ごろつきどものアジト―――とある砂漠にて
またヴラジーミルの癇癪が始まったと、元政府軍中尉は溜息を吐きたい欠伸したい帰りたいという欲求を必死になって堪えながら、
若き指導者ぶっている不幸な青年をぼーっと見ていた。
政府軍時代の戦略地図を折り畳み式長机の上に広げながら、ヴラジーミルは夜空の下で「ここにいる奴らがアイツを回収した」としきりに
地図の一点を指しながら喚き散らし、何度も何度も「アイツは僕らの情報を流す気だ」と疑心暗鬼も良いところのセリフを言い続けていた。
政府軍のとある准将の息子で、士官学校中退という困ったちゃんのヴラジーミルに付き従っているのは、
彼の言う「良き友人たち」という奴らで、
つまるところギャング連中とそんなに変わらないバカばかりだった。そんな連中に付き従っている自分もバカだがと、
元中尉は自分で補足を入れる。
どうしてこうなったかと言うと、ついこの間、雇ってみた
エルフィファーレという女性にヴラジーミルが盲信しているせいだった。
その所為でヴラジーミルは癖のある髪を掻き乱し、ヒステリックに叫びまくっている。
マッチ棒で作られた人形染みた華奢な四肢が、無駄に派手な動作をする度に、元中尉の目に残像を描いた。
「僕らの情報が流されたらどうなる? 僕らは御仕舞いだ。だから僕を受け入れろと言ったのに……
あの女はそれを無下にしやがって……こうなったら、やることは分かってるよなぁ?」
はいはい、いつものノリですよねと元中尉は青年の芝居がかった台詞に吐き気を催しながら思った。
どのくらい芝居がかっているかと言うと、反戦運動家に影響された学生がヤクをキメちまって講義堂で
決起集会を開いてる時くらい芝居がかってる。
准将の遺言でバカ息子を頼むと言われてはいたが、想像以上のバカでもう俺にはどうしたらいいのか分からんですよと、
元中尉は呆れ果てながら、周りのギャングどもと一緒に「当たり前でしょう!」と叫んだ。
もう嫌だ、ヴラジーミルを撃ち殺して俺も死のうと、元中尉は思った。
3年も付き従ってきたが、その3年は酷いものだった。恩師である准将の息子だからと、補給面に関するすべての業務をこなしてきたが、
なんの賞賛もない。それどころかギャングどもは日々自信過剰になっていき、何時の間にか元中尉が組織の一番下にいることになっていた。
甘やかしたのが悪かったのかもしれないと、准将はヴラジーミルを称してこう言っていたが、元中尉は今は亡き准将にこう叫びたかった。
貴方は悪くないのです准将閣下、きっと彼奴は貴方の子供ではなかったのです、と。まあ、事実そうであったのだから、准将も報われないが。
「よろしい! 作戦計画はこうだ。まずペイルの率いるテクニカル部隊が先行して偵察。
その後、ナイトの自走対空砲対人カスタムと、僕のAC『モノマフ』が続く。おっさんはいつも通り、僕らの後ろで待機しててくれよ?」
「了解です、御頭」
御頭っていつの時代だよ、古すぎて覚えてねえよとツッコミたい衝動を押さえながら、元中尉はビシッと敬礼してみせた。
黄色いモヒカン頭で出っ歯で馬面のペイルが「軍人さんカッケーっす!」とか皮肉って嘲笑をあげると、周りの屑どもも揃ってバカ笑いを始める。
だが元中尉はもう何も言わなかった。一番生存率の高い後方で支援せよと命令を受けた以上、そうするしかないのだ。
調子に乗ったバカが殺されようが、俺はもう知ったこっちゃないのだ。
そう思いながら、元中尉は3年間も自分が支えてきた組織を改めて見回そうと、視線を左右に巡らせた。
重装甲の重量2脚型AC『モノマフ』が、白色照明の光りを浴びて、灰色の装甲と機体の曲線のラインが浮かび上がっている。
威圧感の割に武装はショボイが、それでもACであるということに代わりはなかった。
その横に並んでいるのは、テクニカル部隊だ。ピックアップトラックの荷台に23㎜対空機関砲を取り付けたり、
固定式対戦車ミサイルを取り付けたり、20㎜対物ライフルを取り付けたりしている車両たちは、
砂に塗れているのにきちんと動作してくれる優れものばかりだった。
さらにその横で鎮座しているのは旧式の自走対空砲で、高価な電子機器類を売り払って、
代わりに大量の弾薬と戦車用の暗視装置を取り付けた対人モデルだった。
4連装23㎜機関砲はバースト射撃しないと砲身が融解するまで撃ち続けるから注意しろと、ギャングたちに何度説明してきただろうか。
ともかく、この組織を底辺で支えてきたのは俺なのだと、元中尉は萎えかけた気力をなんとか復活させた。
軍隊でも日陰者として日々輸送任務に就くしてきた元中尉は、面倒事を処理することになれていた。
だからこんな屑のような組織でも、運営する事が出来たのだ。
ヴラジーミルが10を望んでいるのなら、ヴラジーミルが納得しそうな理由をつけて8として、
ひたすら頭を下げながら他の組織に懇願し、金を払う。
准将の残した莫大な資金を無駄遣いするのは気が引けたが、ヴラジーミルのお遊びに付き合ってやることもあった。
主に、女を買うことにかけてだったが。
「それでは、我が小隊の出撃だ! 各員、持ち場に着けえい!!」
「「「「「合点承知!!」」」」」
ギャングどもが声を揃えて叫ぶと、ヴラジーミルは満足してにやりと笑みを浮かべた。
元中尉は叫びながら、それにしてもあのエルフィファーレと言う女性は良かったなと思った。
抱けたのはヴラジーミルだけで、元中尉はこっそり抱かせてもらったが、盲信するのも仕方がないと思えるほどの女だった。
まあ、若さと美人が重なったらこうなるんだろうなと元中尉は地図をテキパキと折り畳みながら考えた。
自分も若い頃、女性関係で馬鹿なことをやってしまったものだ。
ただし、普段から馬鹿な奴が馬鹿をやると、大馬鹿になるのが救いようのない点だった。
勢いよく重量二脚型AC『モノマフ』へと乗り込んだヴラジーミルは、大馬鹿にしてはミスをしなかったのだが、
自走式対空砲に乗り込んだ奴が大馬鹿をやった。
車体の滑り止めのある個所を踏み込まないで、カッコつけて乗り込もうとした結果、そのギャングは砲塔に飛び乗ることが出来ずに、
車体の上ですっ転び、尻を車体に打ち付けた後、地面に背中から落下し、頭を打った。
そいつは気絶してしまい、予備兵力が無能ばかりのヴラジーミル私兵部隊は、唯一キャタピラ車を動かせるそいつが起きて正常になるまで
侵攻を見送ることにした
最終更新:2012年07月20日 01:41