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Place to stay

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【side:蓉】





「つまりその女の子の霊の仕業なのでは、という噂があるんですね?」

雪城は僕の言葉に小さく頷く。

先日、レストミルに訪れたあの日。
あの時存在を感じた女性のことだろうと、簡単に察しはついた。
雪城が聞いたという噂の女性であるとは断定は出来ないが、事件が起こる場所が聖夜の仕事先であるレストミルに限定されていることなどの状況を考えても、何らかの未練を残し霊と化してしまった女性だと考えるのが自然だ。

「そう。けど、今までは怪我するような規模のはなかったみたいなんだ…エスカレートして危ないのはやっぱり聖夜か、そのときのお客だと思う」

真剣な表情でそう言った雪城は僕に向かって頭を下げた。

「同級生のよしみじゃなくて、ビジネスでの依頼。調べてみてくれないかな?」

雪城の縋るような視線を受けながら、どうしようか迷う。
…ビジネスだと、そう言われてしまえば聖夜に再会する前の自分なら躊躇わずに二つ返事だっただろう。
しかし、再会して自分に未練が残っているかもしれないと思ってしまった今では、躊躇うものがあった。

けれど、今目の前で依頼をしているのは昔の恋人の弟ではなく、純粋に兄を心配して話を持ちかけてきた心優しい弟。
ビジネスで、そういった雪城の言葉は、僕にとっての少なからずの逃げ道となってしまった。

「……わかりました。お受けします。」

僕は逡巡の後、小さく首肯した。
どうやら思った以上に自分はこの級友に弱いのかもしれない。
そして、それに彼も関わっているのなら、自分に放っておくことなど出来るだろうか。

「本当?」

ぱぁっと明るくなる雪城の表情に苦笑は禁じえない。
現金だと思うが、けれどその素直さも雪城の雪城たる所以なのだろう。

「はい。」
「ありがとう」

明るい表情で笑ってそう言った雪城に小さく首を振る。

「お礼は事が収まってからで結構ですよ。」

少しだけ表情を崩しそう言えば素直に首肯が返ってきた。
それに小さく微笑み返し、レストミルに訪れる日程を決めると雪城と別れた。





「……御符、ですか?」
「はい。用意していただけますか?」

訝しげに首を傾げる少年に向かって僕は頷いた。
雪城と会った翌日、僕はビジネスパートナーでもある少年の元を訪れていた。
僕の目の前にいる彼…舞原綴はまだ学生だが、信頼のおける仕事仲間。
立場上、彼の上司に当たらなくもないが心霊現象に関しては僕よりも彼の方が実力は確かだ。
彼の対霊手段は独学らしいが、実績や実力は僕の観る限りでも並ぶものは少ない。
大人しく口数少ないしどちらかといえば愛想のあるタイプではないが、信頼は厚い。
斡旋屋への依頼の多くは、彼に流れていくといっても過言ではないだろう。

「…俺が行きましょうか?」

僕の話に依頼だと察しが付いたらしい綴君は少し迷ったように口を開いた。
僕の苦手としている除霊の為に護符をと頼んだのだから当然といえば当然だ。
そして、雪城からの依頼も仕事と割り切るのならば綴君に任せた方がいいのかもしれない。
仕事の難易度を量るために現場に赴くことはあっても、僕自身が除霊や浄霊を行うことは珍しい。
僕は力は霊を視たり同調することに強く、護符や結界、除霊などにはあまり向かない。
浄霊なら多少心得はあるが、それに従ってくれる者ばかりではない。
そして何より、僕はあくまで『斡旋者』であり、現場に赴くプロではない。
実際、浮遊霊を祓うくらいならまだしも因縁の強い霊を払うことには不安が残る。

「いえ、今回は私が行こうと思います。」

それでも、何故かこの雪城からの依頼を、他の誰かに任せようという気にはならなかった。
だから、万が一自分の力が及ばなかったときのことを考え、保険を確保しておくことにしたのだ。
独学で作られたものらしいが、彼の護符ならきっと大事にいたることはないだろう。
僕の言葉に気にした様子なく、綴君はそうですかと首肯した。

他に任せないのは…雪城からの依頼だから。
……否、聖夜が関わっているなら、と思ってしまったかもしれない。
未練がましいなと自嘲気味に思いながら、けれどその言葉を撤回する気にもならなかった。

「……わかりました。いつまでに用意しておけば?」
「…ありがとうございます。そうですね…明後日までに。」

綴君の問いに、雪城との約束を考え答えれば急な仕事にも関わらず綴君は再び小さく頷いた。

「じゃあ明日には用意しておきます。」
「助かります。では、明後日の夕刻に取りに伺います。」
「わかりました。」

いつもどおり事務的に報酬と護符の受け渡しの方法を確認すると、僕は真直ぐ帰路についた。





その数日後。雪城との約束の日に以前訪れたホストクラブに訪れると、既に雪城が話を通していたらしくそのままオーナーの元に案内された。
オーナーはまだ若い感じの女性で、オーナーというよりは客に近い感じもしたが、ホストや客への気遣いや采配を見ればさすが、といったところだ。
彼女にもう一度事の経緯を聞くと、彼女も今回の件については困っていたと零した。
そして店の営業中は手空きのホストから話を聞くことにして、本格的に動くのは店を閉めるのを待ってからにすることになった。






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