ゴゴゴゴ……と、端的な表現が相応しい。
民家を出たケンジの鼓膜には、そんな轟音が響いていた。
見渡すと、遠くにそびえたつ灯台が目についた。
海を挟んだ先にある岬。
その先端にそびえたつ白いソレが、ゆっくりと傾いていた。
「……ウッソだろ……?」
思わず呟く。
それは現実味のある光景では無かった。
迫力のある映画のシーンを見てる時の感覚。
間もなくして灯台は倒壊、巻き上がる濃い砂煙の中へと沈む。
それらの轟音と対照的に、今度は静寂が一帯を包み込む。
あの場で誰かが戦っている、とケンジは想像を巡らせた。
続けて、彼らはこの後こちらへ降りてくる、と予想した。
そして考える。
果たして、あの場に居る者と接触をすべきなのか……と。
ケンジは無意識に足を動かしながら、その二択を思考していた。
街を歩けば、水垢と錆によって風化したトタンの壁が立ち並ぶ。
これらは間違いなく数十年単位で人々の管理を受けていないだろう。
自分が踏みしめるコンクリートの道路にも、白い砂がたまっている。
おかげで一歩ごとにジャリジャリと足音がしていた。
……あっコレうるさいな……と思ったケンジは、道の端の伸び切った草を踏みながら歩く事にした。
やがて考えごとの答えが決定し、彼は立ち止る。
「現時点じゃ、あそこの連中が対主催かどうかわからないもんな。
それならば様子見に限る。うん、どっか隠れて座ってるか」
ちょうど目の前には、個人が所有するような農業倉庫がある。
変な箱とか積んであるし、あそこに腰かけよう、と思った。
体力が無いため、少し歩くだけで座りたくなる。
長年研究者をやっていると、体が衰えるのは当然だ。
そして彼が歩き出した直後だった。
唐突なジャリジャリと言う足音に気付き、即座に振り返った。
「おい、そこのオッサン」
そこに居たポケモンブリーダーの青年は薄ら笑いを浮かべて言った。
別に自分は若くは無いが、中年というにはまだ早い。
だが年齢の事よりも、休むのを邪魔された事にケンジは不満を覚えた。
「さっそくだがよ、勝負しようぜ? なぁ」
「君さぁ……間が悪いって言われない?」
思わず本心から出た不満の言葉。
それはたまたまミチオの怒りに触れる程度の破壊力を持つ挑発となった。
◆
「サイコショック」
「ちょ待ってストップストップストップ!!!!」
ミチオはキレているのか。
まだポケモンを出していないケンジを、念力で練られた粒子が取り囲む。
彼の制止の声も聞かず、サーナイトは容赦なく攻撃を決行。
「くっ、行けヌケニン!」
『ぬきゅう』
サーナイトの右手が振り下ろされると同時に、ヌケニンが飛び出す。
伏せたパートナーに覆いかぶさるようにして、サイコショックを防ぎ切った。
地面へと落ちた一部の粒子が、道路をガレキと変えて砂埃を巻き起こす。
「ゴホッ……か、間一髪……」
砂埃にむせながらヨロヨロと立ち上がる。
ミチオは腕を組んでその様子を眺めていた。
彼はヌケニンの姿を見て一言呟く。
「何だよ、ヌケニンか。珍しいのを引いてるんだな」
「さっき灯台が崩れてたが、ゲホッ、あれは君がやったのか?」
「知らねぇよ。というか灯台がどうのこうのなんて、正直興味無いわ」
「じゃあもう一つ聞きたい。君はサカモトに対抗する気は……」
「おい。俺は今ポケモンバトルがしたいんだよ、語り合いたい気分じゃねぇ」
サーナイトは第二撃の構えを取る。
慌ててケンジは応戦の準備をする。
僅かな時間で思考をフル回転させる。
相手はきっと、シャドーボールを打つだろう。
幸いこちらはタスキ持ち、一撃は耐えるはず。
ここは一撃を食らわせて、後続につなぐべき……!
「シャドークロー!」
命令と同時にヌケニンはサーナイトへ迫る。
魂を狩り取る鎌が、その華奢な体を斬りさき――
同じくして、ミチオの指示が飛んでいた。
「サーナイト、おにびだ」
「あっ……!」
ぽっ、と放たれる青い焔。
眼前に迫ったヌケニンを包み込む。
鬼火は鎌の切れ味を奪い、サーナイトへ深く突き刺す事を妨げた。
『ぬ』
途切れるような断末魔。
炎上する抜け殻を、モンスターボールからひとりでに伸びた光が回収していった。
「やってしまった」
ケンジはため息をつきながら、額に手を当てた。
咄嗟の判断とはいえ、補助技を警戒し損ねたのは痛恨のミスだ。
「ん~~~? おいおいオッサン、調子が悪いのかな?
サーナイトの鬼火も読めないだとか、ヘタクソ過ぎるわ。
ほ~ら、これからどうやって処理するんだい?
ふ し ぎ な ま も り サ ー ナ イ トなんてよぉ!?」
ミチオは嗜虐的な笑みを浮かべ、煽り、そしてあざ笑う。
彼は心底愉快な気分だった。
最強の加護をトレースした、それだけでも美味しい展開。
ましてや相手の残り一つ手持ちが、サーナイトの弱点を付けれるとも限らない。
上手くいけば既に勝利が確定しているかもしれない。
「煽る時は随分と饒舌になるんだな……。
あぁ、今のは自分でもバカだとわかってるよ。
でもそうやって笑えるのも今の内だ! 行け、ゲンガー!!」
カプセルから溢れた光から、颯爽と闇が現れた。
ゲンガーは不敵な笑みを浮かべて、自らの敵と相対する。
その充血したような赤い目が、サーナイトの紅い瞳と交差した。
…………。
サーナイトの目は悲哀を語っていた。
隣に立つ醜悪な形相の人間と、その悲しい瞳を交互に見る。
そして事情をゲンガーは察した。
察した上で――
――アッカンベー、と舌を出し、ゲラゲラと笑う。
侮辱されたケンジの代わりに、嘲り返してやっているが如く。
瞳の悲しみを一層強めたサーナイト、その口元が震えだしていた。
「……ほぉ、ゲンガーね。なるほど。手持ちの運はいいんだな、アンタ」
「ほら、これからどうやって処理するんだい?」
「主役のサーナイトが圧勝するだけのシナリオかと思いきや、面白い展開になったな」
ミチオは依然として余裕を保った表情をしていた。
「……面白い展開? やけに呑気な事を言うね、君は」
「サーナイト、絶体絶命のピンチ! ……ってとこだな」
「あぁ、このまま僕が攻撃すればサーナイトは間違いなく落ちる。
交代をしようものなら、ゲンガーの攻撃を二発食らう事となる」
「見通しが甘いな。この状況でそんなバカ正直な選択をすると、痛い目を見るぜ?」
そう言ってミチオはサーナイトを引っ込め、もう一つのモンスターボールを取り出し、投げた。
(何だ、こいつ何かを隠している……!?)
痛い目を見る、という発言が気になった。
だが考える暇は無い、ボールが地に落ちてポケモンが現れる前に技を出す必要がある。
このままシャドーボールを撃つべきか、それとも他の安定行動を……。
「ゲンガー! みちづれ!!」
咄嗟に命じたのは、一時的でありながらも強力な呪い。
どのような相手が来ても、少なくともゲンガー落とされる事は無いはずだ。
その対象は、ピチューだった。
ノーマルタイプでも無く、シャドーボールを受け止めれるポケモンでも無く、だ。
ケンジは拍子抜けし、戸惑った。
「……ピチュー!? 進化前ポケモンを何故……」
「みちづれだぁ? こっちがまだ二体残ってる状態で良くもまぁ無駄な事を。
だがキレイに引っかかってくれて俺としてはありがたいね。
でんじはだ。ゲンガーを麻痺らせろ」
「う、うるさいっ、シャドーボール!」
ガバッと開かれたゲンガーの口から、そこから黒い球体が高速発射される。
炸裂。
だが、仕留めるに至らない。
小柄な体に巻かれたタスキは、ピチューを満身創痍で留まらせる。
攻撃を止められない。
放たれた微弱な電流が、ゲンガーの神経を狂わせ、痙攣させる。
「ウッソだろ……やられた」
「さぁ、絶体絶命のピンチに陥ったサーナイトでしたが~っ……。
ここで第二の主役の登場、その名もピチュー。
勇敢な彼は見事、ゲンガーを麻痺させる事に成功しましたとさ」
さながら物語の語り手のような口調で、ミチオは語る。
今この時、彼の勝利はほぼ約束されていたと言えよう。
『後続にシャドーボールへの対策がある』という初歩的なブラフが、こうも上手くいくとは。
「どうだ、素晴らしいシナリオだろぉ?
ピチュー、お前も雑魚なりに仕事が出来て嬉しいに決まってるよなぁ!?
ほら、一緒に笑おうじゃねぇか、勝ちだ。俺らの勝ち」
ミチオは盛大に笑った。
愉快痛快、これこそが脳内に快楽物質が溢れだす至上の瞬間。
瀕死寸前に陥っているピチューには、笑う余裕など無い。
苦痛に堪えるのに精一杯だった。
しかしトレーナーは笑えと言った。
だから、たどたどしくも、何とか笑みを作った。
「……そんじゃあ、ピチューよぉ。
とりあえずひかりのかべを積んで、さっさと死んどけや」
必死につり上げた頬に、滲み出た涙が伝った。
ケンジは人差し指で眼鏡の位置を直す。
他人事ながら、何だか嫌なモノを見てしまった。
彼はボールを一つ取り出し、ゲンガーに向けてボタンを押す。
「戻れゲンガー」
ミチオはその行動を不可思議に思ったが、すぐにどういう事かを察した。
代わりに場に現れたカモネギ。
彼は相手のピチューの様子を見て『カーカーカー!』と憤慨する。
「……クソッ、お前……既に一人殺ってやがったのか……!」
先ほどまでの笑いはこの時、完全に消えていた。
目の前の研究員には果たしてどれほど、先ほどの自分の姿が滑稽にうつっていたか。
それを考えて、彼の心は黒く染まっていった。
「そりゃあ、まずは自分の身の安全を確保したいからね。
おかげでこの通り、まだ君にやられずに済んでるわけだし」
「あっはっは、まったくよぉ、その割には無駄に冷静で呑気な野郎だなァおい……!
何だ? 普段から人体実験でもやって殺し慣れてるのかよ? あぁ? このキチガイ野郎」
ミチオの眉間にはしわが寄り、歯を剥き出し、眼には憎悪がみなぎっていた。
幸福から一転して突き落とされた不条理な現状に、彼はただ吠えた。
「……クソがッ!! ふっざけんじゃねぇーッ!!
手持ちが4体だと知ってたら、俺はてめぇに挑むものかよ!! クソ野郎ッ!!」
「お喋りはそこまでにしようか、カモネギ!」
『カー!』
いざ参らん、とばかりにカモネギはながねぎを構える。
そうだ、早くあの人間からポケモンを救い出さねばならぬ。
正義感が強いカモネギは――本気の、やる気だ。
「そらをとぶで逃げるんだ!」
『カー!?』
カモネギの両足を掴んでケンジは飛び去る。
虚を付かれたミチオはそれを妨げる事は間に合わなかった。
瞬く間に街は小さくなり、島の全域が見渡せるほどの高さに至る。
「戦力が揃ってるのは大きいけど、バランスが悪いからなぁ……。
やっぱり誰かしらの味方を探さないとダメだな」
というのも、彼のもう一体の手持ちはズルズキン。サーナイトに勝てないのだ。
あとは何よりも、自分のバトル下手をどうにかせねば、と思った。
とりあえずどこかしらに降りて、メンバーを回復しつつ……休憩を取ろう。
◆
思い切り後頭部から蹴り飛ばしてやると、ピチューは自動的にモンスターボールへ戻っていった。
それでも憂さは晴れなかった。
衝動のまま、農業倉庫の壁に蹴りを放つ。
ゴン、と固い音がしただけで、錆付いた壁はビクリともしない。
ミチオは喉を痛める程に叫びながら、壁に肩をぶつけ、平手で何度か叩き、背をもたれて頭を抱えた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる、必ず、必ず、必ず……!」
怒りで声が震えていた。
乱暴な手付きでモンスターボールをコンバータへセットし、回復機能を作動させた。
そして自分を侮辱した相手への呪詛を叫びながら、湧き上がる怒りをひたすら周囲の物へぶつけていた。
全身からじわじわと痛みが走る頃になって、ようやくある程度の落ち着きを取り戻す。
手持ちが雑魚でさえ無ければ。
もっと手持ちの数が揃っていれば。
息を荒げながら、手札の不自由さに苛立ちを感じていた。
まともなバトルすら出来ない、このクソゲー状態は早々に打破しなければならない。
そうだ、このままでは何も出来ない。
だが俺はもっと暴れなくては気が済まない。
……。
……手段など、選んでいられるものか。
【B-6/上空/一日目/午後】
【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好、軽い疲労
[バッグ]:基本支給品一式×5(自身2、ゴロウ3→2)
[行動方針]生き残り重視
1:対主催の人間を見つけて協力する
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える
◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス
◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ
◆【カモネギ/Lv50】
とくせい:まけんき
もちもの:ながねぎ(ゴロウのもちもの)
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
そらをとぶ
????
????
????
◆【ズルズキン/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
【B-6/はいきょのまち/一日目/午後】
【ブリーダーのミチオ 生存確認】
[ステータス]:健康、怒り
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]優勝狙い
1:優勝してこのバトルロワイアルの主役になる
2:だれも自分から目を背けさせない
3:研究員の男(ケンジ)に強い憎しみ
▽手持ちポケモン
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
▽手持ちポケモン
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
最終更新:2014年12月26日 10:32