私は、梅雨の初めの生温い風に晒される中、自動ドアの前で立ち尽くしていた。
「やっぱり、怖い……」
だめだった。ゲームセンターにいる人は怖い。さっきも「畜生!」と叫んで筐体を叩いている人がいた。
「私は、ただ楽しく音ゲーがしたいだけなのに……」
「やっぱり、怖い……」
だめだった。ゲームセンターにいる人は怖い。さっきも「畜生!」と叫んで筐体を叩いている人がいた。
「私は、ただ楽しく音ゲーがしたいだけなのに……」
私が初めて音ゲーをしたのは小学生のころ。
「あかり、誕生日おめでとう!プレゼントはあかりの欲しかった~?」
「た、たいこのたつじんだ!」
CMで見た家庭用の太鼓の達人が欲しくてねだった覚えがある。お母さんもお父さんも買わないって言ってたけど、誕生日にサプライズでプレゼントされて嬉しかった。
その頃、家族でショッピングセンターに行くたびにお母さんが太鼓の達人をやらせてくれたのも覚えてる。家はマンションで近所迷惑になるし普通のコントローラーでやってたから、大きな太鼓を叩くのはすごく楽しかった。
高校に入った。寮のある、私立の学校だ。バイトも始めた。高校生になっても太鼓の達人は好きで、貯まったお金で家庭用のものは買っていた。けれど、ゲームセンターの太鼓の達人は、いつの間にか遠いものになっていた。噂で、近くにある店は治安が悪いと言われていたからだ。でも、全く気にならない訳じゃなくて、意を決して向かったらこの様だ。友達にそんなところへ行こうと言えるわけもないし。
「あかり、誕生日おめでとう!プレゼントはあかりの欲しかった~?」
「た、たいこのたつじんだ!」
CMで見た家庭用の太鼓の達人が欲しくてねだった覚えがある。お母さんもお父さんも買わないって言ってたけど、誕生日にサプライズでプレゼントされて嬉しかった。
その頃、家族でショッピングセンターに行くたびにお母さんが太鼓の達人をやらせてくれたのも覚えてる。家はマンションで近所迷惑になるし普通のコントローラーでやってたから、大きな太鼓を叩くのはすごく楽しかった。
高校に入った。寮のある、私立の学校だ。バイトも始めた。高校生になっても太鼓の達人は好きで、貯まったお金で家庭用のものは買っていた。けれど、ゲームセンターの太鼓の達人は、いつの間にか遠いものになっていた。噂で、近くにある店は治安が悪いと言われていたからだ。でも、全く気にならない訳じゃなくて、意を決して向かったらこの様だ。友達にそんなところへ行こうと言えるわけもないし。
「あら?和田様は何を聴いていますの?」
「……。……ああ、米原さん」
放課後、机で耳にイヤホンを挿していたら、米原さんに話しかけられた。名前だけは知っていた。クラスメイトの米原花音さん。確か家がお金持ちでお嬢様なはずだ。
失礼にあたるので、イヤホンを外して言葉を返した。
「あの、多分知らないと思うんだけど、……音ゲーの曲で」
「知らないも何も、私、結構な音ゲーマーですわよ?」
「え……?」
とんでもないことが聞こえた。あのお嬢様で成績の良い米原さんが、音ゲーマー……?
「貴女が聴いていますの、『Garakuta Doll Play』でしょう? わたくし、maimaiをメインでやっておりまして。貴女もmaimai、するんですの?」
「……いや、私がやるのは、太鼓の達人で」
「ああ、確かに第一回天下一音ゲ祭で移植されましたわね。ガラクタのためだけにサウンドトラックを買われましたの?」
「ううん、maimaiの曲はあんまり分からないから勿体ないかなと思って。……けど、私、『t+pazolite』は好きだから、アルバムを買って。だから、部分的に他の音ゲーの曲も知ってるよ?」
t+pazoliteに限らず、音ゲーに曲を提供する人たちはコミックマーケットでCDを売ることが少なくない。流石にコミケに行くのはゲームセンターに行くより怖いから、らし○ばんで買ったんだけど。
「なるほどですわ。……和田様、ものは相談なのですが」
「? 何ですか米原さん?」
「和田様がもし良ければ、私の家に来て下さいまし」
「……? 何で?」
何がどうなったら私みたいな地味なのが米原さんの家に誘われるのだろう。
「実はわたくし、音ゲー部の部長なんですの」
「え……? そんな部があったの?」
第一、音ゲーをする部なんて認められるのかという所から謎だ。
米原さんは続ける。
「いえ、これから作りますの。もうすでに私を含めて四人ほど集まっているんですけども、正式な部にするのにはあと一人必要なんですわ」
「そうなんですか……。で、なんで米原さんの家に?」
「活動場所がわたくしの家の遊戯室だからですわ。部員の要望で、maimai、チュウニズム、GROOVE COASTER、シンクロニカ、そして太鼓の達人、5機種買い切ってしまいましたわ」
とんでもないことを、さらりと言ってのける。
「え……!? 買えるんだ……?」
「ウン十万とかかってしまいましたわ。でも、これであの危険な店には行かないで済みますわ。それにmaimaiNETも使い放題に近いですし」
maimaiの連動サイトのmaimaiNETは毎月ある程度プレイしないと利用権が得られないと有名だから、確かにすごい。って、それって、フリープレイ開放ってこと?
「じゃあ、無料で……?」
「太鼓の達人やり放題ですわよ。さぁ、レッツエンジョイ音ゲー、ですわ!」
米原さんの小さくて綺麗な手にガッシリ掴まれた。
「え、ちょっと待って……!」
そのまま強引に教室から引っ張られて、あ、私鞄置いてきちゃったんだけど、米原さんって本当にお嬢様なの……!?
「……。……ああ、米原さん」
放課後、机で耳にイヤホンを挿していたら、米原さんに話しかけられた。名前だけは知っていた。クラスメイトの米原花音さん。確か家がお金持ちでお嬢様なはずだ。
失礼にあたるので、イヤホンを外して言葉を返した。
「あの、多分知らないと思うんだけど、……音ゲーの曲で」
「知らないも何も、私、結構な音ゲーマーですわよ?」
「え……?」
とんでもないことが聞こえた。あのお嬢様で成績の良い米原さんが、音ゲーマー……?
「貴女が聴いていますの、『Garakuta Doll Play』でしょう? わたくし、maimaiをメインでやっておりまして。貴女もmaimai、するんですの?」
「……いや、私がやるのは、太鼓の達人で」
「ああ、確かに第一回天下一音ゲ祭で移植されましたわね。ガラクタのためだけにサウンドトラックを買われましたの?」
「ううん、maimaiの曲はあんまり分からないから勿体ないかなと思って。……けど、私、『t+pazolite』は好きだから、アルバムを買って。だから、部分的に他の音ゲーの曲も知ってるよ?」
t+pazoliteに限らず、音ゲーに曲を提供する人たちはコミックマーケットでCDを売ることが少なくない。流石にコミケに行くのはゲームセンターに行くより怖いから、らし○ばんで買ったんだけど。
「なるほどですわ。……和田様、ものは相談なのですが」
「? 何ですか米原さん?」
「和田様がもし良ければ、私の家に来て下さいまし」
「……? 何で?」
何がどうなったら私みたいな地味なのが米原さんの家に誘われるのだろう。
「実はわたくし、音ゲー部の部長なんですの」
「え……? そんな部があったの?」
第一、音ゲーをする部なんて認められるのかという所から謎だ。
米原さんは続ける。
「いえ、これから作りますの。もうすでに私を含めて四人ほど集まっているんですけども、正式な部にするのにはあと一人必要なんですわ」
「そうなんですか……。で、なんで米原さんの家に?」
「活動場所がわたくしの家の遊戯室だからですわ。部員の要望で、maimai、チュウニズム、GROOVE COASTER、シンクロニカ、そして太鼓の達人、5機種買い切ってしまいましたわ」
とんでもないことを、さらりと言ってのける。
「え……!? 買えるんだ……?」
「ウン十万とかかってしまいましたわ。でも、これであの危険な店には行かないで済みますわ。それにmaimaiNETも使い放題に近いですし」
maimaiの連動サイトのmaimaiNETは毎月ある程度プレイしないと利用権が得られないと有名だから、確かにすごい。って、それって、フリープレイ開放ってこと?
「じゃあ、無料で……?」
「太鼓の達人やり放題ですわよ。さぁ、レッツエンジョイ音ゲー、ですわ!」
米原さんの小さくて綺麗な手にガッシリ掴まれた。
「え、ちょっと待って……!」
そのまま強引に教室から引っ張られて、あ、私鞄置いてきちゃったんだけど、米原さんって本当にお嬢様なの……!?
紛れもなくお嬢様だ。
「で、でっかい……」
本館らしき建物まで200メートルはありそうな洋風の庭の前に立っていた。
「和田様、ここが米原家ですの。多分、他の三人はすでに部室にいると思いますので、急ぎますわよ」
そう言って米原さんは庭の中央の道を駆け抜けていった。……結構な速さだ。やっぱり米原さんって顔に似合わずすっごいアクティブ……。
それにしても広い庭。左右に二つ噴水があるし、奥には女神みたいな女の人の像もある。まだ幼い物心がついたばかりの頃の私がここに来てお母さんに「あかり、ここがベルサイユ宮殿よ」って言われても信じられる気がする。……まあ、お母さんはそんな嘘つかないと思うけど。
「遅かったですわね。さあ行きますわよ」
そう冷たく米原さんに言われる頃には少し疲れていた。
米原さんがドアを開けると、メイドさんがいた。……え。
「何阿呆みたいな顔をしているんですの?」
そんなに変な顔をしていただろうか。……それよりも。
「米原さん、……メイドさんがいるよ」
「私がどうか致しましたか?」
そのメイドさんが近づいてくる。
「川崎、紹介しますわ。和田あかり様ですわ。川崎、遊戯室まで案内して差し上げて」
「承知しました、お嬢様」
川崎と呼ばれたそのメイドさんの後について歩く。米原さんもついて来ていると思って後ろを向いたらいなかった。どこに行ったんだろう。
「こちらでございます」
川崎さんがペコリと頭を下げた場所の横には、「音ゲー部」と貼り紙がされていた。……さっきも思ったのだけど、米原さんの家に作るのなら、学校の正式な部にする必要は無いんじゃないんだろうか。そんなことを考えつつも、音ゲー部の扉を開いた。
大きい音が耳に入ってくる。ゲームセンター特有のガヤガヤの弱体化だ。扉を開くまでは全く音がしなかったから、防音がすごいのだろう。
右を見ると、太鼓の達人の筐体が置いてあった。他にも、シンクロニカ、チュウニズム、GROOVE COASTER、maimaiと設置されている。購入したのは本当らしい。
シンクロニカの白い、地面にほぼ平行に画面が二つついている筐体に近づく。水色のツインテールの髪の女の子がプレイしていた。
「みぃちびかぁれぇてぇぇ ひぃかれあぁってぇぇ、たぁましいの鼓動 かさねてくぅぅ」
歌っていた。画面のマーカーをタッチしながら歌っていた。しかも上手い。プレイも歌もだ。
思わず振り返った。後ろからすごい音がした。空を切り裂くような、そんな音が……。
チュウニズムの、ATMのような筐体から音がしていた。これもプレイ者は黄緑色の長い髪の人。横顔がとても凛々しい。音がすごかったのはこの人のプレイがすごかったからだ。すごい勢いで落ちてくるノーツを正確に捌いている。
『ALL JUSTICE!』
「す、すごい……」
思わず呟くと……。
「誰!?」
すごい剣幕で振り返ってきた。
「あ、あの……和田あかりです。米原さんに呼ばれて……」
「そう。和田くん、ドアを閉めてくれ。気が散る」
「あ、はいっ!」
すごく怖い顔だった。プレイ中の顔はすごくカッコ良かったのに……。とりあえず、ドアを閉めにいく。報告に行こうとすると、すでにプレイを再開していた。また怒鳴られても怖いので、隣へ行く。
大きな縦長の画面が特徴のGROOVE COASTERだ。そしてすごい音がしている。筐体の方ではなく、ボタンの方からだ。
『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ』
すごい勢いでボタンを押し続けている。画面のノーツを無視しているように見えるんだけど……?
「さやちんは、AD-LIBを探してるんだよ!」
「わ! びっくりした……!」
振り返ると、さっきのシンクロニカをやっていた水色の髪の子がいた。
「はじめまして!あたし、村崎ミカ。好きなゲームはシンクロニカだけど、二人でできるmaimaiとか太鼓も好きだよ。好きな曲は太鼓の達人の『Purple Rose Fusion』!」
「う、うん。私は和田あかり。好きな音ゲーは太鼓の達人。好きな曲はmaimaiの『Garakuta Doll Play』だよ」
「そうなんだ~。ガラクタはシンクロニカにも太鼓にもmaimaiにも入ってるから知ってるよ!今度一緒にやろう?」
そう誘う顔は少し幼いけど、可愛らしい。
「うん、今度ね。で、アドリブ、って?」
「GROOVE COASTERの隠しノーツ。コース上には見えていないが確かに存在している。叩き損ねてもコンボは切れないがFULL CHAINにはならない。よって、理論値を出すためには、AD-LIBをひとつ残らず探す必要がある」
いつの間にか後ろにいた、チュウニズムをプレイしていた黄緑色の髪の人が説明してくれた。
「それでボタンを連打してたのか……」
私は納得した。
「和田くん、先ほどは失礼した。私は中島風香。メインゲームはチュウニズム。好きな曲はGROOVE COASTERの『Scarlet Lance』」
「そうなんですか。……私は」
「さっき村崎くんに話しているのを聞いたから理解した。ガラクタはチュウニズムに入っているけど、済まない、まだやったことがないんだ」
中島さんが頭を下げる。
「だ、大丈夫ですよ、謝らないで下さい……!」
「……ふぅ!終わった!」
「だー!びっくりした!」
突然GROOVE COASTERをプレイしていた女の子が声をあげた。私も声をあげた。
「さっきから、あかりんびっくりしてばっかだね!……で、さやちん、AD-LIB見つかった?」
「うん、ぜんぶみつかったよぉ。ごきょうりょくありがとうございましたー。またりろんちだすまでおまちください」
「頑張って、さやちん!」
「うん、GROOVE COASTERは理論値を出すのが難しいゲームの一つだし、来栖くんは大したものだ」
「……あれ?」
違和感がある。このさやちんという金色の髪の女の子の持つ雰囲気は、髪質と同様にふわふわしている。さっきまであんなに緊迫した顔をしていたのに……。
「ああ、来栖くんは、GROOVE COASTERをプレイ中、人格が変わったようになるんだ」
「この前話しかけたら怒鳴られたよ、いつものさやちんならそんなことしないのに!」
「そのせつは、ぐるこすちゅうのさやがごめいわくおかけしましたぁ」
来栖さんが可愛らしく頭を下げる。……この子が怒鳴るなんて、せんなこと本当にあるのかな?
「そ、そうなんだ」
「あ、じこしょうかいがおくれましたぁ。くるすさやといいます。すきなげーむはGROOVE COASTER。すきなきょくはシンクロニカの『夜明けまであと3秒』です」
「来栖さん、よろしくお願いします」
「ただいま参りましたわ」
挨拶を終えると、ドアの前に、服装を整えた米原さんが立っていた。
「かののん!」
「米原くん」
「かのんだぁ」
三人が声を揃えて米原さんを呼ぶ。構わず私に向かってくる。
「和田様、少しは部員と打ち解けられましたの?」
「……うん、米原さん」
「てかさ、『和田様』『米原さん』って、堅苦しくない?」
そう言ったのは村崎さん。
「そうだね。せっかくだから、二人とも互いに名前で呼びあったらどうだろうか」
「じゃあ、……花音ちゃん」
「では、あかりと呼ばせていただきますわ」
「うお!急接近した!」
「ふたりともなかよくみえるよぉ」
「そうですの?じゃあ、これからもそう致しますわ」
「つか、かののん手袋どしたの?」
確かに、部室に来た花音ちゃんは手袋をしていた。
「そうだね。maimaiやシンクロニカのプレイには手袋が必要とされているが、それにしては豪華な手袋だね」
花音ちゃんの手元を見ると、手の甲には金箔まではってある。
「ふっふっふ。特別に取り寄せた貴婦人の手袋ですわ。絹で編まれていますの」
「それって、maimai用? ……すごいね花音ちゃん」
「さあ、みんなやりますわよ!レッツエンジョイ音ゲー、ですわ!」
花音ちゃんは、その手袋をつけた手を握って、天井に突き上げた。
「で、でっかい……」
本館らしき建物まで200メートルはありそうな洋風の庭の前に立っていた。
「和田様、ここが米原家ですの。多分、他の三人はすでに部室にいると思いますので、急ぎますわよ」
そう言って米原さんは庭の中央の道を駆け抜けていった。……結構な速さだ。やっぱり米原さんって顔に似合わずすっごいアクティブ……。
それにしても広い庭。左右に二つ噴水があるし、奥には女神みたいな女の人の像もある。まだ幼い物心がついたばかりの頃の私がここに来てお母さんに「あかり、ここがベルサイユ宮殿よ」って言われても信じられる気がする。……まあ、お母さんはそんな嘘つかないと思うけど。
「遅かったですわね。さあ行きますわよ」
そう冷たく米原さんに言われる頃には少し疲れていた。
米原さんがドアを開けると、メイドさんがいた。……え。
「何阿呆みたいな顔をしているんですの?」
そんなに変な顔をしていただろうか。……それよりも。
「米原さん、……メイドさんがいるよ」
「私がどうか致しましたか?」
そのメイドさんが近づいてくる。
「川崎、紹介しますわ。和田あかり様ですわ。川崎、遊戯室まで案内して差し上げて」
「承知しました、お嬢様」
川崎と呼ばれたそのメイドさんの後について歩く。米原さんもついて来ていると思って後ろを向いたらいなかった。どこに行ったんだろう。
「こちらでございます」
川崎さんがペコリと頭を下げた場所の横には、「音ゲー部」と貼り紙がされていた。……さっきも思ったのだけど、米原さんの家に作るのなら、学校の正式な部にする必要は無いんじゃないんだろうか。そんなことを考えつつも、音ゲー部の扉を開いた。
大きい音が耳に入ってくる。ゲームセンター特有のガヤガヤの弱体化だ。扉を開くまでは全く音がしなかったから、防音がすごいのだろう。
右を見ると、太鼓の達人の筐体が置いてあった。他にも、シンクロニカ、チュウニズム、GROOVE COASTER、maimaiと設置されている。購入したのは本当らしい。
シンクロニカの白い、地面にほぼ平行に画面が二つついている筐体に近づく。水色のツインテールの髪の女の子がプレイしていた。
「みぃちびかぁれぇてぇぇ ひぃかれあぁってぇぇ、たぁましいの鼓動 かさねてくぅぅ」
歌っていた。画面のマーカーをタッチしながら歌っていた。しかも上手い。プレイも歌もだ。
思わず振り返った。後ろからすごい音がした。空を切り裂くような、そんな音が……。
チュウニズムの、ATMのような筐体から音がしていた。これもプレイ者は黄緑色の長い髪の人。横顔がとても凛々しい。音がすごかったのはこの人のプレイがすごかったからだ。すごい勢いで落ちてくるノーツを正確に捌いている。
『ALL JUSTICE!』
「す、すごい……」
思わず呟くと……。
「誰!?」
すごい剣幕で振り返ってきた。
「あ、あの……和田あかりです。米原さんに呼ばれて……」
「そう。和田くん、ドアを閉めてくれ。気が散る」
「あ、はいっ!」
すごく怖い顔だった。プレイ中の顔はすごくカッコ良かったのに……。とりあえず、ドアを閉めにいく。報告に行こうとすると、すでにプレイを再開していた。また怒鳴られても怖いので、隣へ行く。
大きな縦長の画面が特徴のGROOVE COASTERだ。そしてすごい音がしている。筐体の方ではなく、ボタンの方からだ。
『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ』
すごい勢いでボタンを押し続けている。画面のノーツを無視しているように見えるんだけど……?
「さやちんは、AD-LIBを探してるんだよ!」
「わ! びっくりした……!」
振り返ると、さっきのシンクロニカをやっていた水色の髪の子がいた。
「はじめまして!あたし、村崎ミカ。好きなゲームはシンクロニカだけど、二人でできるmaimaiとか太鼓も好きだよ。好きな曲は太鼓の達人の『Purple Rose Fusion』!」
「う、うん。私は和田あかり。好きな音ゲーは太鼓の達人。好きな曲はmaimaiの『Garakuta Doll Play』だよ」
「そうなんだ~。ガラクタはシンクロニカにも太鼓にもmaimaiにも入ってるから知ってるよ!今度一緒にやろう?」
そう誘う顔は少し幼いけど、可愛らしい。
「うん、今度ね。で、アドリブ、って?」
「GROOVE COASTERの隠しノーツ。コース上には見えていないが確かに存在している。叩き損ねてもコンボは切れないがFULL CHAINにはならない。よって、理論値を出すためには、AD-LIBをひとつ残らず探す必要がある」
いつの間にか後ろにいた、チュウニズムをプレイしていた黄緑色の髪の人が説明してくれた。
「それでボタンを連打してたのか……」
私は納得した。
「和田くん、先ほどは失礼した。私は中島風香。メインゲームはチュウニズム。好きな曲はGROOVE COASTERの『Scarlet Lance』」
「そうなんですか。……私は」
「さっき村崎くんに話しているのを聞いたから理解した。ガラクタはチュウニズムに入っているけど、済まない、まだやったことがないんだ」
中島さんが頭を下げる。
「だ、大丈夫ですよ、謝らないで下さい……!」
「……ふぅ!終わった!」
「だー!びっくりした!」
突然GROOVE COASTERをプレイしていた女の子が声をあげた。私も声をあげた。
「さっきから、あかりんびっくりしてばっかだね!……で、さやちん、AD-LIB見つかった?」
「うん、ぜんぶみつかったよぉ。ごきょうりょくありがとうございましたー。またりろんちだすまでおまちください」
「頑張って、さやちん!」
「うん、GROOVE COASTERは理論値を出すのが難しいゲームの一つだし、来栖くんは大したものだ」
「……あれ?」
違和感がある。このさやちんという金色の髪の女の子の持つ雰囲気は、髪質と同様にふわふわしている。さっきまであんなに緊迫した顔をしていたのに……。
「ああ、来栖くんは、GROOVE COASTERをプレイ中、人格が変わったようになるんだ」
「この前話しかけたら怒鳴られたよ、いつものさやちんならそんなことしないのに!」
「そのせつは、ぐるこすちゅうのさやがごめいわくおかけしましたぁ」
来栖さんが可愛らしく頭を下げる。……この子が怒鳴るなんて、せんなこと本当にあるのかな?
「そ、そうなんだ」
「あ、じこしょうかいがおくれましたぁ。くるすさやといいます。すきなげーむはGROOVE COASTER。すきなきょくはシンクロニカの『夜明けまであと3秒』です」
「来栖さん、よろしくお願いします」
「ただいま参りましたわ」
挨拶を終えると、ドアの前に、服装を整えた米原さんが立っていた。
「かののん!」
「米原くん」
「かのんだぁ」
三人が声を揃えて米原さんを呼ぶ。構わず私に向かってくる。
「和田様、少しは部員と打ち解けられましたの?」
「……うん、米原さん」
「てかさ、『和田様』『米原さん』って、堅苦しくない?」
そう言ったのは村崎さん。
「そうだね。せっかくだから、二人とも互いに名前で呼びあったらどうだろうか」
「じゃあ、……花音ちゃん」
「では、あかりと呼ばせていただきますわ」
「うお!急接近した!」
「ふたりともなかよくみえるよぉ」
「そうですの?じゃあ、これからもそう致しますわ」
「つか、かののん手袋どしたの?」
確かに、部室に来た花音ちゃんは手袋をしていた。
「そうだね。maimaiやシンクロニカのプレイには手袋が必要とされているが、それにしては豪華な手袋だね」
花音ちゃんの手元を見ると、手の甲には金箔まではってある。
「ふっふっふ。特別に取り寄せた貴婦人の手袋ですわ。絹で編まれていますの」
「それって、maimai用? ……すごいね花音ちゃん」
「さあ、みんなやりますわよ!レッツエンジョイ音ゲー、ですわ!」
花音ちゃんは、その手袋をつけた手を握って、天井に突き上げた。