「やっちゃえドサイドン!」
「ガアアアアアアアアアアア!!」
ちょっとした山とも見違える巨体の生物が、腕を振り上げ咆哮する。
速さこそ鈍重だが、その一撃はコンクリートの地面を抉るほどの破壊力。
だが、その一撃が抉ったのは地面だけ。
本来、ドサイドンが狙った相手に当たることはなかった。
「すばしっこいんだから。早く死んじゃえばいいのに!」
そうぼやくのは、ドサイドンに指示を出すトレーナー。
銀髪に白い肌をした、紫のブラウスと白いロングスカートを纏った少女。
外見で判断するのであれば、年齢は10歳前後というところだろう。
その名を、お嬢様のイリアスという。
その少女が戦っている相手、それはこちらに背を向けて逃げる者が一人。
真っ白な肌と長髪、白いワンピースを着た、外見年齢はイリヤスとそう変わりないだろう少女。
そして、その少女を守るように飛ぶ、一匹の鳥ポケモン。
「ピェエエエエエエエエエエエ!!」
威嚇するように翼を広げ、ドサイドンに突撃するそのポケモンはムクホーク。
ドサイドンの硬い岩の体にインファイトをしかける。
格闘タイプの効果を持つ、その鋭い一撃はドサイドンの体を揺るがせる。
しかし、それは致命打にはならない。
「無駄よ。ドサイドンの特性はハードロック、効果抜群の攻撃の威力を下げることができるんだから。
生半可な攻撃じゃ、ドサイドンはビクともしないわ」
すぐに態勢を立て直したドサイドンは、イリアスの指示によりストーンエッジを放つ。
空を舞うムクホークに襲いかかる岩の刃。それをムクホークは間一髪で避けていく。
もしそれが一撃でも命中していれば、ムクホークとて無事ではすまないだろう。
「はぁ…はぁ…、止めて…!」
その戦いの様子を、巻き込まれない場所に逃げるように走りながら伺う少女、オカルトマニアのセーキは呟く。
「来ないで…って…言ってるの……!」
彼女に戦意はなかった。
かと言って死にたいわけでもない。生きるためには戦うしかないのだ。
しかし、如何せん戦意が違いすぎた。
殺す気でかかってくるドサイドンと、ただ逃げたいがためにそれを迎え撃つムクホーク。
相性の不利もあったが、トレーナーの戦意が直に反映されているかのように戦況は傾いていた。
「全く、そんな調子じゃこの先生き残れないわよ」
さすがにそんな様子を見かねたのか、イリアスは警告する。
「あなた、死にたいのかしら?」
「はぁ…死にたく…なんか……」
「なら戦いなさい。あのサカモトって男も言ってたでしょ?
『戦いは常に、先に行動できる者が有利だ』って。逃げ続けて後手に回ってるだけじゃ、あなたはただの狩られる者でしかないのよ?」
「…私は………」
それでも、セーキはムクホークに指示を出そうとはしない。
ため息をつきながら、イリアスはドサイドンに命じる。
「そう、なら死になさい。
ドサイドン、つのドリル」
冷酷に、そう指示を出す。
それが少女とムクホーク、どちらに向けたものであるのかは分からない。
ただ、どちらが対象であったとしてもそれを受けてただでは済まないだろう。
「死ぬ……?嫌だ……、死にたくない……」
目の前にまで迫った死。
その恐怖は咄嗟にセーキに行動させた。
「――――――――!!」
少女は、ムクホークにつけた名を叫ぶ。
その瞬間、ムクホークはドサイドンに突撃をかけた。
それはインファイトでも、ブレイブバードでもない。
閃光する体が、ドサイドンの巨体に特攻をかけるがごとく衝突。
地響きを立てながら、ドサイドンの巨体が揺らぐ。
肩で息をしながら膝をつくドサイドン、しかしその傍には地に伏せるムクホークの姿。
今放った攻撃はいのちがけ。自身の体力と引き換えに、その体力分のダメージを相手に与えるもの。
それによりドサイドンの受けたダメージはインファイトを遥かに超えるほどだった。
しかし、それでもなおドサイドンの体力は尽きない。
インファイトと命がけの二つを持ってしても、そのポケモンの体力を削り切ることができなかった。
「残念だったわね、せっかくの一撃だったのに。
まだいけるわね?ドサイドン」
「グルルルルルルルルル」
ゆったりと立ち上がるドサイドン。
セーキはムクホークをボールに戻し。
膝を着いた態勢で、ふと空を見上げた。
「……?」
その仕草があまりに不自然だったこともあり、思わずつられてその視線の先を見てしまう。
その瞬間だった。
「ピェエエエエエエエエエエエエエ!!」
赤い何かが閃光のごとくドサイドンに向かって突き進んでいく。
ムクホークと同じくらいの大きさだが、その速さはムクホークを上回るほど。
「戻りなさいドサイドン!」
それがたどり着く前にイリアスはドサイドンをボールに戻す。
結果、その赤い閃光の攻撃は空振り。
大きな翼を広げて現れたその姿は、赤い体と鋭い瞳を讃えたポケモン。
ムクホークと同じ鳥ポケモンのファイアローだった。
空振りに終わった攻撃を、今度はイリアスを狙って放つファイアロー。
「スターミー、10万ボルト!」
イリアスは咄嗟にもう一つのボールを取り出し、投げると同時に指示を出す。
「フゥゥゥゥゥ!」
紫の体を回転させながら現れたスターミーが指示通りにその体から電撃を放つ。
「……!お、追い風!」
そのまま突っ込んでは避けられないと判断したセーキもまた指示を切り替える。
急ブレーキをかけるように翼を前方めがけてはためかせ停止。
10万ボルトの射程に入る前に止まることでかろうじて効果抜群の一撃を回避。
そして風を体にまとわせたまま、先ほどにも増した速度でファイアローは飛び去る。
その背に主であるセーキを乗せて。
「…ふん。戻りなさいスターミー」
元々の速さに加えて追い風を纏ったファイアローを追うことは難しいだろう。
ドサイドンのダメージのこともあるし、しばらくはポケモンの治癒に専念しよう。
それにしても、少し油断しすぎただろうか。
あのくらいの相手、さっさと殺してしまえばよかったのに。
何があいつに対してそこまで気をかけてしまったのだろうか。
答えを出すのにそう時間はかからない。
似ていたのだ。あいつのあの姿が、昔の自分に。
「次に会ったら容赦しないからね」
◇
お嬢様。
一般的に考えればそれはお金持ちの少女に対してつけられる肩書である。
このイリアスもその認識で間違いはない。
だが、その内面は10歳近くという年齢には不釣り合いなほどに、歪な形に成熟している。
少女は、とある地方に住む金持ちの家の娘だった。
蝶よ花よと愛され、家に住む多くのポケモンに囲まれ、幸せに過ごしていた。
しかし、ある日を境にそんな日常は崩れる。
豪邸であった家に、強盗が入り込んだのだ。
それも個人ではなくある程度の数が集まった、強盗団とでも言うべきもの。
一人二人であればどうにかなったであろうが、ポケモンまで連れた多くのそれらには為す術もなかった。
両親の言いつけによりクローゼットの中で全てが終わるまで潜んでいたイリアス。
そして物音も人の気配もなくなった頃に出てきたイリアスが見たのは、血まみれの床の上で倒れた両親の姿と、その傍に瀕死になって蹲っていたポケモン達。
後から知ったが、両親の必死の抵抗もあって金銭面における被害はほとんどなかったらしい。
侵入者が誰だったのか、その地方に暗躍するとある組織の関連性も噂された。
その後の犯人が一体どうなったのか、イリアスは知らない。
正確に言うには、イリアスにはそんなことを気にする余裕はなかった、と言ったほうが正しいか。
一人になったイリアスを待っていたのは、彼女を誰が引き取るか、ということで親戚の人間がこぞって争いを繰り広げるという醜い光景だった。
誰から見ても、それが彼女の家の財産目当てであるということは明らか。
毎日のように繰り広げられるそんな言い争いを見ているイリアスが子供ながらにその事実に気づくまでそう時間はかからなかった。
しかし、彼女は誰にも従わなかった。
この家にいるたくさんのポケモンを住まわせることは、他の場所では不可能だから。
行ってしまえば、このポケモン達とも別れなければならないから。
さらに、自分が子供であることをいいことに一人になった時間には毎日のように色んな人が押しかけてきた。
少女には分からない難しい単語を並べて何かを買わせようとする者、親の知り合いを騙り家にズコズコと入り込もうとする者。
騙される度に、幾度となく泣いた。
自分の情けなさに、弱さに、何も知らない無知な己に。
そんな彼女を慰めたのは、いつだってポケモン達だった。
そしてある時を境にイリアスは泣くことを止めた。
誰にも屈しないと、何にも負けないと。
何があっても、この自分の育った家を、そしてここに住まうポケモン達を守ってみせると。
血反吐を吐くような思いでそんな大人たちを相手に立ち向かっていった少女は。
いつしか歳とは不相応に達観し、大人も顔負けするような腹のさぐり合い、思考能力を得た。
しかし代償として、人間の醜い面を見せられ続けたイリアスは、やがて人間に、特に大人に対しては打算や利害を通じたものしか見られなくなっていった。
だけどそれでも構わないと思っていた。
ずっと大好きなこの家とポケモン達と共に居られるのなら。
何があっても、この宝物は守ってみせる。
それが、このお嬢様・イリアスの決意だった。
◇
イリアスのスタンスは、何があってもあの家に帰ること。
ポケモン達が待っているあの家に。
だから、殺し合えと言われて戦うことに躊躇はしない。
他の人間は信用できない。
信じられるのは、ポケモン達だけ。
そうして白い少女は、ひたすら真っすぐに、歪んだ戦いを続ける。
自分を待つ者達のために。
◇
オカルトマニアのセーキ。
それがもう一人の少女の肩書。
しかし、彼女は一度としてその肩書を名乗ったことはない。
セーキは元々、森の中にある小さな村に住んでいた。
そこには元々肌白の独特な人達が住む、静かな場所だった。
幼いころから親を亡くした彼女は、姉と二人で過ごしていた。
周囲の環境には恵まれていたとはいえたった二人暮らしの家庭。だが寂しいとは感じなかった。
彼女の周りには、いつもたくさんのポケモンがいたから。
森を走り回る者、木々に登って遊ぶ者。
中でも彼女は空を飛ぶ鳥ポケモン達の背中に乗るのが大好きだった。
あの広い場所に抜ければ、どんな遠い場所まででもたどり着けそうな気がしたから。
しかし、ある日そんな場所にテレビ取材に訪れた者がいた。
元々人の出入りが多い場所ではなかっただけに、その事実に村のみんなが戸惑っており、そんな皆を尻目に彼らは森や村を回った後帰って行き。
その日から、彼らの生活は一変した。
実はその村や森には珍しいポケモン、ポケモンの進化の石やバトル用の道具の素材など貴重なものがたくさんあったのだ。
それがテレビ放送によって明らかになってしまった結果、多くのトレーナーやコレクター、あるいは企業が立ち入ってきた。
平穏だった森が荒らされるのにそう時間はかからなかった。
やがて住む場所すらも他の皆と共に追われた。
寝る場所にすらも困る有り様になってしまったセーキとその姉は、たった二人で都会に入っていった。
慣れない場所で日々の生活費を稼ぐために駆けずり回る姉。
一人になったセーキは、公園で子どもたちに混じって遊ぼうとした。
しかしその独特すぎる肌や髪、瞳は彼らにとって奇怪な異物だった。
孤独を恐れる彼女が子どもたちに混じろうとする度に、まるでヒーローが怪物退治をするかのように追いかけられる日々。
そんな彼女を、皆はいつしかオカルトマニアと同列の扱いにするようになった。
一人でいることの方がマシに感じてきた彼女は、いつも空を眺めていた。
かつて鳥ポケモンの背に乗って大空を舞ったあの日々に思いを馳せるかのように。
そんな彼女の孤独を癒やしたのは、姉の存在。
仕事で疲れて帰ってきながらも、自分との時間も決して消そうとはしない。
過酷な生活だったが、その存在があったからこそセーキは生きてこられた。
しかし。
ある日、その姉も忽然と姿を消した。
数日待っても帰ってくることのない姉を探して街中を駆けずり回り。
ボロボロの体で雨の中一人、路地裏に倒れこんで雲に覆われた空を眺め。
そこを一匹の鳥ポケモンが飛んでいるのが目に入って。
それが、彼女のこの場に連れてこられるまでの最後に見た風景だった。
◇
死にたくない。
セーキはファイアローの背の上で、小さく震えていた。
そこはあれだけ憧れた大空の上。
なのに、今は全然楽しくない。むしろ後ろから迫ってきそうな死の気配に怯えることしかできない。
「怖い…、お姉ちゃん……」
ポケモンバトルなどやったこともない。
そんな彼女に戦うことなどできるはずもなかった。
「ゼロ……、レップウ…、ずっとそばに居て……」
ゼロ・ムクホークとレップウ・ファイアロー。
セーキの名付けたポケモンの名前だ。
いっそ、このまま一人、憧れた空をずっと飛んでいるだけで居られたら。
どれだけ幸せなことだろう。
そう思う少女を背に乗せ、ファイアローは静かに空を舞う。
行き先もその先にあるものも、何も分からぬままに。
【C-3/平原/一日目/日中】
【お嬢様のイリアス 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:家に帰るために戦う
1:一人で戦う。信じられるのはポケモンだけ
2:他の人(特に大人)は信用しない
▽手持ちポケモン
◆【ドサイドン/Lv50】
とくせい:ハードロック
能力値:攻撃、HP振り
《もっているわざ》
ストーンエッジ
アームハンマー
つのドリル
????
※HPがレッドゾーンまで減っています
◆【スターミー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
10万ボルト
????
????
????
【C-3/平原(上空)/一日目/日中】
【オカルトマニアのセーキ 生存確認】
[ステータス]:怯え、疲労(小)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]帰りたい
1:怖い、戦いたくない。一人になりたい
◆【ムクホーク/Lv50】
とくせい:威嚇
もちもの:???
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
インファイト
いのちがけ
???
※セーキにはゼロと呼ばれてます
※瀕死状態です
◆【ファイアロー/Lv50】
とくせい:はやてのつばさ
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
追い風
????
????
※セーキにはレップウと呼ばれています
最終更新:2014年11月19日 00:35