倉庫の中だった。
一つの人影が正面のハッチから現れる。光の差す中で、人影は暗褐色のパイロットスーツのバイザーを開放し、その素顔を露わにした。
金髪と碧眼の青年だった。
青年はゆっくりとそのガレージの中を歩き、そして立ち止まった。
周囲を睥睨する。
「
ガーニー」
その声に、青年の右後方の扉が圧搾空気の流れる音と共に開く。青年がそちらへと目を向けたところで、扉の空白の向こうから髪の黒い男が姿を現した。
男は鋭い視線を青年へと向ける。
「
ブラウ」
「ご苦労様。こっちも敵を撃退した。恐ろしい連中だったよ」
「少女は確保しておいた。――〈ストレインジ〉の被害は」
「ここの改修設備で十分何とかなる」
青年の言葉に男は頷く。男は言葉を継ぐ。
「ヴァールシュタイン卿が恐らくは補足されていたんだ。あの家は昔から手回しが甘いんだよ。だから設備増強の度に制裁を受ける。学習しない」
「ガーニー」
男は、窘めるような声に対して黙った。
実際には、その声そのものを受けて黙ったのではなく、青年が男へと向ける恐ろしいほど感情を排した視線に対して、畏怖を覚えたものだった。
「……あの娘はどうする」
「会わせてくれ。話がしたい」
「馬鹿なことを考えてるんじゃないだろうな」
男の声に対して、青年はにこりと微笑んだ。
◇
音は死に絶えていた。
炎が上がっている。
その中で、二機のACが佇んでいる。片方はくすんだ黄色の機体だった。
もう一方は暗褐色の機体だ。そして、防御機構を搭載した複数の重MTがACの周囲を取り巻いている。
『敵機が撤退を開始』
通信だった。
二機のACが機動を開始する。
そこは市街地であった。周囲の一切はほぼ廃墟と化している。複数のビルが林立する中で、一切は砕けていた。車両が放棄され、地面に人が倒れていた。そのビル群の中の、一際大きなビルの前にMTらが集結していた。
瓦礫の散らばる道路の上を、高速で移動する二機のACが通過する。
ハイ・ブーストで速度を得た黄色のACが直後に跳躍し、ビルの壁面に取り付く。
更に壁面を脚部によって捉え、加速した。ビルとビルの間に入り込む。
そこに隠れる形で、一機の曲面型装甲を纏ったMTが存在していた。バトルライフルが頭上からMTを砲撃すると、ひとたまりもなくMTは爆散した。
更にACは加速を続けた。ビルの間を網のように走る道路上には複数のMTの残骸が散らばっている。
ACが不意に高度を落としたところに、高速徹甲弾による掃射が行われ、そして機体はビルの影へと隠れる。
後続の暗褐色の機体がライフルで正面へと攻撃を開始する。直後にこの機体も別のビルの影へと隠れた。
暗褐色の機体がグラインドブレードにより破壊される。
ビルの一部を倒壊させながらに行われた一撃で、黄色の機体は状況を確認しようとビルの高部を目指していた。その彼が目指していた高部から徹甲弾の乱射を受ける。頭部が脱落するのと同時に致命的にバランスを喪失し、落下する。横合いからレーザーライフルの光条が、落下する機体を狙った。機体の表面が一瞬で白熱化する。
黄色のACが破壊される。
ビルの高部からショートミサイルが降り注いだことが決定打となった。白熱化した金属が液体化し飛び散る。爆発が起きる。白い機体。
投稿者:Cet
最終更新:2015年06月07日 23:13