狩猟用ショットガンやボルトアクション・ライフルを持った私服姿の民兵たちの数は、それほど多くはなかった。
皆、政府解体を騒ぐ過激派政治団体のTシャツを着て顔をシュマグやターバンで隠し、略奪や無差別殺人を愉しむような卑怯ものどもであり、今やっていることもその一環に過ぎないのだろう。
民兵たちに取り囲まれ汚されているのは煤と泥で汚れた若い女性で、その女性にすることをし終えた民兵たちはズボンを穿き直しベルトを絞め、銃を持って周囲の警戒に戻っていくのを繰り返している。
「あいつら、何度犯ったら女を殺すんですかね」
心底うんざりだ、という声音でリード・コワルスキーが呟くのを聞き、
シメオン・ムーシェは彼を睨み付けた。コワルスキーは口を噤み、黙った。
一方でイオン上等兵はじっとライフルの照準器越しに民兵たちが束の間の征服者ごっこをしているのを見つめ、シメオンの指示にいつでも従えるよう、人差し指をトリガーガードにかけていた。
どうするべきかと、シメオンはコワルスキーにギルバートと警戒任務を引き継ぎをしろと言い付けながら考えた。人間としてなら、彼女を救うべく戦うべきだが、スナイパーとしては、そして何より隊長としては、彼女を救うわけにはいかない。
彼ら民兵もどきが無法をしでかすような場所であっても、兵士は兵士として規律ある行動をすべきだ。それは軍隊を軍隊足らしめるものであり、戦闘に一切の邪念なく専念するための下地でもある。無法に飲まれることは、兵士の志を失うことだ。
我々、第175斥候狙撃小隊はそうあるべきではないと、ムーシェは思っていた。たとえ
ギルバート・マクダウィルがペドフェリアのレイパーだとしてもその信念は変わらないし、戒律に従い冷静に対処すべきだと身心深いムーシェは信じていた。
しかし、神の存在を信ずるムーシェであっても疲労はあった。たかが5キロ足らずだというのに、どうしてここまで神経質にならなければいけないのだとイライラしていたし、なにより数百メートル先の民兵気取りの強姦魔野郎をぶち殺したくて仕方が無かった。
もし彼が小隊長として部隊の生存を考えず慈善活動をすべきだと考えていたなら、ムーシェは使い慣れたM24ボルトアクション式7.62㎜×51㎜弾仕様の狙撃銃のスリングを掴み、流れるような動作で照準し、セーフティーを解除し、その重銃身から硝煙と暴力の女神を解放し、悪しき大罪を犯した獣どもを屠っただろう。
だがそれは無理なことだ。今は小隊を生かすために行動すべきだ。いつか政府を復活させるとき、充分に訓練と経験を積んだスナイパーは必ず必要になる。その時のために、ムーシェは第175斥候狙撃小隊を投降させ、生き永らえさせる必要があった。
「小隊の生存が第一だ。警戒を続けろ。十分後に再行軍だ」
「了解です、小隊長殿。胸糞悪いが、俺たちだって命懸けなんだ。一人は七人の為にってんなら、納得もできますさ」
おどけた調子でコワルスキーが肩を竦めながら言うと、皆頷いた。シメオンはそれを見て頷き、重々しく言った。
「納得できなくても、納得しろ。俺たちは高度に訓練された兵士だ。そこらの歩兵や一般人とは価値が違う。簡単に死ぬことは赦されない」
「同感であります、サー。第175斥候狙撃小隊皆、小隊長と同じ考えであります」
「同じ考えならその顰め面を五秒以内に消し去れ、コワルスキー。無表情に努めろ」
シメオンが吐き捨てるように言うと、コワルスキーは舌をぺっと突き出しながら笑った後、無表情に戻った。
今は疲労を癒す時だ。そして、十分後には再び過緊張とアドレナリンの噴出に耐えながら、どこから銃弾が飛んでくるかもわからない路地を進まなければならない。
さて、どうして俺はこんなマゾヒストのようなことをやっているのだか、とシメオンが思っていると、銃声が鳴った。同時に、イオンが言った。
「……強化歩兵発見、距離目測100メートル、数6」
「今の銃声はなんだ、上等兵」
「強化歩兵が民兵を射殺した音です。……強化歩兵の胸甲には、赤と黒の逆さ鷲、クーデター軍のエンブレムが見えます」
「――なるほど、そうか」
イオンからの報告を受け、シメオンは考えた。そして、閃いた。
クーデター軍が友軍である民兵を殺すのは不可解ではあるが、納得できる。
なぜならば、クーデター軍は創設時に不名誉な証拠が残ることを好まない。不名誉は基盤を侵食し、無駄なトラブルしかもたらさない。そのための治安維持活動というわけだ。
ここで彼らに投降すればいいのではないかと、シメオンは思った。リスクは高い。だがチャンスでもある。
「上等兵、彼らは階級章などを装着した、戦時法に基づいた格好をしているか?」
「しております、軍曹。部隊長は少佐、他は下士官2、兵卒3です」
一方で民兵はなにも装着せずに武器を持ち、女を犯した無法者だ。これなら目撃されていても反論はない。
つまるところ彼らは、きちんとした法に基づき行動しているということになる。治安維持部隊なのだから、当然のことではあるが。
「――よし、全員、白い布を探せ。弾倉を抜き薬室から弾を取るんだ。彼らに投降しよう」
シメオンが言うと、バトルライフルをフルオートで発射する音が響く。無法者どもは死んだ。
誰もが部隊長の正気を疑うような顔をしていたが、ギルバートはすぐさまそれを実行した。白いカーテンを剥ぎ取り、ライフルのストックに撒きつけ、弾倉を抜き薬室から弾薬を取る。
ギルバートが部隊長に従うのを見て、他の部隊員たちもそれにならう。武装を解除し、まったくの無力になって、銃を持った強化歩兵の前へと出なければならないという覚悟は、まだ誰もできていないようだった。
「皆、準備ができたな。良いか、ストックは持つな。銃身を持って、ストックに布を巻きつけろ。不意打ちなどできないような滑稽な格好で、狙撃部隊という名に恥じぬくらいに堂々と行進する。さあ、日陰者が日向に出るんだ。胸を張ろうじゃないか」
部隊長である、若き軍曹シメオン・ムーシェその人を除いては。
最終更新:2013年12月08日 16:09