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 暗闇の中に佇んでいる。
 仄かなオレンジ色の灯りだけが、その場に点っている唯一の光であった。
 私はその中に身体を埋め、一人のまま動かないでいる。そして、一人、昼間のことを考え、その時に一体自分が何ができたのかを考えようとしていた。
 何がいけなかったのだろう、と思う。
 何故、私は失敗したのだろうか。
 それは、あの少女の練度の低さが問題だったのだろうか。
 私にはよく分からなかった。
 彼女はどちらかと言えば比較的フレキシブルな精神の持ち主で、そして高度に戦闘へと適応することのできた優秀な戦士の一人のはずであった。少なくとも、戦闘への適応性は私よりも優れていると、私自身は感じていたのだ。
 それでも、現実に起こったのは別のことだった。
 彼女は敗北し、私は、情報の秘匿を厳守することすらできなかった上で、今こうして一人自室に身を置いているしかなかったのである。
 何故なのだろう。と繰り返し考える。
 どうして私はこの事態を打開できなかったのだろう、と。
 しかし、いつまで経っても答えが出ることはなかった。
 よくよく考えてみても、それは不可能ではなかったと思う。確かにそうだったと思う。それでも、私にそれはできなかった。私は彼女を守ることができず、そして絶対に秘匿されるべきであった情報の幾らかも、守ることができなかったのだ。
 何故なのだろう。
 そう考えていた時に、入り口の扉が空気の漏れる音と共に開いた。
 私は胡乱なものを見るような身振りで、そちらへと視線を遣る。
 そこには、一つのシルエットが立っている。
 そしてそのシルエットの持ち主が誰なのか、私には即座に理解することができた。そして、そのことを理解するのと同時に、私の心中にはどこまでも冷え冷えとした感情が浮かんできたのだった。
 それを止めることはできなかった。
「電気くらイつけたらどウ?」
 私は黙っている。
 その女の声に対して、何一つ理解を示す素振りを見せないでいる。
 私は、どうしたらいいのだろう。
 彼女に対して糾弾の声を上げればいいのだろうか?
 彼女は、この薄暗がりにおいて辺りを見回すような仕草を見せていた。何も見えるはずがないのに、と私は内心毒づくかのように考えている。
 そんな中、彼女がこちらへと微かな光を映す双眸を向けたことが、その僅かな気配によって悟ることができた。
 そして、次に彼女が何の言葉を発するのかも、私には分かっていた。
「今日のこトだけど」
 彼女は、そう口を開いた。
 そして、壁を指で這うように何かを探り当て、それに対して力を入れる。部屋は、一瞬完全に補助灯の明りすら消え失せ、真暗になった後で、照明によって昼間のように照らし出される。
 全てが光の下に晒されることになる。
 私はその中に座っていた。
 眩しげに目を眇めて、そこに立っている長身の女を眺めていた。
「貴方ニ直接の責任ハなイと上層部は判断したワ。おめでとう」
「……グレース」
 私は、口を開いていた。
 それはほとんど、無意識の内に口から零れ落ちた言葉だった。
「?
 何かシラ?」
 私は彼女の方を見つめている。
 その視線の意味に、彼女は気付いているはずであった。しかし、彼女はそれを敢えて表現していない。
 つまりとぼけているのだ。
 頭の中が真っ白になっていく。強い怒りを感じて、そして様々な感覚というものが引き換えに消失していくような気がする。それでも、私はどうにか自制心を保つ為の努力をしていた。
「追撃の許可が出なかったのは何故だ?」
 結局、私はそう問い質していた。
 それはもはや避けようの無かった問いであった。
 私は、昼間の作戦において、一人の少女、強化人間の後期生産タイプの少女の監督役、そして、護衛役を引き受けていたのだった。
 その上で、その少女は一人のミグラントのACを完膚なきまでに破壊し、そして、ほんの僅かな時間において、その戦闘領域に現れた もう一機のACによって破壊を受けていた。
 私はその時のことを彼女に問うていたのだ。
 彼女はこちらを眺めている。じっと眺めている。その表情には、一切特徴らしき特徴は浮かんでおらず、それが無表情であることは表面的には確かだった。
 しかしそれでも、そこにあるのが下卑た感情であることは、容易に知ることができた。彼女は、私を刺激しないように感情を収めているだけなのだ。しかも、その一応気遣いの形を取った彼女の行動すら、いわば悪意というものに基いて行なわれたものに過ぎないのだった。
「貴女の戦闘力不足、そして敵勢力ニ対する調査不足。
 ソレ以上の原因はナイと言ったでしょう?」
 彼女の声は、静かに響いていた。
 それでも、私にとってはそれはどこまでも煩わしく、耳障りなものとしてしか響かない。
 私は黙っている。
 その照らしだされた部屋の中で、彼女に対して声一つ上げることなく、黙り続けている。
「――もし、彼女がまだ、自死を選んでいないのなら」
 その言葉に、私は顔を上げた。
 私の表情には、一体今どんな色が浮かんでいるのだろう、と思う。
 私にはそれが理解できなかった。
 グレースは相変わらずの無表情でこちらを見ていた。あるいは、それはただの無表情ではない、そして、先程まで秘められていた嘲笑や歪んだ哄笑とは別なのかもしれない。
 得体の知れない色が彼女の相貌から感じられた。
「その時にハ、ひとまずのトコロ奪還作戦が講じられるでショウ。
 多分、その場ニ、貴女の居場所ハ無いのでしょうけれどね」
 彼女は静かに私にそう告げた。
 そして、私は項垂れていた。顔を上げることができなかった。
 その間に、彼女が、踵を返す音が聞こえる。
 やがて、彼女がこの独房のような無機質な部屋の床を鳴らして、私から遠ざかっていく音が響いた。その音は、少しずつ遠くなっていって、そして自動的に扉の閉まるその瞬間を境に、完全に消え失せていた。
 私は一人、その部屋に残されている。
 静かに顔を俯けて、何も見ることができないでいる。



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最終更新:2013年04月11日 11:42