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ミチオはポケモンブリーダーであったが、ポケモンが好きというわけではなかった。
特別に良い奴ではないが悪い奴でもない、しかし何故か影が薄い。
それが昔から一貫して変わらぬ彼の評価であった。

10つになる前の頃、彼はイジメられているわけでもないのにクラスの輪から外れていた。
内向的な性格をしていたせいなのかもしれない。
彼は学友と交わること無く読書ばかりしているタイプの子供であった。
好きでそうしているのであるならば彼は不幸などではなかっただろう。
だが、あいにく彼は人並みに他者との交流を求めるような人間であった。

10つになって少しの頃、彼は自分の殻を破ることを決心した。
とにかく周囲に話しかけ、脈がなければ話を続けてくれる人間と当たるまでひたすらに明るく振る舞った。
その成果もあって、彼は友達を無事に作ることが出来た。
しかしだ、彼は気がついてしまう。
休日に彼一人だけを遊びへ誘ってくれる友が誰も居ないことに。
下校時間になっても彼を待ってくれる人間は誰も居ないことに。
何をしたいかという話し合いで自分の意見だけが明らかに弱いことに。
自分の話をよく途中で遮られてしまうことに。
誘いの言葉が届くのが最後であることに。
ミチオは苦悩した、懸念した、憂悶した。
彼は自分が嫌われているのではないかと思ったのだ。
しかし、自分を悪くいうような声が一切聞こえなかったのも事実だ。
故に彼は言いようもない不安に襲われる。
自分の話がつまらないのかと考え、話題を仕入れた、話術を磨こうとした、相手の話をより丁寧に聞いた。
それでも結局は今までと変わらず。
煩慮し続ける彼であったが、正解を導き出すことは出来なかった。

そして少年から青年へと差し掛かった頃、彼はやっと苦悩の根本的な原因に気が付くことが出来た。
「あ、居たのかよお前」
悪意のない笑みを浮かべながら軽口を叩く友人の言葉、それによって不意に悟った。
自分は影が薄い人間であるのだと。
イジメられているわけでもなく、嫌われているのでもない。
ただそこにいるのに気がついてもらえないだけなのだと。
いないことにされているような人間であるのだと。

彼にはその日からの記憶はあまりない。
ただ彼は学校をやめ、ぶらぶらする日々が続いていた。
そこでミチオはあることに気が付く。
ポケモンバトルの最中だけは、勝負の途中だけはだれも彼から目を逸したりはしないと。
ミチオだけではなく彼のポケモンを見ているだけなのかもしれない、賞金のためかもしれない。
それでも彼にとって『注目』とは麻薬のようなものであった。
バトルのために腕を磨きポケモンを鍛える。

やがて、彼はポケモンブリーダーへと成長していた。
ポケモンが好きだったわけではない。
むしろトレーナーからの愛を受けて成長するポケモン達のことが反吐が出るほど嫌いであった。
それでも人間を相手にするよりはマシだからという理由でこの職を選んだのである。
当然かもしれないがポケモンを愛せない彼の仕事はとても評判が悪かった。
有能無能以前の問題である。彼がポケモンを愛さないようにポケモンも彼を愛さなかったのだ。
安かろう悪かろうの経営方針でやっとのことで生計を建てる日々であった。



☆  ★  ☆


「チッ」

廃墟にミチオの舌打ちの音が盛大に響き渡った。
眼前に居るのは「ピチュー」と「サーナイト」。
愛くるしい容姿を持つがゆえに愛好家の多い小動物型のポケモンと、人間のパートナーとして求められる全てを美しき体に秘めたポケモン。
ミチオが心の底から妬み、憎悪し、壊したいと思っていた『人気者』の姿がそこにはあった。

「外れじゃねーかよクソッ、なんでライチュウ、せめてピカチュウじゃねーんだよ!」

苛立ち混じりに振り上げた彼の右足がピチューの腹部を捉えた。
数十センチしか無い小さな体躯が砂利道を十数メートル転がってゆく。
が、ピチューも外見に反して高レベルのポケモン。
派手に飛ばされたわりにはピチューも大したダメージを受けた様子はなく、すぐに立ち上がった。
ケホケホと咳き込むその姿に、ようやく我に返ったサーナイトが慌てた様子で駆け寄る。

「おーし、そうじゃなくっちゃなぁ。少なくともこれくらいは耐えられねぇとなぁ!」

同じ他者のポケモンであっても目の前に居る二体は『客』ではない。
故にずっと隠していた衝動を思う存分にぶつけることが出来た。
口元を吊り上げて歯を見せながら楽しげな声でミチオは吠える。
しゃがみこんでピチューに怪我がないかを調べたサーナイトが信じられないものを見てしまった顔で彼に振り向いた。
普通の青年が立っていた。
身長も体格も髪型も奇抜なものではない。
服装はデニムのジーンズと薄手のTシャツにエプロンをかけたもの。
顔だけがサーナイトの知っている人間とは違っていた。
本来ならば穏やかそうであるはずの顔立ちを悪鬼の様に歪ませた男が立っていた。
今までに見たことのない悪意を目にし、サーナイトが僅かに怯む。
それが気に食わなかったのだろう、彼は再び眉間にしわを寄せ、二体のところへと歩み寄る。

「どうしたよ、ん?」

サーナイトの細首を片手で握りしめ、無理やり立たせる。
そのまま捻ってしまえば折れてしまいそうに思えるほど白く繊細な首。
命を握られているにも係わらず、サーナイトは一切の反抗をしなかった。

「んー、なるほどなるほど。パロロワ団の連中ってばいい仕込みをしてやがるな」

技を使えば人間など軽く吹き飛ばすことができる。
ミチオもサーナイトもその事は理解していた。
そして横でオロオロとしてばかり居るピチューも。
承知の上でサーナイトは為すがままとなり、ピチューもそれを止められずに居た。

「従順なのはいいことだ、たとえお前たちが彼奴等に及ばないとしてもだがな」

無抵抗のサーナイト、そして下に居るピチューと順に視線を向け、口を動かす。
満足気な言葉とは裏腹に平坦な声を出すミチオ。
そろそろ開放してやろうか。
考えた矢先にサーナイトと目があった。
紅い瞳がミチオを見据えていた。
その色は悲しみに染まり――――。


「ああクソッ!舐めやがって!俺を見下しって!
 何が憐憫だ! お前の哀れみになんの価値があるってんだ!」

激昂した彼がサーナイトを路上へと投げ捨てた。
アスファルトと擦れてサーナイトの肌に擦り傷ができる。
思わず小さな悲鳴が上がった。
だが、怒りに塗りつぶされたミチオにとってそんなものはブレーキとならない。
倒れ伏したサーナイトの華奢な体を力任せに踏みつける。

「あぁっ?」

いつまで暴行を加えていたのだろうか
ズボンの裾を引っ張るような感触に彼はやっと足を止める。
犯人は誰かなど言うまでもない。

「おいおい、ご主人様に逆らうってのか、よぉっ!!」

勢いをつけて再びピチューを蹴りつける。
今度は壁に背をしたたかにぶつけるピチュー。
肺の中の息が絞りでたかのような声が漏れるも当然気にすることはない。
むしゃくしゃが更に強くなった。
かばうピチューにもかばわれるサーナイトにも。
無抵抗となった二体を散々蹴り飛ばし続けた後、彼は二体をボールへと収めた。
乱暴な手つきで半ば捩じ込むようにポケモンコンバーターへとモンスターボールを捩じ込む。
ぜぇぜぇと荒れる息を整えた後、彼の顔から表情が消える。
バトルだけが拠り所だった、唯一他者が自身を認識してくれる場であった。
故にミチオはポケモンバトルをある意味では神聖視していた。
真剣に取り組むべきものとして一点の妥協も見せなかった。
覚える技と特性と持ち物、それら全てを考慮して技を組み立ててゆく。
タッチパネル上を彼の指が踊り、優秀な手駒が組み立てられいった。



☆  ★  ☆




ボールから再び出された二体を待っていたのは気持ち悪いほどの笑みを浮かべた主人の姿であった。
それでも出された場所から離れることや敵対心を見せること無く、二体はジッと彼の指示を待つ。

「お前たちを主役にしてやるよ」

不意打ちであった。
意味のわからぬ言葉であった。
困惑する二体を他所に、彼は民衆の前にした独裁者のように、陶然とした表情で語り始める。

「いつだって中心に居たお前たちに今度もそうなるチャンスを与えてやるって言ったんだよ」

粘りつくような声であった。
彼の情念が篭められた声であった。
この言葉にあるものがミチオの20年間の全てであった。

「パロロワ団主催の演目バトルロワイアル、脚本家は俺、そして主演は俺とお前たちだ」

天を、自身の胸を、そして二体を順番に指さしてゆく。
が、指差された二体がなんらかのリアクションを返すことはない。

「嬉しいだろ? なぁ、喜べよ、笑えよ、楽しんでみせろよ」

不機嫌さをこれほどかと滲ました声。
それでも二体は顔を見合わせるだけ。

「気に食わねぇってか? おい、どうなんだって言ってんだよ?」

怒鳴りこむ一歩手前になって、ようやく二体は反応を見せた。
笑うような、困惑するような、そんな中間のような表情。

「よぉし、それでいい」

それでも彼にとっては及第点に届くものだったらしい。
もしくは先程までの暴行によって上機嫌になっただけなのか。
とにかく分かるのは、彼が一応の満足を見せたということだけ。


「誰もが俺から目を離せないようにしてやる。俺のことを永遠に忘れないように刻んでやる。
 たとえこの殺し合いに敗れて死そうとも俺が誰よりも爪痕を遺せたような参加者になってやる。
 ああ、そうだ! 俺が、俺が主役だ! 俺がバトルロワイアルの主役になるんだよぉ!」


理性を捨てた獣のように狂気の叫びを繰り替えるミチオ。
サーナイトの目から零れ落ちた一滴の涙に彼は気付いていたがあえて触れることはなかった。
たとえいかなる不服があろうとも自身に従う限りは気にしないことに決めていた。
だから彼は深く考えることを諦めていた。





ひとしきり叫び倒して興奮が再び収まった彼は、一人空を見上げる。



「お前らとだったらよぉ、もっとこのイベントを盛り上げられたかもしれねぇのにな」




二匹にすら聞こえないようなミチオの呟きは光の中でかき消されていった。


【B-6/路上/一日目/日中】

【ブリーダーのミチオ 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]優勝狙い
1:優勝してこのバトルロワイアルの主役になる
2:だれも自分から目を背けさせない



▽手持ちポケモン
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる

▽手持ちポケモン
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎



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最終更新:2014年11月19日 00:36