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(投稿者:ししゃも)





 私は、あの子が求めるものをすべて与えた。

 それじゃ、あの子は私に何を与えたのだろう?






Out Siders 第二話「Blizzard」



「今日の仕事、ご苦労だった」

 二人だけしか客が居ない、カフェの片隅。一つのテーブルに、向かい合う形で二人の女性が椅子に座っていた。そのうちの一人――整った容姿に、女性特有の魅力的な体系、長い後ろ髪をヘアバンドで括り付けた女性は労いの言葉を目の前にいる、かつての同僚に向けて言った。

 それを聞いたのは、彼女とはまるで正反対のような女性。短髪に眼鏡をかけ、少し痩せ気味。
 表情は少し複雑で、テーブルに置いているマグカップを手に取り、口につける。

カーテナ、君のそのお堅い口調はまだ直ってないのね」

 苦言を呈す、といった風に眼鏡をかけた女性は、目の前にいる女性のことをカーテナと呼ぶ。

「それを言うなら、アザミもだろう。いや、『クレバーズ中尉』と呼ぶべきか」

 カーテナはまるで皮肉を言うかのように、眼鏡をかけた女性のことをアザミ――またの名を、クレバーズと呼んだ。
「在りし日の名前」を聞いて、アザミは少し眉をひそめる。そのことを知ったカーテナは、まるで勝ち誇ったかのようにコーヒーが入ったマグカップに口をつけた。

 第9領域、その全てを支配していた「政府」。その武力たるAC部隊のパイロットだった、アザミとカーテナ。そして、あの日のクーデターによって全てを失った。

「ったく、お互い様ってわけか」

 バツの悪そうな表情をアザミは浮かべ、もう一度コーヒーを啜る。

「話を元に戻そう。私としては、このままバタリア領に滞在してくれて構わない。仕事も山ほどあるぞ」

 口元からマグカップを離したカーテナは、逸れてしまった本題に切り替える。それを聞いて、アザミは腕組みをしながら、考えた。
 その際に、右腕から痛みが走り、顔を歪ませる。

「うーん。そうしたいのは山々なんだけど」

 カーテナによる仕事の斡旋は確かに有難い。各地を転々としながら、仕事を探す手間が省ける。しかし、そうなると自分たちの「目的」から少し遠ざかってしまった。

「ユリのことが気になるのか」

「それとは別だけどねぇ。あと、カーテナ。君が吹っかけたせいで、ユリちゃんすっごい機嫌悪い」

 先日の、迎撃作戦時におけるユリとカーテナのちょっとした衝突。吹っかけてきたのは、カーテナだけあって中々に始末が悪い。
 ユリのことを一番理解しているアザミにとって、彼女が一番嫌いなことも把握している。それは、「喧嘩を吹っかけてくる」ことだ。

「それぐらい良いじゃないか」

「君があの子のことを気になるのはわかるけどねぇ。まぁ話は戻って、滞在のことだけど」

 アザミは何とも言えない表情で、自分のこめかみを左手の人差し指で小突く。

「僕たちの目的は、バンガードの壊滅。そのためには、色んなところへ出向いて、連中を探し出さないといけない」

 アザミはズボンのポケットから煙草の箱と、使い古されたジッポライターを取り出す。箱から一本、煙草を摘み、咥えた。
 彼女の言葉を聞いたカーテナは、納得をしつつ――バンガードという言葉に憎悪を醸し出す。
 ユリの全てを奪った、バンガードによるクーデター。そのせいで、彼女は両親と「四肢」を失った。

 もちろん、アザミもそうだ。カーテナも、バンガードが雇った傭兵によって実妹が殺されている。
 そしてユリの「復讐」のために、アザミは彼女にチャンスを与えた。だからこうして、各地を転々としながら、バンガード壊滅のために牙を研いでいる。

「貴女らしいよ、まったく」

 カーテナは納得した口調で、言葉を漏らす。それを聞いたアザミは、咥えている煙草の先端に向けて、ジッポライターの火を灯した。
 火が点された煙草を吸い、肺に充満した煙をアザミは吐く。彼女の周りに紫煙が漂った。
 アザミは、右手の人差し指と中指の間に煙草を挟むと、口を開く。

「とりあえず、僕の腕が治るまではこっちに滞在するつもり。その間は領域ラインの防衛やらなんやらは請け負うけど、それでいいかな」

 ちょっとした抗争で巻き込まれたときに負傷した右腕を、アザミは指す。今は長袖のポロシャツで隠れているが、上腕部が包帯でびっしりと巻かれていた。
 医者によると、全治数週間ほど。それまでは、ここでゆったりせざるを得なかった。

「そのつもりで上とは掛け合ってるし。私は構わない」

「分かったよ。それじゃそーいう感じでよろしくね」

 仕事の話は終了、と言わんばかりの声でアザミは会話を終わらせる。そして、右手で挟んでいた煙草を手元に置いてある灰皿の上で灰を落として、咥えた。

 少しばかりの沈黙。
 アザミはただ無意味に煙草を吸い、カーテナはそんな彼女を見ながら、コーヒーを飲む。
 それらが十分ほど続いた後だった。

「アザミ。貴女は、あの娘に何を教えたんだ」

 ようやく「本題」に切り替えたカーテナの言葉を聞き、アザミは短くなった煙草を摘んで、灰皿に押し付けた。そして、コーヒーを啜る。

 年端もいかない少女ながらに、驚異的なAC操作技術を身に着けたユリ。あのときの戦闘で、カーテナが仕掛けたのも、彼女の実力がどれほどのものか確かめたかった。

 そして同時に、ユリという少女にアザミが何を教えたのか知りたかった。

「教えた? そうじゃない、僕はあの子に『与えた』のさ」

 満面の、「歪んだ笑み」を浮かべるアザミは、カーテナの言葉を訂正させる。
 何もすることが出来ず、ただやり場のない「恨み」を吐き続けるだけだった、ユリの姿をアザミは思い出す。身体全体にアスファルトの破片が突き刺さった彼女の姿は、まるで磔刑そのものだった。

 イル・シャロムから敗走する傍らにユリを拾い、必死の治療の末に彼女は生きることが出来た。そしてアザミは、彼女に「与えた」。
 失ってしまった手足。この世界で生きる術、「アーマードコア」に乗ることを。

「与えた、か。アザミ、貴女は変わってしまったな」

「それはひょっとして、良い意味でかな」

「いや、悪い意味でだ」

 二人は漫才じみた会話のやり取りをすると、不意にカフェの出入り口を通じるドアが開く音がした。アザミは上半身を後ろへ向けると、ドアの手前にユリが立っていた。

 金髪に、ウェーブがかかったセミロングヘア。黒色の手袋を嵌めつつ、パーカーを着ながら、スカートを履いている幼気な少女――ユリだった。

「おろろ。どうしたのユリちゃん」

 噂をすれば何とやら。突然の来客に、アザミは不思議がって問いかける。
 ユリはアザミの声が聞こえているのに何も言わず、黙々と彼女が座っているテーブルへ向かった。

「ウルトリクスの機体調整で、整備員の人が色々と聞きたがってる」

 アザミの隣へ立ち止まると、少し不機嫌そうな口調で話を切り出した。

「ええー。僕、ここへ来る前にウルトリクスと僕のACの機体調整について、整備員に伝えたはずだけど」

 それを聞いて、なんとも始末が悪い表情をアザミは浮かべた。そして、アザミの対面で座っているカーテナへ視線を向けるなり、ユリは鼻で笑う。

「整備員の大半が、バタリアから雇い入れた者が多くてな。まだ少し不慣れなところがある」

 ユリの子供じみた挑発に乗ることもなく、カーテナはただ事実を述べる。それを聞いたアザミは、隣で彼女を睨みつけているユリを見た。

「はいはーい。お互いに言いたいことは分かったからね。とりあえずユリちゃん、何か飲みたいものはある?」

 アザミは少し声を張り上げながら、椅子から立ち上がるなり、近くのテーブルから椅子を引っ張り出す。そしてそれを、アザミとカーテナの間へ置いた。
 そしてアザミはまた椅子へ座ると、どうぞと言わんばかりに先ほどの自分が置いた椅子へユリを手案内する。

「ちょ、ちょっとアザミさん。私は機体調整があるから来ただけで」

「その件は後回し。大体、僕が言ったことを覚えていない整備員が悪いもんね。そうでしょ、カーテナ?」

「――あ、ああ。そうだな。少しぐらい遅れたって、問題はないだろう」

 二人がこの場から立ち去ると思っていたカーテナだったが、予想外の行動を取ったアザミに対して驚いており、少し間を置いて返事をする。

「私、この人は嫌いなんだけど」

 ユリはカーテナに面と向かって、悪態を突いた。
 それを聞いたカーテナはどこぞ吹く風といった雰囲気を出しながら、コーヒーを飲む。一方、アザミは笑いを堪えきれず、噴出した。

「まぁまぁユリちゃん。大人の話は終わったことだし、ここは三人仲良くお喋りでもしようよ――ごめーん、オレンジジュース頼めるかな」

 一際大きな声でオーダーを頼むアザミを見て、ユリはなし崩し的に用意された椅子へ座った。
 ユリは頬杖を突きながら、大きくため息をつく。

(やっぱり私、まだ子供なんだわ)

 早くオレンジジュースが来るの待ちながら、そんな自分の心中を察しているアザミとカーテナを交互に見て、また盛大にため息をついた。




NEXT SCENARIO→「Premonition」




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最終更新:2013年12月25日 19:14