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少年の頃に見た夢をポケットに収めたまま大人になれる人間は少ない。
大人に向かって懸命に走っている途中にいつの間にか落としてしまうか、ポケットに夢を入れたまま未来を洗濯/選択してしまうか、
あるいは、余りにも大きなソレは自分のポケットには収まらないと気づいてしまうか。
ギャンブラーのアトもそうであった、少年の頃に抱いていたポケモンマスターという夢は自分の器に大して余りにも大きすぎる夢だと気づいてしまった、
気づいた切っ掛けはたった一度の敗北だった、エリートトレーナーだった彼はある一人の少年に完膚なきまでに叩きのめされ、
その敗北を切っ掛けに彼は負けを重ね、自分の道が如何に困難であるか気づいてしまい、モンスターボールを置いて、逃げ去ってしまった。
しばらくして、彼を打ち負かした少年はリーグチャンピオンになったが、そんなことを彼は知る由もなかった。
新聞も、テレビも、パソコンも、ラジオも無い場所へと彼は逃げ出した、だから彼はそんなことを知ることは出来ないし、知らなくて良いと思っている。
見ず知らずの他人が語る輝かしい未来は彼の耳を腐らせるし、見ず知らずの他人が掴んだ輝かしい成功の眩しさは彼の目を焼いてしまう。

彼はコガネシティの地下通路で毛布とも言えないような安い布を被って眠る、コガネ百貨店だって彼の夢を買ってはくれまい、
どこにも売ることの出来ないその夢をどこかに捨て去ったと思い込み、日の光すらも避けて、彼は眠る。
偶に、彼は夢を見る。
あったかもしれない輝かしい将来の夢を、ポケモンマスターである己の姿を。
最高の夢から目覚めたアトは、自分が何でもないただの落伍者であることをすぐに思い出し、涙を流し、反吐を吐く。
もう二度と夢を見ないように、自分の中の夢の亡霊を全て吐き捨てようと、彼はひたすらに吐き続ける。

月に一度だけ、彼は地上に出る。
地下通路から出る度に、彼は太陽の眩しさを思い出して、彼は倒れた。
そして、ゲームコーナーに向かい、勝利し、ありったけの景品を持ち帰る。
エリートトレーナーだった頃、彼はわざマシンやポケモンのために、ゲームコーナーのスロットをよく利用していた。
その経験からか、彼はスロットが神がかり的に上手い。
技術が介入出来ない部分に、技術で以て介入し、容赦なく777を揃えていく。
彼が未だに持っている夢の残骸の一つだ、夢を捨て去ったというのに、かつて夢のために手に入れた技術が彼の命を支えている。

そして、地下通路に戻り、手に入れたものを売り捌き、また彼はだらだらと生き続ける。
はずだった。

「……え゙っ」
降り注ぐ陽光の眩しさに彼は倒れこみ、そして殺し合いという環境下に置かれていることに気づき、彼は吐いた。
自分の顔が反吐の海に沈むことなど気に留めず、彼は吐き続けた。
夢の亡霊すらも吐き切れないというのに今ここにある悪夢など吐き出せるはずがない、そんなことはわかっている、それでも吐いた。

そして吐き出すものが胃液しか無くなり、彼は立ち上がった。
反吐に塗れた顔面を薄汚れたコートで拭う、そして少し考えて反吐塗れになったコートを脱ぎ捨てた。
どうせ死ぬなら、少しでも綺麗な姿で死にたいと思った。

アトには、今自分に起こっていることが罰であるとしか思えなかった。
必死で逃げようとしたがポケモンマスターという夢はとうとう自分に追いついた、そして捨てた己に復讐の牙を突き立てようとしているのだと。

それでもいいと思った、何時までも無駄に生き続けるだけだ。
夢を終わらせても、自分を終わらせる勇気はなかった、それでも他人が自分を終わらせるならば、それでもいいと思えた。

「好きにしろよ、俺はもう疲れた」
地面の上に仰向けに大の字になった。
陽の光が肌に染みこんで、自分を殺すような錯覚を覚えた。
だが、それは所詮錯覚だ。
自分を殺すのは、他人の殺意であり、そして夢を捨てた過去の自分だ。

がた、と自分がいつの間にか背負っていたバッグが揺れたような気がした。
そういえば、中にポケモンがいるらしい。

逃してしまおうと、アトは思った。
わざわざ自殺志願者にポケモンを付き合わせるまでも無いように思える。
上体だけを起こし、カバンを手に持ち、中身を開く。
ポケッチ――ポケギアではないらしい、死ぬ前に数年ぶりにポケモンミュージックでも聞こうと思ったがラジオ機能は無いらしい、興味はない。
水、食糧――量と質、共に大したものではないらしい。パロロワ団は最後の晩餐だからといって気を回すつもりはないらしい。
ポケモンコンバータ――興味が無い。

そして――二つのモンスターボール。
「出ろ」

出ろ、などとまるで囚人に言うようではないか、とアトは自嘲する。
囚人なのは、アトの方だ。そしてポケモンは――生きたアイアンメイデンか、ギロチンか、あるいは電気椅子かもしれない。

モンスターボールから現れた、彼らの姿を見た時、
1秒間、アトは完全に動きを止め。
その10秒後に自身の意識が飛んでいたことに気づき、そして泣いた。

夢の亡霊が、こんなところまで追ってきたのだと思った。

No.001     フシギダネ
         たねポケモン
         たかさ  0.7m
         おもさ  6.9kg

くさタイプ
どくタイプ

うまれたときから せなかにたねを せおっている 
からだが おおきくそだつごとに おおきくなる。

No.016     ポッポ
         ことりポケモン
         たかさ  0.3m
         おもさ  1.8kg

ノーマルタイプ
ひこうタイプ

くさむらや もりに おおく ぶんぷ。
おとなしい せいかくで 
はばたいて すなをかけ てきを おいはらう。

「畜生……ッ!畜生!!」
子どものように泣きながら、アトは数年ぶりに叫んでいた。
彼らこそが、アトの夢の始まりだった。
フシギダネは、一番最初に手に入れたポケモンで、ポッポは初めて己の手でゲットしたポケモンだった。
彼らと過ごした日々は夢を追う輝かしい時代だった、そして捨て去ったのも反吐を吐き捨てたのもアトだ。
そして、二匹は再び、アトの手へと戻ってきた。
運命の悪戯か。

「ポケモンマスターが駄目なら、殺し合いで一番を目指せってか!?もう一度、やり直せってかァ!?」
――あるいは、パロロワ団の作為か。
いずれにせよ、アトの手に夢の始まりは戻った。
そして数年ぶりに取り戻した怒りの感情に引きずられて、捨て去ったはずの夢が、
見ることが出来たかもしれない輝かしい未来のイメージが、アトの心の奥底から湧き上がる。

「やり直せるなら……やり直してぇに決まってるじゃねぇかよ!!
俺だって……俺だって……俺だって……俺だってなぁッ!本当は!ポケモンマスターになりてぇよ!!でも……無理だ、無理なんだよ……」

だが、輝かしい未来は、呆気無く、過去のたった一度の敗戦のイメージの前に崩れ去る。

「帰ったところで……今から頑張ったところで……もう、アイツの背中に…………追いつけねぇよ」
名前も知らない少年の圧倒的な差、数年間燻っていた自分と今も戦っているであろう少年、
その圧倒的な差は、今では天文学的数字にまで広がっているだろう。

「余計な……お世話だ」
心配そうに彼を見つめる二匹のポケモンのことなど、アトの目には入らない。
夢は一瞬だけ蘇り、そして散った。
アトは、ただどうしようもない自分がいることに気がつくだけだ。

太陽に手を伸ばす。
太陽は手のひらに収まる、それでも届かない。
手の中にあるのは虚無だけだ。

「掴みてぇよぉ、俺だって。でもよぉ、必死こいて、必死こいて、必死こいて、それでも何も掴むことが出来ない自分に気がつくだけなんだよ。
神様よぉ……最初から夢なんて見せてくれなきゃ良かったんだ…………そしたら、俺だって……俺だって……もっと別の何かに」

自嘲の声が零れた。

「別の何かなんかねぇよ、俺にはポケモンバトルしか無かったんだ」
アトはふらつきながら立ち上がった、寝転がりながら太陽に手を伸ばしても、手は届かない。
立ち上がれば、少しは太陽に手が届くかもしれない。

アトは手の中に太陽のぬくもりを掴んだ。

「なれねぇよ、俺はポケモンマスターに。でも、いいよ。
俺は死ぬ……かもしれねぇ、でも生き残れるかもしれねぇ、そしたらもう一回…………もう一回…………
違う!俺が言いたいことはそういうことじゃねぇ!!!なりてぇんだよ俺はポケモンマスターにッ!!!!!!本当はずっと!ずっと!ずっと!なりたかったんだ!」

泣きじゃくりながら叫ぶ声が聴こえる。
泣いていたのは、アトではなかった。
エリートトレーナーだった頃のアトが、夢を追っていた頃のアトが、泣いていた。

「ゴメンな……俺、ゴメンな……皆、俺は……俺は……気づいてなかったんだ。
死ねば俺はもう二度と夢を追うことは出来ない、でも……生きてれば、また夢は追える……
例え、反吐まみれのギャンブラーになっても。だから、俺は……今まで生きていた……」
この場所で初めて、アトはフシギダネの顔を、ポッポの顔を見た。


「生きて帰りてぇ……頼む、もう一度、俺の夢のために力を貸してくれ」
「ダネ!」
「ポ!」


捨て去った夢をもう一度拾い、アトは走る。
例え、それが血塗れの道でも、夢への道には変わりなかった。

【B-1/はいきょのまちその2/一日目/日中】

【ギャンブラーのアト 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]優勝狙い
1:夢のために走る

◆【フシギダネ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

◆【ポッポ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????


第7話 Rebellion 第8話 それでも なお お前の目に あの夢が 何よりも眩しいのなら 第9話 実践空手とポケモンを組み合わせた全く新しい格闘技とは!

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最終更新:2014年11月19日 00:33