【不法占拠者排除】
MISSION INFORMATION
敵戦力 |
戦車、航空ユニット、その他MT |
作戦目標 |
指定領域内の敵を全て撃破 |
特記事項 |
敵戦力は僅かである |
レイアウト調節用 |
廃棄都市を占拠するミグラントの一団を排除してください。 占拠された都市は我々が再開発を計画していたのですが、このまま事態が長引けば、計画されているインフラの再調整にも支障をきたします。 幸いにして敵戦力は少数のようです。 活躍を期待します。 |
Scene1
焼け焦げた空気が満ちていた。
銃声が鳴り響く戦場からは、幾つもの黒煙が空に向かって伸びている。
黒煙を生じさせているもの……地上に目を向ければ廃墟と化した街の一角で、倒壊したビルの根本に力無く横たわる人型があった。
アーマード・コア(AC)だ。
旧時代のテクノロジーを中核に据えた、崩壊した世界においても最優を誇り続ける機動兵器。
千切れ飛んだ四肢を大地に投げ出しているその亡骸に、手を伸ばしている者がいる。
「あー、アームユニットは両方ともダメかなこれは……レッグパーツも駆動系がイッちゃってるから……」
動かなくなったACの傍らに鎮座するもう一つの影。
それは人型の上半身から4本の脚を生やした異形の機体だった。
その手に握られた装置から、バーナーのような光の白刃が吹き出し、倒れているACへと押し当てられる。
「ん?」
メインカメラは赤熱した鉄塊から飛び散る火花の明滅をモニターに投影していたが、その隅に友軍機の接近を知らせるマーカーが表示された。
それから間もなく、シートを軽く揺らす衝撃を伴って、4本脚の機体のそばに新たな人型が降り立つ。
揺れが生じた瞬間こそは作業の手を止めていたものの、近付いてくる機体をモニター越しに視界へ収めると、すぐさま作業を再開する。
「いや~、他の連中は逃げたみたいっちゃ!」
傍らに立った人型から、陽気な調子で通信が送られてきた。
通信の主はアーマード・コアを駆る傭兵であり、名前を《ショートテイル》という。
とある理由から私が随伴することになった―――まぁ、いわゆるパートナーと言って良い存在なのだろう。
「逃げられたって……それ威張って言えることなの?」
「悪役がヒーローたるウチの威光に恐れをなすのは自然なことっちゃ。 仕方がないことだっちゃよ」
分かりそうで分からないショートテイルの発言に苦笑で返しながらも、細心の注意を払いつつ、目の前に転がるACの解体作業を進めていく。
私は《
回収屋》だ。
回収屋とは戦場で山と積み上げられていく敵機体の残骸を拾い集めては、市場へと売り払っていく商人たちを指す言葉だ。
戦闘終了直後に戦場跡へと入り込んでいき、使えそうな残骸や物資を根こそぎ持ち去っていく略奪者たち。
傭兵が狩りを行う猟師だとするならば、回収屋は依頼主から提供された“餌場”で屍肉を漁る、謂わばハイエナだ。
(―――でも、どっちかって言うとハゲタカだよね。 私の場合はさ)
一般的な回収屋が組織だった“群れ”で行動するのに対して、私のような“随伴型”は単独行動が基本になる。
しかも彼らのように戦いが終わった後ではなく、今まさに戦闘行為が行われている戦場に、傭兵と一緒に入り込んでいって回収を行う。
そのために自分もACに乗っている。
ACという翼を持っているからこその自由。
傭兵が撃破した敵機体の残骸を、他の同業者たちに邪魔されることなく、いの一番に回収できるというわけだ。
けれども当然ながらメリットばかりとはいかない。
戦場の真っ只中に飛び込んでいくわけだから、相手側からは敵として認識されているし、攻撃も受ける。
それに残骸を回収しても、こちらは単独行動であるがゆえに、持ち出せる量が限られている。
私の場合は回収物を収めるカーゴをACに牽引させて持ち込んでいるけれど、それでも機体を丸ごと回収することが出来ないときは、その場で残骸をバラして高値が付きそうなパーツだけを選んで持っていく。
これは業界用語で“腑分け”なんて呼ばれていて、私のような随伴型の回収屋には必須のスキルなんだけど、
(―――あまり悠長に時間を掛けるわけにもいかないんだよねぇ)
なにせここは現在進行形の戦場なのだから、作業に時間を掛けた分だけ襲撃を受ける可能性が高くなってしまう。
今はショートテイルが周りの敵を追い払ってくれたらしいから良いけれど、それでも油断することはできない。
独自の情報網で戦場を嗅ぎつけた、他の回収屋が乗り込んでくる可能性だってある。
そうなったらもう依頼そっちのけで争奪戦の勃発だ。なにせ残骸は金の成る木なのだから。
一応こちらはACに乗っているとはいえ、多勢に無勢なことには変わりがない。
しかも随伴型である私は、普通の回収屋にとっては商売敵。
普段からあまり良い感情を持たれていないわけだから、向こうの出方次第では非常に危険な状態に陥ってしまう。
同業者との鉢合わせは、なんとかして避けたい。
「メ~リル~ん」
緊張感を欠片も感じさせない間延びした声が聞こえた。
愛称で呼ばれると同時に浮かび上がったサブウィンドウを、指先で弾いてモニターの隅にドラッグする。
「今回はどうっちゃ? 儲け出そう?」
小さくなったウィンドウの中に、覗き込んでくるような仕草でモニターに顔を寄せているショートテイルが映る。
「うん、良い感じだよ。 なんといってもACを仕留めてくれたからね。 余裕で黒字!」
本当に、ほんとーに、予想外の大金星だった。
敵勢力にACが居たことも予想外だったが、まさかそれを撃破してしまうとは。
残骸の中でもAC関連の部品は特に高値で取引されているから、作業が自然と鼻歌混じりになってしまうのも仕方がないというものだ。
「しかも相手機のコアには殆ど当ててないし。 お見事としか言いようがないよね」
「いやぁ、そんな褒められると照れるっちゃね~」
わっしゃわしゃと髪の毛を掻き上げるショートテイルを横目に、撃破されたACの残骸を確認する。
横たわっている残骸の状態は極めて良好。回収不要と判断するくらい損傷していた四肢に比べて、コアパーツ自体は損傷が少なかった。
そしてコックピットハッチに該当する部分の装甲がスライドしていて、開放されたままになっている。
つまり、操縦していたパイロットはとっくに脱出したあとなのだ。
「まぁ、罪を憎んで人を憎まずと言うか? ウチくらいになると無益な殺生はしないというか―――」
「そうだね、私もショートテイルのそういうトコ、買ってるよ」
普段から散々っぱら聞かされているので、この手の“語り”が始まったら、なかなか終わりがやってこないことは知っている。
なのでショートテイルの語りに対して、早々に褒め言葉を挟み込んでやった。
重ね重ね褒められたことでショートテイルはさらにご満悦になったが、
「―――だってコアパーツが一番高く売れるしね!」
隣に立っていたショートテイルのACが、ずっこけたようにバランスを崩した気がした。
「他のデバイスと違ってコアは発掘品が主流だし、中にはジェネレーターやFCSも詰まってるから重ねてオトクっ!―――どうかした?」
「い、いや……なんでもないっちゃ」
急にショートテイルのテンションが下がった気がするけど、何か変なことを言っただろうか?
……いや、特に思い当たる節はない。
Scene2
(相変わらずの守銭奴っぷりっちゃねぇ……商売人だから仕方がないんだろうけれども)
その思いを心の中に吐くことで、ショートテイルは口から出かかっていた言葉を呑み込んだ。
うんうんと、曖昧なまま肯定の頷きをACで送る。
今のメリルの働きに今後数週間の生活費が掛かってくるだから、下手なことを言ってヘソを曲げられるわけにもいかない。
そう、回収屋としての腕は確かなのだから、今はただ見守ることにしよう。
ヒーローのなんたるかについては、今度またディスク鑑賞会を開いてじっくりとレクチャーすればいいのだ。
今度は何を見せれば良いだろう?
前に見せた『スペース検事ギャフン』は、合わないとかで速攻却下されたし……
やっぱりここは『特攻指令ヘルランダー』にするべきか。
特に第23話『非情!鋼鉄男爵の罠』は傑作だ。
悪の組織に捕まって怪人に改造されたランダーが、かつての仲間たちと死闘を演じる中で記憶を取り戻すが、もう元には戻れないことを悟り、盗んだバイクで敵の大軍団に特攻していくシーンは涙なしに語れない。
「……なんで鼻すすってるの?」
モニターからメリルの声が聞こえてきた。
いけない、いけない、思い出しただけで感極まってしまうとは。
さすが世代を超えて受け継がれる名作だけはある。
これならメリルも、きっと心を動かしてくれるに違いない。
「大漁、大漁っと」
メリルの声がモニターから聞こえてきた。どうやら上機嫌なようだ。
「ショートテイル、悪いんだけどコレ、積んで置いてもらえる?」
四肢を斬り離されて達磨になったコアパーツを指差された。
敵ACのパイロットが逃走する前に操縦系統にロックを掛けてしまったため、四肢をパージすることができなくなり、やむなくレーザーブレードで切り離すことにしたのだ。
……なんというか、その、無残。
けれども、うん。
「相変わらず器用っちゃねぇ」
感心、感心。
その手際の良さは流石というほかない。
“バラし屋メリー”やら“切り裂きドール”とか呼ばれてるだけのことはある―――ウチが勝手にそう呼んでるだけだけど。
ばらされたコアパーツを持って保管用のカーゴに向かうと、中には既にマッスルトレーサー(MT)と思しき機体の残骸が積み込まれていた。
雑に積み込むと後で怒られるから、慎重に、慎重に―――と、作業を進めていたら、唐突にゴンっという音がカーゴ内部に響いた!
「のわっ!?」
いきなりの大きな音にびっくりして、持っていたコアパーツを放り投げてしまった。
無残な達磨となったコアパーツが、大きな音を立てて床に転がる。
「ナンデ!? なにが!?」
慌てて床を見てみると、放り投げてしまったコアパーツの他に、見慣れない鉄板が落ちていた。
よくよく見れば、それが達磨コアにくっ付いていた大型の胸部装甲板だということが分かる。
……さっき見た時こんなモノは落ちていなかったような。
おそらく最初に鳴った大きな音は、この装甲板が落ちたことによるものだろう。
なんで落ちたのかは分からない。けれども、
(―――怒られる!)
反射的にそう思った。
「ううう、ウチのせいじゃないっちゃよ!?」
条件反射で保身の声をあげてしまう自分が情けない。
けれども通信機から返ってきたメリルの反応はこちらの予想に反するもので、
「ショートテイル、横! 横見て!」
切迫したメリルの声に促されて首を振る。
するとカーゴの壁面の一点が赤熱していて、その中心を絹糸のように細い熱線が貫いているのが見えた。
白く細い熱線は途切れることなく反対側の壁面まで伸びて、こちらの目の前を横切り続けている。
いまいち現実感の湧いてこない不可思議な光。
それはゆっくりと軌道を逸らしていき、
「うわわわっ!」
カーゴの天蓋が袈裟切りにあったように、斜め上に向かって寸断された。
赤熱し融解した切断面に逸って壁面が滑り落ちて、密閉されていたカーゴの天蓋から黒煙に満ちた空が覗いた。
Scene3
「なんだっちゃ!? なにが起こったっちゃ!?」
取り乱しているショートテイルをよそに、私は熱線が放たれた方角にメインカメラを向けた。
光学レンズを絞り、表示能力が限界近くになったところで、ようやく熱線の発生源と思われるものがモニターに映し出される。
「あれは……」
ごま粒みたいな大きさだったけれど、それは明らかに人型をしていた。
補正をかけて映像を拡大処理すると、その人型がライフルらしきものを掲げた白いACだということが分かる。
そしてACの肩口に映った赤い紋様。百合のようなエンブレム。
「嘘でしょ……!?」
更にもう一機の機影がサブウィンドウに映し出される。
送られてきた映像は作業中の警戒のために、上空へ飛ばしていたUAV(無人航空機)からのものだった。
解像度は低いものの、ビル群の隙間を縫うようにして、猛速で接近してくる機体が映っている。
状況的に見て、狙撃手の仲間と考えて間違いはないだろう。
私は身震いした。
貧血のように顔から血の気が引き、氷のような冷たさが全身を駆け巡る。
体の芯に向かって引きずり込まれるような感覚が、重い引力となって四肢を竦ませる。
―――怖れ、ではない。
けれども今は、
「―――逃げるよショートテイル! 早く!」
全身に纏わり付く嫌気を振り払うように決断した。
「あいつら、一体何者だったんだっちゃ?」
ポップアウトしてきたサブウィンドウ内に、釈然としない表情のショートテイルが現れた。
「いきなり撃ってきたかと思ったら、その後はなんにもしてこなかったし……ワケわからないっちゃ!」
ごもっともな疑問だと、私は思った。
突然現れた2機のACは、ショートテイルの《ドレイクV-03》に狙撃を敢行したきりで、こちらを追撃してくることはしなかったのだ。
そういうわけで戦闘があった廃棄都市から離脱した私たちは、砂漠地帯にある老舗のミグラント《蜥蜴重工》へと進路を取っている。
本来なら蜥蜴重工側の輸送ヘリを使いたいところだったけれど、あんな想定外のアクシデントに出くわしてしまった以上、事前に組んでいたプランは破棄せざるを得ない。
ヘリパイロットの《ジョブ・グッドマン》おじさんは、ランデブー・ポイントの変更を申し出てくれたけれど、安全が確認できていないので辞退させてもらった。
ああ、本当に勘弁してほしいなぁ……色々と。
「―――メ・リ・る・ん! ウチの話を聞いてたっちゃか?」
「あぁ、ごめんごめん。 ちょっと考えごとしてた……あの2機の正体、だよね?」
「分かったっちゃか!?」
ガタっ、という音の直後に、ゴツン、という音が聞こえてきた。
モニターの向こうでは『ぬぉぉぉ……』という唸り声をあげながら、ショートテイルが頭を抱えてうずくまっている。
……とりあえず、気にしないでおこうっと。
「多分、だけどね」
メインカメラが捉えた白い機影。
その肩口を彩っていた、特徴的な朱いエンブレム。
光学レンズの望遠限界ギリギリという、スナイパーライフルでも難しい超々距離から、曲芸のような狙撃を成功させる能力。
これらの条件に該当する存在に、一つだけ心当たりがあった。
「あいつらは《バンガード》のACよ。 それも、かなり特殊な部類のね」
「えーと……クロスボーン??」
「ち・が・う!」
TPOを弁えないでネタを捻じ込んでくるから、ショートテイルは油断できない。
……ショートテイルが何を言おうとしているのか分かってしまう私も相当に毒されているけれど。
「バンガードよ、バンガード! 第9領域最大の都市《イル・シャロム》を支配している連中のこと!」
「冗談っちゃよ~」
「まったく……続けていいの?」
「頼むっちゃ 」
「……その筋のネットワークでは割と有名な話なんだけどね? バンガードには敵対勢力を潰して廻る特殊部隊があるの。
複数のACがいるみたいだけど、そのどれもが真っ白な機体で、朱い花のようなエンブレムを付けていて、とんでもなく強い。
正式な名称が分からないから『バンガードの白い死神』なんて呼ばれているみたいね」
「ヘェェェ……」
興味の無いゴシップ話を振られたような、気の抜けた相槌が返ってくきた。
「でもなんで、そんな凄そうな連中があそこに来たっちゃ? 理由がわからないっちゃよ」
当然の疑問だと思う。
仮にあの2機がバンガードの白い死神だったとするなら、私たちを目こぼししたことには理由が必要になってくる。
彼らに関する目撃例が少ないのは、これまで彼らが対象を確実に殲滅し続けてきたからこそなのだから。
「ここからは完全に私の想像になるんだけど、いい?」
「どうぞどうぞー」
「……」
「お、お願いしますっちゃ!」
「よろしい」
つい、ごほん、と咳払いをしてしまうのには、気分転換の意味もある。
「まず今回の依頼についてなんだけど……あれを送ってきたのは、実はバンガードだったと思うの」
「バンガード? いや、いやいやいや! 違うっちゃよ、だって依頼主は―――」
「確かに別人の名前だったわね。 でもそれは偽名だよ、十中八九。
ネットワーク上で名乗る名前ほどアテにならないものはないじゃない? 私たちがそうであるようにね。
だって真偽を確かめる術なんて無いんですもの」
「……」
ショートテイルの沈黙が痛いけれど、気付かないふりをする。
「今回の依頼は廃棄都市を占領している武装勢力の排除だったけれど、敵の中にACが居るなんて一言も触れられていなかったじゃない?」
「そういえば、そうだったっちゃね」
「依頼文では『敵戦力はごく僅か』なんて特記されていたけれど、敵にACが居ることを考えたら不自然よね」
「たしかに」
「私が思うに、ショートテイルは敵のACを誘き出すために、体の良い当て馬として選ばれたんじゃないかな?
ショートテイルを派手に暴れさせて、隠れていた敵ACを表に引っ張り出したところで、本命の白い2機が叩く。
依頼の本当の狙いは、こんなところじゃないかなって思ったの」
残骸を回収するときに調べてみたら、今回の敵ACはかなり慎重な立ち振る舞いで知られている傭兵だったようだ。
確実に成功する仕事しかしないうえに、少しでも不利な状況になったら即逃げ出す。
バンガードの外郭組織が何度も攻撃を受けていたらしくて、連中もどうにか尻尾を掴みたかったようだ。
そこで『確実に勝てる相手』と思わせることができるショートテイルを送り込んで、慎重な性格の敵ACを誘き出そうとしたんだろう。
「ウ、ウチは利用されたっちゃか!? 謀ったな、シャアアアアアア!!」
相変わらずショックを受けているのかいないのか、イマイチよく分からないリアクションだ。
多分ショックなんて受けない性格だとは思うけど。
「でも、今回はバンガードにとっても誤算だったんじゃないかな。
あくまで敵をおびき出す餌に過ぎないはずだったショートテイルが、本命の敵ACを倒しちゃったんだから」
「ウチ、大活躍っちゃね。 感謝してほしいっちゃ」
実際はラッキーパンチみたいなものだったけど、それでも勝利は勝利だ。
「……でも、それが連中としては面白くなかったんでしょうね。
せっかく肝煎りの白いACを2機も動員したのに、何も手出ししないまま終わっちゃったんだから」
「うーん、逆恨みもいいところっちゃねぇ?」
「ほんと、私もそう思うよ。
だからドレイクに“直撃しなかった”あの狙撃は、敢えて“直撃させなかった”だけで、私たちに対する警告の意味合いが含まれていたんじゃないかな。
「警告ぅ? どういう意味だっちゃ?」
「―――今回は見逃す。
けれども今後、反抗の意志を見せれば容赦なく排除する。 っていう具合にね」
「自己中っちゃね~」
「ふふ、ほんとだね」
いつもどおりなショートテイルの反応を見ていて、私も肩の力が抜けてきた。
実際、敵ACと戦ったのも、狙撃をされたのもショートテイルなのに、彼女はいつもと変わらない。怖れもしない。
巨大な力を目の当たりにしても、ショートテイルは決して自分を見失わない。
それが彼女の強さなのかもしれない。
「―――あ!!」
「ど、どうしたの!?」
モニターの向こうのショートテイルが、目を大きく開いて口をぱくぱくさせていた。
……まるでこの世の終わりが来てしまったみたいな顔をしている。
「ウ、ウチ、気付いてしまったんだっちゃ……
気付かない方が幸せな気持ちのままでいられたかも知れないのに……
でもいずれ気付いてしまうんだったら、今気付いてしまって正解だったのかもしれないっちゃ……」
「だから、なんの話をしているの?」
がっくりと肩を落としているショートテイルを見るのは珍しいので余計に気に掛かる。
「―――ゅう…っちゃ」
「え、なに?」
俯き加減なのでよく聞こえなかった。
「だから、報酬っちゃ!!
今回の依頼主がバンガードなら、あいつらの思い通りに動かなかったウチには報酬は支払われないんじゃないっちゃか!?
ああ、でも仮にウチがバンガードの期待通りに動いていたら、待ち受けていたのはデッド・ オア・ ダイ!!
どっちにしろダメじゃん! ウチ終わりじゃん! 卑怯っちゃ!」
ショートテイルは狂乱している。
「あー、多分それは大丈夫じゃないかなぁ?」
「ナニが大丈夫なんだっちゃ!? ウチの家計は年中火の車っちゃよ!!」
「落ち着いて。
報酬のことなら多分、心配はいらないと思う。 成功ってことで支払われると思うよ」
ショートテイルが目を点にして喚き止んだ。
「な……! え……?
お、思う思うの二段活用じゃウチの心配は晴れないっちゃ! ウチを安心させてくれる理由を説明してほしいっちゃ!」
「だから、落ち着いてって」
―――いい?
と、私はショートテイルに問うてから、
「そもそも、私たちが“今こうしていられること”自体が答えなのよ。
私たちがバンガードにとって完全に邪魔者だったなら、間違いなくあの場所で白いACに消されていたはず。
敢えてそうしなかったのは、少しは利用する価値を見出したってことでしょう。
なのにバンガードほどの大組織が、傭兵を利用するだけ利用して、そのくせ報酬は支払わなかったなんて世間に知れたら、それこそ前代未聞のスキャンダルよ。
彼らの信用は一気に地に墜ちてしまうでしょうね。
支配者には、その地位に見合うだけのプライドってモノが付いて回るし……だから、報酬については心配いらないと思うよ?」
「信じても……良いっちゃ?」
「お金のことで私がウソついたことある?」
「―――メリる~ん!!」
画面の向こうのショートテイルが、感極まってモニターに抱き付いていた。
ショートテイルの豊満なバストがモニターに押し付けられて、押しつ押されつ画面一杯にたわんで広がる押しくらまんじゅう……新手のいやがらせか、これは。
「―――わかった。 わかったから、落ち着いて。
安心しきるには、まだ早いんだからね?
うちに帰るまでが遠足なんだから、油断しないで周囲の警戒を続けて」
「ラジャー!」
なんていい笑顔……!
―――ショートテイルは変わらない。
これまでも、そしてこれからも、きっと彼女は彼女のまま、我が道を進み続けるのだろう。
それが彼女の強さ。
では、自分はどうだろうか? この先に進んで行けるのだろうか?
……強さがほしい。
誰かが言っていた。
どんな世の中でも、強いということは、それだけで価値があるものだと。
先へ進むためにも、価値あるものを、私は求めていきたい。
「―――強くなってね。 あいつらにも負けないくらいに」
「? なにか言ったっちゃか?」
「なんでもなーい」
荒野に下りはじめた夜の帳が、ひた走る2機のAC姿を包み込んでいった。
Scene4
「命乞いする男って、なんであんなに醜いのかなぁ」
肩口に朱い百合花のエンブレムと『01』というナンバーを入れた白色のACが、開掌した右掌をスナップを効かせて地面に振るった。
濡れた雑巾を叩き付けたような水音が響き、崩れ落ちていた瓦礫の上に鮮やかな赤の飛沫が奔る。
「ちょっと“つついて”脅かしたら、あっさりとお仲間まで売っちゃうんだもん。
ほんっと、見苦しいったらありゃしない」
白いACの周りには斬り捨てられた幾つものMTの残骸が転がっていた。
高熱を以て溶断された切り口から立ち昇っていく黒煙が、傾いだビル群に切り取られた狭い青空を覆っている。
「……こんな奴に手を焼かされていたなんて、バンガードの正規部隊にまともな戦力は居ないの?
本当なら《大佐》直轄の私たちに回される仕事じゃないわよね、これ」
間接部こびり付いた汚物を振るい落とそうと、白い機体は尚も右掌をぶらぶらと振り続けていた。
「―――テレス?」
彼女―――バンガードの白い死神と呼び恐れられるAC《ドウター・ワン》に搭乗するアリスは、いつもならすぐ会話に相槌を打ってくれる姉の反応が薄いことに戸惑った。
ほんの僅かな沈黙も、感受性、及び姉への依存性の強いアリスにとっては、とてつもない不安となって跳ね返ってくるのだ。
すぐにアリスは《ドウター・ワン》を姉の方へと向かわせる。
「……なにを見ているの?」
幸いなことに姉はビルを挟んですぐ隣に居た。
《ドウター・ワン》と瓜二つなシルエットを持つ白いAC《ドウター・ツー》が、その場にたたずんでいる。
俯いた視線の先に映るのは、斬り離されたまま放置されたACの両腕と脚部。
コアパーツだけをメリアドールたちに持ち去られた、武装勢力のリーダー機の成れの果てだ。
「ああ、こいつの機体ね」
再度、右掌を振るう《ドウター・ワン》。
「……」
姉であるテレスは、アリスと共に施術された強化処置の副作用で、言葉を発することができない。
感情も失ったとされているが、周りが勝手にそう言っているだけとアリスは思っている。
アリスとテレスは姉妹間で意識をリンクさせることができるので、アリスは饒舌に話しかけてくるテレスをいつも心の中に感じることが出来た。
だからアリスは寂しくなかった。
こうしている今も、アリスの中のテレスが、アリスに語りかけてくる。
「え、この残骸の切り口? ―――うん、確かに綺麗だね。 あの傭兵と一緒にいた回収屋がやったのかな」
テレスは打ち捨てられていたACの四肢の切り口に注目していた。
そのどれもが、ターレットポイントと呼ばれるAC共通規格の接続部のみを寸断されていたのだ。
この方法なら持ち去られたコア側の損傷も最低限に抑えられるので、ターレットポイントを交換するだけで再使用することができるだろう。
「……」
「―――ッ!
フン、たいしたことじゃないわ、こんなの。 私にだってできるもん」
見ず知らずの他人(しかも小間使いに雇った傭兵の金魚のフン)に姉の感心が向けられたことが気に食わなかったアリスは、《ドウター・ワン》にレーザーブレードを握らせた。
《ドウター・ワン》がそっと膝を付き、打ち捨てられている残骸の腕へと手を延ばす。
大振りの曲刀《LB-66 MOONLIGHT》から青白い光刃が噴き出し、転がっている腕の肘部分にあるターレットポイントに押し当てられた。
しかし次の瞬間、ボフン!という音をあげて腕が爆発する。
「なんで!?」
「……」
テレスは冷静にその様子を観察していた。
テレスによると腕部内に残留していたエネルギー残滓が、剥き出しになったターレットポイントの伝達経路を逆流してきたレーザーブレードと反応して、爆発を起こしたとのことだったが……そんなことは、どうでもよかった。
(―――テレスの前で恥をかかされた!!)
アリスの心を占めているのは、手前勝手な、それでいてアリスにとっては絶対的な、独りよがりの激情だった。
「許さない……ッ」
テレスの優しい囁きも、激情に駆られたアリスの心には届かなかった。
こうなってしまっては何を言っても聞いてくれない。
一度火が付いてしまった以上、今度は《大佐》の指示を受けても収まりが付くかどうか……
「……」
《ドウター・ワン》がレーザーブレードを最大出力で振り回して、放置された残骸を消し炭へと変えていっている。
青白い軌跡が踊るたびに地面が深く抉られ、引っ掻き疵のような爪痕が刻まれる。
テレスは我知らずのうちに嘆息をもらしていた。
MISSION RESULT
合計報酬 |
76,000 |
・特別報酬 |
50,000(AC用パーツ) |
経 費 |
|
・弾薬費 |
7,800 |
・修理費 |
23,000 |
収支 |
45,200 |
レイアウト調節用 |
メモ |
《ドレイクV-03》予備パーツ入手! |
関連項目
- R・バッカーノ
「ハハッ、のろまが! いくら強かろうが当たらなきゃあなぁ?」
「嘘だろォ!? なんだってこんな雑魚に―――」
小規模ながら武装勢力を率いてバンガードに攻撃を仕掛け続けてきた男。
比較的警備の薄い施設などを好んで奇襲し、物資の略奪に勤しんでいた。
そこに主義主張は無く、ミグラントの例に漏れず利己的な男である。
 |
 |
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機体名 |
スケイルマン |
|
機体構成 |
タイプ |
機動特化 軽量逆関節 |
AM/PGA-147 AM/GGA-115 - - KUSAKAGE mdl.1 AM/JAA-245 YUGIRI mdl.1 CB-402 Ar-P-K17 LRLA-121 FA-215 GA-125 BA-214 RA-103
|
武装 |
パルスガン ガトリングガン 機動ジャマー リコンジャマー
|
リコン |
吸着型 |
乗機は機動性を重視した軽量逆関節AC。
弾数豊富なガトリングガンを装備することで一応の継戦能力を確保しており、
ひとしきり暴れた後は、ジャマーを駆使して追っ手を振り切り続けてきたのだが―――
最終更新:2012年05月28日 23:41