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朔夜

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【side:朔夜】





蓉と再会した三日後。
名刺に書かれてた番号に電話して、都内の喫茶店に蓉を呼び出した。

予定外に撮影が早く終わったから着いたのは予定時間よりも30分ほど前。
渡されてた名刺を取り出しながら肩書きをもう一度見る。
蓉は職業を「経営コンサルタント」と言っていて、名刺にもそう書かれてある。
けど、名刺を相方の樹に見せたらその名前の人はその筋で有名な「斡旋屋」だと教えてくれた。
何でも心霊関係のトラブルに強いとか。
この業界はそういうの多いから、其処に頼む人が結構居るらしい。
…なんで樹がそんなのを知っているのかは謎だったけど。
樹は顔が広いから、誰かが蓉の会社に頼んだとかの話を聞いたのかもしれない。

心霊関係、という言葉にはやっぱりと頷けた。
蓉は学生時代から所謂霊能力があったらしくて相談に来てる人たちが居たから。
聖夜と蓉が出会った…というか俺が出会わせたというほうが正しいけど…のも、その能力が関係していた。
誰かに狙われてるんじゃないかってくらいに事故が続く聖夜のことが心配で、蓉に相談したのが切欠。


…今の状況、あの時とまさにそっくりだよな。
運ばれてきたアイスミルクティを飲みながら、そう考えて笑みが浮かんだ。
またあの時と同じように2人が仲良くなれたら良いのに。

「すみません、お待たせしました」

柔らかな声に見上げれば、微笑を浮かべた蓉が向かいの席に着くところだった。
仕事帰りだったのか、この前と同じくパリッとした高そうなスーツ姿。
時計を見ると待ち合わせ時間の5分前。
几帳面なところは変わってないらしい。

「ううん、俺が早く来ただけだから。撮影が早く終わったんだ」

タイミングを見計らっていたのか、蓉が席に座るとウェイトレスがスッと近づいてきた。
彼女に、蓉は珈琲を注文している。
その様子を見ながら紅茶を啜る。

「…話がある、との事でしたが」

俺が何も言わないでいると、蓉の方から切り出してきた。
呼び出しの電話をかけたとき、仕事の合間で時間がなかったのも手伝って、用事があることと日時と待ち合わせ場所だけを伝えて電話を切ってしまった。
了承は貰えたけど、不審に感じていたのには間違いないだろう。

「あのさ、頼みがあるんだ」
「頼み?」

デジャヴを感じるやりとり。
10年前も同じ切り出しで、蓉が不思議そうに俺を見てた。
…どうせなら同じ言葉で頼んでみようか?

「聖夜を守ってくれない?」

10年前にも唐突に同じことを頼んだ。
蓉は憶えていないのかもしれないけど、同じように目を瞬かせている。

「私が、雪城さんを?」

確認するように尋ねてくる蓉に頷く。

「この前店に行った時に、最近よく物落としたり壊れたりするって言ってただろ?」

蓉の居たときにも何処かでグラスが割れてたし、多分覚えてるだろう。
彼が頷くのを見て続ける。

「あの日の帰り、聖夜が送ってくれるって言うから待ってたんだ」


あの日は結局ラストまで久しぶりに会った聖夜と話をしてた。
気付いたら閉店時間間際で、慌てて帰ろうとしたら送るから待ってろと言われた。
そんなに飲んだわけでもなかったから大丈夫だったのに。
「お前が何て言おうと傍から見れば少し大柄だけど女に見える、夜なら尚更」っていうのが言い分。
1人でも帰れるとは思ったけど、タクシー代出してくれるって言うから了承して、聖夜が荷物取りに言ってる間入り口の方で待っていた。

「朔夜、帰るぞ」

大して待つことも無く戻ってきた聖夜に声をかけられて、一緒に店を出ようとした瞬間。

傍のガラスが派手な音を立てて一斉に割れた。
誰も触ってなかったし何かがぶつかったとかもなくて、何の前触れも無く。

俺は聖夜が庇ってくれたけど、それでも頬に切り傷が出来て後で社長に怒られることになった。
社長は普段は温厚だし話の分かる人なんだけど、身体と容姿が商売道具の仕事をしているから、見えるところ…特に顔に傷っていうのには結構煩い。

「…わりぃ、顔に傷作らせた」

聖夜はそう謝ってきたけど、怪我の程度は俺よりも聖夜の方が酷かった。
俺のこと庇ったせいで手や顔に破片が掠めて、特に手は血塗れ。

深くはないとはいえ自分の傷の方が酷いくせに、いつもは自己中で自分が一番大事なくせに。
こういうときは真っ先に相手の心配してみせるのは性質が悪い。
そのたまにしか見せてくれない優しさが逆に罪悪感を刺激して、痛いから。


「しかもその後、手当てなんて面倒だし舐めておけば治るーで終わらそうとするんだよ?」
「それは…雪城さんらしいですね」

他にコメントのしようがないのか、蓉は困ったような表情で相槌を打った。
そこまで来て、話しが脱線しかけたことに気付く。

「それで、その後で聖夜を手当てさせてるときに他の人に話を聞いたんだ」
「話?」
「聖夜は偶然っていうけど、本当に偶然なのかって。そしたら偶然だろうけど噂があるって教えてくれた」

その噂を聞いたから、蓉に頼みたいってことに繋がる。
此処まで聞けば蓉にも予想はついただろうけれど。

「大体一ヶ月前から事故とかガラス割れたりとかするようになったんだって。で、丁度その頃、聖夜を指名してた女の子が一人事故で亡くなってるそうなんだ」

それこそ偶然かもしれないけど。
でも偶然で片付けてしまっていいのかはまだ分からない。

「つまりその女の子の霊の仕業なのでは、という噂があるんですね?」
「そう。けど、今までは怪我するような規模のはなかったみたいなんだ…エスカレートして危ないのはやっぱり聖夜か、そのときのお客だと思う」

自分の考えを混ぜて伝える。
そして座ったまま頭を下げた。

あれでも聖夜は、俺のことを小さい頃から可愛がってくれてた大事な兄さんで。
しかもかすり傷とはいえ俺のせいで商売道具の顔や手に怪我させてしまったことに責任を感じてた。
俺のことを庇わなかったら、位置的に聖夜だけでも怪我をせずに済んだはずだったのに。

偶然ならそれはそれで構わないけど、もし霊の仕業で、エスカレートしてしまったら。
そう考えると不安だった。

「同級生のよしみじゃなくて、ビジネスでの依頼。調べてみてくれないかな?」

こういった現象で信頼できるのは蓉しか知らないから。
顔を上げて、断られないように祈りながら蓉を見つめた。






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