アットウィキロゴ
(投稿者:ししゃも)






 わたしは、一人の女性と共に旅をした。
 復讐のため。それはまるで無意味なものに見えるが、わたしたちにとってそれは「存在意義」のようなものだった。

 わたしは、一人の女性と共に旅をした。
 これから語るのは、わたしたちの物語。その一部。







Out Siders 第一話「Voyager」



 ユリにとって、多目的ヘリ「STORK」の乗り心地は最悪だった。恐らくパイロットのせいだろう。
 特に天候が悪いわけでもなく、かといって高高度を飛行しているわけでもない。地表数百メートルほどの低空飛行だ。それなのに、気持ち悪い。
 これなら、運び屋専門のミグラントに送ってもらった方が良かった、とユリは不機嫌になってしまった。

「ユリちゃーん。目的地まで残り十分」

 満足に体を動かせることができない、狭苦しいコクピットの無線機から、陽気な女性の声が聞こえてくる。ユリはそれに返事をするため、手前に置かれているタッチパネル式のコンソールを人差し指で突く。

「わたし、こんなに乗り心地が最悪のヘリに乗ったの初めてだわ」

 それを聞いた女性――アザミの笑い声がコクピットに反響する。ますます、ユリは不機嫌になる。

「まぁまぁユリちゃん、今回の任務覚えてる?」

「依頼元は、新興勢力『ラインライブズ』。そこの領域にちょっかいを出そうとしている、無所属ミグラント勢力の壊滅」

 宥めようとするアザミの言葉を聞いて、ユリは冷静になりつつ今回の依頼の内容を復唱した。
 社会的弱者の受け入れを積極的に行うことによって、勢力を拡大したミグラント集合体組織「ラインライブズ」。現在は、勢力拡大と同時にバタリアとの協同体制を結んでいる。今回の依頼も、それをつけ狙った「無法者」の撃退。

 依頼を請け負ったのも、「政府転覆」によって敗走した「旧政府」のACパイロットが「ラインライブズ」に多数在籍している。その「旧政府」繋がりを持っていたアザミの、ツテによるものだった。

「ま、そういうこと。バタリアと協同体制を結んだっぽいけどねぇ。所詮は新興勢力で、メンツは玉石混交。それにバタリアから見れば外様だし。端くれたミグラント相手でも、無い金絞って傭兵雇うしかないわけ」

 まぁそれなら、ヘリの乗り心地も我慢――できるはずがない。心なしか、アザミですら「ラインライブズ」を小馬鹿にしている風にも読み取れた。

「――アザミ、そっちの調子はどうなの」

 軽い咳払いと同時に、ユリとアザミの無線通話にもう一人の女性が入ってきた。口素振りから察するに、先ほどの会話は全て聞いていたといって間違いはない。

カーテナ、僕の準備は大丈夫だよ。オペレーティングシステム、起動準備よしっと」

 アザミは、ユリとの会話に割り込んだ女性――今回の依頼主であるカーテナの名を呼ぶ。凡そ、それは依頼主との間に成立する「仕事」という概念からかけ離れている対応だった。

「敵勢力の規模を把握できているわ。戦車一個中隊及び防衛型機甲兵器が一個小隊。名無しのACが1機よ」

 カーテナの言葉を聞いて、ユリはメインモニターを眺める。自分が搭乗しているAC「ウルトリクス」が、STORKに拘束された状態で運ばれていた。
 ACの機体各所に埋め込まれたカメラと、オーバースペックともいえるCPUによって作り出される「三次元投影」。それが、ACの強みだった。

 そして、ウルトリクスの前方――荒れ果てた荒野地帯の地平線から、小規模な爆発や砲声が聞こえてくる。既に戦闘は始まっているらしい。
 戦闘プランは、あらかじめ決まっている。依頼主であるカーテナの「ラインライブズ」の部隊が正面から敵性ミグラント部隊と交戦しながら、その背後をユリが挟撃する。本来なら、アザミもACに搭乗し、ユリと一緒に随伴する予定だった。しかし、バタリア領へ来る道中の、ちょっとしたミグラント同士の小競り合いに巻き込まれた際に負傷をしてしまったため、今回はオペレーター役としてバックアップすることとなった。

「目標エリアまで、残り六十秒」

 ユリが色々と考えている間に、戦線がすぐ先へと迫っていることをアザミが伝える。。
 こちらの様子にまったく気づいていない、戦車部隊の後方。その先に、交戦している機甲兵器とAC。どちらも目先の敵に釣られている。

「ウルトリクスとのリンク接続、並びにオペレーティングシステム、起動開始」

 ユリのメインモニターに、「Operating System.LINK Now」の文字が浮かび上がり、アザミが所持しているオペレーティングデバイスとの完全な同調が開始。すぐさま、メインモニターにアザミがアルファ、ブラボー、チャーリーのポイントを設置。どちらも、敵主要部隊の位置をスポットしているものだった。

 直後、STORKのフックハンガーが解除。それと同時にユリのAC、ウルトリクスは機体各所に埋め込まれたメイン、サブブースターを起動させ、地面へと落下。

「メインシステム、戦闘モード起動します」

 ブースターによる、落下時の反動を軽減しながら、ウルトリクスは着地。それと同時に、AIが戦闘モードを起動したことを告げる。
 アザミが指定したアルファポイント――ウルトリクスから、八百メートルほど離れた戦車部隊。まだこちらには気づいていない。

 ユリはすぐに、ウルトリクスを動かした。ハイ・ブースト――メインブースターの出力を一時的に最大限まで向上させ、機体を前後左右に押し出す――によって、爆発的な加速で距離を詰める。
 搭載されているFCS(火器管制システム)が、戦車部隊をロックオンする。そしてユリは、トリガーを引いた。
 ウルトリクスの両手に装備されているガトリングガンと、ヒートマシンガンの砲口から砲弾が発射。一寸の狂いなく、それらは無防備な背後を晒す戦車小隊へ直撃する。
 一瞬で戦車小隊を壊滅させたウルトリクスは、すぐさまブラボーポイントへ向かう。そこは、戦車小隊の後方で、援護射撃をしているACだった。

「敵AC、スキャニング完了。重量逆関節型AC。レーザーライフル及びバトルライフルを二丁ずつ装備。肩部兵装にはサブコンピュータを搭載」

 アザミが敵ACを解析し、機体構成を告げる。直後、戦車小隊が壊滅したことを知って、敵ACはウルトリクスと向き合う形になった。

「撃ち合いは確実に不利。VTFミサイルとライフル及びガトリングガンに兵装を切り替えて」

 そのまま突っ込みそうになったユリは、アザミの通信を聞いて、敵ACとの距離を約千メートルを維持すように調整する。
 対する敵ACは、両手に装備したレーザーライフルをチャージしているのか、砲口が赤い色に発光している。ユリのウルトリクスはKETEに装甲が特化された中量二脚であり、CEを使用するバトルライフルには弱い。かといって、レーザーライフルほどの高出力TE弾を弾くだけの装甲も持ち合わせていない。

 ウルトリクスは、有効射程外からガトリングガンとライフルをノーロックオン状態で発射。砲弾は全てでたらめな方向へ飛んでいくが、そのうちの二三割が敵ACへ命中する。
 それに対抗しようと、敵ACからチャージ状態を維持したレーザーライフルから、TE弾が発射。
 ライフルとは比べ物にならない弾速。しかしTE弾は、距離減衰による質量の保存が維持できなく、途中で消滅した。

「さすがにこの距離だと、消滅しちゃうか。相手が距離を詰めてきたら、VTFミサイルの準備。それ以外は、現状維持」

 アザミの通信を聞いた途端、敵ACはレーザーライフルから、ハンガーへ格納していたバトルライフルへ武装を切り替える。そして、ハイ・ブーストを使って距離を詰めようとする。
 比較的弾速が遅いバトルライフルを撃ちながらの、前進。ユリはそれを、左右に揺れるようにハイ・ブーストを噴出しながら回避。
 さらに、FCSがVTFミサイルの発射数をカウントし、小刻みなアラームを鳴らす。

 最大発射数になったことをユリは目視し、肩部兵装の発射トリガーを引く。打ち上げ花火のような、軽快な発射音と共にVTFミサイル三基がゆったりとした速度で射出。
 それに気づいた敵ACは、逆関節という脚部を生かして、跳躍。一気にウルトリクスを見下ろせる高さまで上昇。さらにハイ・ブーストを使って、後退しようとする。

「ミサイルシーカーを狂わせる、複雑な機動。そこまでは良かったんだけどねぇ」

 アザミは、敵ACのパイロットにまるで落胆するかのような言葉を出す。
 ライフルやバトルライフル、そのどちらでもない、轟音が響いた。それは、上空で後退しようとする敵ACの左肩部を貫く。
 スナイパーライフルの一撃。

「挟撃された時点で、貴様らの負けだ」

 それを放った、カーテナからの通信。彼女のAC、重量逆関節「アヴェリア」は、敵ACの背後数百メートルまで接近しており、硝煙が燻ってるスナイパーライフルを構えていた。
 ウルトリクスと敵ACが交戦している最中に、カーテナが率いる部隊によって、敵の部隊は壊滅していたのだった。
 スナイパーライフルの直撃を受けた敵ACは、着弾時の反動で機体の動きが抑制されてしまう。それを追撃する形で、VTFミサイルが接近。

 弾頭が敵ACの目前に接近した瞬間、埋め込まれた近接信管が作動。強烈な爆発と衝撃が、敵ACに襲い掛かる。
 しかし、敵ACは右腕部を盾にすることで、それを犠牲にして中破状態の損害へ抑えていた。

「敵AC、まだ破壊されていないか。ちょ、ちょっとユリちゃん」

 あとはカーテナの狙撃で全てが終わる――それを把握していたアザミであったが、ユリは違った。
 ウルトリクスのメインブースターを燃焼させ、グラインド・ブースト――巡航モードへ移行。爆発的な加速力を背中に、地面へ着地した敵ACへ急接近する。
 それは、カーテナのアヴェリアもそうだった。

「向こうもその気だからね、そうするしかないよ」

 敵ACを挟撃する形で、急接近するウルトリクスとアヴェリア。それぞれは手持ちの火器――バトルライフル、ガトリングガン、ライフルなどで挟んでいる敵ACに集中砲火を浴びせる。

 距離五〇〇、四〇〇、三〇〇――。
 いよいよ、敵ACが大破寸前のダメージに陥る。

 距離二〇〇、一〇〇――。
 耐え切れなくなった敵ACが、小規模な爆発を発生しながら、倒れかかる。

 アヴェリアとウルトリクスは、敵ACを挟む形でお互いに右手で装備しているスナイパーライフルとバトルライフルを突きつけた。
 直後、敵ACは完全に起動停止し、崩れ落ちる。

「アザミのパートナーにしては、中々の腕だな」

「それはどうも」

 カーテナからの通信に、ユリはやる気のなさそうな声で答えた。





NEXT SCENARIO→「Blizzard」




関連人物

最終更新:2013年12月20日 01:46