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 アタイの なまえは アゲハ!
 サワラビどうじょう の バトルガールのアゲハだ!
 うまれは コガネ トシは 16
 すきなたべものは ピーチパイ ついでにいうと むねは C!
 カラテは まだまだ しょしんしゃだけど ハートなら だれにも まけない!

 …さて アタイの ことは これくらいにして
 つぎは おまえらの ことを きかせな!
 どうやってって きまってんだろ! こぶしと こぶし つきあわせれば
 ポケモンだって にんげんだって どんなやつとだって!
 こころで つながる ことが できちまうんだ!

 さあ! レクリエーションだ! かかってこないんなら …こっちから いくぞ!


 ▼


「どらぁああああぁああぁぁあああぁああああああああッッ!!」

 日が天に昇る草原。中央に立つ一匹のポケモンに向かって、
 威勢の良い咆哮と共に人間の右拳が放たれた。
 アゲハと名乗った黒い胴着の少女の、ほとんど力まかせの大振り。
 迫りくるその拳を前に、ポケモン――バシャーモは冷静に対処をした。

 サイドステップ、たったひとつの動作で。
 人ひとりぶん横に動いた二足の羽軍鶏のそばを、空回りしたアゲハの拳が、
 黒の胴着を纏う身体が、白帯を結んだ端が、
 スポーツシューズを履いた足が、数テンポ遅れにすりぬけていく。
 空振りだ。当然のように避けられた。
 たたらを踏んでアゲハはふらついた。黒のざんばら髪があられなくばさりと広がる。
 あまりにぶざまな格好だ。バシャーモがアゲハを横目で見て、鼻で笑った、ような気がした。

 アゲハはダン! と若草が芝のように生う地面を踏んで体制を立て直す。
 顔を上げて睨みつける。コガネ人らしい強気な眉、目鼻くちびる。
 そして頬にはアゲハ蝶の紋様。紫のそれは飾りではない本物のタトゥーだ。
 しかし人間相手なら多少の威嚇にもなろうそれも、相手がポケモンではなんの意味も持たない。
 1.9mの体躯から悠然とこちらを見下ろす猛禽の金色の眼は、いっさい揺らいでいなかった。

「やるじゃねぇかよ、さすがに!」
『……』
「けれどまだアタイを舐めてんなァ。いま鼻で笑ったろ、笑ったぞアタイにはそう見えた。
 ああムカつくぜムカつくぜ。言っとくがな、いまのが最後のスキだ。
 こっからもうお前にアタイを仕留めるチャンスはない。あとはアタイの必殺コンボが」

 バシャーモはアゲハを見つめたまま、無言で両手首から炎を吹き出す。

「げっ」
『……』
「おい、おい、おい。“きょうてきに であうと てくびから ほのおを ふきだす”だろ?
 だってのにそのすまし顔、アタイを強敵と認めてくれたわけじゃとてもなさそうだけどな。
 なんだよ、つまりこういうことか? 火を噴く拳なら、人間のアタイじゃ打ちあえないだろうって?
 戦いになるわけがないんだから向かってくるのはやめろって――そう言いたいのかァ?」

 1.4mあるかどうかの背丈をわなわなと震わせつつ、アゲハは拳を固くにぎりしめ、

「お前なァ……あんまりなァ……アタイを!
 人間をッ! 甘く見るんじゃ、ねぇぞッ!!」

 バシャーモに向かって思い切り踏み込みながら、迷うことなく攻撃を繰り出した。

 正拳、正拳、正拳。軽く後ろに躱されて、ならばと片脚で大地を思い切り蹴り、ロケットじみた飛び膝。
 やはり横に躱されたので、着地点を軸に片脚のみ広げコンパス回転、足払い。
 飛び上がられて躱される。まだだ。アゲハはさらにもう一回転しつつ体を浮かせ、
 細身ながら良く鍛えられた脚を十分にしならせると、勢いを付けた回し蹴り。
 重力に導かれ落ちてくるはずのバシャーモを狙った、しかしそれもまた空を切る。


 空だ。まだバシャーモは着地していなかった。
 ふわり宙に浮いているかのごとき、美しい跳躍体勢をアゲハは見た。
 見惚れ掛けるくらいだった。ポケモンと人と、同じ跳躍時間で降下時間を検算してはならない。
 ましてや”30かいだての ビルを ジャンプで とびこす”とも言われる跳躍力を持つバシャーモであれば尚更だ。
 バシャーモはあっというまにアゲハを飛び越えた。音も立てず遠間に着地した。

『……』
「まったく、逃げんのが上手なやつだ! アタイとヤるのがそんなにイヤか!」

 構わずアゲハは身を翻し、

「だけどな。悪いがアタイはしつこい女なんでなァ……!
 お前の芯と打ちあえるまで! お前の心がアタイに振り向くまで!
 どんだけ無駄だと言われようが、ガンガンアプローチしてくからな! おら、次だぁああああ!!!」

 踏み込んで技を繰り出す。技を繰り出す。当たるまで繰り出す。
 どれだけ避けられようとぶざまな格好になろうと、いくらだって繰り出す!

『ア、アゲハ~ント……』

 ……一人の人間が一匹のポケモンにあしらわれる不毛に過ぎるその拳舞を、
 どうしていいか分からないといった様子で、もう一匹のポケモン――アゲハントが遠巻きに見守っている。
 だが困惑もしようものだ。こんな状況、少なくとも彼らに向かって、
 「トレーナーの指示に従え」と言って送り出したおやは想定していない。

 なにせ指示を一切受けていない。アゲハは二匹をボールから出し、突然自己紹介を始めたかと思えば、
 「アタイと戦え」とも何ともいわずにバシャーモに向かって突然殴りかかったのだから。
 お前らのことを聞かせろとかなんとか言ってたような気もするが……。

「だらぁああああぁああぁぁあああぁああああああああッッ!!」

 ひらひらと悩むアゲハントを後目に、人間の方のアゲハはバシャーモへタックルを試みている。

『……フシャー』

 バシャーモは回避姿勢を取る。取りながら溜め息を吐く。一体なにがしたいのだろうか。
 戦ってほしいなら戦えと指示すればいいだけの話なのに。
 そういう指示を受けていない以上、バシャーモはアゲハの攻撃に自分で判断して対処する。

 そしてその対処選択肢は、常に回避だ。
 かくとうタイプのジムを任されるような達人ならともかく、
 白帯のアゲハとバシャーモがまともに打ちあえばアゲハが無事では済まないだろう。
 バシャーモにはそれが分かっている。ゆえの回避なのだ。
 それも分からぬまま、無意味な突撃を繰り返す目の前の、
 目の前に、黒布が現れていた。

『!』

 それがアゲハが身に纏っていた黒の胴着だとバシャーモが気づくのには数瞬かかった。
 反射的に片手で払い、
 それが手によるガードを外させる意味を持つものだと気付くのにも数瞬かかった。
 気づけば、真正面からまっすぐに拳が正中線を狙いに来ていた。
 白いサラシが胸に巻かれているのが見えた。アゲハが近くに踏み込んでいた。
 ざまあみろと不敵に笑っているみたいだった。

 バシャーモは開いている左手で、野球ボールをグローブで取るときのように、その拳を受け止めた。
 奇麗な正拳だった。小柄な体躯から放たれているにもかかわらず、重い。
 52kgの身体が小さくぐらつく。そして拳はすぐ引かれる。
 第二撃が来る。今度はもっと深く、避けにくい場所に。――考えるより先に身体が動いた。
 バシャーモは反射的に、足に炎を灯す。ブレイズキック。これで、

「それだ!」

 アゲハが叫んだ。
 そこでバシャーモは指示もなしに自分が技を使っていたことに気付く。
 だがもう、止まらない。止められない。ぶつけてしまう。思い切りぶつけてしまう。
 ……目を見た。アゲハの黒揚羽色の眼が、楽しそうに輝いていた。


「さあ来い! アタイにぶつけてみろよ――お前の心をッ!!」
『――――ヴゥルシャーモ!!』

 そして炎脚が振り抜かれ。アゲハはだいたい、7mほど吹っ飛んだ。


 ▼


「いやー、参った!! こりゃー肋骨の一本か二本は逝ったかもしれねぇな、ははっ!」
『フシャー……』
『……アゲハ~ント』
「あっははは! なんだよお前ら、気にすんなッて! アタイがやりたくてやったことなんだから。
 まあ服がセクシーになっちまったのと、拳がびみょーにヒリヒリするのが気になるくらいだよ」

 数分後。草原に座り込んで、熱を持った拳に息を吹きかけながら笑うアゲハを、
 対面に座るバシャーモとその頭の上に留まるアゲハントが呆れた様子で見つめている。
 最終的に、ギリギリのところでバシャーモはブレイズキックから炎を消すことができた。
 それでも残り火はアゲハが巻いていたサラシを焦がし、それをただのボロきれにしてしまった。

 さらには胴着を振り払ったとき、手首から出していた炎は胴着も焦がしている。
 そういうわけでアゲハはいま上半身にボロついた胴着を纏うだけとなっていた。みすぼらしい格好だ。
 だというのに、しかもバシャーモの蹴り自体はまともに喰らった脇腹も痛んでいるのに、
 アゲハは心底から面白そうに笑い、楽しそうにしているのだからおかしな話だった。

「うん。ま、こんな首輪付けてアタイを飼い殺そうとした野郎どもは気にくわねぇけど、
 言うほど絶望的ってわけでもなかったな! ――少なくともお前らは、悪いやつじゃない。
 人形でもない。意思があって、自分の考えがある。それならどうにかやりようはある」
『……シャー?』
「アタイとお前らはこれからダチになれるって言ってんだよ、バシャーモ、アゲハント」

 さらに、アゲハは突如としてそんなことを言い出した。

「えっと……アタイはまあなんていうか、ぶっちゃけそんなに頭は良くねぇんだ。
 こんなクソみてぇな実験をあいつらが何でやるんだとか、アタイのポケモンがいまどうなってるかとか、
 気になることはあるっちゃあるけど、それらについてどうこう考えてもたぶん答えは出ねぇ。
 それでも一個だけ出せる答えがある。殺し合いなんて、ぜってーダメだってことだ。
 なんでダメかって? 当たり前だろーよ。死んだ奴とはもう二度と戦えないんだぞ?」

 さっきアタイがお前の蹴りで死んでたら、
 アタイとお前はもう二度と戦えなかったんだ、とバシャーモを指差す。
 思わぬ一撃を喰らいかけ消化不良感を与えられたバシャーモは、アゲハの言葉にぴくりと反応する。

『……フシャー……』
「そんなの、悲しいだろ。やんなるだろ。
 あれでアタイが死んだら、お前だってなんか嫌だったはずだぜ。
 だからアタイたちは、そこまでやったらダメなんだ。
 カラテの試合が三本で終わるのも、ポケモンバトルがひんしで勝敗を判定するのも、
 楽しくて面白いバトルが出来た相手と、またいつか戦えるそのときのためなのさ」

 ま、これはアタイの通ってる道場の師範の受け売りなんだけどな。
 言ってまたアゲハはからからと笑った。それが肺に響いたらしく、いてて、と手で押さえてから、

「でだ。……バシャーモ、アタイがお前にケンカ吹っ掛けたのは……まー半分挨拶みてぇなもんで、
 深くは考えてねーんだけど……なんつーか、確認したかったんだ。お前らと、やってけるかどうかをさ。
 アタイは殺し合いなんてやるつもりは一切ねぇ。でも、逃げ回んのもキャラじゃねぇ。
 だから戦う。アタイの信じる生き方を貫く。んでそれにはやっぱり、お前らの協力が必要なんだ」
『アゲハ~ント……?』
「お前らがもし、殺し合いに協力的じゃないやつには反抗するよう言われてたり。
 そもそもお前ら自身が殺し合いに積極的な性格だったり。卑怯で意地汚い奴だったり。
 それと――言われたことしかできねぇ人形みたいな奴だった場合も。アタイと一緒には戦えねぇ。
 でも一発ヤりあった感じ、お前らはそうじゃない。だったら――出来るってもんだ」


 ……バシャーモは最後までアゲハを傷つけようとはしなかったし、
 アゲハントもまた、バシャーモに加勢するようなそぶりは見せなかった。
 ちなみにブレイズキックもどきでアゲハが吹き飛ばされた後、二匹とも心配そうに駆け寄ってきた。
 それは明らかに、二匹にまともな感性と感情が備わっていることを示していた。
 だからアゲハはすることが出来る。二匹に向かって、拳を突きだして、頼むことができる。

「お願いだ、バシャーモ。アゲハント。アタイと一緒に戦ってくれ」

 ポケモンと一緒に戦うバトルガールは、まっすぐに願って。

「もしも。アタイがお前らにとって。一緒に戦ってもいいと思えるヤツだったら――」

 そしてそれに対して、二匹は言いきられる前に、拳に自分たちの拳を合わせた。

「……!」
『ヴゥル、シャーモ』『アゲハ~ント』 
「お前ら……!」

 二匹ははにかんでいた。してやったり、といった感じの表情に見えた。
 優しく合わせられた拳と拳は、アゲハと二匹の、つながりの第一歩だった。 


 ▼


「……で、バシャーモは相手をしっかり見て動けてた。わざわざみきりやまもるを入れなくても、
 そうそう攻撃を当てられるってことはないと思う。あとは、あの跳躍力を生かせる蹴り技に、
 飛び道具がひとつ。……ああ、確かにな。急に接近されたときのためにカウンターも欲しいか」
「アゲハントはあまり自己主張が強くないけど、“すがたに にあわず こうげきてきな せいかく”だな。
 後方でサポート……っていうか、相手にいやがらせするようなのが実は好きなんじゃねーか?
 ……わわ、てか力強いなお前。アタイを掴んで飛べるのかよ、っておい、どこ触って」

 性格と特性は変えない。個体値もそのままにする。
 ステータスはバシャーモAS、アゲハントCSにとりあえず全振り。
 わざは元から覚えていて使い慣れたもの、これから必要になるものを吟味し、
 手合わせをしてみた結果や支給されたもちものも考慮して、
 ポケモン自身に合ったわざを相談して選ぶ。

「でだ。さっきの手合わせと、アゲハントとやった今の組手で、お前らのクセはだいたい分かった。
 わざのタイミングの指示、戦況の把握と伝達――アタイに出来る限りのサポートはする。
 防護プロテクターがありゃあアタイもバトルに参加できたんだが……狙えたらトレーナーを狙うくらいか」

 バシャーモに続いてアゲハントとも調整のための組手(アゲハントの頭にはなぜか、たんこぶがある)を終え、
 草原の真ん中、用意を整えた黒胴着の少女の横に、二匹のポケモンが並んで立つ。 
 アゲハの所属するサワラビ道場の基本流派は共同戦線。
 ポケモンだけでなく、トレーナーもまた前線に出て、真なる意味で一緒に戦う。
 つまるところアゲハにとって、
 今回の実験のルールは道場でのバトルとなんら変わりない。
 いつもと違うのは防護プロテクターをつけていないことと、殺しまでアリということくらいだ。 

「さて。アタイたちは対等だ。だからアタイの指示を待たなくていいし、アタイに指示をしてもいい。
 アタイたちにとっての最善をしろ。自分が信じたことをしろ。それ以外に、言えることはなにもねぇ」
『フシャー』
『アゲハ~ント』
「……アタイに付いてきてくれてありがとう。力を貸してくれて、ありがとう。
 アタイも、お前らに付いていけるように頑張るから。だから……こんなクソみてぇな実験を」

 声高らかに、バトルガールたちは歩み出した。 

「一緒に殴りにいくぞ!!」『シャーモ!』『アゲハ~ント!!』



【B-2/一日目/日中】

【バトルガールのアゲハ 生存確認】
[ステータス]:肋骨にダメージ(軽傷のうちに入る、服がぼろぼろ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催
1:この実験を殴りに行く

◆【バシャーモ♂/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:???
能力値:AS振り
《もっているわざ》
とびひざげり
ブレイズキック
ストーンエッジ
カウンター


◆【アゲハント♂/Lv50】
とくせい:とうそうしん
もちもの:???
能力値:CS振り
《もっているわざ》
おいかぜ
しびれごな
メロメロ
むしのさざめき


第9話 実践空手とポケモンを組み合わせた全く新しい格闘技とは! 第10話 ブレイズフレンズ! 第11話 待ちキャラって会話相手がいないと退屈だから

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最終更新:2014年11月19日 00:33