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 空から降り注ぐ日の光が、小高い山に生い茂る木々を照らす。
 樹木の間から光の差し込む山中を、一人の男が歩いていた。
 飾りっ気のない黒と白のスポーツウェアに短く切られた黒髪。
 袖口や裾から覗く筋肉、そしてそのしなやかな長身は、見る者が見れば鍛えた者のソレである事が理解できるだろう。

 歩く山肌には木の根が張り、茂みが足下を覆っている。もはや山道とすら呼べない、道なき道。
 そんな悪路を、男はすいすいと進んでいた。余程山歩きに慣れているのか、その姿は散歩にも近い。

「まあ、シロガネ山と比べれば散歩道にも等しいというのは違わないが」

 呟きながら歩く内、男の視界が不意に開けた。
 先程までは梢の隙間越しにしか感じられなかった日光が、直接肌を焼く。

「……森を抜けたのかと思ったが。ただの広場か」

 人工的に作られたのか、あるいは自然の賜物か。上空から見れば、広場はまるでぽっかりと緑の絨毯に空いた穴のように見えただろう。
 その広場へと、男は足を踏み出す。

「まあいい。挨拶にはもってこいか」

 そう言うと、男は腰に付けた二つのモンスターボールを宙に放り投げた。モンスターボールが開き、中に入っていた二匹のポケモン――ダグトリオとシャワーズが開放される。
 その姿を確認して頷き、男は自らに支給された“てもちのポケモン”へ挨拶した。

「僕の名前はショオ。山籠りしてたら奴等に拉致されてしまったただのトライアスリートだ」


         ◆

 トライアスリート。ショオは自らのことをそう認識している。
 自分のことをエリートトレーナーと呼ぶ者もいる。が、それは間違いだと思う。
 別に自分はエリートではないし、自らエリートを自称するのは正直恥ずかしい。そもそも今の自分の目標はトレーナーとして大成する事ではないのだから、そういう意味でもエリートトレーナーと呼ぶのは間違いだろう。

 そう、今の自分はトライアスリートである。バトルに明け暮れた時代はもう捨てた。それでいいのだ。
 だが、この場ではそんな事は関係がないらしい。
 最初にパロロワ団とやらに集められていた場では、老若男女様々な人間がいた。
 エリートトレーナーも短パン小僧もミニスカートもトライアスリートも、皆同じくこの場では生死をかけた殺し合いを演じるのだ。
 ポケモンを使う以上、そこに年齢や性別による優劣は額面上は存在しない。

「ポケモン、か」

 今はボールに戻した、この殺し合いにおいて命を預けざるを得ない二匹を見やる。

 ポケモンは殺し合いの道具ではない、と言うつもりはない。
 古代においてはポケモンを使った戦争の記録も残っているし、悪の組織に使われているポケモンが全て厭々悪事をやっている、などという事もない。
 ポケモンは悪事をする道具ではない、という言い方もまた、ポケモンに対する傲慢さではないかとショオは考える。
 悪事を嫌うポケモンもいれば、悪事が好きなポケモンもいる。人間と同じだ。
 ポケモンにはそれぞれ意思がある。それを考えずにポケモンに対してどうこうと言っても、それは結局人間の上から目線だろう。

 最近聞こえてくるポケモンの解放がどうこうと言っている連中も同じだ。
 人間の隣にいるポケモンは、その人間と共にいる事を選んだのだ。それにどうこう言う筋合いは他人にはない。

 だからポケモン達に対するショオのスタイルはただ一つ。そのポケモンの在り方をただ認める事だ。

 無論これはショオの個人的な考えであるため、他の考え方を否定するつもりはない。
 そもそも同じ人間を認めないのでは、ポケモンの在り方を認めるなど夢のまた夢だろう。

 しかしだからこそ、この殺し合いにおけるポケモン達の在り方はショオにとって気になるところだった。
 ポケモンはただの殺し合いの道具であるのか、それとも人間の友人なのか、それとも人間の死を望んでいるのか。

「……ダグトリオとシャワーズには挨拶の後に質問したが、結局彼等は答えてくれなかったな。
 まあ、僕は死ぬのはごめんだから死を望まれても困るんだが」

 思考を切り替える。
 先ほど言った通り、今の自分には目標がある。それを達成するまでに死ぬのは遠慮したいところだ。
 しかし、そのためにはどうすればいいか。

「単純明快に考えれば、僕以外が死ねば元の生活に帰れるわけだが。
 本当に奴らが約束を守るかどうかが問題だな」

 最後に生き残った優勝者は、パロロワ団にとってみれば自分達の悪事の証拠であり同時に生き証人だ。
 パロロワ団の目的にもよるが、生存者をそのままにしておくとは考えにくい。というか自分なら殺す。
 生き残ってパロロワ団に忠誠を誓い団員になる? 論外だ。そんな事をしていたらショオの人生の目標は達成できない。

 逆にパロロワ団に反逆を試みるならばどうするか。
 この場合の問題は、自分達は奴らに一度拉致されているという事だ。
 拉致の方法次第ではあるが、この時点ですでに我々はパロロワ団に先を行かれている。
 首輪はその副産物に過ぎない。たとえ外せたところで、反逆が成功するかは難しいかもしれない。

 ゲームに従うのも、従わないのも、最終的な不安要因は数えればキリがない。


「どちらにしろ不安要素があるなら気分で決めるか。
 よし、こんな島出て行こう」


 なら悩む必要はない。選択肢が等価なら気分がいい方を選べばいいのだ。
 そして奴等に従って参加者を殺すより奴らの顔をぶん殴る方が気分がいいのは当然の事である。

「ゴールは決めた。後は走るだけだな」

 走る。トライアスロンでも大切な事だ。
 何故ならば走らなければゴールには着かない。馬鹿げた話だが真理だ。

「そう、教えよう」

 地面を踏み締める。

「そらをとぶ。なみのり。かいりき。ロッククライム。これらのわざをポケモンが使え、陸海空を走破する事は簡単なのに、何故トライアスリートは自らの身でそれらを行こうとするのか」

 クラウチングスタートの姿勢を取る。

「ポケモンよりも早く走るためさ」

 そのために走る。一直線に。


【B-5/山中/一日目/日中】

【トライアスリートのショオ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:奔る。その邪魔をする者は蹴飛ばして通る。(要するに対主催)
1:今はただ走る。

▽手持ちポケモン
◆【ダグトリオ/Lv50】
とくせい:ありじごく
もちもの:きあいのハチマキ
能力値:攻撃と素早さに極振り、性格ようき
《もっているわざ》
あなをほる
いわなだれ
ふいうち
ステルスロック

◆【シャワーズ/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:オボンのみ
能力値:防御と特攻に極振り、性格ひかえめ
《もっているわざ》
ねっとう
れいとうビーム
あくび
とける

第24話 メルヘンメン・ヘル 第25話 ただ疾走する 第26話 過去と未来の再会

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最終更新:2014年11月24日 21:45