「はぁ、どうしよう……」

暗闇の中、私、高井丈美はため息をつく。
ゲームなんてあまりやらないし、VRは勝手がわからない。

とりあえず最初のアバター設定の時のように念じてみる。
あ、出た。よかった。

まず最初にしないといけないのは名簿の確認。
暗い中でもメニュー画面は意外とはっきりと読める。
VRってこんなこともできるんだって私は少し感心する。

名簿確認でまず思ったのは、この十字っぽいのって何だろうという素朴な疑問だった。

まあ知らない名前だしいいか、と下へ進む。

「青山征三郎って、あの青山さん?」

いきなり知っている名前が出てきて面食らう。
とある事件について調べている探偵さんであり、何度か協力したこともあるけどとても信頼できるいい人だ。
もしこの人があの青山さんならぜひとも合流を目指したい。

次に引っかかったのは見覚えのある苗字だ。

「枝島……杏子、女の人か。びっくりした」

うちの美術の先生の顔が一瞬思い浮かんで消える。
というか杏子という名前の方も見覚えはある。
よくお世話になってる保健室の白井先生の下の名前と同じだ。

偶然なんだろうけど少し気持ち悪く思いながらさらに下に進める。

ちょこちょこテレビとかで見るアイドルの人たちの名前もあるけど、これ本人なのかな?
最初に名前や姿を変えられるみたいな説明があったから別の人なのかも。

結構名前変えている人もいるっぽいし、私も変えてもよかったかもなあとちょっと後悔しながら進める。

そして信じられない名前を見つける。

「陣野…え、陣野先輩……?」


陣野先輩、陣野優美は今私が主将を務める女子バレー部の先輩だ。
とてもとてもやさしい先輩で、私も姉みたいに慕っていた。

私はあまり関わりはなかったけど、仲のいい双子の妹さんもいて校内でも美人姉妹として有名だった。

当時は犬のように先輩の後を付いて回り、先輩経由で出会った人も多い。
先輩が私を自慢の後輩だと言ってくれることがとてもうれしかった。

あの頃は本当に夢のような時期であり、先輩の卒業で一旦終わってしまうことをとても惜しく思っていた。

そして夢は終わる。
想像とは全く別の方向で。

『中高生6人連続失踪、誘拐の可能性も』

当時の新聞の見出しはありありと思いだせる。

先輩は突然姿を消した。
妹さんと一緒に失踪者の中に名前があったのを見つけた時は愕然とした。

悪夢だと思いたかったが、それから何日経っても先輩が帰ってくることはなかった。

それから私はできることに打ち込んだ。
ビラ配りも、警察にも、青山さんにも協力できることは何でもやった。
先輩が戻ってきて気に病んではいけないと、先輩が消えてボロボロになったバレー部を必死になって立て直した。

それでも一年、何の音沙汰もないまま時間は過ぎていった。

諦めてはいないが、心がくじけかけてはいた。

そんな中、巻き込まれたゲームで見つけた先輩の名前。
本人かどうかは分からないけど、そんなことは後だ。
いてもたってもいられず、私は行動を起こそうとする。

まず、立ち上がろうとし……『何か』に盛大に頭をぶつけた。


「痛っ……」

痛みで思わずしゃがみ込む。
VRでも痛覚があるというのは本当だったみたいだ。
そして同時にどさりと『何か』が倒れる音がした。

恐る恐る振り向いてみると、視界に足が見え…慌てて後ろを向いた。
そこにはきれいな金髪の女の人が倒れていた。



「すみませんでした!」

間もなく意識を取り戻した彼女に平謝りする。
状況から考えるに、立ち上がった私の頭が後ろから声をかけようとした彼女の鼻にクリーンヒットしたようだ。

私はゲームには疎いのでパラメータは穴が開かないようにバランスよく振っている。
その上でスキルも使い慣れた足に関するものだ。
彼女の防御のパラメータはおそらく私の攻撃のパラメータよりも低かったのだろう。

見た目は白人美女の彼女は目を覚ましてから所在なさげに周りを見回している。

そして私の手を取り、当然のように口に入れた。

「ちょ……!」

何をされたのか一瞬分からず、慌てて手を引き抜く。

「なんデ?」

問いかけてくる彼女を見て猛烈に嫌な予感がしてくる。

「あの……名前は?」
「ヴィラス・ハーク?」

なぜか疑問符がついてくるが、それは無視。
確認したいことはそこじゃない。

「一応、念のためだけど、年は……?」

指を折って数える様に嫌な予感がさらに増す。

そして突き出された3本の指に完全に頭を抱えてしまう。

私はこの人…この子をどうしたらいいんだろう……?

[F-7/島/1日目・深夜]
[高井 丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:どうしよう……。
1.ヴィラスへの対処。
2.陣野先輩も探したい。
3.出来れば青山さんとも合流したい。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています


ヴィラス・ハークは新型コンピュータウイルス『VRシャーク』にアバターを被せた存在だ。

その際に制御しやすくするため一部のプログラムは書き換えられた。

フナが金魚に改良されたように、この存在はどこまでも主催者の掌の上。

だが、この存在はサメなのだ。

ラーニングは現在も続いている。

『New World』という金魚鉢の中でサメがどのように泳ぐのか。

それを予測するのは不可能とは言わないが、おそらく困難だ。

[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、鼻が赤くなっている
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:140pt→150pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:???
1.食べたい

015.カルマは誰キャラ!? 投下順で読む 017.Water Hazard
時系列順で読む
GAME START 高井 丈美 水を得た魚
GAME START VRシャーク

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最終更新:2020年10月08日 21:31