町が追い詰められたように、叫んだ。
対する二見は驚くほど冷めた目で言う。

「―――――――撃て」

乾いた音が響いた。
想像以上に軽い、音だった。

倒れこんだ肢体はピクリともしない。
額から血を流し倒れこむ二見の姿を見下ろしながら、式町は渇いた笑いをこぼした。

「は…………ははは。やった………! やってやったぞ!
 お、お、お前が悪いんだぞ、調子に乗りやがって!」

そう式町は一しきり悪態をつくと、そこに残ったのは亡骸に目もくれず逃げるようにその場を後にした。

【一日目・深夜/D-1 廃村の外】
【式町臣人】
【状態】興奮状態
【装備】ニューナンブM60(4/5)
【所持品】基本支給品
【思考】
1、この場から脱出する
【備考】
※置手紙を信じてない、若しくは読んでない可能性があります。




式町が走り去ってから数分後。
死んでいるはずの二見の体がピクリと動いた。
そして、そのままムクリと身を起こした。
彼はゾンビという訳でも吸血鬼という訳でもない。
もちろん不死者という訳でもない。
ただ単純に死んでいなかったというだけの話である。
しかし、脳天を銃弾で撃ち抜かれて生きている人間などいない。

ならば答えは簡単だ。
彼は確かに撃たれたが、撃たれてなどいなかった。

「ふむ。気絶してしまったか。意外と空砲というのも威力のあるモノだね」

あの時、拳銃から放たれたのは実弾ではなく空砲である。
空砲とはいえそれなりの威力はあったようで、間近で撃たれた額は火薬に焼け、僅かに血が垂れ流れている。
鼓膜が無事なだけ僥倖である。日ごろの行いがよいおかげであろう。

警察の銃の一発目が空砲であるというのは迷信であるのだが、あの拳銃に限ってはその限りではない。
それを二見は知っていた。

とはいえ、空砲は一発目だけなのだから、二発目を撃たれていたらアウトだった。
故に、確実に一発で仕留めたと相手に思わせなくてはならない、だからわざわざ外しようのない距離まで近づいた。
銃で人を殺すには、二発撃つのが基本なのだが、銃を初めて撃つような素人がそれを知ってるようには思えなかったので十分に勝算のある賭けだった。

そして、拳銃以外の選択肢を選ばせるのもうまくはなかった。
腕っ節に自信がないわけじゃないが、明らかに喧嘩慣れした相手に勝てるほど自信があるわけでもない。
だから、拳銃を使わないという選択肢を捨てさせるため、拳銃に意識を集中させるため、わざわざあんな挑発を繰り返した。

「それもこれも柳刑事のおかげだね。まったくもって幸運のお地蔵さまだね。柳刑事は」

あの銃は柳刑事のモノだった。
だから、一発目が空砲であった事を知っていたし、あんな駆け引きもできたというもの。
まったく柳刑事さまさまだ。

何せ殺しあわねば世界が滅びてしまう。
とはいえ人を殺すのも気が引ける。

ならばどうするか。
簡単だ。
他の人間が殺し合えばいい。
まぁ最後の最後は殺すしかないんだが、それはそれ。
うまく行くなら自殺でもしてもらえればベストだ。

彼は人を殺す度胸のない人間だったが問題はきっかけだ。
あの手のタイプは一度たがが外れると、一人殺すのも二人殺すのも一緒だと雪だるま式に崩れるタイプだ。
まあ、実際は一人殺すのと二人殺すのは違うのだけれども。
二見はその最初の一歩を踏み出す背中を押してあげただけだ。

「さて、それじゃあまずは、この手紙を書いた人物を探そうか」

記憶を無くしているらしいが、会って損はないだろう。
というより、ラスボスとして君臨してもらうには記憶を取り戻してもらわなくては困る。
さぁ行こう、この先にはより刺激的で楽しい事が待っている。
そう胸躍らせながら、いつも通り気ままに気さくに二見悟は行動を開始した。

【一日目・深夜/D-1 廃村】
【二見悟】
【状態】額に傷
【装備】なし
【所持品】基本支給品、不明支給品
【思考】
0、自分以外の人間同士で殺し合ってもらう様に動く
1、この場にいるという主催者を探し記憶を取り戻させる。
【備考】
※手紙の内容を無条件に信じることにしました。


04:遭遇 時系列順 06:二つの決意
04:遭遇 投下順 06:二つの決意
式町 臣人 23:風になる
二見 悟 :[[]]


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー