私はいつも教室でひとりぼっちだった。
誰も声をかけてはくれないし、授業中の作業でも、仕方なく顔を合わせてくれるだけで、それ以上に親しくしてくれようとは思ってくれない。友達なんて、私には到底できない。
中学校って、こんなに寂しいところだなんて思ってなかった。
誰も声をかけてはくれないし、授業中の作業でも、仕方なく顔を合わせてくれるだけで、それ以上に親しくしてくれようとは思ってくれない。友達なんて、私には到底できない。
中学校って、こんなに寂しいところだなんて思ってなかった。
ある日、私は授業中に消しゴムを落とした。
私は困った。落としたところは席を立たないと届かない。もし拾いにいったらクラスで目立ってしまうし、先生にも怒られるだろう、と思った。
結局授業中は持ちこたえた。
挨拶が終わった後、消しゴムを拾いにいこうと思ったら、隣の席の男子が先に拾って渡してくれた。
「いしかわすずこ……、お前だよな?」
「……、う、うん……」
そう言って私は差し出す手から消しゴムを受け取った。
その後だった。
「まだ消しゴムに名前書いてんのな」
え、と思った。もしかして、私はいけないことをしてるのかな、と思った。その男子は、さらに追い討ちをかけるように、
「鈴子って……、古くね? 昭和かよ」
と言った。名前を貶された。私は、自分の名前が嫌いになった。
私は困った。落としたところは席を立たないと届かない。もし拾いにいったらクラスで目立ってしまうし、先生にも怒られるだろう、と思った。
結局授業中は持ちこたえた。
挨拶が終わった後、消しゴムを拾いにいこうと思ったら、隣の席の男子が先に拾って渡してくれた。
「いしかわすずこ……、お前だよな?」
「……、う、うん……」
そう言って私は差し出す手から消しゴムを受け取った。
その後だった。
「まだ消しゴムに名前書いてんのな」
え、と思った。もしかして、私はいけないことをしてるのかな、と思った。その男子は、さらに追い討ちをかけるように、
「鈴子って……、古くね? 昭和かよ」
と言った。名前を貶された。私は、自分の名前が嫌いになった。
今考えると、私は他の人の言ったことに影響を受けやすいんだろう。だから、こんなに不安定になってしまった。
私はそれからも、「まだその筆箱使ってんの? また小学生気分?」とか、「生徒手帳持ってるんですかー、偉いねすずこちゃん!」とか、「鉛筆はダサいだろ……」とか。初めの男子だけじゃない。 クラスのみんなが嫌みなことを言ってきた。ますます自分に自信がなくなった。
そんな中、私はあかりに出会った。
二回目の席替え、ちょうど初めての中間テストが終わった辺りだった。いつも嫌みなことを言ってくる人が近くにいないと良いな、と思って引いたくじ。結果、私は、和田あかり、という女の子の隣の席になった。しかも席は左端。別のとなりはない。
「鈴子ちゃんだっけ? よろしくね!」
この一言だけで、私は救われた。灯りに触れた。
「鈴子ちゃんだっけ? よろしくね!」
この一言だけで、私は救われた。灯りに触れた。
ある日私は、あかりに、持ち物に名前を書くのはおかしいのか聞いてみた。
「え? そんなことないよー、偉いなー、私なんてよく書くの忘れて、落としても返ってこないんだよ……」
偉い。
──生徒手帳持ってるんですかー、偉いねすずこちゃん!
あの時の声が脳内でこだました。
「え、偉いって……」
「ん? すごいって思ったんだよ? 鈴子ちゃんマメだなー……、って」
純粋に褒められた。すごく嬉しかった。
「え? そんなことないよー、偉いなー、私なんてよく書くの忘れて、落としても返ってこないんだよ……」
偉い。
──生徒手帳持ってるんですかー、偉いねすずこちゃん!
あの時の声が脳内でこだました。
「え、偉いって……」
「ん? すごいって思ったんだよ? 鈴子ちゃんマメだなー……、って」
純粋に褒められた。すごく嬉しかった。
私は昔から話すのが上手じゃなかった。だから、お母さんやお父さんに褒めてもらえることもなかったし、学校で言われた、ひどいことを相談する勇気も出なかった。
私はことあるごとに、今まで貶されてきたことについてあかりに聞いてみた。
ある時は、私が鉛筆を使っていることについて。
「え? 鉛筆? いいよね……! 味があっていいとか、この前もテレビでやってたよ?」
ある時は、私が生徒手帳を持ち歩いていることについて。
「生徒手帳? あー、あれは持ってない方がおかしいよ……、立派な忘れ物だし、バレたらおかわり禁止だから、そっちの方がダメだよ」
ある時は、私が未だに小学校の時の筆箱を使っていることについて。
「筆箱か……、私も実はとっといてるんだよね、家で勉強するときはそっち使ってるよ。暇なときパカパカするとちょっと楽しいんだよね」
あかりは私のことをなんでも肯定してくれた。
ある時は、私が鉛筆を使っていることについて。
「え? 鉛筆? いいよね……! 味があっていいとか、この前もテレビでやってたよ?」
ある時は、私が生徒手帳を持ち歩いていることについて。
「生徒手帳? あー、あれは持ってない方がおかしいよ……、立派な忘れ物だし、バレたらおかわり禁止だから、そっちの方がダメだよ」
ある時は、私が未だに小学校の時の筆箱を使っていることについて。
「筆箱か……、私も実はとっといてるんだよね、家で勉強するときはそっち使ってるよ。暇なときパカパカするとちょっと楽しいんだよね」
あかりは私のことをなんでも肯定してくれた。
ある帰り道、私はあかりに自分の名前について聞いてみた。
「え? 鈴子って名前、すごく女の子らしくて、良いと思うよ?」
「……でも、古くさい名前だって……、クラスの子が言ってて……。それで、ちょっと自分の名前が嫌い」
「うーん、古くさいか……。確かにそうかも」
あかりはあごに人差し指を当てて言った。
「やっぱり、そうなんだ……」
「あ、ごめん! 別にそういうつもりじゃなかったんだけど……。じゃあさ! 代わりのあだ名みたいなの考えてみない? 」
「あだ名……、どんなの?」
「そうだなー、鈴子の『子』を外してすず! とか?」
「うーん、まだ面影があってやだな……」
「注文が多いなぁ……」
あかりは呆れたように言った。続けて言う。
「じゃあ、鈴から連想してりん、りんちゃん! とか?」
「りんちゃん……! 良い名前……」
「じゃあ、決まりかな? これからもよろしくね、りんちゃん!」
「うん、……」
……このころから、私はあかりのことが大好きになっていた。
「え? 鈴子って名前、すごく女の子らしくて、良いと思うよ?」
「……でも、古くさい名前だって……、クラスの子が言ってて……。それで、ちょっと自分の名前が嫌い」
「うーん、古くさいか……。確かにそうかも」
あかりはあごに人差し指を当てて言った。
「やっぱり、そうなんだ……」
「あ、ごめん! 別にそういうつもりじゃなかったんだけど……。じゃあさ! 代わりのあだ名みたいなの考えてみない? 」
「あだ名……、どんなの?」
「そうだなー、鈴子の『子』を外してすず! とか?」
「うーん、まだ面影があってやだな……」
「注文が多いなぁ……」
あかりは呆れたように言った。続けて言う。
「じゃあ、鈴から連想してりん、りんちゃん! とか?」
「りんちゃん……! 良い名前……」
「じゃあ、決まりかな? これからもよろしくね、りんちゃん!」
「うん、……」
……このころから、私はあかりのことが大好きになっていた。
夏、あかりと海に行った。あかりの水着はカッコよくて、可愛かった。すごく楽しくって、すごくどぎまぎした。
秋、あかりの家でゲームをした。好きなゲームの曲を教えてくれた。曲名には、『あかり』と入っていた。私もその曲が好きになった。
冬、あかりとプレゼントを交換した。クリスマスには、手袋やマフラー、バレンタインには、もちろん友チョコ。
秋、あかりの家でゲームをした。好きなゲームの曲を教えてくれた。曲名には、『あかり』と入っていた。私もその曲が好きになった。
冬、あかりとプレゼントを交換した。クリスマスには、手袋やマフラー、バレンタインには、もちろん友チョコ。
そんな日々がいつまでも続くと思っていた。
「都会の高校に、行こうと思うんだ」
そうあかりに言われたのは、中学三年生の夏のこと。
一人で、アパートを借りて、バイトをしながら通うんだ……! キラキラした目をして言っていた。
そうあかりに言われたのは、中学三年生の夏のこと。
一人で、アパートを借りて、バイトをしながら通うんだ……! キラキラした目をして言っていた。
なんで……? どうして……? ずっと一緒だと思ってたのに……?
そんな言葉が頭をよぎったけど、声に出すことはできなかった。
元々そんな勇気はないし、あったとしても、あかりの決めたことに口出しなんてできない。
元々そんな勇気はないし、あったとしても、あかりの決めたことに口出しなんてできない。
後から調べたところ、あかりの行きたい高校はなかなかの進学校らしい。当然のことながら、あかりは私と遊んではくれなくなった。
そうこういってる間に、当然私も進学先を考えることになった。私には、あかりと同じようにする勇気はなかった。なかったんだ……。私は地元の高校を受けることにした。無難なものしか、選べなかった。
そうこういってる間に、当然私も進学先を考えることになった。私には、あかりと同じようにする勇気はなかった。なかったんだ……。私は地元の高校を受けることにした。無難なものしか、選べなかった。
3月の初め。 あかりは学校に来なくなった。
私の「どうして……!?」が溢れだした。
先生に、今まで見せたことのない必死な顔で尋ねた。先生は私に驚きながら、少し顔を暗くして、あかりの母親が亡くなったこと、そしてそのショックで第一志望校にも落ちてしまったことを教えてくれた。……目の前が真っ暗になった。
私の「どうして……!?」が溢れだした。
先生に、今まで見せたことのない必死な顔で尋ねた。先生は私に驚きながら、少し顔を暗くして、あかりの母親が亡くなったこと、そしてそのショックで第一志望校にも落ちてしまったことを教えてくれた。……目の前が真っ暗になった。
一週間ほど経って、ようやくあかりは学校に顔を見せた。
教室に入ってきて、私を見るなりこちらに駆けてきて、
「りんちゃん……、ごめんね、私、第一志望校落ちちゃって……」
と言ったのに私は被せて言った。
「知ってる……、お母さんが亡くなったことも、全部先生から聞いた」
「……そうだったんだ」
「どうしてすぐに教えてくれなかったの!? 私、あかりに救われた、だからいつかって思ってて、でも教えてもくれなくて……」
「……りんちゃんは優しいね」
「ちがう、あかりが優しかったから、私は……、あかりがいてくれたから……」
「りんちゃん……」
私はいつの間にか泣き崩れていた。始業前だというのに。クラスの目線を一身に受けていた。
教室に入ってきて、私を見るなりこちらに駆けてきて、
「りんちゃん……、ごめんね、私、第一志望校落ちちゃって……」
と言ったのに私は被せて言った。
「知ってる……、お母さんが亡くなったことも、全部先生から聞いた」
「……そうだったんだ」
「どうしてすぐに教えてくれなかったの!? 私、あかりに救われた、だからいつかって思ってて、でも教えてもくれなくて……」
「……りんちゃんは優しいね」
「ちがう、あかりが優しかったから、私は……、あかりがいてくれたから……」
「りんちゃん……」
私はいつの間にか泣き崩れていた。始業前だというのに。クラスの目線を一身に受けていた。
「りんちゃんは、きっと私がいなくても大丈夫だよ」
卒業式間近の帰り道、あかりはそう言った。
「……それって、どういうこと、……?」
「りんちゃんは、優しいから、きっと別々の高校でも大丈夫だよ」
「そんなことない、私はあかりだったから……、あかりが心配だったから……、」
「りんちゃん……?」
「私はあかりじゃないとダメ。あかりが好き」
「りんちゃん……!?」
言ってしまった。溢れ出た。……すぐ後、少し我に返って、
「ごめんあかり……。私、ダメだよね、……気にしなくて良いよ──」
と誤魔化すように言ったけど、
「……そんなことないよ、私もりんちゃんが大好き、ちょっとビックリしただけ」
と言ってくれた。
「……大好き」
きっとあかりのその「好き」は、私のと違う。……けど、もう、このままでいいや。どこまでも、私に自主性はない。
卒業式間近の帰り道、あかりはそう言った。
「……それって、どういうこと、……?」
「りんちゃんは、優しいから、きっと別々の高校でも大丈夫だよ」
「そんなことない、私はあかりだったから……、あかりが心配だったから……、」
「りんちゃん……?」
「私はあかりじゃないとダメ。あかりが好き」
「りんちゃん……!?」
言ってしまった。溢れ出た。……すぐ後、少し我に返って、
「ごめんあかり……。私、ダメだよね、……気にしなくて良いよ──」
と誤魔化すように言ったけど、
「……そんなことないよ、私もりんちゃんが大好き、ちょっとビックリしただけ」
と言ってくれた。
「……大好き」
きっとあかりのその「好き」は、私のと違う。……けど、もう、このままでいいや。どこまでも、私に自主性はない。
「卒業前最後に、どこか行こうよ」
珍しく、私からあかりを誘ったけれど、今はそんな気分になれないと言われた。当然だ。あかりは母親を亡くしたんだ。友達たった一人と会えなくなるだけのわたしとは違う。
珍しく、私からあかりを誘ったけれど、今はそんな気分になれないと言われた。当然だ。あかりは母親を亡くしたんだ。友達たった一人と会えなくなるだけのわたしとは違う。
そして、うやむやなまま、私たちは中学校を卒業した。
また、この町で会ってほしい。
また、いっしょに遊びたい。
また、りんちゃんと呼んでほしい。
そう思いながら、この寂しい高校に私は通う。
また、いっしょに遊びたい。
また、りんちゃんと呼んでほしい。
そう思いながら、この寂しい高校に私は通う。