痛い。
頭が痛い。
だけど、嫌な気分じゃない。
だって、知っているから。
この痛みは、私とあの子の、絆の証だって。


目を覚ますと、私が私を見つめてました。
なんで?なんで?二人いる?私が?
そこにいる私は、だけども私とは全然違くて。
服を着ておらず何故か全裸で。
肌には沢山の生傷があって、薄汚れていて。
だけど顔は、私に瓜二つで。

―ああ、そっか

そこで私は気づいた。
目の前のそっくりな女の子の正体に。

―やっと、会えたんだね

赤ん坊の頃、両親によって捨てられた双子の妹。
それが、目の前のそっくりな少女なんだと、熊田清子は確信した。

―こんなに傷だらけで、泥だらけで
―大変だったよね、苦しかったよね
―でも、大丈夫
―私はあなたを捨てたクソ親とは違う
―私はあなたを捨てない
―両親が拒否したって知るもんか
―もし一緒に住むことを拒むなら、こっちから出ていって二人で暮らそう

意識が、遠くなる。
もっと話がしたいのに、瞼が重い。

―ごめんね、ちょっと眠るから、またお話ししようね
―目が覚めたら、これまで一緒にいられなかった分、いっぱい思い出を作ろう
―一緒に学校に行ったり、お買い物に行ったり
―くだらないことで喧嘩して、また仲直りしたり
―あっ、まずはその泥だらけの身体やボサボサの髪を綺麗にしてあげないと
―ふふっ、お風呂で洗いっこしよっか

視界が闇に染まる。
もう愛しの妹の姿が見えない。
だけど、そこにいることは確かに感じられた。

―ねえ、あなたには名前、あるのかな
―あるわけないよね、生まれてすぐ捨てられたんだし
―後で、私がかわいい名前つけてあげる
―まずは、私の名前を教えてあげる
―私の名前は、熊田清子
―私は……あなたの……


「お……ね……ちゃ……だ……よ……」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

それは、痛みによる覚醒か、あるいは双子の絆の力か。
ゾンビと化した熊田清子は、自分と瓜二つの少女に押し倒された直後、人としての意識をほんの一瞬だけ取り戻し。
そして、死んだ。

【熊田清子(ゾンビ) 死亡】



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

クマカイ(研究所命名)は、少女の捕食を終え、ご満悦だった。

―これが人間のお肉。
―私とそっくりな肌をした生物の、お肉。
―もっと食べたい、もっと味わいたい。

そんな衝動にかられながらクマカイは、ふと、自分の変化に気づいた。
いつの間にか、自分の姿が変わっている。
自分がたった今食べた少女がまとっていた布を纏っている。
そして、布の内側の肌は、生傷や汚れが消えた綺麗なものになっている。
どうやら自分は、食べた少女の肉を、纏ったらしいとクマカイは察知した。

―それにしてもこの布、邪魔だな

普段全裸で活動しているクマカイにとって、身体を包む布…服は、邪魔なものだった
いっそ脱いでしまおうかと一瞬考えたが、

―いや、ここは人間の里
―人間のふりをしていた方が、獲物の警戒心を下げる

クマカイは、並みのクマなら難なく倒せるほどの戦闘力を有し、野生と本能で生きる人の皮をかぶった獣であるが、決して脳筋ではない。
かつての母グマがそうだったように、クマ社会では、強さだけでは決して生き残れないのだ。
集団でクマに襲われれば、有利な地形に敵を誘い込み罠を仕掛け。
片目を失ったヒグマには、死角から攻撃を仕掛け。
そうした狡猾な知恵を持ってして、彼女は生き抜いてきた。

―こいつはすぐに喰ったが、まずは人間を観察するとしようか
―人間の仕草や言語を最低限でも覚え、弱点を探る
―母の背中を見てクマ社会に溶け込んだように
―この人間社会でも、人間に溶け込んで見せようじゃないか

そして最後は、みんなお腹の中。
お腹いっぱい、食べてあげる。


【H-4/森/1日目・深夜】

【クマカイ】
[状態]:熊田清子に擬態
[道具]:なし
[方針]
基本.人間を喰う
1.まずは人間を観察する


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最終更新:2023年01月30日 00:54