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薄暗い体育館のような場所、と言えばきっと想像に難くないはずだ。
ある程度の広さのあるスペースで、邪魔になる物は何も置かれては居ない。
天井から下がる灯りが、視認には困らない程度の明るさで照らしている。

壁際には、深緑色のスーツを着た者たちがズラリと並んでいる。
スーツの胸の位置と、肩の位置には「P」と書かれたワッペンが貼られている。
まるで警備が如く、彼らは手を後ろに組んで静かに佇んでいる。


男が一人、壇上に立っている。
その風貌は堅そうな中年男性と言った風で、体躯は中肉中背、特徴に乏しい。
彼もまた「P」のマークの付いたスーツを着ている。真っ黒なスーツだった。
そして彼が見下ろす先には、立ちつくしている数十人の男女の姿があった。
広い空間の一カ所に集められた彼らは、誰もが一様に目を閉じていた。

パンッと手を叩き、男は言葉を発する。


「ようこそ、バトルロワイアルへ」


それを合図として彼らの意識は呼び覚まされた。

人間にはそれぞれ違った個性があると言うが、この時点では誰もほとんど差異は無い。
この奇妙な状況に突然放り出された事で、困惑した様子で、周囲を見渡す。
見覚えの無い空間、自分と同じく困惑する人々。
誰に話しかけるでもなく、ざわざわと呟きを漏らす。
全くもって無個性な反応、だがこれが"普通"で、正常な人間である証だった。

間もなくして、彼らのそのすべての視線は一点へと集まった。
自分たちと違う高さに立つ、スーツの男へと。



「我々はパロロワ団、そして私の名はサカモト。
 諸君にはこれから我々の実験に協力してもらう」

は? と、何人もの者が同時に声をあげた。
困惑や反骨など、意味はさまざまかもしれない。
だが、彼らは等しく解答を求めていた。

『実験』とは一体何か、という解答――

「我々の支給したポケモンを駆使して、お互いにバトルし合うんだ。
 最後まで勝ち残った一人だけが、莫大な報酬と、何よりもここからの生還を許される」

この状況に放り出された時点で、命を握られている予感はあった。
人質、人体実験……何にせよ自分たちの自由は奪われ、奴らの利益のための"物"として扱われるような……。
――その予感は半分だけ外れたと言えよう。
奴らの手の内とは言え、ほんの僅かな自由が存在した。
……あくまでも奴らのモルモットとして、だが。

「ご存じの者も居るだろう、所謂バトルロワイアルと言う『ゲーム』だ。
 そして諸君は不運にもその参加者に選ばれたのだ、残念ながら逃げる事は出来ない」
「おうおう、好き勝手言ってんじゃねぇよオッサンよぉ」

真っ先に抗う意志を示したのは、一人の青年だった。
尖った装飾の付いた服、奇異な髪型、目つきが悪い。それらの特徴は彼の反道徳的な姿勢そのままを表していた。
人は誰もが、彼を"バッドガイ"だと認識する。
そのバッドガイの男は唾を吐き捨て、サカモトを睨みながら歩み寄っていった。

「てめぇみてぇな意味不明な奴に、俺らが大人しく従う義理なんてどこにあるんだよ、あぁ?
 さっさと、帰らせろや。俺のマニューラがてめぇの退屈な面をバラバラに切り刻むぞ?」

いきり立つ彼がズボンのポケットに手を伸ばした所で……彼はピタリと動きを止めた。
怒りで紅潮したその顔が、一瞬で青ざめる。
焦った様子で全身のポケットをまさぐりだす様子は、傍から見れば滑稽の一言。

「おいてめぇ、俺のマニューラをどこへやった!?」
「先ほど言った通り、バトルロワイアルでは我々の支給するポケモンを使用してもらう。
 そのため、あらかじめ所持していたポケモンはすべて我々が奪っておいた」
「な……卑怯な野郎だなお前!!」

激昂するバッドガイに気を留めず、サカモトは携帯電話のような機械を取り出した。

「諸君の首に、首輪が巻かれている事には気付いているだろうか。
 ゲームにおいて、手持ちポケモンが全て瀕死になった場合。
 または、首輪を無理に外そうとした場合。
 そして、このように私に直接楯突こうとした場合。
 ……内部に搭載された爆弾を作動させる」
「は!? ちょ、待て……」

サカモトが携帯電話を操作すると、バッドガイの男の首輪からブザー音が発される。

「なんだこれは! 何をする気だ、ふざけんなクソ!!
 やめろよ、音を止めろよクソ! は、何? 俺死ぬわけですか!? 冗談じゃ」

一人騒ぎ立てる声は、鼓膜に叩きつけるような破裂音に遮られた。
赤黒い霧が花火のように広がり、地面に叩き伏せられる体。
続けてゴツンと重い音が響き、醜く潰れたバッドガイの頭が転がった。



会場に幾つもの悲鳴があがった。泣き出す者も居た。
その騒がしさを遮るように語感を強めて、サカモトが話を続ける。

「死にたくなければポケモンを駆使して最後の一人を目指せ。
 こちらから細かい規定は定めないが、今後諸君の助けとなる支給品に付いて説明する」

静まり返る空間には、押し殺すような嗚咽が残る程度。
多くの者は理解していた、死なないためにサカモトの言葉を聞き逃してはならないと。
ポケモンを奪われた丸腰な自分たちには、支給される品と言うのは命綱にもなりえるからだ。


サカモトは説明する。

――『ポケッチ』
曰く、最新のアプリを全て搭載させている物。
時計やメモなどの基本的なアプリは勿論の事、ルーレットやドットアートなどのマイナーなアプリも入っている。
この内、特筆すべきアプリは「つうしんサーチャー」だろう。
この機能は付近に居る参加者をサーチする事が可能であり、これがある限り潜伏は困難だと言う。


――『ポケモン』
先ほどから言われている支給ポケモン。一人に2体づつランダムに与えられる。
パロロワ団の用意したポケモンであり、種類は多種多様だがレベルは統一されているという。
当たりハズレが存在し、最終進化した強力なポケモンも居れば、未成熟なポケモンも居る。
ボールから出した者の武器となり、ジムバッジが無くとも従順に従う。


――『ランダム支給品』
三種類のランダムな道具が一つづつ支給される。
基本的にはポケモンに持たせて使う物。


――『水、食糧』
ペットボトル入りの水と、クッキーのような携行食。
一人に対し、一日分だけ支給される。



「そして我々パロロワ団が開発した試作品『ポケモンコンバータ』だ。
 実に短時間で、多彩な戦略を可能と出来る、夢のような道具だ」

――『ポケモンコンバータ』
ポケモンの治療ならびに、ポケモンの能力を自在にコントロールする事が出来る装置。
モンスターボールをはめ込める(ちょうど家庭用かき氷機に似た)機械と、それに接続されたタブレット端末から成る。
ボールを設置し、タブレット操作を行う事で約15分ほどでポケモンを一体、万全の状態まで治療する事が出来る。
また同じく、端末を操作する事で、ステータス、特性、技を指先一つで任意の形に変えられる。
ただし、あくまでも種族として実現可能な範囲に限る。
また、進化させる事や、レベルを変更する事も出来ない。


「以上だ。全てバッグに入れて支給する。
 これらの品を、是非とも最後まで生き残るために活用して頂きたい」

ここまで話し、サカモトは一拍置いた。

「バトルロワイアル中、諸君がどのように行動しても、こちらから干渉することは基本的に無いと思ってくれていい。
 ただし、一定の人数が生存しているにも関わらず、24時間に渡って一人も死者が出なかった場合は全員の首輪を爆発させる。
 脱落者の名前と生存者の数を6時間毎に会場内に放送されるため、行動指針の参考にして頂きたい」

明日を生きるためには、ゲームを成り立たせなければならない。
一人の死ですら惜しんでいては、全ての命が無駄になる。
このゲームのルールはそんな風に参加者を追い込んでいく。
だからサカモトは確信している。24時間のうちに死者が出ない事はあり得ない、と。

「ゲームに関する事柄は以上だ。
 最後に私から一つだけアドバイスを送る」


――戦いは常に、先に行動できる者が有利である。
 ポケモンバトルにおいても、バトルロワイアルにおいてもだ――

僅かでも素早く動ける者が、敵を倒す機会に恵まれる。
先に武装を済ませた者が、無双できる可能性を高められる。

誰よりも早く、誰かを殺せ。
そうすればより多くのポケモンとアイテムが揃う。
それは、最後まで生き残るための重要な手札となる。


込められた意味はそんなところだ。
この助言がどれほどの効果を発揮するのか、サカモトは楽しみに思っていた。

「ダークライ、ダークホール」

足元に丸い影が現れ、そこから影を具現化したようなポケモンが浮かび出る。
ダークライが黒い球体を創り出すと共に、参加者達の意識は瞬く間に眠りの底へと沈んでいく。



悪夢はきっと、彼らが目覚めた時に始まるのだろう。


【バッドガイのズガオ 死亡確認】
【残り40人】

【主催者:パロロワだんのサカモト】


――ポケモンバトルコロシアイ ゲームスタート――

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第0話 オープニング 第1話 にわかのパーフェクト対戦考察

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最終更新:2014年11月15日 22:09