「──とのことなんだけど」

作戦領域がこの近くを条件にした依頼の一つを、金髪碧眼の女性がモニターを見たまま告げる。物腰柔らかで知的な印象をもった女性で、白いワイシャツに黒いパンツというコーディネートをしていた。
その隣にいるのは、飾り気のない黒いシャツに無彩色メインのデジタル迷彩パターンのカーゴパンツを身に纏った人物だった。肩の滑らかな曲線は女性的であったが、胸部は薄いものの胸板を有している。これで防砂用のマントを羽織っていれば、その顔立ちを見ただけでは女だと間違われてしまいかねないほどに、その人物は中性的な顔をしていた。
セミロングの黒髪に赤い瞳をもった彼──ナイト=レイヴンはトレーラーのハンドルを握り、前を見ながら少しだけ間を開けて答えた。

「受ける」

いってみればアインベルダー社のミッションはルーキーの登竜門といっていい定番のものだ。間違ってもランクAの彼が受けるべきものではない。それでも彼は受けると言ったのだった。真面目に運転する彼の顔を見ながら面白半分に彼女は、

「ふうん。お金は十分なのに?」
「受ける受けないは俺の勝手だろう」
「そっか、なーっるほっど。そういうことかぁ~。さっきの街への物資を護衛するためでしょ?」

彼らは先ほどの街の、彼が顔なじみだという修理工の元を訪れた際のことを思い出していた。
修理工は腕は確かな初老の男性で、孫や孫娘らには好好爺として親しまれている。そんな彼を住人に含む地方都市はアインベルダーの物資によって生活を保っている。
修理工はボソリと呟くように、すっかりと長くなった白い髭を撫でながら告げた。

「最近は物資が届きづらくてのぅ」

アインベルダー社は物資輸送護衛ミッションとして、輸送部隊の護衛を依頼している。本来ならそれでいいのだが、修理工のいる地方都市へは悪魔の悪戯か依頼を受けるミグラントが居なかった。
そしてたまたま時間が空いている自分が受けるだけ。

「勝手にそう思っておけ」
「うん。そう思っておく」

彼女の口から言葉を発する間に、彼女の指がミッションの受諾を伝える旨を送信していた。


広陵な砂漠にビルだった名残が顔を覗かせる地域に、彼らはいた。
戦闘用ヘリに戦車という、戦うための兵器に乗り込んだ彼らは、この世界における略奪者の一部であった。その鋼は弱者を脅し、時には命と財産を奪う為のものだ。そんな彼らは、今回も来るであろう獲物が、通過するのを虎視眈々と待ち構えていた。
何度か変わる輸送路だが、彼らの一人が情報収集が僅かばかり優れていた為にこうして予め待ち伏せができるのだった。

「へへへ、今日もがっぽり頂こうか」

生きるためという免罪符で弱者から財を奪う彼らは、今回もまた襲撃後のことを考えていた。
だが彼らは忘れていた。自らも弱者に成り下がることもあることを。

まず最初に聞こえてきたのは、彼らの保有する戦闘用ヘリよりも大型で低いローター音を木霊させる灰色の塗装がなされた輸送用ヘリの翔きだった。
その輸送ヘリには……黒字に金色の縁どり塗装が成された人型兵器が吊るされていた。
アーマード・コア。過去の人類が生み出した暴力のサラブレットだ。

「へ、へへ……相手は一機だ」

震えながらも、心の片隅では余裕が僅かに顔を覗かせていた。彼らには仲間がいる。この場にはいないものの、呼べば数分以内に馳せ参じることができる場所にいる。その安心感が彼らに撤退という二文字をこの時点で選択させる余地を奪っていた。どうせ相手はACに乗り立てのルーキーに違いないのだ。
ACは降下し、意外と軽やかな様子で着地した。輸送用ヘリは荷物を降ろすとゆっくりと後退していく。武装組織の一人が、降下したACのエンブレム……鳥に十字と、02という数字を赤く描かれたものと、666という数字を記された髑髏と1対2つの鎌、棺桶を白く描かれた旧いものを見て、特に後者を信じられないものを見たかのように震え上がった声を漏らした。

「……埋葬者だ」

衝撃は瞬く間に襲撃者らに広がった。
埋葬者……正式名は政府軍第7首都独立防衛大隊所属第666戦術機動戦隊。かつての政府の恐怖の一端を担っていた存在だ。彼らの戦い振りは尾ひれが付いて誇大表現こそされるものの、虚構ではないのだ。

「んな馬鹿な! 奴らは壊滅したはずだろ? せいぜいエンブレムをそれっぽく描いた偽者だ」
「ビビるかよ! そんなもので」

襲撃者らは挑みかかった。本物の埋葬者はいるはずがない。彼らはバンガードとの戦いで壊滅したはずなのだから。
しかし彼は本物だったということが彼らの不運で、
猫がライオンに喧嘩を売った、それだけのことで。

数分後にアインベルダー社のMT部隊がやってきた時には、黒煙を上げている襲撃者の亡骸が転がっているだけだった。



投稿者:店長
登録タグ:小説 店長 読み切り
最終更新:2013年11月23日 16:16