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オーダーミッションNo.020 【巨大生物駆除】CASE2「アホが来た」


難易度: B
依頼主: アインベルター社
作戦領域: ビーハイブK-506地区(AC2AAのアイザックシティを廃墟にしたもの)
敵対勢力: 不明
敵戦力: 巨大生物兵器多数
作戦目標: 指定領域内の敵全滅
特記事項:
ロックオン不可
リコン探知不能
基本作戦時間6分(最大延長10分)
チーム行動厳守(4機編成)
概要:
アインベルター社営業担当のルスィエル・アインベルターです。
急を要する事態ですので先に内容を。
地下資源再利用のため該当区画を探査してた所巨大な甲虫らしき生物の襲撃を受け、多大な被害を受けました。当社の通常戦力では刃が立たず、MT部隊を派遣しましたが状況は芳しくありません。
MT部隊を援護しつつ、該当区画に現れる全ての生物を駆除して下さい。
なお、ACのサイズを超える巨大な躯体をしており、強力な酸性の体液を発射して装甲を溶かします。
ACのFCSに反応せず、リコンも対応していないため目視射撃だけが頼りになります。弾薬の管理に注意して下さい。威力は弱いですがタックルや噛み付きといった攻撃行動もします。接近時には警戒を。
また、現地には高濃度の粒子汚染が発生しており、活動限界を設定しています。この時間までに任務の成否に関わらず帰還して下さい。
現地へは私のチームも出向きます。何かありましたら直接ご連絡をお願いします。

報酬:800,000Au(傭兵一人分の最低金額)



 そこは黒ずんだ廃墟が立ち並び、地面のアスファルトは割れるか剥がれて、真っ黒な土が見える。高濃度の汚染に支配された地区であるが、今は別のものにも支配されている。 蠢く異形の未知。巨大な甲虫と称するのがもっとも簡易な表現だろう。
 人が住むどころか、ACに搭乗していたとしても長時間の滞在が不可能である地獄に蠢くのは果たして本当に生物であるのか、生命の限界を数段階超えてしまったとしか思えない一つの奇跡だろうか。そんな奇跡と対峙するのは4機のACだった。

『ばーさんが言ってた。良いことをすれば、時々神様が微笑んでくれるって。でも、これって本当に微笑んでいるのかな』

 既に作戦は始まっていた。そして、突如の通信は甲虫の群れに撃ち続けているのは、ACチーム、バッドディフィートの一人、ミストロックからだ。ルスィエルもバッドディフィートの他の二人もかなりピリピリしている中、ミストロックの口調はノリノリ半分、何故か不安半分である。

「……なに? 」

 ルスィエルが一応は問う。なんだか、非常にどうでもいいようなことな気がするが、それならそれで、後でミストロックにもビッグライダー同様に何かするだけだ。

『俺、ロックオンできてますよ! なんだか、いつもより当たっている気がします! 』
「はぁ? 」

 そんな馬鹿なと自身の機体、《ヴァリアシオン》のロックオンサイトを見るが、敵を捕らえはしない。当然である、そもそもFCSによるロックオンができないという情報があったゆえに、全くの役立たずになるミサイルとセントリーガンを外し、廃棄寸前だったプラズマガンと使用期限ギリギリのロケット弾を積んできたのだから。だというのに、バッドディフィートのオマケたるノリノリハゲはロックオンできていると言う。ミストロックが搭乗する《フローヘッド》が撃ち続けているところをACのヘッドを旋回させ確認する。ルスィエルからは少し離れたところで、道を埋め尽くす虫に向かって撃ち続けている……どこを狙っても当たるほどではないだろうか。
 《フローヘッド》の特徴について思い起こせば、アホが勘違いしているのだと気がつく。

『馬鹿! お前、それはOSのエラーだ! 前はジャマーを使われてもないのに、ロックオンできなかったのに、お前のはどうなってるんだ!? 』

 ルスィエルのやや前方で対応しているCDも気がついたのか、ルスィエルの代わりに通信を入れた。《フローヘッド》は、ほぼ大半がジャンク品で構成されており、さらにOSにもエラーが出るのは日常茶飯事の訳あり不良物件ACである。ルスィエルのアリーナ登録機である《グリモワール》と比べれば、ACと呼んでいいかどうかの境界線を行ったり来たりの非常に忙しい機体である。

『マジで!? 畜生、今日は俺がヒーローになれるとてっきり思っちまった。せっかくノリノリだったんだぜ。ってやべ、ヒートキャノンがジャムった! 』
「ともかく、あなたはそっちの群れを始末しなさい。キャノンを外してもいいけど、必ず回収しなさい。こんな地区に回収だけに部隊を出せないわ」
『わかりましたぜお嬢。お、不発弾が排出できた。やっぱりノってきた! やっぱり、今日のヒーローは俺だぜ! 』

 アホねとルスィエルが心の中で呟いたとき、何かの影が上から落ちてくるのが見えて、《ヴァリアシオン》を旋回させると、落ちてくる口を広げた虫の姿が見えた。ルスィエルは、地面に脚を突き刺すように着地した虫に対して、反射的に左腕に装備された実体型ブレードを肘撃ちするように振るい、一つの脅威を消した。

『お嬢! 大丈夫ですか!? 』

 CDがライフルを撃ちながら通信を入れてくる。

「ええ。ブレードをとっさに使ってしまったけど、刃が少し溶けているわね。全く、厄介だわ。廃墟の中にも潜んでいるから、他にも連絡を入れなさい」
『了解です。あーくそ、こっちは当たっても全然効いてねぇ! 』

 《ヴァリアシオン》の足下には頭部が切断された生物の残骸があった。
 その生物は堅い外骨格で覆われている虫。全高5メートルを超える巨大な体躯を持ち、こちらの攻撃をものともせずに徐々に距離を詰めながら酸を吐いて、装甲を溶かしにくる。
 頭と別れを済ませたというのに、胴体から伸びる太い六本の脚がアスファルトの地面を突き刺すようにうごめいていた。
 虫の動きは速くない。ACに比べればというところだが。だが、ACのFCSでは兵器と認識をせず、ロックオンが効かない。そのために、射撃系の武装は当てづらく、ミサイルやセントリーガンはロックオンできず発射までに至らない。
 ACが同じような機動兵器を対象としている時点で、この未知の敵は、ACにとって、未知の脅威だった。
 《ヴァリアシオン》が、ブレードをハンガーに掛け、バトルライフルへと換装を行う。《リーゼントリッター》が撃ち続けている方向には、十数匹の虫が寄り添うように蠢きながら徐々に接近をしてくる。そこに、ガトリングガンとバトルライフルを同時に構えて撃ち出した。ガトリングガンの弾が何発が当たれば、そこから外骨格にひびが入り、バトルライフルも炸裂し、表面を焦がしていく。それでも、ノーロック故に当たりづらく、悪戯に弾薬を消費していく。そんな中、ルスィエルが一つの事実に気がつく。

「CD。あなたのライフルが全然当たって無いのはどういうことかしら? けん制にもならないじゃないの。掃きだめのFランク止まりなのがよくわかる腕ね」
『そんな、ノーロックじゃ当たらないッスよ。こっちの機体は、只でさえ何とか動く程度なんすから! 』

 それは確かに、普段からロックオンを使う事を想定している武器で当てるというのは、コツが必要だった。

「それは言い訳かしら? 機体を貸している時点でありがたいと思いもしないとはね。感謝すら知らないアホは見捨てるわよ」
『そ、そんな!? これでも必死なんですよ!? 』

 CDが自身の利を説明しかけたところで、彼ら二人とオマケの後方にいるビッグライダーから通信が入る。

『お嬢。二時の方向に背の高いビルですが、裏に4匹はいます。さらに離れて3、4匹ぐらいが確認できます』
「わかったわ。そちらも屋内に潜んでいる虫に気をつけなさい。ただ当たらない弾を撃つ馬よりはよっぽど役に立つわね」

 ビッグライダーの搭乗機《モーヒルガン》は偵察様カメラとスナイパーキャノンを使用しての索敵に専念していた。リコンによる索敵のできない虫を探り出す役目であり、今の状況ではチームの命綱を担っていた。
 ルスィエルが、右の装備をハンガーのプラズマガンと換装しながら答える。威力と範囲から虫に対して効果的であるが総弾数が少なく、多少は温存しておこうかと思ってはいたが、モタモタしている暇はなく、さらに押し寄せてくれば対応しきれなくなるリスクの方が大きいと、まとまっている目の前の集団を一気に潰すと判断を下す。

「それと、傭兵は? あちらの地区は順調かしら? 」
『……お嬢。良い知らせと悪い知らせがあります。どちらから聞きます? 』

 別地区との連絡役も兼ねたビッグライダーの声は、神妙な面持ちであることが容易に想像できる。

「さっさと言いなさい。時間が惜しいわ」

 設定した時間は、6分。すでに、2分経過していた。内心の焦りを抑えながら、集中力を研ぎ澄ませ、銃口の向きを調整をしていく。

『……良い知らせです。高機動タイプなんで、エリア内をガンガン移動していけます。悪い知らせです。Eランクで、単機で来ています』
「……はぁ? 」

 傭兵のランクが全てではないが、思わず間が抜けた声を出してしまう。確か、難易度はBと表示していたはずだ。傭兵のランクがC程度であれば、それは許容できる。Dであれば、僚機を連れくれば許容できる。だが、Eランク程度で単機は許容できない。いったい何処のアホが受諾したのかと疑問に思う間もなく通信が入る。

『おいおいおい? 繋がったか? 待たせるからこっちで勝手に繋いだぞ。本当にバカでかいクソ虫がうじゃうじゃいるじゃねぇか。昨日見た古い映画みてぇだ。そっちは最終的に人類が滅びるバカヤロウエンドだけどな! いくら虫けらでも、ラスボス相手に丸めた新聞紙はねぇつーの。だが、そいつで倒して滅亡回避なら傑作だったな。どんなバカヤロウ映画でも、ハッピーエンドが一番だろ? 』

 突如、やけに馴れ馴れしい雰囲気で、もとい、今のようなピリピリした作戦中には非常に気に障る無駄口が聞こえてくる。無駄口を叩く暇があるなら、一匹でも多く撃破して欲しいというのに。

「……こちらリームリーダーのルスィエルです。あなたは? 」
『それより、こいつらぶった切ったらよ、ブレードが溶けたぞ。どうしてくれんだバカヤロウ! 変えたばっかりだぞ』
「……ブレード? レーザーブレードは? 」

 こちらが名乗ったというのに、無視してクレームを言う無礼者にカチンとくるが、一度抑える。溶けたというなにか不快な言葉が聞こえたが、無視してあまり意味のない念を押す。

『そんな前髪がサラリパラリとしたトレンディなシティボーイが、女釣るために見栄張って買っちまって、そいつの乗っていけば「あら、軽レーザーブレードは論外だけど、普通レーザーブレードどころか、高級レーザーブレードだわ。素敵、抱いて、孕ませて」なんて言われてマイホームダッドになっちまう魔法のハイエンドラッキーアイテムなんて持ってきているわけねぇだろバカヤロウ! 』

 などと意味不明な返答であった。イラッという擬音が目に見えるかのように、苛立ちが収まらない。ストレスを込めて、プラズマガンを蠢く虫に撃つ。光弾が破裂し、殻の中を焼いていき、一つの群れをなぎ払う。キレる十代ここにあり、ただし、怒りは正当であり、盗んだACで走り出したり、ACのモニターを割る代わりに虫退治である。勤労少女ここにあり。

「……詳しい状況報告を。順調でしょうか? 時間厳守ですので、意味のないやり取りは控えていただきましょう」

 次こそまともな返答がなければ、ここにいるアホ三人に押しつけてしまおうと心に決めて、再度苛立ちを抑えて問う。アホとバカヤロウなら、きっと気が合うだろう。

『おう、見える範囲じゃ半分は潰したぞ。事前の情報よりはこっちの数は少ないな。って寄ってくるなバカヤロウ! ひっくり返ってろ!……っと、それとこいつらは、麦から作られてた炭酸ガス入りの人類の英知を飲みまくったおっさんみたいに腹がブヨブヨしてるぞ』
「内容は判りやすくまとめてください」
『珍しいから、色々と試してみてな。個体差があるが、腹が柔らかくて弱点っぽいな。蹴ってひっくり返しちまえ! 腹ならMTの攻撃も結構通るぞー。昨日見た映画と同じだ! 凄ぇ! 試してみるもんだな! いや、だからって丸めた新聞紙でだな…』

 我慢の限界なので、何か言っていたが通信は切った。どうして、こう、タイムリミットがある状況で無駄話をする人間ばかりなのだろうか。生死を賭けていることを理解しているのだろうか。苛立ちが冷静さを浸食してくるのを辛うじて押し返し、今の状況と最善を再確認する。

「CD。あの聞いてて殺したくなるアホが何か言ってきたら相手をしなさい」
『了解です。どうやって、ひっくり返します? 』
「下手に接近しても酸の被害が怖いわ、参考にならない。狙えれば狙いなさい。基本的には物量で押し切るわ。撃破を急ぎなさい! 」
『わかりました』

 と2機が廃墟の陰から出てきた虫に銃口を向け直す。
 残り作戦時間は少ない。無駄な通信の間に次々に戦況は進んではいたが、恐らく作戦時間の延長は確実だろう。虫が廃墟の中にまで潜んでいる上に、傭兵が居る地区には少ないとなれば、こちらに回ってきている可能性もある。

「可能な限り倒すわ。弾薬は残さずに撃ち尽くしなさい! 」

 自身とバッドディフィートを鼓舞するように命を下す。

『了解です! 当たれぇ! 』
『こっちもスナイパーキャノンは撃ち尽くしておきます』
『俺だって撃ちつく、またジャムった!? 』

 三者三様の返事を聞いて、ルスィエルは廃墟の壁を登って高く飛び上がり、虫の大群のど真ん中に肩のロケットとプラズマガンを撃ち込んだ。虫が地獄の釜でにられるようにもだえて、只の肉塊となっていく。
 苛立ちと無礼な傭兵に対する記憶を消すような攻撃だった。


 ☆


 ガレージと外界を結ぶ間にある洗浄スペース、防護服に身をまとったアインベルターのスタッフが作業用の小型MTを駆使して、《ヴァリアシオン》に洗浄液を高圧で吹き付けて、汚染物質を洗い落としていく。今回の作戦領域は特に汚染が濃いので、通常よりも人数と時間をかけていく。
 ACのように、自身も早く、パイロットスーツに押し込まれている汗まみれの体にシャワーを浴びせたいが、これも汚染物質を屋内に持ち込まないために必要なことだ。少しばかり手持ちぶさたになり、今後についての考えをまとめようとしていく。
 結局、作戦時間の10分ギリギリまで戦闘を敢行し、地区で確認できた虫は全て倒した。別の地区も、確認できたものは全て潰したと連絡を受けている。作戦としては一応は成功だろう。
 だが、あくまでも目で捕らえて確認できただけだ。あの生物がどのように繁殖しているのかまではわからないが、仮に虫と同じで卵を産むのであれば、巣がある可能性もある。また、探査しきれていない廃墟の中に卵でも産み付けられていれば、また発生することは自明の理である。生態についての調査が必要であり、あの虫用になにかしらの探査方法と有効な撃退方法を用意する必要もある。
 が、まずは、今日の作戦領域で見落としが無いかをミグラントでも雇って行う必要もあるだろう。場合によっては、高濃度の汚染に対する備えもより必要になってくる。その他諸々の仕事を考えれば、今日の成果などは微々たるものでしかないように思えてくる。

「本当に厄介ね……」

 人知れずため息混じりに呟く。モニター越しにはMTのアームから洗浄液の散布が終わり、《ヴァリアシオン》の前から横へと下がっていく。

『除染完了です』

 スタッフからの通信が入り、目の前のシャッターがスライドしていく。

「わかったわ。お疲れ様」

 ねぎらいの言葉をかけ、ゆっくりと機体を歩ませていく。ガレージの中には、先に戻ったという自社のMT部隊と、そのやや後方で、ACの洗浄を後回しにされて、先に自分たちだけ出てきたバッドディフィートの三人がいて、ルスィエルを確認するとCDが片手をあげて小さく頷き、ビッグライダーは45度にお辞儀をし、ミストロックが奇妙なステップを踏みながら両手を振っている。あれは、もしかすれば本人にとってはジャンプのつもりかも知れない。彼の身体能力が許す限りの滞空時間なのだろう。
 彼ら三人の後ろには、傭兵のものらしきACが置かれている。軽量2脚で白に赤のスプリット迷彩が映え、両手には実体型ブレードが装備されている。片膝で座り込み、何故かブレードが展開されていた。そのブレードの周りでなにやら忙しそうに歩き回っている男が居る。男は、パイロットスーツを着ており、左手には杖を持って、忙しそうに動いては止まり、右手に持った何か小さな機材をACに向けている。
 《ヴァリアシオン》が、ハンガーへと置き、コックピットを開ける。普段は何となく鉄と油のにおいがして淀んでいる気がする空気だが、火照って汗ばんだ体には、それでも心地がよい。地上へと降り立つと、バッドディフィートの三人が寄ってくる。

「お嬢、お疲れ様です」
「ええ。あなたたちもね」

 三人にもねぎらいの言葉をかけつつ、ヘルメットをミストロックへと投げるように渡すと、ビッグライダーが真っ白なタオルを慇懃そうに手で渡してきたので、顔をさっと拭いて、次は髪の汗を吸い込ませていく。

「あれは何をしているのかしら? 」

 とりあえず、忘れておきたかったが、状況確認はしておく。

「いや、なにか撮影してます。なんでか知りませんけど」

 CDが、首をかしげ、一瞥だけしてから答える。その手にはペットボトルが持たれ、ルスィエル用にストローまで刺さっていた。最近は、パシらせる前からこういった気遣いができているので、教育がうまくいっているようである。

「そう……」

 ペットボトルを受け取りながら、呟くと、男がこちらに気がついたかのようにきびすを返し、杖をつきながら大股で歩いてくる。それを睨むように見つつ、ストローに口を付ける。なにか瑞々しいが苦々しい香りが鼻を突き抜けていき、眉をひそめたとき。

「おーい! あんたがチームリーダーの傲慢でお高くとまって常に上から目線で人使いが荒くてサディスティックで性格悪くで棘だらけポイズンタン持ちの二重人格猫かぶり成金のスーパーダイナミックアクティブ深窓の令嬢か? そいつらが言ってたが、間違いないだろ!? 」

 杖をついた男が、右手でバッドディフィートの三人を差しながら大声で問いかけてくる。さらに眉をひそめながら三人を睨み付ける。無言のまま、あなたたちはこの無礼者にどんな説明をしたのかしらと目で語りかける、語りかけるという割には相当に目つきが悪かっただろう。3者は揃って首を横に振り、そんな説明はしてませんとおびえた目が語る。やけにビッグライダーがビクビクと震えているのが、今は、それがさらになんとなく気にくわない。

「私が、アインベルターの営業担当のルスィエル・アインベルターですが、何か? 」

 頬をピクピクさせながら、とりあえずは営業スマイルを作り出す。横ではミストロックが小声でお嬢の目が笑ってねぇとCDに耳打ちに、CDがミストロックの口をふさぎながらギュッと脚を踏みつけ何も言うなと小声で言う。その間もビッグライダーはなにかに怯えた様子である。

「何? じゃねーよバカヤロウ。俺様のMURAKUMOが溶けた。前にKARASAWAバカヤロウに溶かされたばっかりで、刃を変えたばっかりだぞ。修理費は追加請求するからな。請求資料に添付する写真は、もう撮ったぞ」

 男は、さも当然と言わんばかりの尊大な態度で、右手に持ったデバイスを掲げた。そこには刃が変色した実体型ブレードが映っている。そんな男は、髪は伸ばしていると言うよりは伸ばし放題の結果のように無造作に振り乱し、顔は無精髭が伸び、一見すれば品が無く、実際に品が無いように思える。

「それはあなたの拙い戦術と技量の問題であり、報酬から修理していただけます? 報酬はたかがEランクのあなたには十分な金額のはずですので。それに、酸については事前にお伝えしていたはずですが? 」

 スマイルは崩していないが、ついに苛立ちを言葉に変えだしてしまった。

「どいつもこいつも一々ランクがどうこう言いやがって、一々肩書きなんざ気にするなバカヤロウ。装甲が溶けるとは書いてあったが、刃まで溶けるとは書いてない。事前に脅威を伝えてないのはそっちのミスだバカヤロウ。ちゃんと「MURAKUMOの刃も溶けちゃうぞ☆」って書いとけ。バカヤロウのミスをこっちの責任にしてんじゃねぇよ。払ってくれ」
「装甲が溶けるのに、刃が溶けないと考えるなんて、どんな頭の構造をしているのかしら? きっと私には理解できないでしょうね。かわいそうですけど、アホすぎて同情もできないわ」

 お嬢も溶かしているじゃないですかとは言えないCDである。言えば、自分も隣で震えているビッグライダーのように何かされる危機である。

「おうおう。酸で溶けるぐらいは予想がつくが、こっちは予備の武器なんざろくにもってねぇから仕方なく出たんだよ。仕方なしに出撃したんだ、払ってくれ。アインベルターならカストリカのケチくさいバカヤロウと違って金あるだろ? バカみたいに儲けやがって。なにも丸ごと新品に変えたいなんて言うか。替え刃分の金額で十分だ」
「不向きならば態々受けなくても良いのに。ひとまずは契約通りに支払いますから身を引いたらいかがです? こちらが本気になればたかがフリーの傭兵一人はどうにでもきますのよ? ああ、アホには理解できませんか? 残念ね」
「お嬢、流石に今の発言はまずい……」

 アインベルターの顔でもある受付嬢が不穏な発言をし、ミグラントに下手な噂でも立てばまずいとCDが窘めようとして、背筋が凍り付く笑顔に射貫かれて言葉が続かなかった。

「って、お」

 そんな説示が凍り付くような視線を平然と受けている杖をついた傭兵が、《ヴァリアシオン》を眺め、声を上げる。

「なんだ。あんたもMURAKUMOもっていってるじゃねーか。俺と同じバカヤロウか! 溶かしたんだろ? あんたも虫けらぶった切って溶かしたバカヤロウだろ!? 」

 にやりと不敵な笑みを見せ、非常に嬉しそうに騒ぐ厄介者が一人。こちらはとっさの攻撃で使っただけであり、自分から嬉嬉として切り込んでいったわけでなく、一緒にされることは非常に不愉快である。

「なら話は早い」

 何も早くはない。
 何の話は知らないが、そんな気がした。

「何がかしら? アホの言うことは理解できないから説明してくださるかしら? でも、アホに、そんな難しいことができるのかしら」
「同じMURAKUMOユーザー同士、仲良くしようぜ。あんた、MUARAKUMO愛好者の会でも立ち上げて、会長になれ。世にMURAKUMONOのあらんことと言って入会者にMUARAKUMO左右セットで配布してくれ」
「どういうことかしら? 」
「ふーむ。あれの良さがわからんか。疲れで頭が回らないか? 払わんのなら、そのぐらいのことをしてくれと言っている」

 疲れているのは、全く持ってその通りである。ただし、疲労の九割は訳のわからんアホのせいである。

「どっかの頭ごとネジが吹っ飛んだKARASAWAバカヤロウと一緒にされちゃ困るが……。俺だって流石に両手両ハンガーにMURAKUMO装備で出撃なんてバカヤロウなことは、二度しかしたことがない。二度とするか」

 最後に、忌々しそうに吐き捨てる。二度もそんな自殺行為としか思えないアセンブルで出撃した時点で、先ほどからチラホラと見え隠れするKARASAWAバカヤロウ……もしかすれば、今現在、不本意ながら同じランクでアリーナに出ているアレだろうかと思えるが、さきほどからの言動を踏まえると、アレと目の前のアホに大差があるようには思えない。

「どうしようかしら? さっきから何一つとして、意味がわからないわ。あの虫に酸で脳みそが溶かされたのかしら? 医務室では、きっと間に合わないわ。お墓を手配しておきましょうか? 先ほどの廃墟にでもいかがですか? きっとお似合いですわ。汚染が酷く、お墓参りなんて出来ませんけど、あなたのようなアホのお墓になんて誰もこないんじゃない? 」

 なにか、負けてはいけない予感に背を押され、嫌み混じりの提案を仕返す。

「生憎、『伝説のミグラントここで眠り、百年後に生き返る。だから、俺様の墓を指さして笑うなバカヤロウ! 覚えてろよ』と金で刻んだ墓標には百年先に入る予定だ」
「サービスで、心臓に杭を刺して『伝説のアホここに眠る』と刻み直しておいてあげますわ」
「なんだよ、サービス精神旺盛じゃねーか。その精神をだ」男が親指と人差し指で小さな間隔を開けながら「ちょこっとやり方を変えて、MURAKUMOにまわしてくれよ。会長! 」
「会長? あなたの言うアホの会の? 会長って呼ばないでいただけます? そんな怪しげな会の代表になったつもりはありませんし、なるつもりもありません」
「会員があんたと俺しか居ないのが不満なら、じゃんじゃか集めるぞ。会長! 」
「だから―」

 もう、堂々巡りの平行線である。我らがルスィエルお嬢と無遠慮な傭兵トの言い争いは終わる様子が見えてこなくなってきた。その様子をバッドディフィートの三人が距離を取って眺めている。距離を取ったのは、ルスィエルの怒りがこちらに向くのが怖いからである。
 あの傭兵は何故に、ああも言いがかりを付けてきているのか、お嬢もお嬢で、あんな傭兵を一々相手にすることもないのではないかと、3者は同様の意見であり、言わずともお互いに意見は一致している。そして、彼らのACが除染されたという連絡は未だに来ない。

「俺、明日の夕方にアリーナに出るけど、間に合うか? お嬢に言った方がいいよな? 」

 CDが不安げに呟く。

「あれに混ざる気か? 」
「俺たちはアリーナに出ないから、一人で行ってくれ」

 他2名は、もう本日は営業終了とばかりに明々白々に我関せずである。ため息一つ、CDが言い争いを眺める。ルスィエルが両手を腰に当てて、見上げながら睨み付けている。傭兵は、どこか楽しげにそれを見下ろしている。

「だーかーらーよ! 情報に不備があるなら、騙していたも同然だ! 前に依頼で騙された俺は、そこに怒っている。いや、最初から怒ってないか」
「どちらですの!? 参考までに、私は失礼な傭兵に非常に怒っていますが? 」
「いや、カリカリするなよ会長! 」
「会長と呼ばないで! 」
「俺様としては、無理のあるいちゃもんで難癖つけて、少しでも報酬を増やそうとしているだけだ。ミグラントらしく、こういうところは強かかつシビアに攻めてみようと思ってな。 巨大虫退治なんて、CGもストーリーも出来が悪いバカヤロウSF映画みたいな経験をしただけで実は満足だ! 」
「でしたら、機体の除染も済んでいますので、早急にお帰りください! 」
「もう、いっそのこと、増額はどうでもいい! だから、MURAMURA……じゃねーよ、MURAKUMO友の会を立ち上げろ! 十代の百億Auの夜景より輝くシーズンなんてあっという間だ! 色々と挑戦しろよ! 挑戦しないバカヤロウは只のバカヤロウだぞ」
「そんな挑戦は致しません! 」

 とやはり平行線のまま、そんなやりとりがしばし続いて、傭兵が最後に会員集めは任せろと自分勝手で不吉な言葉を残して帰って行った。
 後に残されたのは、疲れた表情の一人と三人だった。

「はぁ。今後、あの傭兵を雇わないように」

 何とも最低な日である。厄介な虫を相手にして、厄介な問題が生み出され、その上に厄介者を雇ってしまったという汚点。気を落ち着けようと、ルスィエルがストローに口を付けると、再びさわやかなのかくどいのかよくわからない風味が鼻を突き抜ける。

「CD、これは一体何かしら? 」
「野菜を使ったスポーツドリンクですけど」
「セロリの味と香りしかしないわ……もう少し、飲みやすいものを持ってきなさい。全く、結局気が利かないのね」
「あ、すんません。それで、俺の機体ですが」
「今日は、疲れたから明日にして」

 とCDがおずおずと切り出したが、早足で去っていく背を眺めたままに、結局は何も言えずに終わってしまった。
 翌日、ジグザグと名乗る傭兵から追加請求書と会長就任祝いの文面が届いたが、ルスィエルの手によって可及的速やかにシュレッダーにかけられたそうである。

fin.

投稿者:ug
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最終更新:2013年11月18日 22:45