【side:聖夜】
白を基調とした落ち着いた…シンプルすぎる花束。
それを、他にも幾つか置かれている花などの中に一緒に置いた。
置いてある線香がまだ燃え尽きてないから、俺の前にも誰か来ていたらしい。
そんなことを思いながら少しの間その場に佇み、手を合わせることなく身を翻した。
それを、他にも幾つか置かれている花などの中に一緒に置いた。
置いてある線香がまだ燃え尽きてないから、俺の前にも誰か来ていたらしい。
そんなことを思いながら少しの間その場に佇み、手を合わせることなく身を翻した。
歩き出して少しすると傍に黒塗りのベンツが止まった。
…誰だ?
チラッと見るも後部座席はスモークガラスになっていて外からは伺えない。
…誰だ?
チラッと見るも後部座席はスモークガラスになっていて外からは伺えない。
ゆっくり窓が開いて、中から顔を見せたのは同僚の1人、栗栖(クリス)だった。
艶のある長めの黒髪に黒い瞳と色彩は典型的な日本人だが、クオーターらしく異国風の雰囲気を纏う少年だ。
少女と言っても通用しそうな可愛い顔立ちと素直で愛くるしい態度で、特に年嵩の相手からの人気が高い。
…それも男女問わず。
ウチの店は男好きする奴が数人居る上に、客が男でもオーナーが入店拒否しない。
そのため、数少ないが男性客も来ることがある。
営業用の仮面を外せば、小生意気で傲慢なガキなんだが見た目は良いしな。
艶のある長めの黒髪に黒い瞳と色彩は典型的な日本人だが、クオーターらしく異国風の雰囲気を纏う少年だ。
少女と言っても通用しそうな可愛い顔立ちと素直で愛くるしい態度で、特に年嵩の相手からの人気が高い。
…それも男女問わず。
ウチの店は男好きする奴が数人居る上に、客が男でもオーナーが入店拒否しない。
そのため、数少ないが男性客も来ることがある。
営業用の仮面を外せば、小生意気で傲慢なガキなんだが見た目は良いしな。
話を聞く限りこんな仕事をせずとも金には困ってないようだが、オーナーの親戚だとかで店に顔を出してるうちに遊び感覚でホストをやるようになったらしい。
常に手都(テヅ)を従えており、今回も例に漏れず同乗しているのが栗栖の頭越しに見えた。
手都も同じ店で働いているが、本職は栗栖の付き人と聞いている。実際子守りのようなものだろう。
そもそも手都がホストクラブに所属しているのは栗栖が居るからというだけで、仕事も基本的に栗栖のヘルプしかしようとしない。
ヘルプについた手都を見て、気に入った輩が指名しようとしても聞かないほどだ。
常に手都(テヅ)を従えており、今回も例に漏れず同乗しているのが栗栖の頭越しに見えた。
手都も同じ店で働いているが、本職は栗栖の付き人と聞いている。実際子守りのようなものだろう。
そもそも手都がホストクラブに所属しているのは栗栖が居るからというだけで、仕事も基本的に栗栖のヘルプしかしようとしない。
ヘルプについた手都を見て、気に入った輩が指名しようとしても聞かないほどだ。
「聖、今から出勤?」
「ああ」
「乗せてってあげるよ。乗ってくよね?」
「ああ」
「乗せてってあげるよ。乗ってくよね?」
栗栖が言い終わるなり後部座席のドアが空いて、出てきた手都に背を押される。
此処から店までは5分も離れてないが、特に断る理由もないし歩いていくよりも楽なのでそのまま乗り込んだ。
柔らかく弾力のあるソファは座り心地が良い。
ドアが閉まると車は静かに動き出した。
此処から店までは5分も離れてないが、特に断る理由もないし歩いていくよりも楽なのでそのまま乗り込んだ。
柔らかく弾力のあるソファは座り心地が良い。
ドアが閉まると車は静かに動き出した。
「あ、それが彼女を守ってついたっていう名誉の負傷?」
言いながら栗栖が手を差し出せば、手都が即座にカップを手渡す。
礼すら言わずに当然のように受け取ったカップを傾けながら、栗栖は興味深そうに俺の顔を見た。
怪我を負ってから栗栖に会うのはそういえば今日が初めてだった。
礼すら言わずに当然のように受け取ったカップを傾けながら、栗栖は興味深そうに俺の顔を見た。
怪我を負ってから栗栖に会うのはそういえば今日が初めてだった。
数日前、朔夜を庇う形でついた傷はまだ完全に消えていない。
特に手の傷は傷自体はともかく、奥の方までガラス片が入り込んでいたので治りが遅い。
頬と首筋についた傷は蚯蚓腫れのようになったので消えるまではガーゼを張っておくことにしている。
本音を言うと包帯もガーゼも邪魔だが、とると煩い連中が居るので外すに外せないのが現状だ。
特に手の傷は傷自体はともかく、奥の方までガラス片が入り込んでいたので治りが遅い。
頬と首筋についた傷は蚯蚓腫れのようになったので消えるまではガーゼを張っておくことにしている。
本音を言うと包帯もガーゼも邪魔だが、とると煩い連中が居るので外すに外せないのが現状だ。
「…うるせぇ」
彼女じゃないと否定するのも面倒で、肯定も否定もせずに流す。
栗栖に対する乱雑な返答が気に入らなかったのか手都の視線が一瞬鋭くなった。
栗栖に対する乱雑な返答が気に入らなかったのか手都の視線が一瞬鋭くなった。
「折角綺麗な顔してるんだから、怪我なんてしないようにね。商売道具なんだし」
言動に気を悪くした様子は見せなかった栗栖は、頬に手を伸ばして不満そうに言った。
コイツはどうやら俺の容姿が気に入っているらしいから。
その、触れてきている手を掴んで笑う。
コイツはどうやら俺の容姿が気に入っているらしいから。
その、触れてきている手を掴んで笑う。
「この程度の傷が仕事に影響を与えるとでも?」
傲慢だとは思わない。
顔なんて、宝石のように傷がついた程度で価値を失くすものではないのだから。
顔なんて、宝石のように傷がついた程度で価値を失くすものではないのだから。
何度か目を瞬かせた栗栖が愉しそうに小さく笑った。
「与えないみたいだね」
艶やかに見上げてくる表情は、確かに男好きしそうだなと納得できた。
基本的に女の方が好きな俺でも色気を感じた。
まぁ…誘うような、というよりは油断したら逆に痛い目をみそうな色気だけどな。
基本的に女の方が好きな俺でも色気を感じた。
まぁ…誘うような、というよりは油断したら逆に痛い目をみそうな色気だけどな。
妖しげ、だったかもしれない空気を断ち切ったのは手都だった。
「栗栖様、着きましたよ?」
そう言いながら栗栖からまだ中身の入っているカップをそっと取り上げ、さりげない様子で引き寄せている。
牽制するように向けられた視線に、思わず笑みが毀れた。
牽制するように向けられた視線に、思わず笑みが毀れた。
手都は栗栖に近づこうとする相手には今回みたいに牽制するくせに、栗栖が誰かを誘うのは止めない。栗栖の望みに口を出せないのだ。
その甘さが見ていて面白い。
その甘さが見ていて面白い。
誘ってきたのは向こうからであって、俺が睨まれる筋合いはないはずなんだけどな。
大体好みじゃないから手をだすつもりは毛頭ない。
悪びれずに肩を竦めながら窓の外を見れば、後数メートルで店の前、という位置だった。
大体好みじゃないから手をだすつもりは毛頭ない。
悪びれずに肩を竦めながら窓の外を見れば、後数メートルで店の前、という位置だった。
待機のために控え室に入ってソファに腰掛ける。
いつも、呼ばれるまでは大抵そうやってぼんやりしていた。
いつも、呼ばれるまでは大抵そうやってぼんやりしていた。
「そういえば知り合いでも死んだの?」
暇をもてあましたのか思い出したように栗栖が尋ねてきた。
どうやら花束を置いているところから見ていたらしい。
どうやら花束を置いているところから見ていたらしい。
「客」
俺のことを素敵だと飽きることなく何度も褒めるような、初々しい良い子だった。
抱いたことがあるわけでもないし死んだと聞いても今でも正直ピンと来ない。
なのにわざわざ花を買ったのは偶々カレンダーを見て今日が月命日ということを思い出したから…つまりは単なる気まぐれ。
抱いたことがあるわけでもないし死んだと聞いても今でも正直ピンと来ない。
なのにわざわざ花を買ったのは偶々カレンダーを見て今日が月命日ということを思い出したから…つまりは単なる気まぐれ。
「珈琲淹れるけど飲むか?」
恐らくは珍しい、と皮肉りたかったのだろう。
けれどその寸前に湯を沸かしていた海斗(カイト)が声をかけてきたので話題は曖昧に途切れた。
海斗は抜きすぎてるのか地毛かは知らないが色素の薄い金髪に赤メッシュ、幾つもピアスを開けていたりと言った外見の上口調も軽い。
いかにも軽薄そうに見えるが面倒見が良いためか、年下連中にしょっちゅう遊ばれている。
けれどその寸前に湯を沸かしていた海斗(カイト)が声をかけてきたので話題は曖昧に途切れた。
海斗は抜きすぎてるのか地毛かは知らないが色素の薄い金髪に赤メッシュ、幾つもピアスを開けていたりと言った外見の上口調も軽い。
いかにも軽薄そうに見えるが面倒見が良いためか、年下連中にしょっちゅう遊ばれている。
「僕は要らない」
「私も結構です、お気遣いありがとうございます」
「私も結構です、お気遣いありがとうございます」
栗栖は営業中以外だと手都の淹れたものしか飲まない。
そのことは海斗も知っているが律儀なことにいつも確認するように聞いていた。
そのことは海斗も知っているが律儀なことにいつも確認するように聞いていた。
「聖は?」
「ブラック」
「私もブラックをお願いします」
「ブラック」
「私もブラックをお願いします」
それまでずっと何にも反応せず分厚い本を読んでいた黒髪の男、零(レイ)が要求した。
本に集中していてこっちの会話なんて聞いてないと思っていたが、意外に聞いていたらしい。
珍しいと思ったが、本を閉じて机に置いたところをみると興味を引かなかったのか区切りのいいところだったらしい。
柔らかな物腰といつでも浮かべられている微笑のせいか一見穏やかな優男に見えるが、その実食えない奴だということは俺を含めた大多数の認識だ。
本に集中していてこっちの会話なんて聞いてないと思っていたが、意外に聞いていたらしい。
珍しいと思ったが、本を閉じて机に置いたところをみると興味を引かなかったのか区切りのいいところだったらしい。
柔らかな物腰といつでも浮かべられている微笑のせいか一見穏やかな優男に見えるが、その実食えない奴だということは俺を含めた大多数の認識だ。
「OK、楽杜(ラクト)も飲むだろ?っつーことは4人分だな」
「頂きます。栗栖、3番テーブルから指名が入りました」
「頂きます。栗栖、3番テーブルから指名が入りました」
丁度部屋に入ってきた薄い金茶の髪の男を見た海斗が、棚からカップを取り出しながら確認した。
今入ってきた楽杜は主に裏方を担当している奴で、オーナーの代わりに指示を出したりすることもある。
仕事時は細かいところまで気を配り物言いも丁寧だが、素は大雑把で口調も悪い。
素の方で慣れてしまうと今のような仕事のときの丁寧な口調が逆に気持ち悪くて仕方がない。
仕事時は細かいところまで気を配り物言いも丁寧だが、素は大雑把で口調も悪い。
素の方で慣れてしまうと今のような仕事のときの丁寧な口調が逆に気持ち悪くて仕方がない。
指名の入った栗栖は大きく背伸びをしてから手都を従えて控え室から出て行った。
代わりに楽杜がそれまで栗栖の座っていた場所、俺の前に座る。
考え事でもしているのか、いつもの皮肉げな笑みは無い。
代わりに楽杜がそれまで栗栖の座っていた場所、俺の前に座る。
考え事でもしているのか、いつもの皮肉げな笑みは無い。
「楽杜、どうかしたんですか?」
「今、この前オーナーが言っていた『専門家』が来た。…これで解決すると良いんだが」
「今、この前オーナーが言っていた『専門家』が来た。…これで解決すると良いんだが」
好奇心で尋ねる零に、楽杜は一瞬俺に視線をやってから素の口調で答えた。
最近店で起こるガラスが割れたり物が落ちたりといった現象。
それまでは大した被害でもなかったこともあり、その内何とかなるだろうと放置されていたが、割れたガラスで俺と客…といっても朔夜だが…に実害が出たため「専門家」を呼んで調査を行うことにしたらしい。
出来る限り協力するようにとオーナーから言われていた。
それまでは大した被害でもなかったこともあり、その内何とかなるだろうと放置されていたが、割れたガラスで俺と客…といっても朔夜だが…に実害が出たため「専門家」を呼んで調査を行うことにしたらしい。
出来る限り協力するようにとオーナーから言われていた。
「あーまた誰か怪我したら困るしな」
配られた珈琲を啜りながら、俺は沈黙していた。
怪我をしたことをいつまでも揶揄られるっていうのはムカつく。
海斗の淹れた珈琲を飲んで、苛立ちを紛らわす。
…どうせなら気分良く飲みたかった。
怪我をしたことをいつまでも揶揄られるっていうのはムカつく。
海斗の淹れた珈琲を飲んで、苛立ちを紛らわす。
…どうせなら気分良く飲みたかった。
「破損したものの経費も嵩んでいるようですしね」
「そういえば結構色々壊れてるよな。ところで、その専門家ってどんな奴だったんだ?怪しそうなオッサンとか?」
「そういえば結構色々壊れてるよな。ところで、その専門家ってどんな奴だったんだ?怪しそうなオッサンとか?」
海斗の問いに、けれど楽杜の目は俺を映していた。
「そろそろ此方に来ると思うが…この前来た、聖の客だ」
その言葉に、真っ先に浮かんだのは伊佐の顔だった。
まさか、とは思うが…そういえばオーナーは意味ありげな笑みを浮かべて俺を見ていなかったか?
今さっき、専門家が来たと告げたときの楽杜のように。
そして朔夜は俺の怪我を酷く気にしていた。オーナーとも仲が良いし、伊佐とも連絡がとれる。…要らぬお節介を焼いていないと言い切れるか?
まさか、とは思うが…そういえばオーナーは意味ありげな笑みを浮かべて俺を見ていなかったか?
今さっき、専門家が来たと告げたときの楽杜のように。
そして朔夜は俺の怪我を酷く気にしていた。オーナーとも仲が良いし、伊佐とも連絡がとれる。…要らぬお節介を焼いていないと言い切れるか?
強くなる嫌な予感に不機嫌に黙り込んでいると、不意にノックの音が世間話を止めた。
どうぞ、と楽杜が答えると扉が控えめに開かれる。
どうぞ、と楽杜が答えると扉が控えめに開かれる。
失礼します、と言いながら入ってきたのは予想通り伊佐だった。