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Place to stay

ash

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【side:Ash】





偽情報によって一時的に場から離した兵士達。

城中を見てまわっても当然のことながら逃亡者たる俺たちの姿はなく。
けれど確かに逃げ出したことを証明する証拠は、至るところにあるだろう。
たとえば空の牢とか、倒した兵士とか。
そして、鎧を脱がされて武器庫に押し込めてきた兵士達が見つかるのもそう長くかからない。
…逃亡者が、兵士達の鎧を着ている可能性にもすぐに思い当たるはずだ。
今しがた切り抜けてきた門番達も居るわけだし。

時間に猶予は無い。


仮にシャリスの言葉が事実なら俺たちは無事に逃げれる。
けど、その道が無かったら。
もしも、シャリスの嘘…つまり罠だとしたなら。
そこで全ては終わる。俺の未来も命も、全て絶たれる。

シャリスが如何してそんな道を知っているのかが疑念を抱かせた。

だって、城の抜け道なんて普通機密事項だろ?
何かあったときに王族が逃げるため。その為に作られてるはずだ。
さっき名前を告げたとき王がマクレシアの名に反応していたから、何らかの繋がりがあるのかもしれない。
逃げるつもりがなさそうだったのも、もしかしたら彼は処刑されないからじゃないか、とか…。
…こんな可能性なんて考えていたらキリが無いけど。

だからってこのまま正門を通って逃げるのは無理がある。
白い闇の先、閉ざされた門は厚く高い。
簡単に出入りできるようなら城を守る門ではありえないとはいえ。
人の気配も多いし、挟み撃ちにされたら一巻の終わり。


色々考えたけど、実際に思案に費やしていた時間は僅かだった。
慌しく近付いてくる気配に急かされるように心を決める。
元々深く考えるのは苦手なんだ。
誰にだって得意不得意はあるだろ?
俺は直感のままに行動するほうがあってる。

「案内してくれ、その抜け道っていうのに」

警備も厳しく、扉を開く方法すら浮かばない正門よりも、
一か八かの可能性にかけて抜け道を選ぶほうが余程確率が高い。
絶対に、こんなところで死んでなんてやらない。
それに…疑うよりも信じるほうが良い。
信じたいと思った。

「…こっちだ」
言うなり駆け出したシャリスの後を追う。
シャリスは1度だけ俺の方を確認した後は、振り向きもせずに走った。



門から出て、そのまま城門には向かわずに回り込む。
ガチャガチャと鎧の金属が触れ合う音がやけに大きく響いた。
それに絨毯の上とは違って雪はどんなに殺そうとしてもザクザクと足音がする。
加えて足跡の不安もあるが、それは兵士達に見つかるより先に雪が覆い隠してくれることを祈るだけだ。
幸いなことに、まるで味方なのだと言わんばかりに後から後から雪は勢いを増して振り続けていた。

それとも俺たちの手に宿る魔石の意志なのか…?
この国を雪で閉ざし守り続けてきたという話が本当ならばありえなくもない。

シャリスの目的地は中庭のようだった。
大して迷う様子なく駆けていた足が鈍り、立ち止まる。
表情は見えないが視線を彷徨わせているようだ。
俺もつられて周囲を見回した。
兵士が見当たらないのは安心だな。
…しかしこの庭、整ってはいるけど何か寂しい…緑が少ない所為か?
殺風景というか…いつも雪が降ってるならあまり物は置けないだろうし花壇も作りようがないだろうけど。にしても…。

彼方此方を見回していたシャリスの動きが不意に止まった。
ゆっくりと歩いていく彼に俺はついていくしかない。
行き着いた城壁に探るように手を当てているのを黙ってみていた。
見た目、抜け道なんかありそうにないけど…でもだからこその抜け道だよな。
分かりやすかったら無意味だ。


「…あった…」


暫く待っていると、驚きすら入り混じったくぐもった声が聞こえた。
カタン、と音がして石造りの城壁の一部がパックリと口を開けた。
丁度人が1人通れる横幅の扉。
中は地下へ向かう階段が続いていた。

迷わずに足を踏み入れるシャリスに続く。
扉を閉じる前に振り向けば、俺たちを探しているらしい喧騒は城外にまで手を伸ばしているようだった。
けど、心配していた足跡は大部分が既に消えている。
扉を閉めてしまえば俺たちが此処に来た証拠など残りはしないだろう。

「何をやっているんだ」
「…ああ、分かってる」

責める響きを察して、俺は扉を閉ざした。
光源がないために闇が広がったがそれも一瞬のこと。
すぐに周囲が明るくなった。
見れば石壁には魔石が等間隔に並んでいた。
何らかの気配を感知して光を発するようにされているらしい。
移動すればその先に灯火が宿り、離れた場所のが消えていった。
流石、金がかかってる。



少し歩いてから、もうそろそろ良いだろうと思って兜を脱いだ。
床に落とせば甲高い音が響く。
先を進んでいたシャリスが振り向いて此方を睨んだ…気がした。

けど潜って暫く歩いたんだから、外に音は響かないだろ。
多少騒いだところでどうってことはない。
一緒に邪魔な鎧も脱ぎ捨てる。
兵士の鎧奪ったのはばれてるだろうから、兵士の格好なんてこれ以上していても意味が無い。
重いし単純に逃走の妨げになるだけで、メリットよりデメリットの方が大きい。
シャリスも邪魔に思っていたのか立ち止まって鎧を脱ぎ始めた。

先に脱ぎ終わったからその間に魔術で火の玉をだして暖をとっていた。
さっきからずっと寒かったんだ。
早く酒でも飲んでのんびり熱い湯にもつかりたい。
…本当ならそれは空想じゃなく現実に出来ていたはずのこと。
こうやって捕らえられなければ今頃暖かい布団で眠っていただろう。

シャリスの身支度が整ったのを見て、名残惜しく思いつつも火の玉を消した。
ずっと出してたら負担がかかるから区切りつけないと。

「此処を通ったら何処に着くんだ?」
「分からない。けど、城外に着くのは確かだ」

再び歩き出しながら尋ねれば即答された。
内容に聊か不安は残るけど、城の外に出られるなら良しとしようか。
…この国からの逃亡方法はまた別に考えれば良いし。

そういえば…コイツは…シャリスは、どうするんだろうか?

俺は逃げてしまっても平気だ。
この国に来た目的は、1時間もあれば達成できるから。
逃げる途中で少し寄り道が出来ればそれで良い。
その後はまた護衛の仕事をしながら彼方此方旅をするだけ。
まぁ暫くはフィリディアの出方を見ないといけないけど。

それにたとえ一生逃げ続けることになっても構わなかった。
どうせ今の俺の守るべきものは自分の身一つだ。
この身さえ守れればそれで良い。

「城外に着いたら、どうするんだ?」
「…家に戻る」
「家って…シャリス、この国の奴だよな?」

こともなげに言うから。
何処か安心しながら確認した。
なのに
「そうだけど」
シャリスはあっさりと肯定した。
俺は、否定の言葉を予想していたのに。

「…バカか!?今の立場、分かってるんだろ?すぐに捕まるに決まってる!」
そうなれば今度こそ処刑されるに決まってるのに!
辺りに声が反響するのも構わず、思わず叫んでいた。


「静かに」


案の定の指摘に、奥歯を噛締める。
この冷静さがいっそ腹立たしい。

「…何とも思わないのか?理不尽な理由で殺されることに」

少し気を落ち着かせて、声を抑えて尋ねた。
如何してそんな簡単に諦められるのか分からない。
納得できるわけないだろ?こんなこと。
少なくとも俺は出来ない。

「進んで死ぬつもりは無い」
「けど、シャリスが言ってたことは同じことだろ?自分で死刑台に向かうのとどう違う?」

家に戻ることがイコールで死とは限らないけど。
家族が守ってくれるのだろうと思うけど。

――それでも。

この国に暮らす以上王の言葉は絶対のはずだ。
そして逃亡のことを知ればシャリスの家をマークしないはずない。
リスクの方が高すぎる。

「そうだとして、ディアンに関係ある?それと、馴れ馴れしく名前で呼ぶな」

それは強い拒絶の言葉だった。
生半可な反論なんて寄せ付けない、切り捨てるような声音だ。
そういえばさっきから、名前で呼ぶたびに何か言いたげだった。

そう言われてしまえば言い返せる言葉は無い。…普通なら。

「俺がシャリスに死んで欲しくない、だから口出ししてるんだ」
さっきまで特に意識してなかったけど、今回わざと名前で呼んだのは単なる嫌がらせ。

シャリスが理解できないというように俺を見た。
今日…日付が変わっただろうから昨日か?会ったばかりの奴がこんなこと言っても信用されないのは分かってる。
けど、同じ理由で捕まって逃げて。親近感抱いたものは抱いたんだ。
まるで昔から知ってる相手のように心配してしまう。

自分でも不可思議なこれを如何説明すれば良いのか、分からないけど。
「仕方ないだろ、そう思うんだから」
ポツリとこぼした声音は自分でも感じるほど案外拗ねたような響きを伴っていた。

自分でも理由なんて分からないけど、そういうものだろ?
誰かが死ぬのを、それも親近感を感じた相手を見殺しにすることなんてしたくない。
そして、感情なんて理性で制御できるものじゃないはずだ。



俺の言葉がシャリスに届くかは分からない。
如何でも良いと思うのならそれでも良い。
けれど伝えるだけ、伝えておきたかった。
その上でシャリスがどう判断しようと、其処までは俺の干渉できることじゃない。
それはちゃんと分かっていた。






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