オーダーミッションNo.019【離反者抹殺】CASE1 「廻レ三羽鴉」


難易度: C
依頼主:大佐
作戦領域:地下下水路
敵対勢力:元バンガード
敵戦力: バンガード所属AC・ストライカー×1、コマンダー×1、その他MT数機
作戦目標:敵戦力の壊滅 
特殊事項:一機でも敵戦力を逃した場合失敗。
またこの依頼は『フルールドリス』のメンバーしか受けることが出来ない

概要:
私に従わない愚かな裏切り者を、始末してもらいたい。
対象は、我々バンガード側の者だったACだ。
彼等は密かに我々を裏切り、貴重な機密情報を敵に提供したらしい

しかし、我々の作戦を幾度もやってきた実力者であることは事実だ。
そこで彼等の始末を内密に行うため、君達にこの依頼を出した。君達ならばこの相手を倒すことなど造作も無いことだろう。
誰が出撃するかはそちらに任せる。
君達にはもの足りない相手かもしれないが、実力の差を見せてやるといい。

ただし、失敗は許されない。生き残りたければ必ず敵を殲滅することだ。

なお、敵は人目を避けて下水路から離脱するつもりだ。くれぐれも装備の点検を怠るな



 作戦地域へ向う一機の輸送機。
 3機もの白い逆間接型ACを提げたその中で、ルネは非常に御機嫌だった。
「大佐がわたくし達にお任せくださった任務ですもの、ご期待に応え、必ずや成功させてみせましょう♪」
「「………」」
「なんですのその目は」
「…いえ」
「ああ、べつに」
 あからさまに視線をよそへやるニンバスディナにムッとした表情を向ける。
 が、喜びの方が勝ったのか、再び顔を幸せそうに緩めると。
「『君達ならばこの相手を倒すことなど造作も無いことだろう』…ええ、ええ当然ですわ♪」
「……」
「『君達にはもの足りない相手かもしれないが、実力の差を見せてやるといい』、ですって! こんなにも目をかけてくださってる!」
 やれやれ、と気付かれないようにため息をつくニンバスは苦笑いを浮かべる。
 普段のルネが意味もなく噛み付いてくるのに比べればひたすらなこの惚気も耐えられようというもの。
 御機嫌で居てくれるならそれに越したことはない―――これからは大佐で気を逸らす方向性でいくかとこっそり決意。
 呆れる視線の先では命令が表示された端末機器を胸元に抱きしめ、くるくると舞い踊るルネ。
 揺れる機内でふらつくことなく踊り続けるのは身体能力強化の賜物だろう。
 もう少しまともな方向に活かせばと思わなくもない。
「…シスター」
「む、どうしたディナ?」
「間もなく作戦空域です。移動をお手伝いします」
 身体を固定していたベルトを外し立ち上がったディナは、ニンバスの車椅子を固定しているロックを解除する。
 揺れに合わせて進みそうになった車椅子のハンドルを手に取ると抑えこみ、椅子を押す。
「すまないな」
「いえ」
 本来ニンバスの車椅子は動力付であり手で押す必要性はない。
 おそらくは自分が移動するついでであり、効率の問題であり、決して親切心などではないのだろう。
 だがそれでもディナの行為はニンバスにとって嬉しいものであった。
 小さく微笑み、そして未だ舞い踊るルネの方を見る。
「ああん、大佐、そんな身に余る光栄…」
 なにやら小芝居が始まっていた。
「ルネ。準備をしろ。出るぞ」
「良い所でしたのに…」
 なにがだ。
「いいから出るぞ。作戦ファイルは頭に入っているな?」
「バカにしてますの?」
「入ってるなら構わんさ」
 手をひらひらとさせてみせると、不機嫌に戻ったルネはフン、と鼻を鳴らして端末を置き、自分の愛機の方へと向う。
 待ってくれていたディナに頷くと、ディナはそのまま車椅子をニンバス機の前まで運ぶ。
 ドウター・スリー。ワイズマンと呼ばれるその機体のハッチの前でニンバスの車椅子を固定。
「では、シスター」
「ああ、ありがとう」
 背を向けて去っていくのを見つつ、ニンバスは車椅子のスイッチを押す。
 椅子の部分がスライドをするとそのままワイズマンのコックピットへと収まっていく。
「ん……」
 コックピットシートへと変化した椅子の後ろを手で探ると一本のコードを取り、髪をかき分ける。
 露出した首後ろのコネクタへとコードをつなぐと、一瞬ニンバスの瞳の中を赤い走査パターンが通る。
 しばらくの後、クリアになる視界。
 視線の動きと機体のカメラを連動させ、同じ格納庫に収められた二機を確認する。
 ドウター・フォー、ファイナル・オデッセイ。
 ドウター・ファイブ、ノーブル・ロアー。
「二人共、準備はいいな?」
『はい。異常なし、良好です』
『とっくにできてますわ。遅いのではなくて?』
「すまんな、どうしても一手間多いもので」
『作戦時間まではまだ余裕がありますが』
『そういう問題ではありませんわよ!』
「こらこら、ケンカをするな全く…。…通信、リンク、いずれも問題ないな」
 全てを確認し終えると、自分の視界に投影した作戦地域の地図を両機のコックピットモニターにも表示。
「では、軽く確認するぞ」
 敵基地周辺へ赤い円をつけ、さらに地下水道を青のラインで塗っていく。
「私のワイズマンは戦闘区域前に降下、二人とは逆のルートで下水道内へ侵入しそこから指示出しをすることになる」
『ええ、ええ。楽ですわねぇオペレーターは』
「そう言うなルネ。本来はお前たちの撃ち漏らしを倒す予定だが…」
『ハッ…私達が撃ち漏らすとでも?』
 通信越しにルネのドヤ顔が見えたようでくくっ、と思わず笑いが漏れる。
『…ちょっと、今の笑い、どういう意味ですの?』
「いいや、なんでもないさ…ともあれ、偶にはいいじゃないか。姉を楽させておくれ」
『…貴女みたいなちんちくりんを姉と認めた覚えはありませんし、楽させる義理もありませんわよ』
『シスター、撃ち漏らしをしては…』
『わかってますわようるさいですわね! ニンバスだけでなくディナ! 貴女もですわ! わたくしの活躍を指でも咥えてみていなさいな!!』
 ぶつん、と通信が強引に切断された。
 機体同士のリンクが途切れていないことを確認してから、今日何度目かになる溜息を一つ。
「…癇癪にも困ったものだな」
 ちんちくりん、の言葉にやや傷付きつつそれを表に出さずニンバスは機体の全体をたちあげていく。
「ではディナ、悪いがルネのフォローは頼むぞ」
『了解。ドウター・ファイブのフォローに回ります』
 素直な返事に頷くと、接続されたクレーンの位置を調整し、機体の投下体制に入る。
 同じように空中に吊るされ投下体制に入った二機を見てから告げた。
「ドウター・スリー、ワイズマン。先行投下に入る」
<Daughter-Three stand by ready>
「…出るぞ」
 白い逆関節型ACが、降りる。



 ワイズマンを見送ると、ディナは再び戦闘区域を確認。
 事前に送られていた離反者のデータから、行動パターン、逃走パターンを割り出していく。
 と。
「―――シスター、何を?」
 投下体制に入り宙吊りとなった機体のハッチを開け、外に身体を乗り出すルネが見えた。
「シスター、危険です」
 聞こえていないのか無視しているのか。
 ルネはそのまま外の様子を伺うようにしつつ、目を閉じ、鼻を引くつかせる。
「匂いませんわね」
 外部マイクが拾った声に疑問符を浮かべながら、音声出力を変更しディナは繰り返す。
「繰り返します、シスター。危険です。コックピットにお戻りください」
「…なんですの無粋な」
 どさ、とルネがコックピットに座り込む音を聞いて、ハッチが閉じたのを確認、通常通信へと戻す。
「少し外の匂いを確認していただけじゃありませんの」
「ですが危険な行為です」
「状況確認には必要な行為ですわ。空気の匂いだけでも判断できることがあり――」
「ですが危険な行為です」
「それしか言えませんの!? 機械みたいに繰り返すばかりで!!」
 苛立ちの感情を抑えきれないルネの怒号。
 それに対し数秒の間をおいてから、ディナは応えた。
「何故そのように感情を外面に晒すのか、理解不能です、シスター」
「こ、んのっ……!!!」
 ガツン、と通信機の向こうから異音が響いた。
「計器に当たるのは――」
「うるさい、うるさいうるさい!! しばらく黙りなさいな!!!」
 強引にノイズを残しながら再び通信が切られた。
 しばらくドウター・ファイブを無感情な瞳で眺めると、ディナは再びマップの確認に入る。
 一方で、自分のコックピットに戻り苛立ちを抑えるべくガツガツとペダルを蹴るルネもまた、マップを確認していた。
「…………フン」
 外の空気には戦場の空気は一切なかった。
 つまり、敵はまだこちらの追手に気づかずに駐留している。
「――面白みのない獲物ですわね」
 せめてまともに抵抗して欲しい。
 強敵ならば、大佐から武装の使用許可も出るかもしれない。
 許可が貰えれば――「アレ」を撃てる。
 「アレ」をぶっぱなしての敵の制圧ほど愉しいものはない――なにより、大佐に近づけた気がするのだ。
 そうだ、これが終わったらまた大佐に―――。
「シスター、時間です」
 ディナの声がルネを現実へと引き戻す。
 一つ舌打ちをすると、ルネは改めて操縦桿を握り直した。
「わかってますわ。ドウター・ファイブ! ノーブル・ロアー! 出ますわよ!!」
「ドウター・フォー、ファイナル・オデッセイ、準備完了」
<Daughter-Four & Daughter-Five stand by ready>
 機体のロックが外れ、新たな二機のACが解き放たれる。

「さあ……蹂躙開始、ですわね!!!」



投稿者:フェイ
登録タグ: 小説 フェイ 読み切り
最終更新:2013年11月20日 00:02