あれ以来、ゆかちゃんはあんまり私と目を合わせてくれん気がする…。
2人っきりにならないように避けられてる気さえする……。
たった数日間の出来事。でもね、多分私は…。私にとっては数日どころの騒ぎじゃないんよ…。
今日はPV撮影の仕事。
かしゆか、あ〜ちゃん、のっちの順でソロショットの撮影が進んで行く。
『じゃあ、かしゆかちゃんから行こうか。』
スタッフさんの声に促されゆかちゃんが踊り出す。
モニターに映るゆかちゃんのキレイな指先に、踊る髪に、ミステリアスな瞳に心奪われ、思わず魅入ってしまう。
(ここ数日ろくに顔見てないからなぁ…。)
A『のっち、口開いとる。』
N『えっ!』
慌てて閉じてみてももう遅い。
A『どうしたん?ゆかちゃんと何かあったん?』
N『え?………。』
何も答えられない。だってのっちの思い過ごしかも知れんし、そうであって欲しいし。だから口には出せないでいた。
A『何があったか知らんけど、ちゃんとごめんなさいしんさいや。』
N『うん……、ってなんでのっちが悪い事になっとるんよ?!』
A『えっ?違うん?』
N『自信はないけど、多分違う…気もしないでも…。』
A『…………。ゆかちゃんもこんなヘタレが相手じゃ大変じゃね。』
N『大変じゃないよ…、って相手って何の?!』
A『隠さんでもええんよ、あ〜ちゃんは何とも思わんけぇ。』
N『か、隠すも何も…『はいっカット!OKです。じゃあ次はあ〜ちゃんお願いします。』
私のしどろもどろのごまかしをスタッフさんの声が掻き消す。
A『は〜い。……だいたい、聞かんでもあんたら2人見とればわかるわ。のっち……、ゆかちゃん泣かせたらあ〜ちゃん許さんけぇ。』
満面の笑みが余計怖い。
N『は、はいっ。』
背筋が自然と伸びていた。
あ〜ちゃんと入れ代わるように私の隣に来るゆかちゃん。
私の方なんて見もしない……。
無言でモニターを見つめる2人。張り詰めた空気が痛い。
(早く何か言わなきゃ…。)
N『………っ、ごめん。』
恐る恐るゆかちゃんの方を見てみた。
表情一つ変わらないキレイな横顔。
(最近、横顔しか見てないなぁ…。)
なんてぼんやり思っていると、キレイな横顔が不意にこちらを向いた。
K『何が?』
N『な、なんかわからんけど…。』
K『のっちが悪いん?』
N『い、いや、覚えはないんじゃけど…。』
K『じゃあ、オドオドせんとしゃんとしときんさいや。』
N『は、はい。』
K『いつまでもそんなんじゃ、ゆかに遊ばれるよ?』
小悪魔な笑いで私を見てる。
N『うっ……。じゃあ思い切って聞きます!ゆかちゃん最近のっちの事避けてない?』
K『……うん。避けとる。』
N『やっぱり…。』
頭を重いハンマーか何かでガンッと殴られたような衝撃が走る。
N『ねぇ、なんでなん??のっちがなんかしたなら謝るけぇ。教えてくれんと謝る事も出来んよ…。』
ゆかちゃんの目を見据えて私はそう言った。
ゆかちゃんは視線をモニターに戻し押し黙ってしまった。
『はい、OK!じゃあ……、次のっちのカットです。お願いします。』
張り詰めた空気を壊したのはスタッフさんの声。
N『あ、は、はいっ(こんなんじゃ集中出来んよっ。)』
名前を呼ばれたからには行かなければならない。でもなかなか足が動こうとしてくれない。
(早くせんとあ〜ちゃんも戻って来ちゃう。)
何て思って立ちすくんでいると戻って来たあ〜ちゃんと目が合った。
A『何しとるん?緊張しとるん??のっちなら大丈夫よ、パキッとキメて来んさい。』
その声は今だ微動だに出来ない私の背中を押してくれる。厳しくも優しいその雰囲気は、私をいつも救ってくれる。
何度あ〜ちゃんに助けられた事だろう。人生までガラっと変わってしまった。
ゆかちゃんとは別の意味で大切な人。私の足元まで照らしてくれて心をポカポカにしてくれる太陽みたいな人。
N『うんっ!じゃあパキッ!とキメてくるっ。』
あ〜ちゃんのお陰で凍り付いていた足が動き出す。
(よしっ!今は撮影に集中っ。少しでもカッコイイとこ見せるんよっのっち!!)
K『のっちっ。』
動き出した私の足は再び歩みを止めた、大好きな人に名前を呼ばれて。
N『は、ハいッ』
裏返り気味のその声にあ〜ちゃんが笑う。
(う〜、いきなりカッコ悪いし…。)
K『……カッコイイとこ期待しとるけぇ。』
N『あ、はハイッ。』
また裏返る、しかも今度は完全に誰が聞いても変な声。言われてるそばから最上級にカッコ悪い…。
A『ありえん!!カッコ悪すぎじゃろのっちっ。』
(はい、その通りですよどうせ…。)
ゆかちゃんの言葉を変に意識しすぎて踊りが飛びまくって私だけNG連発…。
あぁ…。当分ヘタレは返上出来そうにないね…。
あれ以来、あたしはあんまりのっちと目を合わせない…。
なるべく2人っきりにならないように避けてもいる……。
だって恥ずかしいし、どんな顔して向き合えばいいんかわからんのよ。
今日はPV撮影でスタジオに来ている。
ゆか、あ〜ちゃん、のっちの順でソロの撮影が進んで行く。
『じゃあ、かしゆかちゃんから行こうか。』
スタッフさんの声に促されあたしはスタンバイする。
のっちとあ〜ちゃんがモニターチェックしてるのはここからは見えない。(よかった、2人の姿が見えんくて。)
のっちの視線を感じながら上手く踊れる自信は今はない。
『はいっカット!OKです。じゃあ次はあ〜ちゃんお願いします。』
その声にあたしは少し緊張した。
(やばい、のっちと2人っきりになるじゃん…。)
あ〜ちゃんと入れ代わるようにあたしはのっちの隣に立つ。のっちの方は見れない。
無言でモニターを見つめる2人。張り詰めた空気が重い。
N『………っ、ごめん。』
突然の言葉に体は硬直し、表情一つ変えられない。
(唐突すぎて自然に振る舞うタイミング逃しちゃったじゃん…。は、早く答えないと。)
意を決して横を向く。
K『何が?』
N『な、なんかわからんけど…。』
K『のっちが悪いん?』
N『い、いや、覚えはないんじゃけど…。』
K『じゃあ、オドオドせんとしゃんとしときんさいよ。』
N『は、はい。』
K『いつまでもそんなんじゃ、ゆかに遊ばれるよ?』
いつもののっちがそこにいたお陰であたしも少し自然に振る舞えたみたい。
N『うっ……。じゃあ思い切って聞きます!ゆかちゃん最近のっちの事避けてない?』
(えぇっ!!直球すぎじゃろそれは。どうしようか………。)
K『……うん。避けとる。』
N『やっぱり…。』
いろいろ考えたけど、何で避けてるかを伝えないとダメな気がした。
N『ねぇ、なんでなん??のっちがなんかしたなら謝るけぇ。教えてくれんと謝る事も出来んよ…。』
ゆかの目を見据えるのっちに圧倒され、思わず声を失い条件反射で目を逸らしてしまった…。
あたしは完全にタイミングを失い押し黙るしかなかった。
『はい、OK!じゃあ……、次のっちのカットです。お願いします。』
張り詰めた空気を壊したのはスタッフさんの声。
N『あ、は、はいっ。』
あ〜ちゃんがいれば少しは自然に出来るかも、なんてどこかホッとしてるあたし。
(のっちの真剣な目は苦手、どう応えればいいんかわからんくなるんよ……。)
何て思ってると戻って来たあ〜ちゃんが固まってるのっちに声をかけた。
A『何しとるん?緊張しとるん??のっちなら大丈夫よ、パキッとキメて来んさい。』
その声は気合いを入れてくれてでも癒されるあ〜ちゃんだけの武器。
何度あたし達はその声を聞いただろう。
のっちよりも先に出会った家族の様なその存在。のっちとあ〜ちゃん、どっちが大切かなんて比べられない。きっとそれはのっちも同じはず……。
N『うんっ!じゃあパキッ!とキメてくるけぇ。』
あ〜ちゃんの声で動き出すのっち。
(あぁ、あ〜ちゃんにしか出来ん事もあるんじゃね………。じゃあ、あたしはどうする?)
K『のっちっ。』
動き出したのっちの足はあたしの声によって歩みを止める。
N『は、ハいッ』
裏返り気味のその声にあ〜ちゃんが笑う。
(なんでそこで裏返るんよっ!)
K『……カッコイイとこ期待しとるけぇ。』
ちょっとは素直になってみようかな………。ツンツンすぎて嫌われたくないし。
N『あ、はハイッ。』
A『ありえん!!カッコ悪すぎじゃろのっちっ。』
(ホンマよっ!なんでゆかん時はそんなグダグダなんよっ。)
NG連発ののっちはやっとOKテイクを出して肩を落として戻ってきた。
(もぅっ!)
当分あたしは素直にならない方がいい気がして来たよ…。
−Side A−
モニターに映るのっちはもうヘタレ以外の何ものでもなかった。
NG連発するし、笑顔を求められるシーンで八の字眉毛だし…。
心なしか隣でモニターを見てるゆかちゃんもへこんでる。
(ホンマに、あたしがおらんとダメな2人なんじゃけぇ。)
A『ゆかちゃん?』
K『ん?』
視線はそのままにゆかちゃんが答える。
A『あ〜ちゃんが思うにのっちはゆかちゃんにカッコイイとこ見せようと必死なんよね。』
K『……うん。と言うか私達の事いつから気付いてたの?』
A『気付いたら気付いとった。』
K『それ、微妙に答えになってないよあ〜ちゃん……。でもあ〜ちゃんにはやっぱ隠せんねぇ。』
ニコリと弱々しく微笑んでみせるゆかちゃん。
A『いつ以来の付き合いじゃと思うとるん?あ〜ちゃんを舐めたらいけんよ。』
K『ふふっ。』
少し照れたような微笑みが眩しい。
(こりゃ、のっちでなくてもやられてしまうね…。)
K『あたしはのっちがグダグダでも大好き。背伸びしてカッコつけなくても大好き。なのにたまに凄くかっこよくて………。』
A『うん。』
途切れた言葉を優しい口調であたしは促す。
K『そんな真剣な目で見つめられたらどうしていいんかわからんくなるんよ。』
A『恋する乙女じゃねぇ。』
あたしの方が恥ずかしくなる様な台詞を言った事にゆかちゃんは気付いてない。
(恋は盲目じゃね、ゆかちゃん。)
A『それをそのまま言ってあげんさいよ?』
K『そんな簡単に出来てたら苦労せんよぉ……。』
(盲目な上に
ツンデレですか。)
A『北風と太陽の話知っとる?』
K『うん…。』
A『北風さんばっかりじゃと旅人さんはヘタレなまんまじゃとあ〜ちゃんは思うよ?たまには太陽さんになってあげんにゃあ。』
優しく微笑んであげるとゆかちゃんの顔もつられてほころんだ。
K『でもね、その結果がさっきの裏返った声なんよね………。』
A『あ、あぁ……。』
(のっち、カッコ悪すぎよ……。)
A・K『はぁ…。』
2人同時にため息を漏らしていた。
(続く)
最終更新:2008年10月12日 19:47