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Place to stay

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【side:蓉】





「…はい、わかりました。では、そのように。」

喫茶店で二名席に陣取り、携帯を耳と肩の間に挟んだまま電話での打ち合わせを終えると、開いたノートパソコンに今しがた入ったばかりの情報を打ち込む。
通話の切れた携帯を折りたたむとそのままスーツの内ポケットへ戻し、情報を打ち込んでたファイルをフォルダにまとめ自宅のパソコンへ転送してからノートパソコンの電源を落とした。
閉じたノートパソコンを鞄に戻すついでに鞄からファイルを取り出し、その中から数枚の書類を取り出し流し読みながら内容を確認する。
それにいくつかサインをすると別の封筒に入れて封をした。
そしてファイルと封筒を鞄に戻すと、これで仕事が一通りすんだのを確認して、既に冷め切った珈琲を啜った。

腕時計で時刻を確認すると既に二十時を回っている。
打ち合わせで立ち寄った喫茶店に入店してから既に二時間過ぎていた。
打ち合わせの相手は、三十分ほどの打ち合わせを済ませ既に帰っている。
丁度いいのでついでに外で出来る仕事を済ませようと思ったら、いつのまにかこんな時間になってしまった。
喫茶店内にはもう人はまばらにしかおらず、閉店時間が近いことを告げていた。
さすがに長居しすぎたかと僕は伝票と鞄を持って立ち上がった。

外に出ると既に真っ暗で少しばかり肌寒い。
とりあえず早く帰宅して、自宅で残った仕事を済ませようと駅へと流れる人込みにその身を投じた。



「…あれ?あ…もしかして蓉?」
「……?」

人込みの中不意に名前を呼ばれ、足を止めると声の聞こえた方へ振り返る。
しかし、人込みの中知り合いらしい人物は見つからない。
…それ以前に、僕のことを名前で呼ぶ人物自体希少だ。

「こっち、俺だよ」

不意に腕を引かれてそちらに視線をやれば、そこに立つのは少しばかり長身だが可愛らしい女性。
柔らかそうな茶色の髪に似合った、柔らかそうな素材の服が映える。
親しげな笑みを浮かべ此方を見つめるボーイッシュな感じのする幼さの残る女性に僕は首を傾げた。
生憎このような女性に知り合いなど居なかったはずだ。

「……すみません。
 失礼ですが、どちら様でしょう?」

失礼がないように柔らかく微笑んで聞けば、女性は拗ねたように唇を尖らせ拗ねた表情を作った。

「…俺のこと覚えてないの?酷くない?」

首をかしげながら批難の視線を向けられ、僕は困ったように曖昧に笑みを返す。
そう言われても、仕事上で会った人物ならば忘れないし、プライベートで女性と付き合った記憶もない。
人違いではないかと思いながらも、でも確かに彼女は僕の名を呼んだ。

「…朔夜、それじゃ分からなくて当然だと思うけど」

困惑していると、女性の背後から呆れの含まれた第三者の声が掛かった。
女性を追うように人込みを抜けながら此方に歩み寄ってくる若い男性。
どうやら女性の連れのようだ。
男性の言葉に朔夜と呼ばれた女性は「あ!」と声をあげて自分の姿を見る。

「……朔夜?」

聞き覚えのある名前に改めて女性を見れば、懐かしいある同級生の面影と重なった。

「…雪城、ですか?」

軽く驚きを含んだ声音で思いあたる元級友の名で聞き返せば、彼女…否、彼は満足そうににこりと笑った。

「そうだよ、雪城朔夜。思い出した?」
「………何故そんな格好をしているんですか?」
「変装。」

困惑と訝しさの混じりに聞いた問いに、あっさりとした返答が返ってくる。
そこで、目の前の高校時代の級友が今は有名人だということを思い出した。
そういえば幾度かテレビで見かけた。
「ナイト」と呼ばれる人気アイドル。その片割れが、この級友で。
しかし、確かに見様によってはユニセックスな服装ではあるが、女装といっても過言ではない出で立ち。芸能人というものはそこまでする必要があるのだろうか…?
そんなことを考えていると、掴まれたままだった腕を引かれる。

「そんなことよりさ、本当に久し振りだよね。蓉今何してるの?」
「……まぁ、色々と。」
「スーツ着てるしやっぱり、サラリーマンとか?
 確かこっちの大学に進学したんだったよね」
「……ええ。」

連れを気にせずに僕に話し掛ける雪城に、困ったような視線を雪城の連れに向ける。
彼はそれをどう解釈したのか、「じゃあ俺はそろそろ行くよ」と雪城に声を掛けた。

「そう?じゃあまたね、樹」

歩き出す連れを軽く手を振って見送る雪城に首を傾げる。

「…今のは、冴凪樹ですか?」

「ナイト」のもう一人の顔を思い出しながら首を傾げると、再び笑顔で肯定が帰ってくる。

「うん、そうだよ。
 あ、そんなことより折角だし飲みにでも行こうよ。これから時間ある?」
「え?ええ、仕事は終わったので構いませんけど…」

断る理由も見当たらず、そして昔からこの明るく無邪気な級友にNOというのは苦手で。
了承の返事を返すと、雪城は嬉しそうに笑った。

「俺が知ってる店でいい?
 …あ、ちょうど良いところがこの近くにあるんだ。」

よく知った嫌味のない強引さは昔のままで。
終始笑顔な雪城に毒気を抜かれて苦笑交じりに首肯すれば、雪城は僕の手を引いたまま意気揚揚と歩き出した。





「あ、あった。ここだよ」
「………此処、ですか?」

ある店の前で足を止めた雪城に、僕はつい訝しげに聞き返してしまう。
連れて来られたのは、『レストミル』というホストクラブで。
流石に男が2人で飲みにくるような店じゃない。
というか、普通は男だけでは入店を断られるものじゃないのだろうか?
いや、この場合雪城は女性に見えるから大丈夫、なのか…?
戸惑うように雪城を見れば、視線の中に含まれたに怪訝さに気付いたようで、入口を開けながら雪城は慌てて首を振った。

「あ、勘違いしないでよ!
 俺の趣味じゃなくて、たまには金落しに来いって言われただけだから」
「…言われたって誰に…?」

聞き返した言葉に返答が返ってくる前に、開かれた扉の向こうにいる数人の男性に出迎えられた。





「ようこそ、クラブ『レストミル』へ!」






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