島の中央、そのやや北よりにある、小さなどうくつ。
水滴の落ちる音が響くなか、二つの鳴き声が聞こえた。
猛々しい声と、優しい声。
そのどちらも、どことなくリラックスしているように聞こえた。
「おーよしよし……キミ、気持ちいいか?」
奥の方に、二匹のポケモンと一人の少女――背は小さいが、出てるところは出ている――がいた。
そのうちの一匹に、少女は過剰なように撫でている。
ただ、撫でられている方のポケモンもまんざらでもないように声を上げていた。
それだけ、接し方が上手いのだろうか。まだ出会って短い間ではあるが、すでに少女とポケモンは打ち解けているようにも見えた。
「それにしても、キミ達ふかふかだね……自分が気持ちいいぞ……」
少女の近くにいた二匹のポケモンは、共に毛深く、ふさふさであった。
片や分類上は『でんせつ』として扱われているほのおタイプのポケモン、ウインディ。
片やその愛くるしい姿が人気の、くさ・フェアリータイプのポケモン、エルフーン。
共に彼女の支給ポケモンとして、モンスターボールに入っていた。
それを彼女は両方出して、こうしてスキンシップをとっている。
「はぁ……こんな現実逃避してる場合じゃないよね……」
が、それが気休めである事は彼女自身がよく分かっていた。
ここは殺し合いを強制させられている場で、たった一人しか生き残れないのだという。
その説明はとても信じられない。だが、実際にそれを理解せねばならぬものはもう見てしまった。
目の前で、人の体が―――爆発した、瞬間を。
「………っ」
思わず、涙がにじむ。
その光景を見た時は、恐怖で思わずへたりこんで、泣きじゃくってしまった。
それぐらい、彼女は普通の子でしかないのだ。
彼女の名は、ガナハ。肩書きは『ポケモンブリーダー』であるが、まだ見習いである。
遠い地方から一人上京(?)し、ポケモンのなんたるかを意欲的に学び、いつか一流のポケモンブリーダーになることが夢である、普通の少女だ。
理由なんて単純。ポケモンが、好きだから。
仲良くしたい、心を通わせたいと、幼い頃からそう強く願っていた。
「なんで、こんなことに……」
しかし、そんな夢を見る前に、こんな現実を目の当たりにしてしまった。
大好きな筈のポケモンを使って、戦って、殺して、生き残る。
どうして、こんなことをしなくちゃいけないのか。
あまりにもひどすぎる不条理に、体は震え、立ち上がる気力も起きない。
「……ねぇ」
弱々しい声で、律儀に待っている二匹のポケモンに声を掛ける。
反応は、ない。帰ってきたところで『はい』なんて喋る筈もないのだが。
「キミ達はさ、あの人達に用意されたんだよね?
『おや』が、パロロワ団って……つまり、そういう事だし」
答えを気にすることもなく、彼女は細々と話しつづける。
そんな情報は、ポケモンを出す前にポケモンコンバータという機械で確認できた。
性格やわざをこんな機械で弄るような気にはなれなかったが、その情報だけは気にかかっていた。
「だったら、やっぱりこのイベントに参加する事が幸せなの?
この殺し合いで成果を出すのが……キミ達の、望んでる事なのか?」
そうして、彼女がふと考え付いた結論を語る。
この情報が正しいならば、このポケモンはあの集団に育てられたという事になる。
なら、用意された目的に殉じる事が、一番の幸せなのではないだろうか。
そんな推測に、至っていた。
「………」
目の前にいる二匹のポケモンを、じっと見つめる。
二匹とも、何も言わない。ただ、自らの主である少女を見つめるだけ。
少女も黙りこくって、洞窟内は静寂が広がっていく。
そして、何度目かの水滴が落ちる音が響き渡った時。
「……違う、よね」
はっきりと、そう断言した。
「その目を見たら、分かるよ。キミ達は、心細いんだ。
自分とおんなじでしょ。わけの分からないところに投げ出されて、知らない人に使われて……」
何かを噛み締めるように、呟いていく。
ガナハにとって、今ここにいる二匹――例外なく、ポケモンは大切な存在だ。
しかし、この二匹のポケモンが大切だと思っているのは、別の存在なのだろう。
どれだけ愛でたって、彼女は『おや』にはなれない。
唯一無二の存在なんだ。それはきっと、家族と同じ事。
きっと、このポケモンと出会い、育てて、苦楽を共にした誰かがいる筈なのだ、と。
その事を思うと、ガナハの中でふつふつと何か、気持ちが湧き出てくる。
「会いたい、よね」
会わせてやりたい。
この二匹を、殺し合いの道具になんかしてやるものか。
『たいせつな人』に、また胸を張って出会えるように。
こんなわけもわからないまま、大切な人とお別れするなんてイヤだろう。
少なくとも、彼女自身はそうだった。
たった一人、夢をかなえるために旅立った時に、イヤという程『サヨナラ』を経験してきた。
そのすべてが、辛くて悲しくて。もうこれっきりだなんて、思いたくない。
もう一度、会いたい。そう思う気持ちは、誰だって同じ筈だから。
自分の為には、立ち向かう勇気が出なかった。
でも、今の自分は一人じゃない。この子達の為なら、反抗できる。
――彼女は、純粋だ。
影に隠れた悪意や不条理を、考えない程に。綺麗事を、期待するほどに。
傲慢な、ただのおせっかいなのかもしれない。
それでも、その純粋さで強さが生まれるのなら、悪くはないだろう。
「……よっし! そうと決まれば、まずは名前決めだぞ!」
力強く立ち上がった彼女がまず最初にやろうと決断したのは、名前付けだった。
彼女は、親しくなろうとしたポケモンには必ずニックネームをつける。
人の所有物に勝手に名前を付けるのはどうかと思ったが、現状分からないのだから仕方がない。
種族名で呼ぶのも、彼女は気が引けた。人の事を『人間』と呼ぶようなものである。
「えっと……確かキミがオスで、キミがメスだったよね」
彼女がオスだと指差したのはウインディで、メスはエルフーン。
これも、ポケモンコンバータで確認した情報だ。
ポケモンブリーダーたるもの、そんな機械に頼ってはいけないのかもしれないが、哀しきかな彼女はまだ見習いである。
確実に確認する方法は、これしかなかった。
「んー……それじゃ、キミはウイン太! いい?」
そう言って、彼女が確認すると、ウインディは吠えて反応した。
それが果たして賛成なのか反対なのか、分かる術はない。
しかし彼女は「うんうん、喜んでくれてうれしいぞ」と満足げであった。
「で、キミは……エル子…エル奈…? うーん……。
……あ! エル美、とかどう? うんうん、決まり!」
そしてエルフーンに対しても、若干悩んで命名する。
エルフーンの方も、いつもと変わらぬ笑顔で反応した。
こうして、ここにいるウイン太(ガナハ命名)とエル美(ガナハ命名)は、丁重に名前をいただいたのであった。
「それじゃ、一緒に頑張ろうね、ウイン太、エル美!
自分達が一緒に力を合わせれば、どんな事だってなんくるないさー!」
気を立て直して、ガナハは手を高く上げて決意表明をする。
『なんくるないさー』とは、彼女の生まれた地方で大体『なんとかなる』という意味合いを持つ。
厳密には違うが、それを知る者も気にする者もおそらくいないので問題はない。
大事なのは、気の持ちようだ。
そして、それに呼応するように二匹のポケモンも鳴き声を上げた。
果たして、本当に二匹が彼女の想うように愛情持って育てられたのかは、分からない。
それでも、決意した道に二匹はついていく。
持ち主に従うポケモンの定めなのか、あるいは――――
Rebellion―――胸に確かな決意を持って、彼女は『反抗』する。
【B-4/どうくつその1/一日目/日中】
【ポケモンブリーダーのガナハ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催
1:ウイン太とエル美の為に、この殺し合いに反抗する。
◆【ウインディ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♀です
最終更新:2014年11月19日 00:32