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夜の砂漠というものは、文明の大凡の人工の光を失わせた結果、漆黒の闇の海と、満天の星空の海によって占められている。
その前者の海を往くのは、無限軌道という動力と船体を持つ無骨な戦闘機械──戦車であった。彼らに守られるようにして箱型のミサイルコンテナを有するミサイル車両が眠るようにいた。
暗視装置による警戒をするその中を、戦車よりも大きなモノが佇んでいる。人によく似た構造──つまり頭部と腕部、胴体部を有する上半身と、戦車のそれとはサイズが異なる無限軌道の下半身を持ったそれは、タンク型AC『マーヴェット』であった。

彼がバンガードの依頼を受けて、OVAの資源基地の一つを占拠に手を貸してから大凡一二時間程が経過しただろうか。空を忌々しいほど明るく照らしては、その光と熱とで生命を虐待し続ける太陽が姿を消してからというものの、長年の勘がそろそろ何かが起きることを予感させた。その予感によく似た何かを、彼は過去にも経験したはずだった。

何かが爆ぜる音と、僅かに閃く光。音は近づき、光はよりその眩さを増して。
戦車が突然、火を吹いた。ACといった機動兵器が使うライフル弾の発射音が一発だけが暗闇の中でその正体を示した。
星の海原を背景に何かが飛翔している気配を、フェオは記憶の残滓から拾い上げた。

通信には戦車の撃破を受けての恐慌と、それらを解消するべく指揮官から放たれる叱咤とで満ちる。だがそれもライフルの発射音が十一を迎えるころには途絶えた。戦車だったモノやミサイル車両だったモノから燻る炎が、下手人をフェオの前に暴き立て。
──その橙色の炎が、あの日の夕焼けを演出する。

彼にはあの時聞いた言葉が過ぎった。敵との通信回線は繋いでおらず、振動を利用した接触回線すら機能していない。
だがあの何もかもが赤く染まった丘で聞いた、あの言葉が脳裏に朗々と響いた。

『我は敵(かたき)を埋葬する者──砲弾の土を被り、鋼鉄を棺桶に、永久に地獄で眠れ』

それは黒字に金色の縁塗りという塗装の施された中量級二脚だった。
それは肩に二つのエンブレムを身につけていた。
一つは紅い鴉と十字架、02という文字が描かれたモノ。
もう一つは───。

「──第666戦術機動戦隊(まいそうしゃ)

滅びたハズの亡霊を示す、紋章であった。


ひどく大破したコアの中で、またこなかった彼女の事に落胆しつつも、つい先ほどの光景をツギハギだらけの体をほぐすように揺すりながら思い出していた。
ほぼ必中するはずの──レンジ50という至近距離における──両の手に握られた連射型スナイパーライフルの弾幕を、奴は臆することなく跳躍移動(ブーストドライブ)でくぐり抜けた。僅かに腕部や脚部を広げることで重心をづらし、その微妙な軌道変化を利用して機体を必殺の攻撃の隙間に滑り込ませたのだ。
文字通りACを手足の延長上として扱いこなせるまでの訓練量に、迫り来る死の恐怖を克服するまでの度胸は驚嘆に値した。

最初の衝撃──高威力のバトルライフルによるものだと、後に判明したが──で両肩とコアをつなぐ関節部分をブチ抜かれた。つなぎ目を失って脱落する腕部によるバランス喪失は車両型の脚部が支えた。だがそれは同時に体当たり(ブーストチャージ)以外の攻撃手段を失った瞬間でもあったのだ。

頭部のカメラセンサーにめいいっぱい相手が──埋葬者の塗装が施されたACが写りこんだ瞬間、フィオの世界は直下地震に見舞われた。相手からの脚部の展開装甲を生かした蹴りだった。十分な加速と重量、さらに装甲の硬さとがブレンドされた一撃は、頑丈さに定評のある重量級コアにも十分なダメージを与えたのだった。内部がひしゃげ、刺々しい破片がが体に突き刺さる。普通ならこの時点で即死していても可笑しくないのだが、生きているのは彼だからだったというだけ。

そして最後に、彼は相手が残した言葉──律儀に接触回線を用いたものだった──を反芻するのだった。

『あの血染めの丘で死んだはずの貴様が何度でも蘇るのであれば、その度に俺が葬ってやる。
 墓場から這い出てくるのであれば、その度に埋葬してやる。
 亡霊として彷徨うのであれば、俺が地獄へ導く灯火になってやる。
 それが互いに戦場でしか生きる道を見いだせないモノ同士の、お前に対する俺の手向けだ』



投稿者:店長
登録タグ:小説 店長 読み切り
最終更新:2013年11月23日 16:18