【side:聖夜】
落ちたシャンデリア、俺を庇った蓉。
何が起きているのか理解できなかったが、それだけで充分だった。
すぐさま駆け寄り、動けないでいる蓉の上から忌々しいほど豪奢なソレを退かした。
傷を確認すれば、幾つか細かな破片が右腕や足に刺さっているのが見て取れた。
何が起きているのか理解できなかったが、それだけで充分だった。
すぐさま駆け寄り、動けないでいる蓉の上から忌々しいほど豪奢なソレを退かした。
傷を確認すれば、幾つか細かな破片が右腕や足に刺さっているのが見て取れた。
「大丈夫か!?」
冷静に、と自らに言い聞かせている時点で充分にパニくっている。
混乱しながらもハンカチを取り出して傷口に巻き付けた。
止血方法なんて、高校の頃に保険の授業でやった程度だ。
とにかく今、少しでも血を止めることができていれば良い。
混乱しながらもハンカチを取り出して傷口に巻き付けた。
止血方法なんて、高校の頃に保険の授業でやった程度だ。
とにかく今、少しでも血を止めることができていれば良い。
「…聖夜、怪我は…?」
「この、馬鹿が!何やったか分かってんのか!?」
「この、馬鹿が!何やったか分かってんのか!?」
手についた赤い色に奥歯を噛み締める。
物音に慌てて出てきたらしい楽杜に医者を呼べと叫んだ。
物音に慌てて出てきたらしい楽杜に医者を呼べと叫んだ。
「すみません」
申し訳無さそうに言うその姿に苛立ちを覚える。
コイツはどうして俺が怒っているのか、理解していない。
そのことが無性に腹立たしかった。
コイツはどうして俺が怒っているのか、理解していない。
そのことが無性に腹立たしかった。
『邪魔をするからよ』
女の声が聞こえて、振り向く。
カウンターの傍には見覚えのある女が立っていた。
その姿は透けていて、向こう側が見える。
カウンターの傍には見覚えのある女が立っていた。
その姿は透けていて、向こう側が見える。
――なるほど、コイツが幽霊で…蓉に怪我をさせた奴だってことか。
「お前…っ」
睨みつけて唸ると、女が目を丸くして口に手を当てた。
『私が見えるの…?』
「ああ、見える」
「ああ、見える」
立ち上がり、女に近づく。
手にはさっき蓉に押し付けられた護符を握っていた。
良く分からないが、急に女が見えるようになったのも声が聞こえるようになったのもこれの力なんだろう。
原理が分からないってことが更にムカつく。
手にはさっき蓉に押し付けられた護符を握っていた。
良く分からないが、急に女が見えるようになったのも声が聞こえるようになったのもこれの力なんだろう。
原理が分からないってことが更にムカつく。
「聖夜、何を…」
「動いちゃダメ!誰か早く手当ての道具を持ってきて!」
「動いちゃダメ!誰か早く手当ての道具を持ってきて!」
背後から蓉の声と、オーナーの声が聞こえる。
周囲の音は聞こえていたけれど、遠かった。意識の中に殆ど入って来ない。
周囲の音は聞こえていたけれど、遠かった。意識の中に殆ど入って来ない。
『私、ずっと貴方に会いたかったの…』
嬉しそうに微笑む女の姿は生前と同じ。
重力を感じさせない動きで近づいてきた女が俺の頬に触れようと手を伸ばしてきた。
重力を感じさせない動きで近づいてきた女が俺の頬に触れようと手を伸ばしてきた。
触れられても、薄く透けているその手は何の感触も伝えてきはしない。
哀しげにその手を見る表情にも、何も思わなかった。
哀しげにその手を見る表情にも、何も思わなかった。
「さっさと消えろ」
『…聖…?』
『…聖…?』
戸惑ったように、この店の中だけの俺の名を呟く女。
その声は空気を震わせてではなく、直接的に頭に響いてきていた。
その声は空気を震わせてではなく、直接的に頭に響いてきていた。
頭イテーし、蓉の怪我も気になるし。早いところ黙らせよう…。
感慨も無くただそれだけが頭に浮かぶ。
感慨も無くただそれだけが頭に浮かぶ。
「聖夜!待ってください!」
手にしていた護符をその手に押し付けようとしたところで、蓉の声が聞こえてきた。
まるで夢を見ていたかのように遠かった音が、周囲の状況が一気に意識に入ってくる。
まるで夢を見ていたかのように遠かった音が、周囲の状況が一気に意識に入ってくる。
「蓉…」
「彼女は、貴方のことが好きなだけなんです」
「お前…そんな怪我しといてどうして庇おうとするんだよ」
「彼女は、貴方のことが好きなだけなんです」
「お前…そんな怪我しといてどうして庇おうとするんだよ」
確信があるわけじゃないし、ハッキリ言うなら良く分からないけど。
それでも、この護符を押し付ければコイツは消せるはずだ。
それなのに、どうして……。
それでも、この護符を押し付ければコイツは消せるはずだ。
それなのに、どうして……。
「コイツはお前と朔夜に怪我させたんだぞ!?俺が愛してる奴らを、俺の目の前で」
『聖、どうしてそんなことを言うの?』
『聖、どうしてそんなことを言うの?』
パリンと何処かで何かが割れた音がした。
目の前の顔が歪むけど、俺の意識を支配しているのは蓉の流した血の色。
それと、哀しげに女をみる瞳。
目の前の顔が歪むけど、俺の意識を支配しているのは蓉の流した血の色。
それと、哀しげに女をみる瞳。
急激に、昇っていた血が一気に落ち着いた。
…どうしてこんなことになってるんだ。
俺のせいか?コイツのせいか?蓉を巻き込んだ朔夜のせいか?
手に持つ護符を見る。恐らくこれで、コイツは殺せる。それは確かだ。
もう死んでいる相手を「殺す」ということが理解出来ないけど。
俺のせいか?コイツのせいか?蓉を巻き込んだ朔夜のせいか?
手に持つ護符を見る。恐らくこれで、コイツは殺せる。それは確かだ。
もう死んでいる相手を「殺す」ということが理解出来ないけど。
「………お前、ずっと此処に居たのか?」
『ええ。聖は気付いてくれなかったけど、でもずっと見てた』
「それで嫉妬ばかりして苦しんでた?俺がお前のために買った花も見ずに」
『ええ。聖は気付いてくれなかったけど、でもずっと見てた』
「それで嫉妬ばかりして苦しんでた?俺がお前のために買った花も見ずに」
俺に近づく連中が憎くて、それで物を壊した挙句に俺や朔夜、蓉に怪我をさせたのか。
やるせない思いと共に言葉を紡ぐ。
やるせない思いと共に言葉を紡ぐ。
え?と見上げてくるあどけない表情は、生前と同じ。
分からなくなる。この女はもう存在していないっていうことが。
蓉に見える世界はいつもこうなのだろうか?
生きている者と死んでいる者の区別がつかなくなるような。
こうして言葉を交わすことが出来るのに、けれど相手は本当は既に死んでいるなんて。
分からなくなる。この女はもう存在していないっていうことが。
蓉に見える世界はいつもこうなのだろうか?
生きている者と死んでいる者の区別がつかなくなるような。
こうして言葉を交わすことが出来るのに、けれど相手は本当は既に死んでいるなんて。
「白い花束を、今日来る前に供えてきた。…白色が好きだと言ってただろう?」
『…憶えていて、くれたの…?』
『…憶えていて、くれたの…?』
ぼんやりと女が呟く。
何処か震えているような「声」だった。
女が抱いただろう驚きや喜びがダイレクトに伝わってくる。
何処か震えているような「声」だった。
女が抱いただろう驚きや喜びがダイレクトに伝わってくる。
「花を扱う仕事に着きたかったんだよな、本当は。その服は俺が似合うといった服だ」
以前に、似合うと思ったから気まぐれにそう言った。
そのくらい憶えている。
そのくらい憶えている。
実体の無い幽霊には涙腺はあるものなのだろうか。
頬を流れる涙が見えた気がした。
頬を流れる涙が見えた気がした。
「蓉が止めるから消しはしないけど、お前が俺の大事な奴らに怪我をさせたことは許せない。だから…早く行くべきところに行っちまえ」
『聖はやっぱり、冷たくて酷いね。…でも、優しい』
「お前は相変わらず俺のこと美化しすぎてるな」
『聖はやっぱり、冷たくて酷いね。…でも、優しい』
「お前は相変わらず俺のこと美化しすぎてるな」
未だに頬のところにある手に、手を重ねる。
やっぱり何も感覚は無かった。
やっぱり何も感覚は無かった。