作戦地域へ向う一機の輸送機。
3機もの白い逆間接型ACを提げたその中で、ルネは非常に御機嫌だった。
「大佐がわたくし達にお任せくださった任務ですもの、ご期待に応え、必ずや成功させてみせましょう♪」
「「………」」
「なんですのその目は」
「…いえ」
「ああ、べつに」
あからさまに視線をよそへやる
ニンバスと
ディナにムッとした表情を向ける。
が、喜びの方が勝ったのか、再び顔を幸せそうに緩めると。
「『君達ならばこの相手を倒すことなど造作も無いことだろう』…ええ、ええ当然ですわ♪」
「……」
「『君達にはもの足りない相手かもしれないが、実力の差を見せてやるといい』、ですって! こんなにも目をかけてくださってる!」
やれやれ、と気付かれないようにため息をつくニンバスは苦笑いを浮かべる。
普段のルネが意味もなく噛み付いてくるのに比べればひたすらなこの惚気も耐えられようというもの。
御機嫌で居てくれるならそれに越したことはない―――これからは大佐で気を逸らす方向性でいくかとこっそり決意。
呆れる視線の先では命令が表示された端末機器を胸元に抱きしめ、くるくると舞い踊るルネ。
揺れる機内でふらつくことなく踊り続けるのは身体能力強化の賜物だろう。
もう少しまともな方向に活かせばと思わなくもない。
「…シスター」
「む、どうしたディナ?」
「間もなく作戦空域です。移動をお手伝いします」
身体を固定していたベルトを外し立ち上がったディナは、ニンバスの車椅子を固定しているロックを解除する。
揺れに合わせて進みそうになった車椅子のハンドルを手に取ると抑えこみ、椅子を押す。
「すまないな」
「いえ」
本来ニンバスの車椅子は動力付であり手で押す必要性はない。
おそらくは自分が移動するついでであり、効率の問題であり、決して親切心などではないのだろう。
だがそれでもディナの行為はニンバスにとって嬉しいものであった。
小さく微笑み、そして未だ舞い踊るルネの方を見る。
「ああん、大佐、そんな身に余る光栄…」
なにやら小芝居が始まっていた。
「ルネ。準備をしろ。出るぞ」
「良い所でしたのに…」
なにがだ。
「いいから出るぞ。作戦ファイルは頭に入っているな?」
「バカにしてますの?」
「入ってるなら構わんさ」
手をひらひらとさせてみせると、不機嫌に戻ったルネはフン、と鼻を鳴らして端末を置き、自分の愛機の方へと向う。
待ってくれていたディナに頷くと、ディナはそのまま車椅子をニンバス機の前まで運ぶ。
ドウター・スリー。ワイズマンと呼ばれるその機体のハッチの前でニンバスの車椅子を固定。
「では、シスター」
「ああ、ありがとう」
背を向けて去っていくのを見つつ、ニンバスは車椅子のスイッチを押す。
椅子の部分がスライドをするとそのままワイズマンのコックピットへと収まっていく。
「ん……」
コックピットシートへと変化した椅子の後ろを手で探ると一本のコードを取り、髪をかき分ける。
露出した首後ろのコネクタへとコードをつなぐと、一瞬ニンバスの瞳の中を赤い走査パターンが通る。
しばらくの後、クリアになる視界。
視線の動きと機体のカメラを連動させ、同じ格納庫に収められた二機を確認する。
ドウター・フォー、ファイナル・オデッセイ。
ドウター・ファイブ、ノーブル・ロアー。
「二人共、準備はいいな?」
『はい。異常なし、良好です』
『とっくにできてますわ。遅いのではなくて?』
「すまんな、どうしても一手間多いもので」
『作戦時間まではまだ余裕がありますが』
『そういう問題ではありませんわよ!』
「こらこら、ケンカをするな全く…。…通信、リンク、いずれも問題ないな」
全てを確認し終えると、自分の視界に投影した作戦地域の地図を両機のコックピットモニターにも表示。
「では、軽く確認するぞ」
敵基地周辺へ赤い円をつけ、さらに地下水道を青のラインで塗っていく。
「私のワイズマンは戦闘区域前に降下、二人とは逆のルートで下水道内へ侵入しそこから指示出しをすることになる」
『ええ、ええ。楽ですわねぇオペレーターは』
「そう言うなルネ。本来はお前たちの撃ち漏らしを倒す予定だが…」
『ハッ…私達が撃ち漏らすとでも?』
通信越しにルネのドヤ顔が見えたようでくくっ、と思わず笑いが漏れる。
『…ちょっと、今の笑い、どういう意味ですの?』
「いいや、なんでもないさ…ともあれ、偶にはいいじゃないか。姉を楽させておくれ」
『…貴女みたいなちんちくりんを姉と認めた覚えはありませんし、楽させる義理もありませんわよ』
『シスター、撃ち漏らしをしては…』
『わかってますわようるさいですわね! ニンバスだけでなくディナ! 貴女もですわ! わたくしの活躍を指でも咥えてみていなさいな!!』
ぶつん、と通信が強引に切断された。
機体同士のリンクが途切れていないことを確認してから、今日何度目かになる溜息を一つ。
「…癇癪にも困ったものだな」
ちんちくりん、の言葉にやや傷付きつつそれを表に出さずニンバスは機体の全体をたちあげていく。
「ではディナ、悪いがルネのフォローは頼むぞ」
『了解。ドウター・ファイブのフォローに回ります』
素直な返事に頷くと、接続されたクレーンの位置を調整し、機体の投下体制に入る。
同じように空中に吊るされ投下体制に入った二機を見てから告げた。
「ドウター・スリー、ワイズマン。先行投下に入る」
<Daughter-Three stand by ready>
「…出るぞ」
白い逆関節型ACが、降りる。