(投稿者:ししゃも)
Out Siders 第三話「Premonition」
「あーテステス。えー本日、9月の27日ナリ。天気は快晴、されど地上は――大炎上ナリ」
いい加減な報告に対してため息交じりの、
カーテナの声がアザミのコクピットに聞こえてくる。張本人であるアザミは子供じみた笑い声を上げながら、軽く咳払いをして――周囲の景色を見る。
遮蔽物が一切存在しない、水平線に統一された荒野地帯。そんな荒れ果てた場所に、大小の兵器の残骸が点在していた。
「こちらの損害は、ACが一機だけ中破。それ以外は損害軽微。対する敵――傭兵部隊を壊滅。内訳は、戦車二個中隊並びにAC一個小隊」
周囲に散らばるACの残骸を、アザミのAC「11th」から射出されたUAV(高高度偵察ユニット)越しに見下ろしながら、アザミは淡々と報告する。
砲塔が吹き飛んだ戦車。コアブロックにバトルライフルの砲弾が直撃し、半壊したAC。墜落し、コクピットが丸ごと潰れたヘリ。動くものは何一つとしていない。
こちらの損害といっても、腕が下手なパイロットが乗るACだけで、自分とユリのACはほぼ無傷。数時間ちょっとで終わるメンテナス程度で充分だ。
「そうか。ご苦労だった。基地に戻ってくれ」
想定した通りの結果と言わんばかりの口調で、カーテナからの通信が終了。それを聞いて、アザミは打ち上げていたUAVとのリンクを切断。
通常のコクピットモードの視点にモニターが映り変わる。
「全機、帰還するよ」
アザミが率いるAC部隊に帰還を促す。ACは一斉に基地がある方向へ転換し、隊列を組みながら動き出した。しかし、その中で一機のAC――中量二脚型――だけが、先ほど自分が壊滅させたAC部隊の残骸にカメラアイをずっと向けている。
アザミが操縦する「11th」は、呆然と立ち尽くすACへ向かった。
「どうしたの、ユリちゃん」
一向に動く気配を見せないACのパイロットの名を、彼女は言った。
アザミのパートナーであるユリのAC「ウルトリクス」は依然、立ち止まったまま。
「アザミさんも気づいているでしょ」
ユリからの無線通信。それも、オープンチャンネルではなく、暗号化された秘匿通信。よほど聞かれたくないようだ、とアザミは察する。
「はっはっはは。レディに対して、覗き見って良くないよねぇ」
アザミはけらけらと笑いながら、「相手」に聞こえるように、わざとオープンチャンネルで返事をした。
「ほんっと、アザミさんってデリカシーないわね」
ため息交じりのユリは、そのままウルトリクスを転回させ、先に基地へと向かうAC部隊の後を追う。
一方、取り残されたアザミはUAVを射出して、隠れている「歩兵部隊」をいぶり出そうと考えるが、止めた。
障害物がない、荒野地帯。UAVとスキャンモードを駆使すれば、探し出せるかもしれない。しかし、今の状況で「増援」を呼ばれると、返って悪化する。
現状、アザミたち以外のAC部隊は整備中。事実上、四機しか戦力となるACが居ない。
「こりゃ一波乱起きそうだねぇ」
アザミは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、得体のしれない「勢力」に危機を感じる。
とりあえず、基地に戻ってカーテナに報告しよう。
彼女のAC、11thはウルトリクスの後を追った。
バタリア同盟所属
ラインライブズ保有領地「廃棄都市群」。そこが、アザミとユリが身を置く拠点だった。
廃棄都市群といえども、物資の供給は安定しており、下手な独立都市よりもずっと良い。そんな場所の一角。ラインライブズの部隊が一纏めとなって、収容されている軍事施設のACガレージ。
ユリとアザミは、床から五メートルほど離れた高さのキャットウォークから、お互いの愛機を眺めていた。
「ご苦労だった」
いかにもつまらなさそうな表情で、メンテナンスされている11thとウルトリクスを見るアザミたちの横から、カーテナが声をかける。
カーテナは両手にコーラとオレンジジュースの缶を持っており、それぞれをアザミとユリに手渡す。
「ういうい。そっちはどうなってんの」
おおよそ、クライアントと雇われのマナーを無視したアザミの態度に、カーテナは特に何も言わず、彼女らと同じように整備されているACに視線をやった。
「基地の四方に部隊を展開。今のところ敵影は無しだが――交代人員が少ないため、あまり多用はできないぞ」
カーテナが所属するラインライブズは、ここ最近になって一大勢力「バタリア同盟」の傘下に入ったものの、外様としての扱いがまだ抜けきっていない。
物資の補給はともかく、人員に関してはラインライブズ内でやりくりしているのが現状だった。
もちろん、アザミはそれを考慮して、今回の警戒警備を提案した。
雇われの分際で、こんな大層なことを言えるはずもない。無論、表面上はカーテナが指示したものとなっている。
「分かってる。ただ、どーしても引っかかるんだ。ユリちゃんも同じ意見だしね」
アザミは、左隣でオレンジジュースを飲むユリの頭を撫でる。
子供じみた扱いに不服を漏らす表情でユリは訴えるものの、今はオレンジジュースの方を優先させている。
「私含めて他のパイロットも、何人かは異変に気付いている。ここ一週間にかけての、傭兵部隊の襲撃。それに合わせて、こそこそと嗅ぎまわっている連中の存在」
パイロットスーツに着替えていたカーテナ。不測の事態があれば、自分も出撃すると言わんばかりだった。
「少なくとも君は後方待機か、オペレーター役をやってほしいのが、僕の意見だけど」
ラインライブズで腕利きのパイロットは、現状のところカーテナしか居ない。それは、各部隊員への配置通達や人員の手配、後処理も含めてだ。
彼女に万が一のことがあれば――想像するだけで、ため息が出る。
「私がそんな役割をすると思っているのか、アザミ」
不敵な笑みを浮かべるカーテナに、キャットウォークの手摺に凭れかかるようにしながら、アザミは頭を垂れた。
「それで、大人の話は終わったのかしら」
わざとらしい咳払いをして、今しがたオレンジジュースを飲み終えたユリがアザミたちの会話に割って入る。
「ははは。ごめんごめん。で、僕たちのACのメンテナンスが終わるのが、もうちっと。そっから持久戦ってわけだよね」
アザミはカーテナに話を振りながら、パイロットスーツの胸ポケットからくしゃくしゃになった煙草の箱とジッポライターを取り出した。
「基地後方一〇〇キロ圏内にある、バタリア同盟の基地に緊急要請を通達した。二時間後に、AC三個小隊規模の援軍が来る予定」
カーテナは、先の戦闘以降で消耗した物資を補給するため、ここから後方に位置するバタリア領基地へ話を駆け寄った。
元々、露払いの立ち位置にあるラインライブズにとって、これまでの戦果は上々。
例え外様といえども、ここまで疲弊していると後が怖い。すぐに要請の許可が降りた。
「つまり、私たちが警備に入って一時間後が勝負ってわけね」
そういうことだ、とカーテナは相槌を打った。
「問題なのは、敵の正体さ。傭兵部隊を雇って、消耗戦を仕掛けつつ、こちらの戦力を図ろうとする用意周到さ。カストリカ連合か、あるいはバンガード――」
そこまで言うと、思わずカーテナはハッとなった。それと同じくして、鈍い音が鳴った。
アザミの隣に居るユリが、空になったスチール缶を握り潰していたからだ。黒光りする、鉄製の義手。それがちらりと見えた。
「まだ連中と決まったわけではないよ、ユリちゃん。でも、こんな姑息なマネをするからには、それなりの『落とし前』が必要だね」
火が灯った煙草を咥えながら、整備途中である11thをアザミは見る。
異様な雰囲気を醸し出す二人を見て、カーテナは鼻を鳴らす。
(どうやら、スイッチが入ってしまったな)
カーテナは何も言わず、そのまま彼女たちに背中を向ける。
(そっとしといたほうが良さそうだ)
あの状態になった「中尉」ほど、ややこしいものはないとカーテナは心得ているからだ。
荒野地帯に上手く溶け込むために、地形の色に沿った保護色用のシートを被っている集団。彼らは仰向けの状態で、望遠カメラを使いながら偵察していた。
視線の先には、警戒警備を行っているACやヘリが多数。一言で表すなら、厳重。つけ入る隙は見当たらない。
「こちらブラボー。南エリアの警戒網は厳重。北、並びに東西も同様」
暗号化された短距離無線を使って、後方で待機している本隊へ班長は連絡をする。
「了解だ。敵の規模は報告してくれた通り、四方にAC四機編成の砲台並びに機甲兵器が多数、でいいのか」
男の声が無線機から聞こえてくる。
「その通りです。砲台の設備、及びAC部隊の装備は極めて良好――それと、交代のタイミングまで残り三十分」
規則正しく配置換えを行うバタリア領の警戒部隊。彼らは、そのタイミングさえ把握している。
一週間前から続く傭兵部隊を使っての、「陽動」。その陰に、彼らは本当の「偵察」を行っていた。
「腕利きの傭兵が二人、それとラインライブズのエース。感付かれたか」
男は、無線機越しに不満げな声を出す。それを聞いた偵察部隊の班長は、冷や汗をかいた。
「いや、責めてるわけじゃない。相手が悪かっただけだ」
男は軽く笑いながら流すが、班長は未だに汗が止まらなかった。責任の所在は云々より、無線機越しに居る人物は、かなりの切れ者。
できることなら、あまり機嫌を損ねたくなかった。
「よし、分かった。時限式の閃光弾を設置次第、撤収しろ。タイマーは四十五分後に設定だ」
「了解です。それでは、また」
無線機を切った班長は、大きく深呼吸を数回する。
周囲の様子を探っている数名に、作業をできるかどうか聞くと、「大丈夫です」と返ってきた。
集団は、ゆっくりと立ち上がる。空を見上げると、もう夜になっていた。これなら、気づかれずに済む。
「タイマー作動の迫撃砲を設置次第、ここから撤収する」
班長は周りの部下に指示を出した瞬間だった。
砲声。同時に、自分が立っている地面が爆発した。
「ビンゴぉ。さっすが、ユリちゃん。容赦ないねぇ」
タブレットデバイスの液晶画面に映っている、「死体の山」を見ながら、アザミは称賛の声を上げる。
彼女は今、偵察車両内のシートに身体を預けながら、ACに操縦しているユリのオペレーティングを行っていた。
そしてユリのAC、ウルトリクスは廃棄都市群のでもっとも高いとされる高層ビルの頂上に。
片膝立ちした状態で、ラインライブズのACガレージに眠っていた単発式スナイパーキャノンを構えている。砲口には硝煙が漂っていた。
一方、搭乗しているユリのコクピット画面には、数キロ先で偵察していた集団の死屍累々が高倍率スコープによって鮮明に映し出されている。
スナイパーキャノンから発射された砲弾は、その一発で十人余りの人間をあの世へ送り出した。
ユリはモニターに映る死体の山を見て、彼らの所属を調べる。が、思った以上に死体の損傷が激しく、識別ができない。
「まー綺麗に残るはずでは――ユリちゃん、ストップ」
アザミも同意見だったが、すぐに言葉を止めた。ユリは彼女の指示通りにスコープを動かすのを停止させる。
「右に――ちょっとだけ動かして。うん、そのままズームアップ」
ユリはそのまま、スコープの倍率を上げる。すると、レティクル(照準)の中央に、比較的綺麗な状態の死体が見えた。
赤褐色のような迷彩服を着ており、着弾時の衝撃で内臓がやられてしまったのか、目立った外傷は見られない。
死体はうつ伏せになっているので顔は見えないが、それの右肩に部隊章となるエンブレムが彫られていた。
それは一瞬、バンガードの部隊章だとユリは思った。
あの忌まわしき、鷹の絵が描かれたエンブレム。
しかし、よく見るとそれは違った。バンガードの鷹は「クーデター」を表すために、逆さになっている。
今見ている鷹は違う。逆さではないからだ。
そして何より決定的なのは、その鷹の下に文字があることだった。辛うじて読み取れるそれには、こう書かれていた。
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最終更新:2014年02月13日 00:53