よくもまあ、昔の人間はこんな馬鹿でかいものを造る気になったものだと思いつつ、
シメオン・ムーシェはブラボー・フォーを『マザー』の前脚に相当する部分に着地させた。
いつも通りに右腕のスナイパーキャノンを展開し、四本の足で『マザー』の足にへばり付く。アンカーは打ち込まず、足先にあるフックでがっしりと機体を保持する格好になった。
ムーシェはうきうきしていた。スナイパーキャノンの整備状態は珍しく良好だ。そうであるならと、今日は強装弾を装填している。これなら遠距離でも通常兵器をやすやすと撃ち抜ける。砲撃用データの書き換えは既に完了し、あとは実射を残すだけ。
さて、狩りの時間だと、ムーシェはいつものセリフを言おうとしたが、それをバタリアン・ガードからの通信が妨げる。面倒そうな、なにかに呆れたような声だ。
『ブラボー・フォー、これはどういうことだ。説明しろ』
「どういうこともこういうことも、見れば分かるはずだ。単機でこのミッションの遂行は難しいから、もう一人こちらで雇い入れたんだ」
『それは見て分かる。だが、どうしてよりによって、雇い入れるのが〝あの〟《ショートテイル》なんだ!?』
お前のところの報酬の半分で雇い入れられるのはそいつくらいだ、とムーシェは思わず言い返したかったが、友軍のオープンチャンネルで発信しているので違う言い回しを考えた。
「……囮には最適だと判断した」
『ふっふっふ……せいぜいウチが囮だと思い込むがいいっちゃ。そして背中で語るウチに惚れるがいいっちゃ!』
『――はぁ、なるほど、納得した。たしかに最適だな』
『あ、あれ? なんで誰もツッコミいれてくれないんだっちゃ?》
ため息交じりのバタリアン・ガードからの返答に、ショートテイルがうぎゃーうがーと不平を垂れる。
さらにそれでは収まらず、頭上を通過する大型ヘリF21ストークに吊るされている《ドレイクV-03》が、まるで人間のように手足をバタつかせていた。
それに伴いヘリが左右にぐらぐらと揺れるが、パイロットはラダーやフラップを巧みに扱い機体の動揺を最低限に抑えている。
『こちらジョブ・グッドマン。《ドレイクV-03》を投下するぜ』
『了解した。次は甲板上で待機している《ブランシュオルム》をB-37地点に投下してくれ。マーカーをセットする』
『了解したぜ。また会おうぜ、ショートテイルの嬢ちゃん。無事に帰れたら奢ってやるよ』
不平不満を絶妙なオタク言語でこれでもかと喚いていたショートテイルだが、空中でヘリからパージされればその口も自然と閉まる。
不自然な体勢でパージされた《ドレイクV-03》は、一瞬頭から着地しそうになりはしたが、ブースターと四肢を巧みに制御して無駄に一回転しながら着地。
砂埃を舞い上げながら《ドレイクV-03》が足を踏ん張って降下時の速度を相殺し、ちらりと『マザー』の足の上にいる『ブラボー・フォー』を見る。
「見事な着地だと褒めてやりたい所だ。だが無意味だ」
『酷いっちゃ!? 今の着地は少しくらい褒めてくれてもいいはずだっちゃ!!』
「ああ、そうだな。よくやったショートテイル。敵が来た。応戦してくれ」
『むむむ……ウチを誑かしたこと後悔するが良いっちゃ! この苛立ちすべて敵にぶつけてくれよう!!』
「おい待て、前進し過ぎるな。こちらの有効射程圏内での戦闘を―――」
『ハイダラァァァァァァ!!!』
ムーシェは頭を抱えて、敵部隊につっこんでいく《ドレイクV-03》を見送った。
とはいえ、考え直してみれば《ドレイクV-03》が不自然に逃げ回っているより、つっこんだあとに逃げ帰って来てくれる方が狙いやすい。
「……偶然なのか狙ってやってるのか、よく分からんな」
どっちにしろ、俺は狙い撃つだけだがなと呟き、ムーシェはしばらく待つ。
数分もすればボロボロになった《ドレイクV-03》が逃げ帰ってきて、それに釣られた敵部隊が射撃演習の的よろしく直進してくる。
あとはそいつらのコクピット目掛けて高速徹甲弾をお見舞いしてやるだけだ。ムーシェが引き金を引くと、スナイパーキャノンの甲高い砲声がバタリアに響く。
四本足の狩人から逃れられる者は、ここにはいない。
最終更新:2013年11月23日 15:33