今日もいつものようにある部屋に研究員達が慌しく出入りをしている。
その中には20個ほどの揺り籠のような物がおいてある。そこにはさまざまなコードがつながれており、そばにおいてある計器類につながっている。
出入り口の付近から担架に乗せられた少女が運ばれてくる。
その少女は全身が血だらけであった。ただ息はしているし、意識もあるようだ。ただひどい怪我だ。出血量もひどい。
あの少女はフルールドリスのメンバーだったはずだ。重症ではあるが医療の設備の整ったこの場所では治すことは問題ないはずである。
「――申し訳、ありません……次は、次は必ず――」
少女がうわ言の様に自分の様子を見に来た女性に訴えかけた。
「………………」
その女性は何の感情もない眼で見つめている。同性愛、少女愛嗜好の持ち主であったはずの女性は本来ならその帰還した少女を抱きしめて褒めちぎって、場合によっては愛撫さえしてくれるはずであった。
「…………処分して頂戴ナ」
研究員が少女に近づいて注射器のようなものを持ってきていた。
殺す――というわけではない。少女には永遠に眠ってもらうための注射だ
「次は……失敗は…だから――」
少女は女性のために生きてきていた。
彼女が必要としてくれた。
喜んでくれた。
褒めてくれた。
誰からも必要とされていなかった少女。
だから少女も必要も無い強化手術まで受けて可愛がってくれる彼女の元に身を寄せた。
だが、その彼女はもほや少女には無関心であった。
「――後はまかせるワ、私はアリスちゃんとテレスちゃんのことで忙しいのヨ、彼女達になにをしてあげましょうかね、フフフ」
姉妹のように思っていたほかの少女との非情な区別。少女は大切に思っていた記憶が今にも崩れ落ちそうだった。
そして少女は注射を打たれて意識を失う――――
首に下げたナンバープレートに赤く『09』の文字が入っている少女――九音は今日もまた、一人の友人――いや、家族が処分されるのをこの眼で見た。
少女の好きだったものは何か。少女の好きな言葉は何か。そんなものまで記憶にはあった。
だが、その少女はもはやいない。
九音は部屋に入り、閉じたままの『20』という数字の入った少女の揺り籠を凝視した。
もう二度と眼を覚ますことの無い、永遠に眠ったままの少女。
九音はそばにおいてある『20』のナンバープレートを引きちぎり、自分のポケットに入れた。
「――あの女は結局私達を娘のようになんか見てない。ただ研究者としての実績がほしいだけ」
九音が声に気がついて頭を後ろに向けると顔を隠すよう前髪を長くしした少女がいた。
首にかけられたプレートのナンバーは『8』。
セネカと呼ばれた少女もまた、『20』の揺り籠を覗き込んだ。髪で表情は見えない。
九音やセネカ、また一部のメンバーはあの特徴的なしゃべり方をする女性を嫌いだった。
セネカは自分の顔を醜く変えてしまったこと――
九音は自分で育てていた少女をすぐに切り捨ててしまうこと――
必要の無い力をつけさせられたこと。
九音はナンバー『12』――マーガレットと同じように純粋にこの施設で元々は育ったわけではない。
強化に使われた技術自体も20年以上前のため、マーガレットと九音にはそれほど特異で驚異的な能力もない。逆に副作用というほどの副作用もない。
だが他の者はどうだろう?
可愛がられているが、失敗すれば切り捨てられ、強化の研究に失敗されば二度とまともには生きていけない体になる。たとえ研究がうまくいったとしても、副作用には一生苦しめられるし、戦いが無くなって世の中に一人の女としてでれば自分の力は隠すことを強制される。
自分達の力がわかれば、人々からは排斥される。一生苦しむのだ。
ほしくも無い力を持たされた、それだけであまりにも過酷な運命を背負っていくしかない。
それは他でもない、『大佐』やあの女性を慕っている、エースであるツインズやルネなんかも例外ではない。
「結局、わし等は実験動物に過ぎぬ」
はき捨てるようにつぶやき部屋をでる。部屋の外では車椅子に座っている少女、背丈は九音と同じぐらいか――ナンバー『3』
ニンバスが心配そうな眼で外から見ていた。
ふと、時計を見るといつの間にか深夜1時を回っていた。
揺り籠には調整が必要な場合と一部のメンバーが睡眠時に入るものだ。九音やマーガレットなど殆ど調整がいらない者は揺り籠を使うことはない。
おそらく就寝するために部屋に来たのだろう。
ニンバスもまた心優しい。おそらく九音と同じように『20』の様子を見に来ていたのだろう。
「…………おやすみ」
「おやすみなさい……」
九音の声にかすれたような涙声で答えるニンバス。『20』がまともに生きていないことを表情からわかったのだろう。
九音は自室に戻る。一部の揺り籠を使わないメンバーに用意された部屋、にだ。
心の中から激しい憎悪であの女性を憎む。
だが、今は九音もここしか居場所が無い――
いつか、必ず――組織を潰してやる、そう近い眠りについた。
――――――
またやってしまった。
九音が強化の対象に失ったもの――副作用。それは10代前半で止まってしまった身体的な成長。
そして――
朝からシャワーを浴びる羽目になった。
朝から出撃の命令があって時間が無いというのに…
部屋の始末を仲間に任せて、絶対に失敗できない。また仲間のために失敗の出来ない出撃。
必ず任務を全うし生きて帰る。
眠りについた少女達のためにも。
いつかあの女医を始末することを――。
最終更新:2012年05月18日 02:54