Out Siders 第四話「Crisis」
タブレットデバイスの液晶画面に映っている、死体の部隊章に心覚えがある
アザミはそっと呟いた。
車内にはアザミ他に、基地周辺で警備を行っているAC部隊のオペレーターたちは彼女の言葉を聞いて、緊張が走る。
「カストリカ同盟第三種混成機甲部隊。別名、インシディアス。部隊長は確か――」
別方面でオペレーター役を買って出たカーテナからの通信。ユリのオペレート映像は、カーテナにも共有済みだった。
「
クラフティ。ったく、こりゃ厄介な相手が黒幕ときたもんだ」
アザミはバツが悪そうな表情で後頭部を掻く。
「勝手に話を進めないで」
ユリからの通信。やや不機嫌そうな声だった。
アザミは一呼吸置いてから、タブレットデバイスを抱え、シートから立ち上がる。
そして、右耳に装着しているヘッドセットのマイク音量を上げながら、偵察車両から出ていった。
「インシディアスは、カストリカ同盟に所属するAC及び機甲兵器、歩兵で混成された部隊。主にバタリアやバンガード領での侵攻活動がメイン」
アザミが向かう場所は、数百メートルほど離れたACガレージ。その中で、メンテナンスをされている「11th」に搭乗することだった。
「事態はかなり不味い方向に向かっている。ユリちゃん、そのまま全周囲に対して索敵をお願い。僕もすぐにACへ搭乗するから」
「了解」
事の重大さをユリは把握したのか、真面目な声色で彼女は返事をした。
高所への偵察。これで、敵の出方がある程度、把握できる。が、ユリだけでは心細い。
もし、クラフティが部隊を指揮して、ここに居るならば――最悪の事態が起こりうる。アザミはいてもたってもいられなくなり、走り出した。
誰も居ない、二車線の道路。アザミの正面から、ライトを照らす大型トラックが向かっていた。それの後部――AC用の牽引ハンガーに拘束されたAC――「11th」が運ばれている。
「アザミ、早くしろよ」
カーテナからの通信が入る。それを聞いたアザミは粋な計らいに笑った。
*
ライブラインズ領から数十キロほど離れた場所。ライブラインズの勢力外に置かれている、安全地帯というよりかは、中立地帯。
障害物が何一つない荒野地帯。
その場所に、六機のACと、整備用のトレーラー、輸送ヘリ、さらには機甲兵器などの各種兵器が待機状態となっていた。
それらの足元を、カストリカ同盟の正式迷彩服を着た兵士たちが忙しく動いている。
「なるほど、事は上手く運べないか」
狭苦しいACコクピット内で、男はやや不機嫌そうに口を開く。
「偵察部隊は全滅したと考えていいでしょう」
ラインライブズ領への偵察活動を命じていた、偵察部隊の通信が遮断されて数分。事の結果を、オペレーターが報告した。
それを聞いて男――クラフティはますます、苛立った。
ACパイロットスーツを装着し、首元に朱色のマフラーを巻きつけた、伏目がちな男性。
カストリカ同盟第三種混成機甲部隊を束ねる部隊長。それが、クラフティの肩書だった。
「自分の作戦が完璧ではないことは分かっているが、自信はある方だ。が、こうも予期せぬ犠牲が起こってしまうと、自分の不甲斐なさに苛立ってしまうよ」
偵察部隊が全滅したのは、自分の指揮不足。相手に感付かれている段階で、部隊を撤退するべきだったとクラフティは後悔する。
そこで気持ちを切り替えたのか、クラフティは両手を叩いた。
「歩兵部隊及び機甲兵器部隊は待機。AC部隊を出撃させる。準備は――」
「ええ、大丈夫です。既に隊長機以外は輸送ヘリの拘留作業へ移っています」
「エクセレント(上出来だ)」
*
「嵐の前の静けさってやつだね」
UAVを上空に射出し、映し出されてる俯瞰視点をモニターで眺めるアザミは、独り言を漏らす。
アザミのAC、11thが偵察をしている場所は南方面。北はカーテナの部隊。東西をラインライブズの精鋭が。そして施設中央に位置する、高層ビルの屋上にはユリのウルトリクスがスナイパーキャノンを構えている。
万全の体勢。つけ入る隙は見当たらない。
アザミは、そう思いたいものだと考えていた。
「話が見えてこないし、敵のことすら掴めない。アザミさん、色々と隠しすぎ」
ユリは全周囲に気を配りながら、アザミとカーテナが把握している、「インシディアス」についてやんわりと言及した。
「インシディアスは、オーバード・ウェポンを所持している部隊だよ。それも保有するACに一つずつね」
アザミの言葉に、ユリは言葉を失う。
規格外兵器と名付けられたオーバードウェポン。それは、ACが装備する兵器ではなく、「ACが兵器に装備させられる」といって過言ではない。
過去、ユリはオーバード・ウェポンを使用したことがあった。そのときは、ヒュージ・キャノンと呼ばれる「超長距離砲撃兵器」を搭載し、数十キロ離れた敵拠点をたった一発の砲弾で「壊滅」させた。
あのバカげた威力を、ユリは二度と忘れることはできない。
「OWを一機ずつに装備とか、インシディアスの隊長ってよほど頭のネジが緩んでいるのね」
インシディアスを統括する隊長のことを、ユリは小馬鹿にする。どう考えても、OWを一機ずつに装備させるのは維持費やその後の機体のメンテナンスを含めて、非効率だったからだ。
「本当に頭のネジが吹っ飛んでたら、僕だって神経質にはならないよ――連中を纏めているのは、クラフティと呼ばれている男。『クーデター』時に旧政府軍側が雇い入れた、傭兵部隊の取り纏め役」
しかしアザミは、ユリの考えを改めさせるように提言した。
「その時のクラフティは、補給を受けずに数時間余りでAC五機撃墜している、トップクラスのエース。正直、僕とユリちゃん、カーテナとラインライブズの戦力で迎え撃つのは相当難しい」
切羽詰った声のアザミに、ようやくユリは状況を把握する。
そのとき、東方面で展開している部隊から「敵機影」を確認したことを知らせる、ブザーが鳴った。
「敵ヘリ部隊を確認。機数、五。ACを拘留している」
東部隊からの報告に、ユリはすぐにウルトリクスを転回させ、スナイパーキャノンを構える。
スナイパーキャノンに搭載されているスコープが、敵のヘリ部隊を暗視装置越しに捉えた。
軽量化を施し、恐らく武装は自衛用の機銃しか搭載していないと断定できる輸送ヘリ。速度はかなり速く、あと数分もしないうちに基地の手前にたどり着く。
そして、ヘリの拘留装置にはACが吊り下がっており、中量型と軽量型の二脚ACが五機。武装には、OWが見えない。
敵部隊の構成を見た瞬間、ユリに悪寒が走る。しかしそれがまだ「確信」ではなく、「予感」。
ユリは短く深呼吸を行い、こちらに向かってくる先頭のヘリ――中量二脚ACをぶら下げた――に照準を合わせる。
しかしそれよりも早く、ヘリは拘留している中量二脚ACを投下した。
基地までの距離、約1キロ。
ユリは舌打ちをしつつ、地面に落下していく中量二脚ACに照準を合わせる。特に目立った回避行動をするわけでもなく、一直線に落下していく。
狙撃機に気付いていないのか定かではない。ユリは砲弾と落下していくACの速度をすぐに計算し、その二つが交差するポイントに向けてトリガーを引いた。
その瞬間だった。
一瞬だけ、ユリと敵ACが向かい合った。
そのとき、敵ACのコア上部に取り付けられた何らかの装置と、頭部のモノアイが赤く光る。
「なっ」
それを見た瞬間、ユリはトリガーを引くのを中断。そして、全部隊に通信が取れるようにオープンチャンネルの無線を開いた。
「どうしたの、ユリちゃん――」
ユリの異変にいち早く気が付いたアザミは、ユリの突然の行動に声を上げる。
「東方面の部隊は、UNACで構成している。全機警戒して、本命の部隊が居るはずよ」
ユリの怒号と同時に、事態を飲み込んだ部隊に緊張が走った。ユリがUNACと判断した敵AC部隊は既に地表へ降下し、それを感知した砲台が迎撃をしている。
UNACが搭載されたAC特有の信号――赤く発生する発光装置――をユリは見抜いた。UNAC部隊による侵攻はあまり珍しくないものの、インシディアスがそのような「単純な侵攻」で済ますようなものでないと彼女は判断していた。
UNACは囮。だとすれば、本命の部隊はすぐに――。
ユリは前面モニター及び側面に展開しているサブモニターに視線を集中させ、敵の出方をすぐにでも察知しようとする。
「こちら東方面部隊のオペレータ。先ほど降下した敵AC部隊の行動パターンを分析した。カストリカ同盟保有のUNAC部隊と行動パターンが一致。UNAC部隊とみて差し支えはない」
「東方面部隊、敵UNACと交戦開始。が、敵の本部隊に備えてたいので、あくまで迎撃の体制を取ります」
「こちら南方面のアザミ。UAVに敵影映らず。北及び南と西の警戒を頼むよ」
「カーテナより各機へ。東方面の部隊はUNACを壊滅させろ。それ以外の部隊は、敵部隊と思わしき動きを発見次第、すぐに報告しろ」
無線から膨大な量の通信が入ってくる中、ユリはそれらを聞きながら、最大限の注意を払って、高高度から偵察を行う。
東、異常なし。
北、異常なし。
南、敵UNAC部隊と味方部隊が交戦。
西、「遠方から何かが光った」
「光――」
ユリがその光を見た瞬間、叫ぶ。それと同時に、「強烈な光弾」がこちらに向かってくるのをサブモニター越しに見た。
「おい、今何かが光ったぞ」
やや遅れて西方面部隊から通信が入った瞬間だった。猛烈な着弾音という名の衝撃と同時に、ウルトリクスがスナイパーキャノンを構えているビルが崩壊した。
「ユリちゃん!」
アザミの叫び声が、ユリのコクピットに反響した。
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最終更新:2015年09月27日 02:10