【side:聖夜】
蓉のことは医者に任せることにして、周囲を見回した。
事情が分かっていない面子が首を傾げていたり、店の彼方此方が壊れていたり。
…本人は幸せそうに消えてったけど、後の始末をするのは誰だと思ってんだ。
事情が分かっていない面子が首を傾げていたり、店の彼方此方が壊れていたり。
…本人は幸せそうに消えてったけど、後の始末をするのは誰だと思ってんだ。
「オーナー、この騒ぎは俺のせいみたいだから…」
「被害のことは後で考えましょう」
「被害のことは後で考えましょう」
オーナーに声をかけようとすると肩を竦められる。
やっぱり俺が弁償することになるのか?
丸々俺が負担ってことになった場合、面倒くさそうだな。
被害総額を思って溜息が漏れた。
やっぱり俺が弁償することになるのか?
丸々俺が負担ってことになった場合、面倒くさそうだな。
被害総額を思って溜息が漏れた。
「はい、一応これで終わり。明日にでも僕の病院においで、良いね?」
その間に楽杜の呼んだ相馬と名乗った医師がそういって立ち上がった。
かろうじて白衣を羽織っている程度で、全く医者には見えない。
というか、楽杜の人脈は基本的に信用できない。
それでも今は彼を信用するしかなかった。
脱いでいたスーツの上着を着なおしている蓉だが、血で汚れてるからもうあれは着れないだろうな。
かろうじて白衣を羽織っている程度で、全く医者には見えない。
というか、楽杜の人脈は基本的に信用できない。
それでも今は彼を信用するしかなかった。
脱いでいたスーツの上着を着なおしている蓉だが、血で汚れてるからもうあれは着れないだろうな。
「どうなんだ?」
「治療しながら本人にも説明したけど、すぐ治るよ。多少は痕が残るかもしれないけどね」
「治療しながら本人にも説明したけど、すぐ治るよ。多少は痕が残るかもしれないけどね」
周囲の奴に持ってこさせた濡れタオルで手を拭っている奴に尋ねる。
そうか、と呟くとその場に静寂が降りた。
事情を求めるかのような沈黙に、どうするかと考える。
そうか、と呟くとその場に静寂が降りた。
事情を求めるかのような沈黙に、どうするかと考える。
其処に
「お邪魔しまーす」
と場違いなまでに明るい声が響いた。
微妙に解散しづらい状況に割り込んできた乱入者の声には聞き覚えがありすぎる。
「お邪魔しまーす」
と場違いなまでに明るい声が響いた。
微妙に解散しづらい状況に割り込んできた乱入者の声には聞き覚えがありすぎる。
「朔夜…」
「心配になったから来てみた……って蓉、どうしたの!?」
「心配になったから来てみた……って蓉、どうしたの!?」
入ってきたのはやはり朔夜で。
今日は私服らしく、ちゃんと男物を着ていた。
ウィッグもしてないようだから性別を誤解する奴は現れないだろう。
今日は私服らしく、ちゃんと男物を着ていた。
ウィッグもしてないようだから性別を誤解する奴は現れないだろう。
「うわ…血だよね?大丈夫?」
蓉に駆け寄り膝をついて既に手当てのされている怪我を確認する。
ああいう風に素直に心配するなんてことは、俺には無理だな。
特に今の立場だと…。
ああいう風に素直に心配するなんてことは、俺には無理だな。
特に今の立場だと…。
「僕が看たんだから問題ないよ、まぁ足も捻ってる上に手も使えないから生活は不便かもしれないけど。恋人にでも面倒みてもらったら?」
あくまでも仕事じゃなくプライベートのつもりなのか、医者は無責任に言い放った。
恋人、か。流石に居るんだろうと思いながら苛々が募った気がして蓉から視線を逸らす。
「元恋人」が今誰と付き合っていようと俺の知ったことじゃない、はずだ。
「元恋人」が今誰と付き合っていようと俺の知ったことじゃない、はずだ。
「じゃ聖夜、蓉のところに泊り込んだら?」
「はぁ?」
「雪城!?」
「はぁ?」
「雪城!?」
一瞬何を言われたのか本気で理解できなかった。
今の会話の流れで何で俺が泊り込む、なんて話になる?
今の会話の流れで何で俺が泊り込む、なんて話になる?
「あれ、蓉恋人居たの?」
不思議そうに首を傾げている朔夜の目は本気だ。
恋人居たの、なんてかなり失礼な発言だがその自覚も無いらしい。
恋人居たの、なんてかなり失礼な発言だがその自覚も無いらしい。
「いえ、居ませんが…」
「じゃ聖夜に面倒みてもらいなよ、怪我は聖夜のせいなんだから。それに聖夜は恋人居ないし」
「ですがこれは聖夜のせいではありませんから」
「じゃ聖夜に面倒みてもらいなよ、怪我は聖夜のせいなんだから。それに聖夜は恋人居ないし」
「ですがこれは聖夜のせいではありませんから」
困ったように首を振る蓉だが、あの様子ではそのうち押し切られてしまうだろう。
…しかし何処まで俺のプライベートを暴露する気だ、朔夜は。
周囲の好奇の視線が鬱陶しくて気になる。
…しかし何処まで俺のプライベートを暴露する気だ、朔夜は。
周囲の好奇の視線が鬱陶しくて気になる。
「何でも良いから治療は終わったし僕は帰るよ?良いよね、楽杜」
「はい、夜分に申し訳ありませんでした」
「…せっかく来てあげたのにその丁寧に喋るっていう嫌がらせ止めてくれない?」
「はい、夜分に申し訳ありませんでした」
「…せっかく来てあげたのにその丁寧に喋るっていう嫌がらせ止めてくれない?」
深々と頭を下げる楽杜を見た相馬が本気で気持ち悪そうに腕を摩った。
俺としてもその気持ちは良く分かる。
俺としてもその気持ちは良く分かる。
「あの、治療費は…」
「友人の頼みで来ただけですから。…楽杜にでも今度一晩付き合ってもらいますよ」
「友人の頼みで来ただけですから。…楽杜にでも今度一晩付き合ってもらいますよ」
相馬はオーナーにだけは唯一丁寧な対応だ。
逆らってはいけない人物だと認識しているのであれば随分と勘が良い。
逆らってはいけない人物だと認識しているのであれば随分と勘が良い。
「礼代わりに酒でも持って行きます」
「それだったら俺が礼するのが筋だろ?」
「では聖も半分出してくださいね」
「それだったら俺が礼するのが筋だろ?」
「では聖も半分出してくださいね」
それくらいは仕方ないかと頷く。
物言いたげな蓉は視線で黙らせた。
物言いたげな蓉は視線で黙らせた。
「ねぇ、結局どうなったの?」
「何が起きてたんだ?」
「終わったってことはもう物は壊れないんですか?」
「聖とどういう関係があったの?」
「っていうか伊佐さんと聖の関係は?」
「愛してるってことは交際宣言?」
「そっちに居るのナイトの朔夜だよね、この間の女の子と似てない?」
「何が起きてたんだ?」
「終わったってことはもう物は壊れないんですか?」
「聖とどういう関係があったの?」
「っていうか伊佐さんと聖の関係は?」
「愛してるってことは交際宣言?」
「そっちに居るのナイトの朔夜だよね、この間の女の子と似てない?」
一段落着いたことを察したのか、朔夜の問いかけを切欠として同僚たちが周囲に集まってきてピーチクと囀り始めた。
人の耳元で喚くなってのに。
説明してやろうとも思ったが、それも面倒くさい。
そもそも霊の存在自体俺が理解してないんだから説明なんて出来るわけが無い。
人の耳元で喚くなってのに。
説明してやろうとも思ったが、それも面倒くさい。
そもそも霊の存在自体俺が理解してないんだから説明なんて出来るわけが無い。
「先月死んだ俺の客の霊の仕業で、蓉が何とかしたようだからもう問題ない」
とりあえず俺の認識した事実だけを告げる。
他の余計な質問は黙殺することにした。
他の余計な質問は黙殺することにした。
「とりあえず数日くらい面倒みてあげなよ。…エリーちゃん、2人のことはもう帰しちゃって良いの?」
「ええ、片付けは此方でやっておくから大丈夫よ。他の皆も今日はもう解散、詳しいことは後で教えてあげるから」
「ええ、片付けは此方でやっておくから大丈夫よ。他の皆も今日はもう解散、詳しいことは後で教えてあげるから」
後で教える、と言いながらもオーナーは俺と蓉を見て微笑んだ。
暗に明日にでも事情説明しろと言ってるらしい。
…まぁその辺は蓉に任せとくか。
一応仕事として引き受けている身だから報告までやるに違いない。
暗に明日にでも事情説明しろと言ってるらしい。
…まぁその辺は蓉に任せとくか。
一応仕事として引き受けている身だから報告までやるに違いない。
「車、前で待ってもらってるから聖夜は早く荷物取ってきて」
言い出したら聞かない朔夜と、朔夜に弱い俺たち。
分が悪いのは明らかで、とりあえず仕方なく荷物を取りに歩き出そうとして、朔夜の言葉に足を止めた。
分が悪いのは明らかで、とりあえず仕方なく荷物を取りに歩き出そうとして、朔夜の言葉に足を止めた。
「…そういえば…2人とも、呼び方昔のに戻したんだね」
嬉しそうに笑っているのを見て、お互いの呼称が呼びなれたものに戻っていることに漸く気付いた。
そして、そのことに全く違和感を感じていなかったことに。
そして、そのことに全く違和感を感じていなかったことに。