「はぁ……」
曇り空。空気は湿っている。るんるん気分な人がいたらそいつは変わり者だ。そんな帰り道。
幼馴染みとケンカした。ケンカした? ケンカしたのかもしれない。思いっきり「妃緒とはもう喋りたくないー」って言われた。普通にショックだ。
いいや、私が悪いのは分かってる。ついつい強めに反論してしまうと言うか、張り合ってしまうと言うか。そういうことは昔からよくあった。……いいや、よくって言うほどはない。多分、結美に対してだけだ。
保育園の時からなぜか一緒にいて、かれこれ二桁年の付き合いに突入した。思えばあの頃の結美は可愛かった。……はぁ。
幼馴染みだからなのだろうか。何を言おうが、何をしようが、絶対に縁は切れないと思い込んでいたのかもしれない。そんなわけない。今の歳では流石にないだろうが、大人になれば家族や兄弟にすら縁を切られることだってあるだろう。そういった話は幾度も創作で読んだし聞いたし、ニュースでも見た。
……私が悪いのか。いや、それは悔しい。大体、最近の結美はちっとも可愛くない。……少し前までは可愛かったってことになるな、はぁ……。
そんなことは良い。結美は最近なんか感じが悪い。悪の秘密結社の女幹部辺りにでも影響を受けたのだろうか? 嫌みっぽいというのか、すぐに揚げ足をとるというのか。とにかく、一緒にいて楽しくない。
楽しくないなら、縁を切ればそこまでだ。……それはもやっとする。要するに、結美を嫌いにはなれないってことだ。
しかし、どうやって仲直りすれば良いんだろう。ケンカなんてしたことない。考えてみれば、ケンカなんてするほどの間柄は結美以外にはなかった。経験しているはずがない。
ポツ……──
「雨だ……」
聞いてない。いや、ただの天気のチェック漏れではあるんだけど。そういえば雨の降る日はいつも結美が知らせてきたな……、それで傘を持ってなかったら一緒に帰って……。……。
「クシュンっ」
咳をしても1人。……このままだと風邪をひいてしまう。まだ家まではもう少しある。どこか雨宿り出来る場所はないか、……?
「こんなところに、喫茶店なんてあったかな」
純喫茶ラオホ、と看板に書いてある。本当に初めて見た。いや、多分帰り道は周りのことを気にしている余裕がないから気づけてかったんだとは思うんだけど、約一名のせいで。
そんなことを思いながら、軒先へ駆け込む。
スカートのポケットからハンカチを取り出して、濡れた肌や鞄を拭く。そうしている間にも、雨音は激しくなっていく。
「どうしようかな……」
このままだと帰れなくなりそうだと思ったその時、
「雨宿りかな?」
がちゃりと喫茶店の扉が開いて、女性の声が背中に届いた。振り返ると、若そうなエプロン姿の女性だった。
「風邪引くよ、うち、入ったら? サービスするよ」
その言葉にのせられ、私は店内に吸い込まれていった。
曇り空。空気は湿っている。るんるん気分な人がいたらそいつは変わり者だ。そんな帰り道。
幼馴染みとケンカした。ケンカした? ケンカしたのかもしれない。思いっきり「妃緒とはもう喋りたくないー」って言われた。普通にショックだ。
いいや、私が悪いのは分かってる。ついつい強めに反論してしまうと言うか、張り合ってしまうと言うか。そういうことは昔からよくあった。……いいや、よくって言うほどはない。多分、結美に対してだけだ。
保育園の時からなぜか一緒にいて、かれこれ二桁年の付き合いに突入した。思えばあの頃の結美は可愛かった。……はぁ。
幼馴染みだからなのだろうか。何を言おうが、何をしようが、絶対に縁は切れないと思い込んでいたのかもしれない。そんなわけない。今の歳では流石にないだろうが、大人になれば家族や兄弟にすら縁を切られることだってあるだろう。そういった話は幾度も創作で読んだし聞いたし、ニュースでも見た。
……私が悪いのか。いや、それは悔しい。大体、最近の結美はちっとも可愛くない。……少し前までは可愛かったってことになるな、はぁ……。
そんなことは良い。結美は最近なんか感じが悪い。悪の秘密結社の女幹部辺りにでも影響を受けたのだろうか? 嫌みっぽいというのか、すぐに揚げ足をとるというのか。とにかく、一緒にいて楽しくない。
楽しくないなら、縁を切ればそこまでだ。……それはもやっとする。要するに、結美を嫌いにはなれないってことだ。
しかし、どうやって仲直りすれば良いんだろう。ケンカなんてしたことない。考えてみれば、ケンカなんてするほどの間柄は結美以外にはなかった。経験しているはずがない。
ポツ……──
「雨だ……」
聞いてない。いや、ただの天気のチェック漏れではあるんだけど。そういえば雨の降る日はいつも結美が知らせてきたな……、それで傘を持ってなかったら一緒に帰って……。……。
「クシュンっ」
咳をしても1人。……このままだと風邪をひいてしまう。まだ家まではもう少しある。どこか雨宿り出来る場所はないか、……?
「こんなところに、喫茶店なんてあったかな」
純喫茶ラオホ、と看板に書いてある。本当に初めて見た。いや、多分帰り道は周りのことを気にしている余裕がないから気づけてかったんだとは思うんだけど、約一名のせいで。
そんなことを思いながら、軒先へ駆け込む。
スカートのポケットからハンカチを取り出して、濡れた肌や鞄を拭く。そうしている間にも、雨音は激しくなっていく。
「どうしようかな……」
このままだと帰れなくなりそうだと思ったその時、
「雨宿りかな?」
がちゃりと喫茶店の扉が開いて、女性の声が背中に届いた。振り返ると、若そうなエプロン姿の女性だった。
「風邪引くよ、うち、入ったら? サービスするよ」
その言葉にのせられ、私は店内に吸い込まれていった。
「それにしても、可愛いお客さんだね」
「可愛くないです、これでも中学生なので」
「可愛いじゃないか」
「むぅ……」
店内には私と店員さんだけ。暇だったんだろうか、コーヒーを淹れながら私にやたら絡んでくる。
「はい、おまちどうさん」
「……真っ白じゃないですか」
「砂糖とミルクマシマシ」
「子供じゃないんですけど」
「あはは~」
はぐらかされた。こう、弄ばれる感じ……そうか、結美みたいなのか。……。
「で、なにか悩んでるわけ?」
「悩み? えーと……」
……は?
「……なんで悩んでるって分かったんですか? 私まだ何も……」
「見たら分かるよ、顔。これは友達関係で悩んでる顔だな」
「なんか学んでました?」
「ちょっと大学でね~」
絶対がっつりやってたに違いない。
「で、なんだ、ケンカでもした?」
「……はい、幼馴染みの女の子と」
「ふーん、初めて?」
「初めてですけど……最近ちょっとイラッとするというか」
「でも縁は切らないんだ?」
「……」
「ふーん、アツアツだね~」
「別にそういうんじゃ……」
完全に遊ばれてる。でも、そこに悪意は感じない。……思えば、結美も同じだ。
「でも、良いよね、そういう友達。いるだけ良いと思うよ、大切にしな。私なんて友達つくるのめっちゃ苦手だったもの」
「……え?」
こんなに喋り上手なのに、そんなことあるのかと疑ってしまう。
「ほんとほんと、中学の頃、ちょっと体弱くてさー、復帰したは良いけど、しばらく保健室登校しかする勇気なくて。友達の作り方とか忘れちゃったよね」
「はあ……」
「だから大丈夫! まだなんとかなるって、私がなんとかできたんだし」
「……ありがとうございます」
「いいっていいって、そんなことより、晴れたよ?」
「……!」
窓を見ると、すっかり明るくなっていた。時間が思ったより経っていたのか、単に通り雨だったのかは、分からないけれど。
「本当にありがとうございました!」
そう言って、私は頭を下げる。
「こちらこそ、それより、また来てよ?」
「……もちろん」
私は鞄を持ち、店を出る。向かう先は、もちろん幼馴染みの元だ。
ありがとう、店員さん。なんだか勇気付けられた。ただ、一つだけ文句をつけるなら、コーヒーは本当に甘ったるかった。
「可愛くないです、これでも中学生なので」
「可愛いじゃないか」
「むぅ……」
店内には私と店員さんだけ。暇だったんだろうか、コーヒーを淹れながら私にやたら絡んでくる。
「はい、おまちどうさん」
「……真っ白じゃないですか」
「砂糖とミルクマシマシ」
「子供じゃないんですけど」
「あはは~」
はぐらかされた。こう、弄ばれる感じ……そうか、結美みたいなのか。……。
「で、なにか悩んでるわけ?」
「悩み? えーと……」
……は?
「……なんで悩んでるって分かったんですか? 私まだ何も……」
「見たら分かるよ、顔。これは友達関係で悩んでる顔だな」
「なんか学んでました?」
「ちょっと大学でね~」
絶対がっつりやってたに違いない。
「で、なんだ、ケンカでもした?」
「……はい、幼馴染みの女の子と」
「ふーん、初めて?」
「初めてですけど……最近ちょっとイラッとするというか」
「でも縁は切らないんだ?」
「……」
「ふーん、アツアツだね~」
「別にそういうんじゃ……」
完全に遊ばれてる。でも、そこに悪意は感じない。……思えば、結美も同じだ。
「でも、良いよね、そういう友達。いるだけ良いと思うよ、大切にしな。私なんて友達つくるのめっちゃ苦手だったもの」
「……え?」
こんなに喋り上手なのに、そんなことあるのかと疑ってしまう。
「ほんとほんと、中学の頃、ちょっと体弱くてさー、復帰したは良いけど、しばらく保健室登校しかする勇気なくて。友達の作り方とか忘れちゃったよね」
「はあ……」
「だから大丈夫! まだなんとかなるって、私がなんとかできたんだし」
「……ありがとうございます」
「いいっていいって、そんなことより、晴れたよ?」
「……!」
窓を見ると、すっかり明るくなっていた。時間が思ったより経っていたのか、単に通り雨だったのかは、分からないけれど。
「本当にありがとうございました!」
そう言って、私は頭を下げる。
「こちらこそ、それより、また来てよ?」
「……もちろん」
私は鞄を持ち、店を出る。向かう先は、もちろん幼馴染みの元だ。
ありがとう、店員さん。なんだか勇気付けられた。ただ、一つだけ文句をつけるなら、コーヒーは本当に甘ったるかった。